1. 5秒で結論:だいたい三段ロケット。ただし制度上は全員「安くてOK」ではない
2025年の厚生労働省「賃金構造基本統計調査」で、残業代を除く所定内給与額の平均は、技能実習 19.03万円、特定技能 22.14万円、特定技能を除く「専門的・技術的分野」 31.32万円だった。
一方、技人国を単独で切り出せる2024年「外国人雇用実態調査」では、技術・人文知識・国際業務(技人国)の所定内給与額は27.83万円。残業などを含む「きまって支給する現金給与額」は31.12万円だった。
雑に覚えるなら、
技能実習 19万 → 特定技能 22万 → 技人国 28万前後。
見た目は見事な三段ロケットである。ただし法律・制度は「技能実習生だから最低賃金で置いておけばいい」とは書いていない。技能実習、特定技能、技人国はいずれも、比較対象となる日本人との報酬同等以上という考え方が制度に組み込まれている。
つまり、制度は同等報酬、労働市場は階層化。ここを分けないと話が迷子になる。
2. そもそも3つは同じ「外国人枠」ではない
技能実習は、技能等の移転を目的として設計された制度。特定技能は、人手不足の特定産業分野で一定の技能を持つ人が働く在留資格。技人国は、技術・人文科学・国際業務に該当する専門的・ホワイトカラー系の業務を中心とする在留資格だ。
だから「外国人だから給料が違う」というより、就いている仕事、要求される技能、経験、企業規模、産業が違う集団を比べている面が大きい。
同じスーパーで「弁当」「寿司」「冷凍マグロ」を全部“魚介コーナー”として平均価格を出したら、そりゃ変な数字になる。それと似ている。
3. 平均月給:一番比較しやすいのは残業抜き
| 区分 | 調査年 | 所定内給与額の平均 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| 技能実習 | 2025 | 19.03万円 | 現場職・若年層が多く低い |
| 特定技能 | 2025 | 22.14万円 | 技能実習より一段上 |
| 専門的・技術的分野(特定技能除く) | 2025 | 31.32万円 | 技人国以外の高度人材等も混ざる |
| 技人国のみ | 2024 | 27.83万円 | 技人国単独で確認できる値 |
31.32万円をそのまま「技人国平均」と呼ぶのは危険だ。高度専門職なども入るため上振れする。技人国だけを見たいなら27.83万円を使う方が筋がいい。
「技人国=日本人の新卒くらい」という感覚は方向としては近いが、統計上の技人国には新卒だけでなく経験者もいる。したがって“新卒給与そのもの”ではなく、“若手専門職・ホワイトカラー帯に近い”くらいに理解するのが安全だ。
4. 中央値:平均だけ見ていると、給与表が幻術を使う
中央値は「真ん中の人」の値なので、高給者が平均を引っ張る影響を受けにくい。
2024年「外国人雇用実態調査」で特定技能の一般労働者を見ると、所定内給与額は平均21.30万円、中央値20.60万円。残業等を含む現金給与額は平均25.03万円、中央値25.30万円。そして年間賞与等は平均10.77万円なのに中央値0円だった。
ボーナス平均10万円を見て「まあ10万円くらい出るんやな」と思った瞬間、中央値0円が後ろから肩を叩いてくる。賞与欄、蜃気楼。
技能実習について、賃金構造基本統計調査の2023年所定内給与中央値は17.54万円、特定技能は19.01万円、より広い「専門的・技術的分野(特定技能除く)」は25.03万円だった。
ここで重要なのは、公開統計の切り方が毎回同じではないことだ。技人国単独の中央値と、専門的・技術的分野全体の中央値を同じものとして扱ってはいけない。取れない数字を雰囲気で補完しない。統計界の“たぶんこれくらい”は禁止カードである。
5. 業界差:特定技能は建設が強い。製造は20万円台前半
2025年の賃金構造基本統計調査では、特定技能の産業別所定内給与額が確認できる。
| 産業 | 特定技能・所定内給与額 | おおよその集計人数 |
|---|---|---|
| 建設 | 26.59万円 | 21,750人 |
| 医療・福祉 | 22.50万円 | 31,550人 |
| 宿泊・飲食サービス | 21.83万円 | 9,110人 |
| 卸売・小売 | 21.39万円 | 5,770人 |
| 製造 | 20.73万円 | 72,660人 |
| 不動産・物品賃貸 | 22.43万円 | 550人 |
人数がまとまった主要産業だけでも、建設26.59万円と製造20.73万円で月5.86万円差。年間なら単純計算で約70万円違う。
一方、運輸・郵便17.42万円、生活関連サービス・娯楽18.40万円といったさらに低い公表行もあるが、集計人数がそれぞれ220人、90人と小さい。ここを「業界ランキング最下位!」と大声で使うと、サンプルサイズ警察が来る。
さらに、この賃金構造基本統計調査は農業・林業・漁業を対象に含まない。特定技能には農業・漁業分野があるが、この表だけでは比較できない。
そして技能実習・技人国について、同じ年・同じ定義・同じ粒度で全産業の中央値まで横並びにできる公表表は弱い。無理に表を埋めるより、「比較可能なところだけ出す」が正解である。
6. 年収換算:「月給×12」と「実際っぽい年収」は別物
まず、2025年の所定内給与額を単純に12倍すると、
| 区分 | 月給 | 単純年換算 |
|---|---|---|
| 技能実習 | 19.03万円 | 約228.4万円 |
| 特定技能 | 22.14万円 | 約265.7万円 |
| 専門・技術系全体 | 31.32万円 | 約375.8万円 |
| 技人国単独(2024) | 27.83万円 | 約334.0万円 |
これは残業なし・賞与なしの機械的な12倍。
次に2024年外国人雇用実態調査の「残業等を含む月間現金給与額×12+前年1年間の賞与等」で、年収っぽい参考値を作ると、
| 区分 | 現金給与額/月 | 年間賞与等 | 参考年換算 |
|---|---|---|---|
| 技能実習 | 21.00万円 | 3.94万円 | 約255.9万円 |
| 特定技能 | 25.03万円 | 10.77万円 | 約311.1万円 |
| 技人国 | 31.12万円 | 35.73万円 | 約409.2万円 |
覚え方は260万 → 310万 → 410万くらい。
ただしこれは厳密な「同じ1年間の実年収」ではない。月給は調査月、賞与は前年1年間という期間差がある。したがって年収の代理計算であって、給与明細12枚を足した実績値ではない。
7. 「実習生=最低賃金」は制度上は間違い、実態イメージとしては分かる
技能実習法9条は、技能実習生への報酬を日本人が従事する場合の報酬額と同等以上とすることを認定基準にしている。
特定技能も入管庁Q&Aで、同等の業務に従事する日本人と同等以上を求めている。
技人国にも、日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上という基準がある。
したがって制度上は、
「外国人だから安くてOK」ではない。
それでも技能実習の平均が19万円台になる理由の一つは、比較対象そのものが若手・現場職・低賃金産業に多いこと。さらに勤続年数、地域、企業規模なども違う。制度上の「同じ仕事・同程度の技能の日本人と同等」と、全国全労働者平均との同等は別物だ。
だから「最低賃金そのもの」ではないが、最低賃金に近い給与帯の現場へ集中しやすいという観察は理解できる。
8. 仕送りを見ると、同じ1,000円の“体感重量”が違って見える
2024年外国人雇用実態調査では、母国の家族などへ仕送りをしている割合は、技人国45.1%、特定技能81.6%、技能実習83.5%。仕送りをした人の年間平均額は、技人国115.3万円、特定技能123.3万円、技能実習106.3万円だった。
もちろん「全員がその額を送っている」わけではないし、仕送りの有無も家庭事情も人それぞれ。しかし、給与が低めで、さらに家族への送金がある人にとって、外食1,000円や2,000円の意味がこちらと同じとは限らない。
1,000円は物理的には1,000円。でも家計CPUにかかる負荷は同じとは限らない。
9. では、技能実習生の友人に奢らない人は酷いのか?――いや、財務省を友達関係に設置するな
ここからは統計ではなく人間関係の話。
友人が技能実習生で、自分より収入が低い可能性が高い。それを知ると「毎回割り勘、俺ちょっと酷い?」という感覚が出ることはある。
でも、所得差がある=高所得側に支払い義務が発生するではない。
友達は福祉制度ではないし、友情に所得税の累進課税を導入すると急に会計監査が始まる。
- 割り勘:普通
- 今日は自分が出す:親切
- 相手が出してくれる:ありがたく受け取るのも普通
- 毎回自分が払う:太っ腹だが義務ではない
大事なのは「相手が低賃金だから払ってやる」ではなく、今日はこの人に出したいから出すという主体性だ。
10. 奢りは義務になった瞬間、「好意」から「謎の税金」に転職する
奢る行為が気持ちいいのは、選べるからだ。
「今日は楽しかったし出すわ」はプレゼント。
「相手の年収が低いから毎回自分が出さないと人として失格」は、もう制度設計である。友達関係に勝手に所得再分配庁を開庁するな。
逆に、自分が奢られるのが嬉しいなら、相手も同じ可能性はある。奢られることを「申し訳ない」としか感じない人もいれば、「やったー、ごちそうさま!」と素直に喜ぶ人もいる。
人間関係は全取引を50:50にする複式簿記ではない。
11. 一番ラクな運用:「出したい時に出す。出してもらったら嬉しく受け取る」
友人関係なら、こんな運用がいちばん事故りにくい。
① 高い店へ自分から誘った → 少し多めに出すのは自然。
② 普通の食事 → 割り勘でも何も悪くない。
③ 今日は奢りたい → 奢る。理由書は不要。
④ 奢ってくれた → 相手が無理していなければ、ありがとうで受け取る。
⑤ 毎回固定ルールにしない → 義務感と上下関係を作りにくい。
「貸し1、借り1、唐揚げ324円分未精算」みたいな友情ERPを導入しないことがポイントである。
12. 統計から分かることと、分からないこと
分かるのは、在留資格ごとの給与水準にかなり大きな差があり、特定技能でも産業差が大きいこと。そして制度上は国籍や在留資格だけを理由に不当に低い報酬へ落としてよいわけではないこと。
分からないのは、目の前の一人の財布事情だ。
同じ技能実習でも寮費、残業、送金、貯蓄目標は違う。同じ技人国でも会社、職種、経験年数で大違い。「この在留資格だから貧しい」「この在留資格だから余裕」と個人へ直結させるのは雑すぎる。
統計は人を見るための地図であって、人そのものではない。
13. 数字を読むときの注意:平均・中央値・残業・賞与を混ぜるな危険
- 所定内給与額:残業・深夜・休日等の超過労働給与を除いた税引前給与。
- きまって支給する現金給与額:所定内給与+超過労働給与など。一般に所定内より高い。
- 年間賞与その他特別給与額:別期間の実績が載る統計もある。
- 平均:高い人に引っ張られることがある。
- 中央値:真ん中。ただし公開表の区分が平均表と一致するとは限らない。
- 産業別:小標本の行はブレる。
- 2025賃構:農林漁業は調査対象外。
つまり「月給28万」と「月の総支給31万」と「年収409万」は、同じ物差しではない。数字を横並びにする前に、その数字が何を含むかを見る。
14. まとめ:給料は三段ロケット、友情はロケット方程式で計算しなくていい
給与の相場感としては、
技能実習:約19万円/月 → 特定技能:約22万円/月 → 技人国:約28万円/月(所定内の目安)。
年収っぽい総支給参考値では、
技能実習:約256万円 → 特定技能:約311万円 → 技人国:約409万円。
「実習生は最低賃金寄り、技人国は日本人の若手専門職寄り」という第一印象は、統計を見るとかなり筋がいい。ただし、制度上は3区分とも「外国人だから安くてよい」仕組みではない。
そして、その数字を見た後に「じゃあ低い方には毎回奢らないと」となる必要もない。
給料は統計で見る。奢りは気持ちで決める。
この二つを混ぜなければ、財布も友情もだいたい平和である。
