ツボダイは出なかった。でも深海魚ガチャは大当たりだった。蒲郡でワガとメヒカリを食べる

蒲郡・形原の魚料理店「松月」に平日の昼に入る。ところが平日とは思えない混み方だった。年配の常連らしき人、マダム、魚を目当てに来た客で席が埋まっている。松月は形原・西浦漁港で水揚げされた魚介を使い、刺身定食や煮魚定食、仕入れに応じた一品料理を出す店だ。

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5秒で結論: 深海魚は「珍しいから面白い」で終わらなかった。ワガの煮付けは上品な白身、メヒカリの唐揚げは「ほろっ、少しパサッ、あっつ!」の後から旨味と甘みが伸びる。数量限定の舞茸ご飯まで強く、ツボダイ不在でも完全に当たり回だった。

1. 平日の昼なのに、魚の定食屋がバカ混み

蒲郡・形原の魚料理店「松月」に平日の昼に入る。ところが平日とは思えない混み方だった。年配の常連らしき人、マダム、魚を目当てに来た客で席が埋まっている。松月は形原・西浦漁港で水揚げされた魚介を使い、刺身定食や煮魚定食、仕入れに応じた一品料理を出す店だ。

混雑時の注文は、店員さんと目を合わせて軽く会釈する「視線コマンド」で通った。大声で呼ばずに接続成功。コミュニケーションというより省エネ通信規格である。店内では別席から人工知能の話まで聞こえてきたが、今日の主役は人工知能ではない。魚である。

2. 本命ツボダイ不在。水族館がクエストを発行してくる

今回の本命はツボダイ。きっかけは竹島水族館だ。竹島水族館は深海生物展示と、飼育員が手作りする楽しい解説で知られる。

2015年の取材記事には、ツボダイを「ホッケの750倍くらい」と表現する猛烈なPOPが登場する。 もちろん750倍は科学的測定値ではなく、全力のネタである。ただ、見た側の脳には「そんなにうまいなら食わせろ」というクエストだけが残る。

しかし当日の松月の掲示にツボダイはいなかった。松月自身も魚料理は季節・仕入れで変わると案内している。

つまり、ツボダイ一点狙いは 席ガチャ × 魚ガチャ。予約できても魚がいない。魚を確認してから動くと席がない。難易度が地味に高い。

3. 代わりに「ワガ」が出た。誰だお前

当日の掲示には「釣りワガ(大) 煮魚定食 2,200円」があった。

ワガ。

知らない。寿司屋でもほぼ見ない。メニューに突然「ワガ」とだけ書かれたら、感想はだいたい「誰?」になる。

正体はユメカサゴ。蒲郡ではワガと呼ばれ、蒲郡市の「がまごおり撰魚」8魚種にも入っている。 蒲郡観光協会の「まちじゅう食べる水族館」でも、ワガは深場の魚として紹介される。

その日の深海・深場系メニューを「普通の飲食店で名前を見る珍しさ」で遊び半分に並べるなら、ワガ → 黒ムツ → メヒカリ → 金目鯛くらい。味や生物学的希少性ではなく、完全に「なんだこいつ度」ランキングである。

4. ワガが魚の形そのままで来る。舞茸ご飯まで強い

注文したワガが来た。

頭。目。ヒレ。尻尾。

魚です!!!!

煮魚を普段ほとんど食べないと、勝手に切り身を想像する。しかし出てきたのは一匹の形を堂々と残した煮魚だった。

食べる。

美味。

語彙が死んだ。ユメカサゴらしい柔らかな白身と煮汁がきれいに合う。「謎の深海魚を食べている」というイベント感より先に、普通に煮魚としてうまい。同じ列で3人ほど同じ物を頼んでいて、「みんなワガ知ってるのか?」という新しい疑問まで生まれた。

さらにその日は「まいたけ御飯できます(数量限定)」の掲示があったので変更。これがバカうまい。ワガを食べる。舞茸ご飯へ行く。戻る。また舞茸ご飯へ行く。深海と山が勝手に同盟を結んだ。

ツボダイガチャは外れたが、ワガ+舞茸ご飯という別の大当たりが出た。

5. 腹4割なのでメヒカリ追加。「マダムほんまごめん」から評価逆転

ワガと舞茸ご飯を食べても、体感の腹はなぜか4割くらい。満足度のわりに白身魚の胃占有率が低い。

そこでメヒカリ唐揚げ 950円を追加した。隣席からは「前回来たとき、少しパサパサしてあまり好みではなかった」という口コミが聞こえていた。

聞いた。理解した。頼んだ。

マダムほんまごめん、メヒカリの唐揚げ追加。

想像していたのは鶏唐揚げのような白身魚の塊。しかし来たのは、小魚がそのまま並ぶ姿。見た目はかなり「ししゃもの唐揚げ」である。

メヒカリの正式名はアオメエソ。蒲郡市によると体長15〜20cmほど、水深200〜300mに生息し、蒲郡の水揚げは愛知県内の約95%を占める。 骨が柔らかいため、唐揚げでは丸ごと食べやすい。

一匹目。

うまい。

そして「パサ感」は少し分かる。ただし惣菜の古い唐揚げのような全面的な乾燥ではない。揚げたてなので中はふわっとして、身がほろっと崩れる。一部が少しパサッ。そして、あっつ!

食感を一行にすると、

ほろっ → 少しパサッ → あっつ! → ……うまい。

面白いのは二匹目、三匹目からだった。食べるほど評価が上がる。飲み込んだあとに魚の旨味が口に残り、その上へ次の一匹の脂、塩気、香ばしさ、白身の甘みっぽい感覚が重なる。

最初は「うまい」。途中から「かなりうまい」。最後は「なんか食えば食うほどうまいわ」になる。

「少しパサ感がある」と「かなりうまい」は両立した。マダム無罪。メヒカリも無罪。

6. 深海魚は全部うまい? 全部ではない。でも普通に強い魚がいる

深海魚と聞くと、変な形、暗い海、水族館の珍しい生き物という印象が先に来る。しかし蒲郡では、メヒカリ、ニギス、ムツ、金目鯛、ワガなどが普通に「食べる魚」として案内される。

蒲郡観光協会は、愛知県内で深海魚を獲る沖合底びき網漁船4隻がすべて蒲郡市内の漁港に所属し、県内の9割以上の深海魚が蒲郡で水揚げされると紹介している。

もちろん「深海にいる=全部うまい」ではない。魚種ごとに脂、食感、香り、向く料理は違う。ただ今回の実食は強かった。

  • ワガ:煮付けで柔らかな白身。
  • メヒカリ:丸ごと唐揚げで、香ばしさと後から残る旨味。
  • 舞茸ご飯:魚ですらないのに最優秀選手候補。

深海魚ガチャ、思ったより期待値が高い。

7. 水族館が「メニューの立体版」に変わる。ツボダイ確認お姉さん問題も発生

竹島水族館で魚を見ながら「かわいい」より「うまそう」と思ってしまっても、蒲郡ではわりと筋が通っている。観光協会自身が「まちじゅう食べる水族館」という企画で、魚を学ぶ場所、食べる場所、買う場所をつないでいる。

水族館で見る → 名前を覚える → 店で出会う → 食べる → 次に水族館で「お前うまいやつじゃん」となる。

水族館がメニューの立体版になる。 魚側からすると最悪である。

ではツボダイを本気で狙うならどうするか。現実的には、席を確保できる日を作り、直前に入荷を確認し、なければワガ・ムツ・メヒカリなど第二候補へ切り替えることになる。

ただし電話しすぎると、厨房で「今日もツボダイの人から電話来た?」が成立する可能性がある。最終進化は「ツボダイ確認お姉さん」。希少魚を探しているうちに、本人が店の希少個体として認識される。

そしてメヒカリを酒のつまみに常備したくなると、今度は調達問題が出る。蒲郡では名物でも、全国どこでも同じ鮮度・状態で常時買える魚ではない。うまいものを覚えると、次は調達が仕事になる。

8. 結論:深海は未開拓の魚売り場だった

本命のツボダイはいなかった。

でも結果は、

知らないワガを注文 → 丸ごと煮魚 → 美味 → 舞茸ご飯がバカうまい → 腹4割 → メヒカリ追加 → ほろ・パサ・あっつ → 後から旨味と甘み → 食べるほど評価上昇。

完全に別ルートの成功だった。

深海魚は「変な魚をネタで食べる」枠ではない。普通にうまい魚が、知らない名前のまま潜んでいる。

一度それを知ると、水族館で魚を見る目も変わる。

「あ、珍しい魚だ」ではない。

「こいつ、煮付けいける?」

最悪である。

でも、たぶん蒲郡では正しい。


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