0. 5秒で結論:同じ24時間を使っているとは思えない
引っ越し関係の作業で、妙に手際のいい人に会った。最初は「経験があるから速いんだな」くらいだった。ところが話を聞くほど人物設定が追加される。
本業は研究系。ソフトウェア開発、PC自作・カスタム、不動産の購入・修繕・売却、引っ越し実務。FPSは最上位級。毎週泳ぐ。ダイビング。頻繁な旅行。社会人サークル二つ。高頻度の飲み会。翌朝つらくても仕事。そして暇になるとスキマバイト。
待ってくれ。「暇」の定義が違う。
こちらは暇を作るために家事を減らし、実作業を外注し、手続きをオンラインに寄せ、スマホを持って寝転んでいたい。向こうは暇ができると「何入れよう?」になる。
プロフィールには「全て全力でやる!」という趣旨の一文。普通なら意気込みだが、経歴を聞いた後では**※文字どおりです。** 設定資料集のキャラクターコンセプトだった。
1. 「優秀そう」の正体は、頭の良さ+泥作業
研究とソフトウェアだけなら「頭のいい技術系」で説明できる。別生物感の正体は、抽象的な仕事ができるのに泥作業まで普通に降りることだった。
PCは詳しいだけでなく組む。不動産は知識だけでなく買い、修繕する。引っ越しも実際に運ぶ。暇なら身体を使って働く。
理解→調査→実行→習得、というループを分野横断で回している。
頭が回る × 新しいものを覚える × 手を汚す × 身体も動く × 人にも会いに行く。
これが同時に乗ると「別の生物だな?」になる。
2. ダイヤで満足する側と、最上位まで詰める側
こちらは対戦ゲームでダイヤ級くらいまで行くと「仕組みも分かった、面白かった、まあもうええか」となりやすい。
相手はFPSで最上位級まで行く。
こちら:「面白かった。だいたい分かった。次。」 相手:「面白い。もっと上あるな。行く。」 プロフィール:「全て全力でやる!」
ゲームまで対象だった。
3. スキルツリーが横に広すぎる
知的仕事、デジタル技能、ハードウェア、不動産、修繕、肉体労働、ゲーム、水中活動、旅行、コミュニティ、飲み会、スキマバイト。
しかも「触った」ではなく、ところどころ深い。FPSは上まで行く。不動産は実際に買う。修繕もする。ダイビングは本人談で初期費用が数十万円規模。旅行も高頻度。
人生の同時起動アプリ数が多すぎる。
こちらならバックグラウンドアプリを閉じてRAMを空けたい。向こうはRAMが空くと新しいアプリを起動する。
4. 「暇だからスキマバイト」が一番怖い
本業、運動、ダイビング、旅行、サークル二つ、飲み会、ゲーム。その上で「ちょっと空いたな」→働く。
なんでやねん。
こちらは「この作業、俺がやる必要ある?」→外注できる→やった!寝転べる!
時間を空ける目的が真逆なのである。
5. マグロ説
途中から頭に浮かんだのがマグロだった。生物学ではなく「ずっと何かしてないと落ち着かないタイプ」という比喩。
予定表に隙間があると何かが泳いで入る。こちらは隙間を見つけると「ここは絶対に守れ」となる。同じカレンダーでも思想が違う。
6. 一人がつらい→居酒屋の隣の知らない人に話しかける
新しい土地へ引っ越したとき、一人なのがつらかったらしい。解決策は、居酒屋へ行き、隣の知らない人に話しかける。 さらに人とつながるためにアプリを使い、社会人コミュニティにも入る。
「友達ほしいなあ」で止まらない。人がいない→人がいる場所へ行く→話しかける。
問題と行動の間が短い。この「思いつく→着手」の摩擦の低さも羨ましい。何でも習得できるように見える人は、頭の良さだけでなく試行回数そのものが多いのかもしれない。
7. 衝撃の原点「大学時代は寝転んでスマホ」
大学時代、寝転んでスマホを触ってダラダラする生活をしていた。そして本人は思った。「このままじゃダメだ!」
それが現在の高活動量の原動力の一つらしい。
……待って。それ、俺が努力して作ろうとしている生活なんだが?
こちら:家事削減→物理作業を外注→手続きをオンライン化→不要予定を消す→自由時間→ベッド→スマホ→ダラダラ→生活最適化、成功。
相手:ベッド→スマホ→ダラダラ→このままじゃダメだ!!→人→運動→旅行→技能→仕事→ゲームも上まで→まだ暇→バイト。
原点がお前の理想郷なの草。
8. 片方の「失敗状態」が、片方の「完成状態」
相手にとって当時の「何もせずスマホ」は、人生を使えていない感覚につながった。だから活動を増やす。
こちらにとって「何も予定がなく、好きなときにスマホを触れる」は、他人にも仕事にも拘束されていない状態であり、それ自体に価値がある。だから活動を減らす。
相手:空白→活動→満足 こちら:活動→外注・削減→空白→満足
変換方向が完全に逆。そりゃ別ビルドに見える。
9. 無人島に放置されたら負ける
能力差を極端に表現すると無人島である。
こちら:「電波は?」「ない」「店は?」「ない」「業者呼べる?」「呼べない」「詰みです。」
一方、相手は「とりあえず何が使えるか見ます」と動き始めそうな雰囲気がある。
もちろん水泳や修繕ができることと本当のサバイバル技能は別なので完全に比喩。ただ、外部サービスがなくても自分で何とかしそう感は向こうが強い。こちらは現代文明へのAPI接続が切れると急激に弱くなる。
10. でも現代日本、無人島じゃない
現実には専門業者、配送、ネット検索、修理サービス、スキマワーカー、ソフトウェア、外注市場がある。
修繕技能がなくても、修繕できる人を呼べば壁は直る。引っ越し技能がなくても経験者を呼べば荷物は動く。PCを組めなくても詳しい人や店を使えば目的のPCは手に入る。
欲しい結果は得られる。
経済学の比較優位も、絶対的に誰が一番できるかだけでなく、何を自分でやると何を諦めることになるかという機会費用を見る。 「自分でもできる」は「自分でやるべき」と同義ではない。
11. 俺が欲しいのは技能ではなく「結果だけ」
物理技能を習得すること自体が、正直そんなに楽しくない。DIYを極めたいわけではない。荷物運搬のプロになりたいわけではない。家具組立技能をコレクションしたいわけではない。
欲しいのは、直った壁。組み上がった家具。移動済みの荷物。処分済みのごみ。目的どおり動くPC。
技能そのものではなく結果である。
12. 「技能を持つ俺」と「技能の結果を使える俺」は別物
技能には学習、失敗、道具、練習、情報更新という保有コストがある。修繕技能を何年も育てなくても修繕できる人へ依頼できる。専門道具を全部買わなくても、道具を持つ人に頼める。
能力を所有しなくても、能力をレンタルできる。
技能取得に20時間使うより、金を払って20時間を自由時間として回収できるなら、こちらには後者の効用が高いことが多い。
その20時間で別の技能を勉強したいわけではない。寝転びたいのである。
13. 万能への憧れは、それでも消えない
外注できるから羨ましくないかというと、全然そんなことはない。めちゃくちゃ羨ましい。
何でも覚えられる感じ。知らない分野にも入れる感じ。必要なら手を動かせる感じ。身体も使える感じ。人間関係まで自分で作りに行ける感じ。ゲームすら上まで詰める感じ。
人間としての自己完結感そのものは外注できない。
だから「いいなあ」は残る。ただし「じゃあ俺も全部やろう」にはならない。
憧れと最適戦略は別である。
14. さらに金が消えそう問題
活動量が多い生活は時間だけでなく金も使う。ダイビングは本人談で初期費用だけでも数十万円規模。そこから器材、メンテナンス、現地費用、移動、宿泊。さらに旅行、PC、不動産、飲み会、サークル、ゲーム。
本人の収支を見たわけではないので浪費とは言えない。ただ、活動を増やせば支出機会も増える。
こちらは金を使うなら「新しい予定を増やす」より**「嫌な作業を消す」**方向へ使いたい。同じ金でも目的関数が違う。
15. 最強のオチ「その優秀な人、格安で手伝ってくれる」
ここまで「万能で羨ましい」「無人島なら負ける」と言ってきた。
しかし現実では、その優秀な人がこちらの実作業を手伝ってくれる。
相手:「暇なのでスキマバイトします」 こちら:「ではお願いします😊」
市場、成立。
相手は空白を埋められる。こちらは空白を作れる。双方の目的が達成される。
16. 高度人材の使い所さん!? 次のミッション:資源ごみ
次にお願いする作業の一つが、資源ごみを捨てに行ってもらうこと。
研究。ソフトウェア。PC。不動産。修繕。引っ越し。FPS最上位級。水泳。ダイビング。
↓
資源ごみ搬出。
高度人材の使い所さん!?
人的資本の配置だけ見れば贅沢すぎる。しかし本人が受けたい。こちらは作業を消したい。条件に双方が納得する。それで取引は完成する。
しかも一緒に作業して、手際や実務能力を直接見られた。外注では作業速度だけでなく、説明→任せる→終わるの管理コストが低いことも価値である。
17. 数年後「不動産の修繕やりませんか?😊」
未来予想。
「そういえば不動産の修繕経験ありましたよね?」 「あります」 「物件買ったんですけど、修繕やりませんか?😊」
普通に成立しそうなのが怖い。
研究系の高度人材を引っ越し作業で発見し、資源ごみを経由して、数年後に不動産修繕で召喚する。
人材発掘イベントの伏線が長すぎる。
もちろん資格が必要な工事、施工責任、安全、保険などは「知人ができる」だけで雑に処理してはいけない。そこは専門業者の領域と切り分ける。
それでも軽作業や本人の経験範囲なら、「あ、それできる人知ってる」が成立する可能性はある。
18. 結論:俺は俺でこれでいい。でも、すごい羨ましい
最終的な感想はこれだった。
すごい羨ましい。 でも、 俺は俺でこれでいい。
万能な人間であることは魅力的だ。何でも習得し、必要なら泥作業までやれる人は強い。
ただ、こちらが欲しいのは技能そのものではなく、その技能が生む結果。そして自由時間。
相手は空白を埋めるために全力で動く。 こちらは空白を作るために全力で削る。
同じ24時間を最適化しているのに、向いている方向が真逆だった。
そして次回も、その万能型に実作業をお願いする。
人生、適材適所とは限らない。適材を見つけたら、とりあえずお願いできるところからお願いするのである。
Sources
- OpenStax, “Absolute and Comparative Advantage” — comparative advantage, opportunity cost, specialization and gains from trade: https://openstax.org/books/principles-microeconomics-2e/pages/19-1-absolute-and-comparative-advantage
