問題は「一人の嫌な上司」で終わらない
組織の上位者が、不安や怒りを感じるたびに、部下を呼びつけ、一方的に要求を浴びせる。
その人の中では、次の流れが成立している。
外部ニュースや問題を知る
↓
強い不安を感じる
↓
誰かへ直ちに指示する
↓
相手が動けば安心する
↓
指示の合理性、優先順位、既存業務への影響は検証されない
受け手は「また言われるのが嫌だから」と対応する。
ここで、仕事は顧客価値や安全性のためではなく、上位者の再攻撃を避けるために行われる。
この状態が繰り返されると、組織は正式なルールとは別のルールを学ぶ。
- 重要度より、怒っている人を優先する
- 内容より、立場の強い人へ従う
- 記録より、口頭の勢いを重視する
- 本音より、相づちを選ぶ
- 未完了の改善より、新しく降ってきた話題を追う
- 反対意見より、機嫌を守る
これが文化の源流である。
破壊的監督は階層を流れ落ちる
Mawritzらの3階層研究では、上位管理者の威圧的な監督行動が、中間監督者の威圧的行動と関連し、それがさらに職場集団の対人逸脱行動と関連していた。研究は、上位者の行動が2階層下まで影響しうる「trickle-down model」を支持した。[4]
単純化すると、次のようになる。
上位者が圧をかける
↓
中間管理職が「これが管理だ」と学ぶ
↓
自分の部下にも同じことをする
↓
職場全体で無礼、攻撃、機嫌読みが正常化する
ただし、すべての管理職が下へ流すわけではない。
Taylorらは、上司と自分を同一化しないことや、道徳的アイデンティティが、威圧的監督の連鎖を断つ可能性を示した。[5]
実務の言葉に直すと、次である。
「自分もされたから、部下にもする」ではなく、
「自分は、あの人のようにはならない」と決める。
「外部には丁寧、内部には威圧」が成立する理由
上位者が顧客や外部関係者には丁寧でも、部下には一方的になることがある。
これは、マナーを知らないからとは限らない。
外部の相手は、契約を切る、苦情を言う、評判を下げるなどの対抗手段を持つ。
部下は、評価、配置、情報、仕事配分を上司に依存する。
相手が離れにくく、反撃しにくいほど、抑制が外れやすい。
つまり、礼儀が人格ではなく、相手の反撃可能性に応じた戦略になっている場合がある。
このタイプに「もっと相手の気持ちを考えましょう」と研修で伝えるだけでは足りない。
必要なのは、行動を測り、記録し、権限を見直す仕組みである。
機嫌が業務のゲートになる
メンバーが次の相談を始めたら、文化はすでに業務へ侵入している。
- 今日の上司の機嫌はどうか
- 今言うと、どう返されるか
- 不機嫌ではない日に持っていこう
- 発言力のある人から言ってもらおう
- 自分は目立たないようにしよう
本来、報告の時期は、締切、リスク、依存関係、顧客影響で決める。
ところが、上司の感情がゲートになると、実務担当者は二重の仕事をする。
- 本来の仕事を進める
- 上司の状態を監視し、通し方を設計する
2は成果物に現れない。
それでも、注意力、時間、感情を消費する。
これは、組織が従業員へ無償で要求する「機嫌管理労働」である。
横方向にも文化は広がる
文化は上から下だけでなく、部署間の言葉にも現れる。
たとえば、ある所属長が別部署へ、具体的な不具合、期限、役割を示さず、次のようなメールを送る。
「きちんと品質を整えてください」
送り手は、短く明確な依頼を書いたつもりかもしれない。
受け手には、次のように読める。
- 今まで、きちんとしていなかったと言いたいのか
- 品質は一部署だけの責任なのか
- 何を、どの基準まで、いつまでに直すのか
- 営業条件、設計、工程、顧客要求は誰が整理するのか
曖昧な正論は、責任を明確にしないまま、相手だけを低い位置に置く。
これも、威圧文化の横展開である。
