遊びに行こうとした。
ところが、行きたいところの予約がうまく取れない。
そこで軽く、
「じゃあ有給取りましょ」
と提案した。
提案した側の感覚としては、解決案を一個そこに置いただけである。
ところが相手は、本当に有給を取ってきた。
え、そこ実行されるんだ。
軽口のつもりで投げた文字列が、そのまま本番環境で execute された。
1. 予約できない――普通ならここで「また別日にしよ」で終わる
予定調整でよくあるのは、場所は決まったのに日時が噛み合わないパターンだ。
予約枠がない。仕事もある。別日も微妙。
このへんで普通は「また空いてる日にしよう」と保留になる。
ところが今回は、予約できないという障害に対して出てきた解決策が、
「勤務日を休みに変える」
だった。
障害対応のスケールが急に会社員の権限まで届いている。
「予約枠を変える」ではなく「自分の勤務カレンダーを変える」。
しかも提案は重々しい相談ではない。
ほぼ軽口だった。
2. 「有給取りましょ」――選択肢のつもりがコマンドだった
面白いのは、強く説得したわけでも、何度も頼んだわけでもないことだ。
こちらは「それなら有給という手もあるね」くらいの温度感。
しかし返ってきた結果は、
有給取得済み。
会話のUIでは選択肢に見えていたのに、内部ではコマンドとして受理されていた。
「有給取りましょ🙂」
↓
200 OK
この速度感が面白い。
たぶんゼロから意思を作ったというより、相手側にも「行きたい」「その日なら都合がいい」が先にあって、最後に残っていた障害が仕事だったのだろう。
そこへ具体的な抜け道が一個置かれた。
すると予定が動いた。
3. ただし、片側だけが予定を曲げた話でもない
ここで「相手が有給まで取って合わせてくれた」という一方向の話にすると、実態と少し違う。
こちらにも、その日は美容院の予約が入っていた。
そして、その予約を別日に動かした。
理由は「鰻をごちそうしてもらえるから美容院を捨てた」ではない。
そこは重要である。
他に空いている候補日は、相手の仕事が忙しそうだった。
ならば、こちら側で比較的動かしやすい美容院をずらした方が全体として成立しやすい。
つまり実態は、
- 相手:仕事という大きめの制約を有給で外す
- こちら:美容院という動かせる予定を別日に移す
という相互調整だった。
片方が全部合わせたのではない。
二人とも、自分の側にある制約を一つずつ外している。
4. そして鰻――原因ではない。だが存在感が強すぎる
さらに情報として、
「鰻をごちそうしてくれるらしい」
が入ってくる。
これだけ見ると、急に話が全部「鰻で予定を変更した人」になる。
違う。
主因は日程調整だ。
別日だと相手の仕事が忙しいから、美容院を動かした。
鰻は因果関係の本体ではない。
ただし、ログには残る。
しかもめちゃくちゃ目立つ。
システム設計でいえば optional dependency なのに、READMEのスクリーンショットでは中央に写り込んでいる。
原因ではないが、記事タイトルには入り込む。
それが鰻である。
5. 実際に起きたこと――「会いたい」を増やすより、障害を減らした
この予定が成立した構造を整理すると、案外シンプルだ。
最初から「遊びたい」という方向は共有されていた。
問題は気持ちの弱さではなく、予約・仕事・既存予定という実務上の摩擦だった。
そこで、
予約できない → 有給という選択肢を出す → 相手が仕事の制約を外す → こちらも美容院を動かす
と、障害を順番に消していった。
「もっと行きたいと思わせる」必要はなかった。
すでに行きたかったからだ。
必要だったのはモチベーション追加ではなく、スケジュール上の詰まりを取ることだった。
予定調整というより、分散システムのデッドロック解除に近い。
6. 行動科学っぽく見る――具体策が「意図→行動」の隙間を埋めることはある
これはそのまま心理学実験だった、という話ではない。
ただ、似た構造として参考になる研究はある。
人は「やりたい」と思っていても、その意図だけでは実行まで進まないことがある。そこで「もしこの状況になったら、この行動をする」と具体化する計画は、目標達成を助けることが知られている。心理学ではこうした計画を**実行意図(implementation intention)**と呼ぶ。
2006年のメタ分析では、94の独立した検証をまとめ、こうした具体的な if-then 型の計画が目標達成を後押しする中〜大程度の効果を報告している。
もちろん今回の「有給取りましょ」は、研究で使う正式な if-then 計画を二人で作ったわけではない。
ただ、
「行きたいけど予約できない」
という曖昧な詰まりに、
「その日を休みに変える」
という具体的な行動候補が突然刺さった、という点はよく似ている。
本人の中で九割できていた意思決定に、最後の実装方法だけ渡された感じだ。
7. 結論――軽い提案から、二人分のカレンダーが再構成された
最初はただの、
「予約できん」
だった。
そこに、
「有給取りましょ」
を軽く置いた。
すると本当に有給が取られた。
こちらも美容院をずらした。
そして横から鰻が入ってきた。
結果だけ見ると大事件みたいだが、構造はむしろ合理的だ。
二人とも行きたい。別日は片方が忙しい。なら、動かせる予定を双方で少しずつ動かす。
それだけである。
ただ、その「それだけ」が、
軽口 → 有給申請 → 美容院リスケ → 鰻
という妙に強いイベント列になった。
予定調整、無事に本番デプロイ完了。
なお鰻はデプロイ要件ではない。
でも本番ログにはいる。
