年金の世代間格差はなぜこんなに腹が立つのか? 若い100万円と老後の100万円は同じじゃない

「今100万円払ってください。大丈夫、あなたが老人になったら還元されます」

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「今100万円払ってください。大丈夫、あなたが老人になったら還元されます」

「いつ?」

「40年後です」

「今くれ。」

年金の世代間格差の話をしていて、一番引っかかったのはここだった。

単純に「若者が損、高齢者が得」という話だけではない。若い時に使える100万円と、老後に受け取る100万円を、同じ100万円として扱うこと自体に違和感がある。

2026年8月末に公表された全国の中高生への意識調査では、「将来年金をもらえないかもしれないので負担したくない」に「そう思う」「まあそう思う」と答えた割合が56.5%。「若い人と高齢者の間で社会保障に不公平がある」と感じる割合は62.9%だった。

中高生、もう「将来自分にも返ってくるから」で全員納得する段階を通過し始めている。

ただし、ここから「だから年金は詐欺」「20~30年後には消滅」と一気に飛ぶと雑になる。面白いのはむしろ、制度が残るか消えるかより、いつ誰から取り、いつ誰に渡すかという時間軸だ。

1. 年金は「自分専用の貯金箱」ではない

まず土台だけ整理する。

日本の公的年金は、現役世代が払った保険料を、その時点の受給者への給付に回す仕組みを基本としている。自分が払った保険料を自分名義の箱に40年間保存し、老後に取り出す制度ではない。この仕組みを「賦課方式」という。

だから、会話としてはこうなる。

現役世代「俺の金、どこ行った?」 制度「今のおじいちゃんおばあちゃんの年金になりました」 現役世代「じゃあ俺の老後は?」 制度「その時の若者にお願いします」

ここだけ切り取ると、完全に壮大な世代リレーである。

ただし公的年金は老齢年金だけではない。障害が残った時の障害年金、加入者が亡くなった時に家族を支える遺族年金もある。 つまり「長生きした人だけが回収する積立商品」として比較すると、保険機能を落とす。

逆に、「保険なんだから損得を考えるな」で話を終えるのもおかしい。保険機能が必要であることと、世代間でどの程度再分配するのが公平かは別の問いだからだ。

2. 若い100万円と老後の100万円は、同じ100万円ではない

これがこの記事の本題。

金融では、同じ金額でも早く使えるお金の方が価値が高いと考える。早く手元にあれば、運用したり、借金を減らしたり、必要な投資に使ったりできるからだ。これを「お金の時間価値」という。

たとえば100万円を年3%で40年間増やせたと仮定すると約326万円になる。もちろん3%が保証されるわけではない。ここで重要なのは運用成績ではなく、40年間という選択肢そのものに価値があることだ。

30歳の100万円なら、住宅の頭金、引っ越し、教育、転職、子育て、事業、資格取得に使える。

70歳の100万円にも価値はある。医療、介護、生活費、安心に使える。ただ、70歳で300万円を受け取っても、30歳でしかできなかった住宅購入や進路変更のタイミングは買い戻せない。

つまり、

「40年後に返すから今100万円ちょうだい」

に対する違和感は、単なるわがままではない。

利息より先に、人生の締切がある。

3. 「得してる高齢者が消えたら、あーね、じゃあいらんよね」になるのか

世代別の受益と負担の表を見ると、こう考えたくなる。

「今ものすごく得している世代がいなくなったら、全員が『俺ら別に得してなくね?』となって制度を薄くするのでは?」

発想としては分かる。ただ、人口構造を見ると簡単にはそうならない。

国立社会保障・人口問題研究所の推計では、65歳以上人口の割合は2026年の29.8%から、2070年には38.7%になる。 今の高齢者が亡くなっても、「高齢者という大きな有権者・受給者層」が消えるわけではない。今の中年が次の高齢者になる。

そして年金制度は、「ある日ゼロになる」より「給付水準を調整しながら残る」設計になっている。

2024年の財政検証では、過去30年と同程度の経済前提を置いたケースで、標準的な年金額の現役所得に対する比率は2024年度61.2%から、調整終了時の2057年度50.4%になる見通しが示されている。

つまり現実的な論点は、

年金「消えません」 若者「よかった」 年金「ただし中身は調整します」 若者「そっちの意味の“消えない”か」

に近い。

「制度が存在するか」だけではなく、負担に対してどの水準の保障が残るかを見る必要がある。

4. 金が欲しい年齢では負債、年を取ると資産が厚くなる

ここで「高齢者、若者に家買ってほしいわ。死ぬ前に」という雑な一言が、急に統計とつながる。

総務省の2025年家計調査で、二人以上世帯を世帯主年齢別に見るとこうなる。

  • 40歳未満:貯蓄994万円、負債1882万円、純貯蓄はマイナス888万円。住宅・土地のための負債だけで1768万円。
  • 60~69歳:貯蓄2843万円、負債234万円、純貯蓄2609万円。
  • 70歳以上:貯蓄2471万円、負債81万円、純貯蓄2390万円。

もちろん平均値であり、同じ人を40年間追跡した数字でもない。高齢者全員が金持ちという意味でもない。

それでも配置は強烈だ。

30代「家ほしい。金ない。ローンある」 60代「資産かなり増えました」 90代「では相続します」 60代の子「ありがとう。俺ももう60代です」

金、到着が遅い。

5. 「老老相続」は国も普通に問題視している

これはネット民の思いつきだけではない。

政府の税制資料でも、高齢化によって相続する側まで高齢になる「老老相続」が増え、若い世代へ資産が移りにくいことが明確に論点になっている。2022年の政府税制調査会資料は、高齢世代から若年世代への資産移転を必要に応じて円滑にすることが重要だとしつつ、無制限に引き継げば格差固定につながるとも指摘している。

要するに国も、

「90歳から60歳へドン」より、必要ならもっと早く流した方がよくない?

とは考えている。

実際、2026年9月時点では、父母や祖父母から住宅取得資金の贈与を受ける場合、一定要件を満たせば2026年12月31日まで、省エネ等住宅は1000万円、それ以外は500万円まで贈与税が非課税になる特例がある。

つまり「死ぬ前に若者の家代へ回してくれ」は、表現こそ雑だが、政策方向としてはすでに半分採用されている。

6. 「親ガチャ格差は元からあるやろ」――その通り。だから税がある

生前贈与を増やす話をすると、当然こうなる。

「金持ちの祖父母がいる若者だけ家を買ってもらえて、親ガチャ格差が広がるやん」

それは本当。ただし、相続まで待てば親ガチャが消えるわけではない。

30歳で1000万円もらう親ガチャ 60歳で1000万円相続する親ガチャ

後者は「親ガチャを廃止した世界」ではない。ガチャ結果の配送日を30年遅らせただけだ。

そこで相続税が出てくる。

日本の相続税は、法定相続分に応じた取得金額が大きいほど税率が上がる累進課税で、税率は10%から55%。6億円を超える区分の最高税率は55%だ。 基礎控除は3000万円+600万円×法定相続人の数。

「半分持ってかれるのえぐ笑」は気持ちとして分かるが、55%が遺産全額にいきなり掛かるわけではない。最高税率の区分に到達した部分を含め、法定相続分ベースの速算表で計算する。

この設計の意味は割と分かりやすい。

早く資産を動かすことと、巨大資産の世襲をそのまま無税にしないことは両立できる。

生前移転を促しつつ、大きな資産ほど累進的に課税し、その税収を資産の少ない若者の住宅・教育・子育て支援へ回す、という設計も理屈上は可能だ。

7. 「数の暴力」がある側から取れない問題

ここで厄介なのが、人数そのものが政治力になる「数の暴力」だ。もちろん比喩だが、政治の制約としては無視できない。

民主主義では、人数の多い層に大きな即時損失を与える改革は難しい。しかも日本では65歳以上の人口比そのものが今後さらに高くなる見通しだ。

ここで政策の時間差が効く。

現役世代への負担増は「今月の手取り」で見える。将来給付の改善は数十年後で、しかも制度・賃金・物価・寿命に左右される。

高齢世代への給付削減は「来月の生活費」で見える。

今すぐ確実に失う100万円と、40年後に条件付きで戻る100万円では、政治的な痛みの濃度が違う。

これが「将来自分も受益者になるから同じ」と言われても腹落ちしにくい理由の一つだ。

8. 年金を全部消す話ではなく、「いつ・誰に・どれだけ移すか」の話

ここまで来ると、結論は「年金全部なくせ」ではない。

年金には、長生き、障害、死亡という個人では抱えきれないリスクを社会で分ける機能がある。 これは若い世代にとっても現在進行形の保障だ。

一方で、

  • 現役期からどれだけ取るのか
  • 高齢者なら所得・資産に関係なく同じように支えるのか
  • 若い時期の住宅・教育・子育てへの資金をどこまで厚くするのか
  • 高齢世代に偏った資産を、相続まで寝かせず早く循環させるのか

は別途設計できる。

世代間対立を「若者VS老人」にすると雑になる。高齢者にも貧しい人はいるし、若者にも資産家はいる。

だから本当に問うべきなのは年齢だけではなく、必要性、所得、資産、そしてお金が必要になる時期だ。

結論:100万円には「何歳で使えるか」という性能がある

この議論の核心は、「若い100万円と老後の100万円では価値が違いすぎる」という点にある。

これは年金の世代間格差を考えるうえで、かなり本質的だ。

年金が将来自分にも返ってくるとしても、それだけで現在の負担と将来の給付を同価値にはできない。若い時のお金には、住宅、教育、転職、家族形成、資産形成など、後から買い戻せない選択肢が付いている。

一方、公的年金には老後だけでなく障害・遺族保障という保険機能があり、「若者は全部損だから廃止」で終わる制度でもない。

結局、議論すべきなのは、

「制度を残すか消すか」より、「必要な時期に必要な人へ、どれだけ金を移すか」。

そして相続まで含めると、日本の資金循環はたまにこう見える。

30歳「今、家代がほしい」 社会「老後に備えよう」 70歳「資産できた」 90歳「相続します」 60歳「ありがとう。今じゃねえ。」

お金にも、納期はある。


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