「仕事を楽しめ」で終わらせない――本人の工夫と会社の問題を分けて考える
仕事がしんどいと言うと、すぐにこう返されることがある。
「仕事を楽しむ工夫をしよう」
「若いうちに厳しい経験をした方がいい」
「もっと主体性を持とう」
全部、場合によっては役に立つ。
でも、指示が曖昧で、権限がなく、評価基準が後から変わり、相談しても返事がない職場でこれを言うと話が変わる。
会社の穴を、社員の気合いで埋める話になっている。
雨が降ったら傘は差した方がいい。
だからといって、傘を持つ人が雨を降らせたわけではない。
この二つを分けて考える。
1. 「楽しい仕事」には、作業の楽しさと追いかける楽しさがある
仕事そのものが好きな場合がある。
人と話す。
文章を書く。
数字を見る。
ものを作る。
一方で、作業は普通でも、その先に欲しいものがあるから続く仕事もある。
収入。
成長。
自由な働き方。
残る実績。
自分の仕組みや作品。
毎日の作業が全部楽しい仕事は少ない。
だから「何の作業が好きか」だけでなく、この仕事を続けると何が残るかを見る方が使いやすい。
最初から答えが分からなくてもいい。小さく試して、「なぜか続いた」「ここは前のめりになった」を拾えばよい。
2. 怒鳴られて平気と、責任を持てるは別の能力
「厳しい環境で鍛えればメンタルが強くなる」と言われることがある。
でも、プレッシャーは一種類ではない。
- 怖さの圧:怒られる、恥をかく、威圧される
- 責任の圧:自分がやらないと誰かに影響が出る
- リスクの圧:正解が分からないまま決める
怒鳴る上司に慣れても、未知の案件を自分で決められるようになるとは限らない。
むしろ、
上司「主体性を持て!」
部下「では自分で判断します」
上司「勝手にやるな!」
まで来ると、主体性育成ゲームのルールが毎ターン変わっている。
これで育つのは主体性より、地雷探知能力である。
3. 責任を渡すなら、責任だけ渡さない
人を育てるなら、「この仕事を任せる」だけでは足りない。
最低でも次をセットにする。
- 何を達成するか
- どこまで自分で決めていいか
- 判断に必要な情報
- 困ったときの相談先
- 何ができたら合格か
- 期限と優先順位
- 使える時間・人・予算・道具
責任だけ渡して、権限も情報もない。
そして失敗したら「責任感がない」。
それは育成ではない。
後で怒るための予約フォームである。
4. 職場の不満を、全部「本人の意識」に変換しない
たとえば、こんな不満がある。
- 指示が曖昧
- 優先順位が分からない
- 評価基準が後から変わる
- 権限がないのに責任だけある
- 上司が判断しない
- 情報が来ない
- 人と時間が足りない
- 頑張る人に仕事が集まる
- 相談しても返事がない
これを全部、
「主体性がない」
「責任感がない」
「最近の人は弱い」
に変換すると、原因が消える。
本人に改善できる部分はある。
でも、会社が決めるべき役割、権限、人数、評価まで本人の性格で直すことはできない。
5. 昔は「周りが何とかする」で隠れていた
役割が曖昧でも、昔からいる人が補う。
新人への説明がなくても、先輩が横で教える。
人が足りなくても、我慢できる人が埋める。
上司の指示が雑でも、部下が翻訳する。
これで仕事が回る時期はある。
ただし実態は、会社が管理しているというより、社員同士が会社の未実装機能を手作業で補っている。
人が減り、仕事が複雑になり、転職も増えると、この仕組みは壊れやすい。
「最近の若者が弱くなった」のではなく、昔は見えにくかった管理不足が表に出ただけの場合もある。
請求書が遅れて届いただけである。
6. 会社が悪くても、自分の行動は決める
原因が会社側にあっても、自分が今すぐ動かせるのは自分の行動である。
だから、
- 役割を確認する
- 期限を確認する
- 優先順位を確認する
- 成功条件を確認する
- 権限が足りなければ書いて残す
- 小さく試して、自分が続く仕事を探す
- 変わらないなら異動や転職も考える
という対処は必要になる。
ただし、対処する人=原因を作った人ではない。
ここを混ぜると、会社の問題まで自分の人格反省会になる。
7. 最後に見るのは「頑張れるか」より「頑張れる条件があるか」
働く側は、次を確認するとよい。
- 何を得たい仕事か
- 何を自分で決められるか
- 合格ラインは何か
- 誰に相談できるか
- 経験や成果は次でも使えるか
管理する側は、次を確認する。
- 目的を伝えたか
- 優先順位を伝えたか
- 責任と一緒に権限を渡したか
- 判断材料を渡したか
- 後から正解を変えていないか
- 「自分で考えろ」と「勝手に決めるな」を同時に出していないか
仕事を楽しむ工夫は大事だ。
責任を持つ経験も大事だ。
でも、その話だけで職場の設計不足を消してはいけない。
本人は傘を差す。会社は屋根の穴を直す。両方やる。
