高級フレンチは遊園地だった――RESTAURANT KEI「SORA」でフォークを間違え、東三河を食べ、同業者に間違われた1万円ランチ

高級フレンチに一人で行った。

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高級フレンチに一人で行った。

目的は難しくない。ただただ味わいたかった。

ところが始まったのは、料理だけではなかった。

知らない野菜が出る。料理ごとに説明が来る。フォークとナイフが増える。使う道具を間違えると、ピカピカの別フォークが補充される。さっき回収されたフォークが次の皿で帰ってくる。水は減るたびに補給される。スタッフは何度も近くを通る。そして最後には、写真とメモを取りながら一人でじっくり食べていたせいで、飲食・ホテル関係の同業者だと思われていたことまで判明した。

飯を食いに来ただけなのに、イベントが多い。

結論から言うと、これはレストランというより、東三河の食材をテーマにした二時間前後の遊園地だった。

1. SORAでは何を食べたのか?

訪問時の印刷メニュー「Le menu SORA」には、次の流れが書かれていた。

  • 設楽町・絹姫サーモンのテリーヌ、豊橋うずら卵のラヴィゴットソース
  • 渥美半島のとうもろこしの冷たいヴルーテ、ホタテ貝とコンソメゼリー
  • 甘鯛の鱗焼き、地野菜と渥美半島あおさのり香るリゾット、ビスクソース
  • 奥三河・段戸高原たけうち牧場の段戸牛ロース肉のロティ、ジュ・ド・ブッフ
  • 石巻のブルーベリーソルベ、ヨーグルトのマーブルムース、ペリーラ
  • コーヒー・紅茶またはハーブティーと小菓子

公式サイトの通常SORAは8,100円、税・サービス料込み。 公式Webでは通常の肉料理を段戸牛モモ肉とし、ロース肉は+1,500円と案内している。一方、訪問時の手元メニューには最初からロース肉と印刷されていた。公式自身も仕入れ状況で内容が変わると案内しているため、本稿では当日食べた内容は印刷メニュー、通常価格比較は公式Webと分ける。

この時点で「地元食材」という言葉がかなり具体的になる。

設楽、豊橋、渥美半島、奥三河、石巻。

フランス料理を食べているのに、地図帳が皿になって出てくる。

2. 「東三河を食べる」が比喩ではなくなる

途中では野菜そのものをまとめて見せる食材紹介まであった。

そこで、そうめんかぼちゃや白ナスのような「存在すら知らなかった」食材に遭遇する。

完成した料理だけを見せられると、野菜はソースや付け合わせの一部になる。だが、先に実物を見せられると、次の皿で「あ、さっきのやつだ」が発生する。

料理の前に出演者紹介が入るわけだ。

RESTAURANT KEIは公式に、豊橋・東三河の山海の幸と各地の良質な食材を組み合わせる店として説明している。 だから地産地消は飾り文句ではなく、メニューの地名、生産者名、食材プレゼン、皿の中身まで一つにつながっている。

途中では「わさびなのに思ったほど辛くない」という発見もあった。本わさびは、強烈な刺激だけでなく爽やかな香りとやさしい辛味が特徴とされる。一方、市販品には力強い辛味の西洋わさびを組み合わせる製品もある。

つまり「わさび=必ず鼻が爆発する緑色の何か」という認識も、ここで一回壊れる。

食材図鑑の未開放マスが、飯を食うたびに埋まっていく。

3. カトラリー選択ゲーム、まさかの第2問がある

一番笑ったのはカトラリーだった。

最初は、使わなかったスプーンやフォークが皿と一緒に回収されるたびに、頭の中で、

「不正解!」

と鳴っていた。

ところが途中、次に使う予定だったらしいフォークを先に使ってしまった。

すると別のピカピカのフォークが補充される。

そして次の料理で、さっき回収された種類のフォークが帰ってきた。

第1問でフライング起用して没収された選手が、第2問で正式スタメン復帰。

完全にクイズである。

さらにスタッフから「フォークとナイフで」と案内された場面でも、本人は「スプーンの方が使いやすい」とスプーンを選ぶ。

作法の思想は分かる。

でもこちらの最終仕様は、

食えればいい。

だった。

これはマナーを壊す武勇伝ではない。高級店に慣れていない側から見ると、料理ごとに道具が最適化されていること自体が新鮮で、その運用がゲームに見えたという話だ。

4. 説明は豪華。でも脳の仕事は「食べる」だった

料理が来るたびに、食材、産地、調理、ソースの説明が入る。

こちらも「うんうん」と聞く。

しかし情報量が多い。

途中から脳内は、

スタッフ:産地と調理法を説明する人

シェフ:料理を作る人

客:食べる人

という役割分担になった。

全部覚えようとすると、目の前の料理を味わう処理能力が足りなくなる。

だから写真を撮る。メニューを見る。気になったものを後で調べる。

ファインダイニングは「説明を全部暗記できた人が勝ち」ではない。

うまいと思ったものを、うまいと思って食べればまず勝ちである。

5. なぜ「ほぼ専属スタッフ」に感じるほど人が来るのか?

一人で座っていると、サービス密度がよく見える。

水が減れば補給される。皿が終われば下がる。次の皿に合わせて道具が整う。料理が来れば説明がある。途中で会話もある。

体感ではスタッフが何度も近くを往復し、**一人の客に一人付いているのでは?**と思うほどだった。

実際には他テーブルや配膳の仕事もあるので、本当に専属だったわけではない。ただ、高級レストランは料理そのものだけでなく、人が動くサービスの比重が大きい。高級レストランの研究でも、料理の品質だけでなく、人によるサービスや体験品質が顧客体験を構成する要素として扱われている。 また、ラグジュアリーレストランでは、注意深く、親しみやすく、開かれたコミュニケーションが顧客志向のサービス評価と結びつくことが報告されている。

皿の上の花だけが高級なのではない。

水を見ている人、皿を見ている人、次のフォークを持ってくる人の時間も価格に入っている。

6. 写真とメモを取りすぎたら、まさかの「同業者」判定を受けた

終盤、スタッフから仕事や業界について雑談で聞かれた。

そこで「客のことって気になりますよね」と返してみたら、思わぬ答え合わせが来た。

最初、同業者だと思われていたらしい。

理由を聞くと筋が通っている。

  • 一人で来ている
  • 料理ごとに写真を撮る
  • メニューや皿をじっくり見る
  • スマホに何かメモしている
  • 食材や説明をかなり観察している

そのため、最初の方にあった「こういうもの、お詳しいですか?」という質問も、後から考えると知識量を探る一手に見えてくる。

しかもスタッフ側は、同業者かもしれないと思って少し緊張していたという。

こっちの正体は何か。

せっかくだから、ただただ味わいたくて写真を撮りまくっていた人。

視察ではない。

覆面調査でもない。

評論家でもない。

食べる人です。

この認識差が、その日の一番強いオチだった。

7. だから高級フレンチは「遊園地」に近い

食事だけなら、肉を焼いて食べれば終わる。

でもコースでは、次に何が来るか分からない。

料理が来る。説明がある。知らない食材が出る。道具が変わる。ソースを試す。水が補給される。スタッフと少し話す。次の皿が来る。

アトラクションを一個ずつ回っている構造にかなり近い。

高級レストランについての研究でも、客の再訪意向などを考えるとき、料理だけでなく「体験品質」そのものが重要な要素として扱われる。 別の研究でも、高級レストランへの動機には料理だけでなく、そこで得る楽しさや体験が含まれるとされる。

この日をゲーム化すると、

  • 地元野菜発見イベント
  • そうめんかぼちゃ初遭遇
  • 辛くないわさびイベント
  • カトラリー第1問
  • カトラリー第2問
  • 給水チャレンジ
  • 同業者疑惑ルート
  • 段戸牛ラスボス

である。

飯の値段だと思うと高い。二時間遊ぶチケットだと思うと見え方が変わる。

8. 最後に段戸牛が「うまい」で全部持っていく

そしてメインの肉。

訪問時メニューでは、段戸高原たけうち牧場の段戸牛ロース肉のロティ。

ここまで食材の説明、皿、道具、サービスを面白がってきたが、最後は非常に単純だった。

肉、まじでうまい。

これでいい。

コース料理は一皿ずつ見ると小さく見えるが、前菜、スープ系、魚、パン、肉、デザートと積み上がるので、メイン付近では普通にお腹いっぱいになってくる。

そこへさらにチーズを2,000円で追加。

三河系の紅茶も800円で追加していたため、SORA 8,100円に単純加算すれば10,900円。

実際の最終会計に他の変更があれば別だが、少なくとも「1万円ランチ」という感覚はほぼその通りになった。

9. 8,100円のSORAは、夜と比べてどのくらい得なのか?

同日の公式表示では、ランチSORAは8,100円、ディナーKESHIKIは12,100円、上位MIKAWAは18,150円。

SORAとKESHIKIは完全に同じコースではない。しかし現在の公式メニューでは、絹姫サーモン、とうもろこしの冷たい料理、ホタテ、甘鯛など前半にかなり共通点がある。夜は口直しなどが加わり、肉の標準構成も異なる。

したがって、正確な表現は「夜1万5千円の料理が8,100円に値引きされた」ではない。

同じ店、同じ空間、同じ厨房とサービス体系へ、昼はかなり低い価格で入れる。

さらに今回のように当日メニューで段戸牛ロースまで入っていれば、体験上の満足感はかなり強い。

高級店ランチの価値は、割引率だけではない。

料理人、サービス、皿、空間、地元食材という固定費の大きいシステムへの入場料が昼は下がることにある。

10. 高級フレンチは怖いのか? 終わってみれば「知らないことが多いだけ」だった

最初はカトラリーが多い。

説明も多い。

料理名も長い。

スタッフもよく来る。

だから「ルールを間違えたら恥ずかしい場所」に見える。

でも実際に起きたことは、フォークを先に使えば別のフォークが来て、スプーンを使いたければ使い、水を飲めば足され、写真を撮りすぎたら同業者に間違われた、くらいだった。

誰も「不正解!」とは言わない。

むしろ初心者側が勝手にゲーム化していただけである。

そして終わったときに残ったのは、

「東三河にこんな食材あったんだ」

「段戸牛うまい」

「高級フレンチ、遊園地やん」

だった。

高級料理を神聖視する必要はない。

作る人がいて、説明する人がいて、食べる人がいる。

食べる人は、食べればいい。

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