「教員採用試験に何度か落ちている人が、学校では講師として働き、しかも担任まで持っている。採用基準に届いていないなら、なぜ担任を任せるの?」
投稿だけ読むと、かなり不思議に見える。
しかし制度を分けて見ると、最初の前提が違っていた。
教員採用試験に落ちたことと、教員免許がないことは別である。
常勤講師は、教員免許を持って期限付きでフルタイム勤務する教員だ。自治体によっては担任、行事、会議、研修まで普通に担当する。民間企業にたとえるなら、「正社員採用には通っていないが、フルタイムの契約社員として同じ現場を回している人」にかなり近い。
ただし、これは理解のための比喩である。公立学校の常勤講師は民間の契約社員そのものではなく、地方公務員としての臨時的任用などで働く。[1][5]
1. 5秒で結論
| 区分 | 教員免許 | 働き方 | 担任 | 給与のイメージ | 最大の違い |
|---|---|---|---|---|---|
| 正規教員 | 必要 | フルタイム | あり | 正規の給与表 | 身分保障が強い |
| 常勤講師 | 原則必要 | フルタイム | あり得る | 正規に近い自治体も多い | 任期がある |
| 非常勤講師 | 原則必要 | 授業時間中心 | 原則なしの自治体も多い | 時間・授業単価中心 | 勤務時間も保障も小さい |
つまり、「試験に落ちた無資格者に担任をやらせている」ではない。
「正規採用には通っていないが、教員免許を持つ期限付きフルタイム教員に担任を任せている」が近い。
ここまで分かると、急に怪談感が消える。
2. 「採用試験に落ちた」と「教員免許がない」は別
文部科学省は、学校の教員になるには教員免許状を取得し、さらに教員として採用される必要があると説明している。[1]
役割を分けると簡単だ。
- 教員免許:教壇に立つための資格
- 教員採用選考:自治体が誰を正規教員として採るか決める選考
採用選考に落ちても、すでに持っている免許が消えるわけではない。
文科省のQ&Aも、正規採用とは別に、期限付きの常勤講師や非常勤講師として採用される道があると説明している。[1]
だから「不合格者=教えちゃいけない人」と考えると、最初から話がずれる。
3. 常勤講師は何をする?――担任まで普通にあり得る
愛知県の2026年時点の案内では、常勤講師の仕事として、欠員補充、産休・育休中の教員の代替、教科担任、学級担任、修学旅行などの行事、会議、研修などが明記されている。勤務時間は平日1日7時間45分である。[2]
一方、同じ案内で非常勤講師は主に教科指導を担当し、学級担任にはならないとされている。[2]
つまり「講師」という一語だけでは足りない。
常勤講師と非常勤講師は、同じ名前の仲間に見えて仕事内容がかなり違う。
担任を持つ人なら常勤講師である可能性は高そうに見えるが、実際の任用形態は辞令や自治体の制度を見ないと断定できない。
4. 安いから使ってる?――本丸は給与より雇用調整
ここは予想と少し違う。
「採用試験に落ちた人を安く使っているのでは」と思いがちだが、少なくとも常勤講師を全国一律に「激安の先生」と見るのは正確ではない。
文科省は、臨時的任用職員の給与について、常勤職員に適用される給料表や初任給基準を基礎にし、学歴、免許、経験年数を考慮して決める考え方を示している。[3]
愛知県の例では、2026年1月1日時点で、4年制大学新卒の常勤講師の月額例は305,182円。「正規教員に準ずる」とされ、期末・勤勉手当があり、6か月以上なら退職手当の対象になる。扶養、通勤、住居などの手当も基本的に正規職員と同じである。[2]
もちろん全国で完全に同額ではない。自治体、経験、任用期間などで変わる。
それでも制度の利点は、
「半額の先生を使える」より、「正規並みに働ける人を、必要な期間だけ置ける」
のほうが近い。
5. 一番大きい差は「仕事がなくなったら終了しやすいか」
ここが、民間の「契約社員」にたとえたとき一番分かりやすい部分である。
正規の地方公務員には法律上の身分保障がある。法律で定められた理由なしに、本人の意思に反して簡単に免職することはできない。[5]
もちろん正規なら絶対に免職されないわけではない。勤務実績、適格性、組織上の事情など、法律上の分限事由はある。[5]
一方、臨時的任用は最初から期間がある。地方公務員法の一般則では6か月以内で任用し、条件を満たせばもう6か月以内の更新ができる。[5]
愛知県の欠員補充の常勤講師も半年間で、年1回更新可能。産休・育休などの代替は、その必要な期間に合わせる。[2]
雑に言えば、
正規教員:今の穴が消えても、人を雇い続ける前提が強い。
常勤講師:その穴が消えたら、任期満了で終われる。
仕事内容より、この「先の保証」の差が大きい。
6. 教師不足なのに、なぜ全部正規で採らないのか
「担任を任せるほど人が足りないなら、正規採用を増やせばいい」という疑問は自然だ。
ただし、教師不足の全部が「永久に1人足りない」ではない。
文科省が2026年3月に公表した調査では、2025年5月1日時点の教師不足は全国3,827人、不足率0.45%だった。[4]
教育委員会が挙げた要因には、産休・育休の増加、病休者の増加、特別支援学級の増加、講師登録者の減少、講師候補者が正規採用されたことなどがある。[4]
ここには少し変な逆説がある。
正規採用を増やす → 以前なら講師をしていた人も正規になる → 短期の穴を埋める講師候補が減る。
文科省自身も、教師不足の背景としてこの構造を説明している。[4]
もちろん「だから正規を増やすな」という話ではない。数か月の産休代替と、何十年も続く恒久的な定員は、人員計画として別の問題だということだ。
7. 「何年も担任やってるなら、もう毎日実技試験してるやん」問題
ここは制度を理解しても、なおツッコミが残る。
実際に授業をし、担任を持ち、保護者対応をし、学校行事まで回しているなら、それはかなり強い実務評価ではないか。
ただ、実務経験が完全に無視されているわけでもない。
愛知県の2027年度採用案内では、要件を満たす元教諭・講師経験者について、第1次試験の「教職・教養」を免除する特別選考がある。また、一部の小中学校などでは、通算3年以上の勤務実績などの条件を満たし、市町村教育委員会教育長の推薦を受けた人について、第1次試験をすべて免除する特別選考もある。[6]
一方、2年働けば自動的に正規になる制度ではない。地方公務員法も、臨時的任用そのものは正式任用への優先権を与えないと定めている。[5]
現場経験は武器になる。でも「担任をやった=自動正規」ではない。
8. 結局、「契約社員みたいなもんか」でかなり合っている
法的には民間の契約社員ではない。
でも仕組みを理解する比喩としてはかなり使える。
正社員採用には通っていない。 でもフルタイムで同じ現場を回す。 大きな担当も持つ。 給料も大差ない場合がある。 ただし、その仕事がなくなった後まで雇い続けてもらえる保証は弱い。
学校では、その「大きな担当」が一つの学級なので、外から見ると急に重く見える。
9. 結論――制度を知ると「継続して試験を受けて勝ち取れ」がかなり自然になる
最初は、
「採用試験に落ちた人に担任!? 大丈夫なの?」
と見える。
しかし分解すると、
免許あり → 期限付きフルタイムで任用 → 正規に近い仕事と待遇 → 担任もあり得る → ただし長期の雇用保障は弱い
という話だった。
ここまで分かると、正規教員になりたい人にとって制度上の答えはかなり素直だ。
常勤講師で実務を積み、利用できる経験者向け制度を使いながら、採用選考を継続して勝ち取る。
そのうえで、「正規とほぼ同じ責任を持たせるなら、現場の実績をもっと採用に反映してもよいのでは」という制度論は残る。
問題の中心は「不合格者に担任を任せて危険」ではない。
正規級の仕事をする期限付き教員を、どう評価し、どう正規採用につなげるか。
こっちが本題だった。
出典
[1] 文部科学省「教員免許状に関するQ&A」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoin/main13_a2.htm
[2] 愛知県「愛知県内の公立学校で働いてみたい方へ」 https://www.pref.aichi.jp/soshiki/kyosyokuin/paperteacher-conference1.html
[3] 文部科学省「公立学校の臨時的任用職員等の給与に関する通知」 https://www.mext.go.jp/content/20250926-mxt_syoto01-000045031_01.pdf
[4] 文部科学省「令和7年度『教師不足』に関する実態調査」 https://www.mext.go.jp/content/20260302-mxt_kyoikujinzai01-000047773_1_1.pdf
[5] e-Gov法令検索「地方公務員法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000261
[6] 愛知県教育委員会「令和9年度採用 愛知県公立学校教員採用選考試験 受験案内」 https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/615359.pdf
