職場で「優先順位をつけよう」という言葉はよく聞く。
有名な考え方として、『7つの習慣』で知られる時間管理マトリクスがある。タスクを「緊急かどうか」「重要かどうか」で4つに分ける考え方だ。
| 領域 | 内容 |
|---|---|
| 第1領域 | 緊急かつ重要 |
| 第2領域 | 緊急ではないが重要 |
| 第3領域 | 緊急だが重要ではない |
| 第4領域 | 緊急でも重要でもない |
この表自体は分かりやすい。
しかし、問題はここからだ。
表を貼っていることと、実際に優先順位を判断できることは別である。
職場によっては、優先順位表を机に貼っているのに、現実の行動はまったく逆になっていることがある。
急ぎで重要な案件がある。けれど、どうでもいい営業電話を受ける。目的のない打ち合わせをする。昔話をする。軽微な確認で回覧を止める。その結果、本当に急ぎの仕事が遅れる。
これは、優先順位が機能していない。
むしろ、第4領域で第1領域を潰している状態である。
第1領域を第4領域が食っている
たとえば、急ぎの入社手続きがある。
期限がある。人に影響する。社内外の調整がある。回覧が遅れると、後続処理にも影響する。
これは明らかに第1領域である。
一方で、書式を読めば分かるような軽微な確認を、わざわざ差し戻して回覧を止める。しかも、その後に確認者が未契約サービスの営業打ち合わせに入り、回覧が1時間以上遅れる。
こうなると、構造はかなりはっきりしている。
第1領域:急ぎ入社の回覧
第3領域:急ぎっぽく見えるだけの軽微確認
第4領域:目的の薄い営業打ち合わせ、昔話、指導した感だけの指摘
本来は、第1領域を先に流すべきである。
ところが、実際には第3・第4領域が第1領域を止めている。
これでは、時間管理マトリクスを貼っていても意味がない。
優先順位表コスプレになっていないか
優先順位表を貼っている。タスクを分類している。重要度や緊急度を書いている。
それ自体は悪くない。
ただし、現実の行動が変わっていないなら、それは優先順位表コスプレである。
本当に優先順位が機能しているなら、行動が変わる。
- 急ぎ案件を先に流す
- 軽微確認では止めない
- 今やらなくていい営業対応は後回しにする
- 目的のない打ち合わせを減らす
- 昔話や雑談で会議を伸ばさない
- 同じ指摘が出るなら、個人指導ではなく書式を直す
- 「今回は流して、次回から明記」で済むものは止めない
これが実務上の優先順位である。
表を貼ることではない。実際に、何を今やらないかを決めることである。
情報収集の名を借りた第4領域
特に厄介なのが、目的のない情報収集である。
もちろん、情報収集自体は重要だ。新しいサービスを知る。他社事例を見る。業務改善の可能性を探る。将来的な選択肢を持つ。これは第2領域になり得る。
しかし、次のような状態なら注意が必要だ。
- 何を解決したいのか不明
- 導入する予算が不明
- 判断者が不明
- 比較対象が不明
- 成果が出る条件が不明
- 打ち合わせ後に何を決めるのか不明
- ただ営業の話を聞いているだけ
この状態で1時間使うなら、それは情報収集というより営業打ち合わせ浴びである。
もっと雑に言えば、情報収集コスプレである。
「御社の考えが分からない」
「これを入れて成果が出るか分からない」
「とりあえず話を聞いている」
このような状態なら、本来は打ち合わせ前に止めるべきである。
聞く前に、目的・仮説・判断基準・出口を決める必要がある。
情報収集には出口が必要
情報収集を第2領域にするには、出口が必要である。
営業打ち合わせを受ける前に、最低限これを決める。
| 項目 | 事前に決めること |
|---|---|
| 目的 | 何を解決したいのか |
| 仮説 | そのサービスで何が改善しそうか |
| 判断基準 | 何なら導入、何なら見送りか |
| 予算 | 導入可能な金額感はあるか |
| 判断者 | 誰が決めるのか |
| 期限 | いつまでに判断するのか |
| 出口 | 打ち合わせ後に何を決めるのか |
これがない打ち合わせは、かなり危ない。
情報収集しているように見えて、実際には判断を先送りしているだけのことがある。
つまり、情報を集めているのではなく、判断しないために話を聞き続けている状態である。
解決策:打ち合わせ前に、まずテキストで送ってもらう
目的のない打ち合わせを減らす一番シンプルな方法は、打ち合わせ前にテキストで情報をもらうことである。
いきなり1時間の打ち合わせを入れるのではなく、事前にこう確認する。
今回の打ち合わせで、こちらが何を解決したいのかを整理したいです。まずは、サービス概要・解決できる課題・導入効果・費用感・必要な社内準備・想定される成果を、メールでお送りください。その内容を確認したうえで、打ち合わせの必要性と確認事項を整理します。
これだけで、かなりの無駄打ち合わせは減る。
本当に必要な打ち合わせなら、事前資料を見た時点で「何を聞くべきか」が明確になる。
逆に、事前資料を見ても、自社の何を解決するのか分からない、費用対効果が見えない、導入する判断基準が作れない、今困っている課題と関係ないのであれば、その打ち合わせは今やる必要が薄い。
つまり、打ち合わせの前に、まず打ち合わせする価値があるかを判定するべきである。
送るものもないなら、打ち合わせをやるな
打ち合わせ前に送る資料がない。サービス概要も出せない。価格感も出せない。導入効果も説明できない。懸念事項に対する回答も用意できない。こちらが何を知りたいのかも整理されていない。
この状態なら、打ち合わせを開く意味はかなり薄い。
打ち合わせは、雑談の場ではない。相手の説明を浴びる時間でもない。社内の不安をその場でぶつけて、結局「持ち帰ります」で終わる場でもない。
打ち合わせをするなら、事前に最低限の材料を出すべきである。
こちら側も、懸念事項や知りたいことを最初からメールで伝えればいい。そうすれば、相手は回答や資料を用意できる。
たとえば、事前にこう送る。
現時点での懸念は、費用対効果、導入工数、既存業務との重複、導入後の成果測定です。打ち合わせ当日は、上記について具体的な事例・費用感・導入ステップを確認したいです。可能であれば、事前に資料をご共有ください。
これを送っておけば、相手も準備できる。
逆に、こちらが何も整理せず、相手にも何も用意させず、当日その場で詰める。そして最後に「よく分からない」「成果が出るか分からない」「持ち帰ります」で解散する。
これは、お互いの時間の無駄である。
何を知りたいかがない打ち合わせは危ない
打ち合わせは、時間を使う行為である。
30分でも、1時間でも、参加者の時間をまとめて消費する。だから本来、打ち合わせには「知りたいこと」が必要である。
営業打ち合わせなら、事前にこれを決める。
- 何を解決したいのか
- 何に困っているのか
- 何を知りたいのか
- どの条件なら導入候補になるのか
- どの条件なら見送りなのか
- 今この時間を取る価値は何か
- 打ち合わせ後に何を決めるのか
これがないなら、打ち合わせは会話ではなく時間消費になる。
「何か分かるかもしれない」
「とりあえず聞いてみる」
「偉い人が言ったから聞く」
この状態で毎日1時間使うと、当然時間は足りなくなる。
営業打ち合わせの事前メールテンプレート
目的のない営業打ち合わせを防ぐには、次のようなテンプレートを使えばよい。
ご連絡ありがとうございます。
打ち合わせ前に、社内で確認したい事項を整理したいため、以下の内容をメールでお送りいただけますでしょうか。
- サービス概要
- 解決できる具体的な課題
- 導入により期待できる成果
- 導入費用・月額費用の目安
- 導入までに必要な社内作業
- 他社事例・導入実績
- 当社のような規模・業種での効果見込み
- 打ち合わせ当日に確認すべき論点
また、現時点での当社側の懸念は、費用対効果、導入工数、既存業務との重複、導入後の成果測定です。上記について、可能な範囲で事前に資料をご共有いただけますと幸いです。
内容を確認したうえで、打ち合わせの必要性および確認事項を整理いたします。
このメールで答えられない営業は、そもそも情報整理が弱い可能性がある。
また、こちら側も「何を聞きたいのか」を事前に考えるきっかけになる。
打ち合わせとは、何かを埋める時間である。その「何か」が分からないまま打ち合わせを入れると、第4領域になりやすい。
時間がないの正体は、時間不足ではなく選別不足かもしれない
こういう職場では、よく「時間がない」という言葉が出る。
たしかに、忙しいのかもしれない。タスクも多いのかもしれない。
しかし、フラットに見ると、時間がないのではなく、時間を選別していないだけのことがある。
全部やろうとする。全部聞こうとする。全部確認しようとする。全部会議にする。全部指導にする。
その結果、時間がなくなる。
これは、能力不足というより、判断不足である。
本当の管理とは、全部を拾うことではない。
何をやるかを決める前に、何をやらないかを決めることである。
第3・第4領域が第1領域に化ける瞬間
第3・第4領域の厄介なところは、見た目だけ第1領域っぽくなることである。
営業電話が鳴る。相手が急いでいるように話す。偉い人が「ちょっと聞いておいて」と言う。確認者が「これは指導として大事」と言う。会議で昔の事例が語られる。
すると、それらが急ぎで重要なものに見えてしまう。
しかし、実際には違う。
- 相手が急いでいるだけで、自社にとって重要とは限らない
- 偉い人が言っただけで、今やるべきとは限らない
- 確認者が気になっただけで、回覧を止めるべきとは限らない
- 昔話が長いだけで、現在の判断に必要とは限らない
ここを見抜けないと、第3・第4領域が第1領域の顔をして職場を食い始める。
優先順位の本質は捨てること
優先順位というと、タスクに順番をつけることだと思われがちである。
しかし、実際にはそれだけでは足りない。
本当の優先順位は、捨てることである。
- 今やらない
- 今日は聞かない
- この会議は短くする
- この確認では止めない
- この営業は断る
- この指摘は次回改善にする
- この話は議題から外す
これができて、初めて優先順位は機能する。
第1領域を守るには、第3・第4領域を削る必要がある。
第2領域を育てるには、第3・第4領域に時間を吸われないようにする必要がある。
つまり、優先順位とは、単に「何を先にやるか」ではなく、何に時間を渡さないかである。
第4領域で第1領域を潰す猿
少し強めにラベルをつけるなら、こうだ。
第4領域で第1領域を潰す猿。
意味は、緊急でも重要でもない話や、目的の薄い打ち合わせや、指導した感だけの確認で、本当に急ぎで重要な仕事を止める人のことである。
特徴はこうだ。
- 優先順位表は貼っている
- でも実際には捨てる判断ができない
- 営業電話や打ち合わせを浴び続ける
- 「情報収集」と言いながら出口がない
- 軽微確認で急ぎ案件を止める
- 昔話や雑談で会議を伸ばす
- その結果「時間がない」と言う
- でも時間を奪っている原因が自分だと気づいていない
もちろん、職場で本人にこの言葉を言う必要はない。
ただ、内心のラベルとしてはかなり使える。
「自分が遅いのか?」ではなく、「これは第4領域が第1領域を食っている構造だな」と整理できるからだ。
管理職・リーダーが見るべきチェックリスト
自分が優先順位を壊していないかを見るには、次の質問が使える。
- この打ち合わせの出口は何か
- これは今やる必要があるか
- 打ち合わせ前に資料・懸念事項・質問事項は出ているか
- この確認で回覧を止める価値があるか
- その指摘はチーム全体のルールになるか
- 第1領域を邪魔していないか
- 情報収集に判断基準はあるか
- 「時間がない」の原因は自分ではないか
このチェックがないと、優先順位表はただの飾りになる。
現場側の対処法
現場側ができることは限られている。
相手の時間管理や優先順位を根本から変えるのは難しい。
だから、まずは自分が巻き込まれないことが重要である。
1. 急ぎ案件であることを明記する
急ぎ入社案件のため、回覧を優先して進めてください。
2. 軽微確認は次回改善に回す
今回はこのまま進行し、次回以降は明記します。
3. 打ち合わせ前に資料を求める
打ち合わせ前に、サービス概要・費用感・解決できる課題・導入効果・確認事項をメールでお送りください。
4. 懸念事項を先にメールで伝える
現時点での懸念は、費用対効果、導入工数、既存業務との重複、導入後の成果測定です。事前に資料をご用意ください。
5. 記録を残す
いつ提出したか。誰で止まったか。何分・何時間止まったか。
これは自分を守るログになる。
6. 長く説明しない
長文で説明すると、さらに会議化する可能性がある。最小文字数で返す。
7. 内心でラベル化する
第4領域が第1領域を食っている。こちらは第1領域だけ通す。動物園の営業電話浴びには付き合わない。
このくらいの距離感でよい。
まとめ:表を貼るより、第4領域を削れ
7つの習慣の時間管理マトリクスは、分かりやすい。
だが、表を貼るだけでは意味がない。
本当に大事なのは、日々の判断である。
急ぎで重要な案件を先に流す。目的のない営業打ち合わせを減らす。出口のない情報収集をやめる。打ち合わせ前に資料と懸念事項をメールで出す。軽微確認で回覧を止めない。昔話や雑談で会議を伸ばさない。次回改善で済むものを、今のボトルネックにしない。
これができて、初めて優先順位は機能する。
優先順位とは、きれいな表を貼ることではない。
第1領域を守るために、第3・第4領域へ時間を渡さないことである。
時間がないのではない。選別していないのかもしれない。
忙しいのではない。第4領域に時間を食わせているだけかもしれない。
本当に必要なのは、全部やることではない。
今やらないものを決めること。止めなくていいものを流すこと。聞かなくていい営業を断ること。資料も懸念事項も出せない打ち合わせを開かないこと。第4領域で第1領域を潰さないこと。
それが、本当の優先順位である。
