転職初日。仕事が終わったらゲームかアニメでも楽しむつもりだった。ところが帰宅後、気づけば新しい職場で気になったことを延々と調べている。「なんでこういう仕組みなんだ?」「ここがポイントなら、こう変えたら面白くない?」。疑問が次の疑問を呼び、夜まで止まらない。
初日から自主的に延長戦。残業したいわけじゃない。趣味が勝手に仕事の話題を選んでいる。 自分でも笑ってしまった。
前職では「仕事ができる人になるほど損」だと思っていた
以前は勤務時間外に仕事のことを考えたくなかった。早くゲームをしたい。アニメを見たい。それなのに仕事を覚えて任されるほど、一人に負担が集中するように感じていた。
頑張って詳しくなった先に待っているのが、さらに仕事を背負う未来ならどうだろう。能力を発揮するほど自分の自由が減る。そんな予想が強ければ、深入りせず距離を取ろうとするのも不思議ではない。
当時は「仕事が好きじゃないのかも」と思っていた。でも、嫌だったのは学ぶこと自体ではなく、できる人に仕事が積み上がる構造だったのかもしれない。
転職したら、仕事の仕組みが新作ゲームになった
新しい職場では、一つ説明を聞くと、全体像が気になった。全体を理解すると「なぜこの順番?」「もっと良くできる?」が浮かぶ。自分で調べると、点と点がつながって、また別の疑問が出てくる。
会社の資料を決められた順番で読むより、自分の「なぜ?」から調べる方が面白い。AIは疑問を次々に投げられる相手として便利だ。ただし、一般的な説明がその職場の実態にそのまま当てはまるとは限らない。そこは現場で確かめる。
いつの間にか「どうなっている?」から「じゃあ、どう改善する?」へ進む。まだ新入りなのに脳内では企画会議が始まっている。肩書きは新入社員、頭の中だけ役員会。 もちろん実際の変更には担当者との相談と承認が必要だ。
個人の制作でも、同じことを続けていた
思えば、個人で続けてきた制作活動もそうだった。数か月にわたり、どう作ればうまく動くか、どこを変えればよくなるかを考え続けた。命令されたわけでも、時給が出たわけでもない。
「疑問を見つける→調べる→仮説を立てる→試す→また疑問が出る」。この往復そのものが楽しかった。つまり、新しい職場で急に勤勉な別人になったわけではない。以前から好きだった遊び方に、仕事という新しい攻略マップが増えたのだ。
なぜ楽しい? 心理学で説明できる部分
RyanとDeciの研究で知られる「自分で決められる」「できることが増える」「人とつながれる」という三つの条件は、自発的なやる気と関係する。今回の体験では、疑問を自分で選び、理解が進み、人に質問して確かめられることが、その条件と重なっている。[1]
Loewensteinの好奇心理論は、知っていることと知りたいことの間の隙間に注目する。「あと少しで分かりそう」が次の調査を呼ぶわけだ。[2] 好奇心が高い状態と学習・記憶の関係を示す実験研究もある。[4]
一方、職場の研究では、仕事の負担だけでなく、裁量や支援など利用できる資源も働く意欲や消耗と関係する。[3] だから、この一件だけで「天職が確定」とは言えない。仕事内容、周囲との関係、仕事が増えたときの分担は、これから確かめる部分だ。
楽しくても、疲れがゼロになるわけではない
没頭している間に疲れを感じにくいことはある。でも、それは睡眠や休息が不要という意味ではない。「好きだから毎晩やる」が「やめたくてもやめられない」に変わったら、面白さとは別に見直したい。
大事なのは、夜まで仕事をすることを美徳にすることではなく、自分で始めて、自分でやめられる自由があること。会社での役割や責任は、周りとの合意の範囲で進めればいい。
結論:仕事が好きになったというより、好きな遊びを仕事でも見つけた
前は「詳しくなるほど地獄が近づく」と思っていた。今は「詳しくなるほど次の謎が出てくる」。どちらも本人の知識欲が消えたり生まれたりした話ではなく、環境と期待する未来が変わったという見方ができる。
初日の感想だけで転職成功とは決めない。それでも、帰宅後にゲームを起動するはずが、気づけば仕事の謎解きをしていたのは事実。
転職初日、趣味が一個増えた。名前が「仕事」だった。
研究資料
[1] Ryan & Deci (2000), Self-determination theory: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11392867/ [2] Loewenstein (1994), The psychology of curiosity: https://doi.org/10.1037/0033-2909.116.1.75 [3] Bakker & Demerouti (2017), Job demands–resources theory: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27732008/ [4] Gruber, Gelman & Ranganath (2014), States of curiosity and learning: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4252494/

