「もっと自分の意見を言えるようになりましょう」
いや、言っている。めちゃくちゃ言っている。
問題があると思えば、「ここは違うと思います」「別の案もあります」と伝える。角が立たないように言い方も勉強した。相手の考えを一度受け止め、理由と代案を添えて話してみた。
返ってきたのは、こんな言葉だった。
「俺の考えが正しい」 「お前は甘い」 「だから言う通りにやれ」
議論、開始3秒で強制終了である。
さらに周囲から「NOを言う練習が必要ですね」と助言される。
すでに押しているボタンを、もっと強く押せと言われても。
言えない人と、言っても通らない人は違う
まず分けたい。
- 言いたいことがあっても口に出せない。
- 意見は伝えたが、相手が採用しなかった。
- 意見を検討する前に、地位や威圧で黙らされた。
同じ「結局、上司の指示に従った」という結果でも、中身は別だ。
もちろん上司には業務の最終判断をする役割がある。部下の提案が採用されないこと自体は、直ちに問題ではない。
でも「検討したうえで理由を示して却下」と「俺が正しいから黙れ」も、やはり別物である。
上司の『聞く姿勢』も結果を左右する
従業員の意見表明に関する研究では、上司が意見を受け入れる姿勢は、部下が改善提案をすることと関連していた[1]。別の研究も、上司が部下の意見をどう評価するかには、意見の届け先や専門性などが影響すると報告している[2]。
つまり、伝える技術だけを鍛えても、相手側の受け取り方を完全には制御できない。
丁寧な言葉に直し、説明資料まで整えたのに「甘い」で終わる。
プレゼンのデザインは毎回刷新されるのに、審査員だけずっと「気に入らない」ボタンを押し続ける。
これは話し方の試験なのか。審査員の気分当てゲームなのか。
改善できるところと、相手の責任を分ける
できることはある。意見を具体的にする。影響を説明する。代案を示す。必要なら記録を残し、ほかの相談経路を使う。
ただし、改善を試したのに変わらないことまで、一人で背負わなくていい。
相手が自分の部下であろうと、同僚であろうと、恋人であろうと、意見を伝えることと、それを聞いてもらえることは別の出来事だ。
対話する余地がないなら、業務上の異動や環境変更を検討するのも選択肢になる。事情によって安全性・生活への影響・契約上の条件は違うから、結論は一律ではない。
ここで大事なのは、「逃げる勇気」だけではない。
伝えた事実、試した改善、相手の反応を区別して判断すること。
アサーティブに話す方法は便利だ。でも相手の耳まで自動アップデートする機能は、残念ながら付いていない。
参考資料(1件)
[1]Detert & Burris (2007), Leadership Behavior and Employee Voice: Is the Door Really Open? https://doi.org/10.5465/AMJ.2007.26279183 [2]Yang, Li & Sekiguchi (2021), How supervisors respond to employee voice. https://doi.org/10.1057/s41291-019-00075-1
