「うなずくだけ」は無関心ではなく、防御かもしれない
研修や会議で、目を閉じ、うなずき、発言せず、目立たないようにする。
表面だけを見ると、参加意欲が低いように見える。
しかし、過去に発言すると否定、論点ずらし、人格評価、追加作業が返ってきたなら、黙ることには合理性がある。
発言する
↓
内容ではなく態度を評価される
↓
仕事が増える
↓
結論は変わらない
↓
次から黙る
Morrisonは、従業員が改善案、問題、懸念、情報を上位者へ伝える行動をvoice、意図的に控える行動をsilenceとして整理している。沈黙は、組織から有用な情報を失わせる。[10]
2025年のシステマティックレビューとメタ分析では、84研究、計34,975人を統合し、沈黙が多いこととバーンアウトが高いことの間に中程度の関連が確認された。特に沈黙とバーンアウトの相関はρ=.43だった。ただし、含まれた研究の多くは横断研究であり、因果方向の断定には限界がある。[11]
それでも実務上、重要な点は明確である。
「もっと発言させる」より、「なぜ黙る方が安全なのか」を減らす方が先である。
厚生労働省調査が示す「何をしても解決しない」
厚生労働省の令和5年度調査では、全国の20〜64歳の労働者8,000人のうち、過去3年間に勤務先でパワーハラスメントを経験したと回答した割合は19.3%だった。[12]
パワーハラスメント経験者の回答では、次の結果が示されている。[12]
- 仕事に対する意欲が減退した:61.1%
- しばらく会社を休んだ:8.5%
- 会社を退職した:14.9%
- 何もしなかった:36.9%
「何もしなかった」理由で最も多かったのは、「何をしても解決にならないと思ったから」で65.6%だった。
さらに、勤務先がパワーハラスメントを認識していたと回答した人のうち、勤務先の対応が「特に何もしなかった」は53.2%だった。
退職率の数字には注意が必要である。この調査は現在無業の人を対象外としているため、「退職した」にはその後に再就職した人しか含まれない。したがって、被害後に退職して無業となった人は、この数字に入らない。[12]
この調査が示すのは、単にハラスメントが存在することだけではない。
相談しても解決しない。
会社が知っても動かない。
だから黙る、休む、辞める。
という閉じた学習ループである。
日によって態度が変わる上司は、学習不能を生む
部下のパフォーマンスが大きく変わっていないのに、上司の態度が日によって変わる。
- ある日は「できる人」扱い
- ある日は「何も分かっていない」扱い
- 別の標的ができると圧が弱まる
- 上から叱られた日は、下への細かい攻撃が増える
- 防衛していない日は、普通に仕事が進む
この場合、評価のばらつきは部下の能力では説明しにくい。
上司の不安、防衛、機嫌、上位者から受けた圧が、評価へ混ざっている可能性がある。
受け手は、仕事を改善しても反応が安定しないため、改善学習ができない。
何をすればよいか分からない
↓
相手の機嫌を読む
↓
発言と行動を小さくする
↓
管理側は主体性不足と評価する
これは、個人の成長を止めるだけではない。
組織の判断精度を下げる。
「最近の若者は弱い」は、学習を閉じる言葉である
人が泣く、休む、辞める。
その結果を見ても、管理者が次のように解釈すれば、自分の行動は更新されない。
- 最近の若者は弱い
- 打たれ弱い
- 適性がなかった
- 本人の私生活の問題
- 指導は必要だった
正常な学習ループは、次である。
行動
↓
結果
↓
予想との差
↓
原因分析
↓
行動修正
防衛的なループは、次である。
行動
↓
悪い結果
↓
相手の弱さへ帰属
↓
自分は変わらない
勤続年数だけが増え、学習は増えない。
経験年数が、正しさの証拠として使われる。
