導入
焼肉食べ放題は、だいたい3500円前後の価格帯が多い。
客側からすると、こう思う。
「3500円も払うなら、肉をたくさん食べないと損では?」
一方で店側からすると、こう考える。
「一部の大食い客には負けてもいい。全体の平均食材原価が目標内に収まれば成立する。」
この違いを理解すると、焼肉食べ放題の仕組みがかなり見えてくる。
焼肉食べ放題は、単なる大食いゲームではない。
客ごとの食べる量のばらつきを使った期待値ビジネスである。
3500円前後の価格帯は絶妙
食べ放題の主力価格帯は、3000円台後半に置かれることが多い。
この価格帯には意味がある。
客側から見た3500円
3500円前後なら、客はこう考えやすい。
- 肉が食べられるならあり
- 寿司やデザートもあるなら満足できそう
- 今日はちょっと贅沢していい
- 家で焼肉するより楽
- 料理や片付けをしなくていい
- 子どもや家族と行ける
- 3000円台ならまだ現実的
つまり、客にとって3500円は「高いけど払えなくはない」ラインである。
店側から見た3500円
店側から見ると、3500円前後は原価設計しやすい。
仮に税込3700円の食べ放題とする。
目標食材原価率を35〜40%とすると、食材原価の目安はこうなる。
3700円 × 35% = 1295円
3700円 × 40% = 1480円
つまり、平均客1人あたりの食材原価を1300〜1500円程度に抑えられれば、食材原価としては戦える。
ここで重要なのは、全員を1300円以内に抑える必要はないということ。
平均で収まればよい。
客層別の仮モデル
たとえば、焼肉食べ放題に100人来たとする。
客層をざっくり分ける。
| 客層 | 割合 | 人数 | 1人あたり食材原価 | 合計食材原価 |
|---|---|---|---|---|
| 小食客 | 20% | 20人 | 700円 | 14000円 |
| 普通客 | 50% | 50人 | 1200円 | 60000円 |
| よく食べる客 | 25% | 25人 | 2000円 | 50000円 |
| 相撲級・大食い勢 | 5% | 5人 | 3500円 | 17500円 |
合計食材原価は、
14000円 + 60000円 + 50000円 + 17500円
= 141500円
100人なので、平均食材原価は、
141500円 ÷ 100人 = 1415円
価格3700円に対して、
1415円 ÷ 3700円 = 約38.2%
つまり、相撲級が5人いても、全体ではまだ成立する可能性がある。
ここが食べ放題の本質である。
店は相撲さん1人に勝つ必要はない。
全体平均で勝てばよい。
小食客はかなり重要
食べ放題の店にとって、小食客はかなり重要である。
たとえば、1人3700円の食べ放題で、小食客の食材原価が700円だとする。
売上 3700円
食材原価 700円
粗い差額 3000円
もちろん、ここから人件費、家賃、光熱費、広告費、減価償却などが引かれる。
それでも、小食客は店にとって利益を作りやすい。
特に食べ放題では、
- デザートを楽しむ人
- 子ども
- 高齢者
- 友人に付き合って来た人
- 肉よりサイドを楽しむ人
- 思ったより食べられない人
がいる。
この人たちが、大食い客の赤字を吸収する。
店側から見ると、客層の構成が重要である。
大食い客は単体では赤字になり得る
一方で、大食い客は単体では赤字になり得る。
たとえば、相撲級の客が食材原価3500円分を食べたとする。
価格は3700円。
売上 3700円
食材原価 3500円
差額 200円
ここから人件費、家賃、光熱費を引けば赤字である。
つまり、大食い客に対して店は負ける。
しかし、それで食べ放題が成立しないわけではない。
大食い客が全体の一部なら、小食客・普通客で吸収できる。
問題は、大食い客が大量に来た場合である。
たとえば、相撲部屋の団体が来たら、店側の想定はかなり崩れる。
全員が相撲級なら、平均原価が跳ね上がる。
食べ放題は「大食い客が一部いる」前提では成立する。
しかし、「全員が大食い」だと破綻しやすい。
店側の原価率調整
焼肉食べ放題では、肉の原価が高い。
だから店側は、肉以外のメニューも重要視する。
高原価になりやすいもの
- 牛タン
- 上カルビ
- ハラミ
- ロース
- 国産牛
- 海鮮
- 厚切り肉
原価を調整しやすいもの
- ご飯
- 麺
- スープ
- サラダ
- キムチ
- ポテト
- デザート
- ドリンクバー
店は、客に「満足した」と思ってもらいながら、肉だけに偏りすぎないようにする。
だからメニューには、肉以外にも魅力が必要である。
「肉だけ大量に食べられる店」ではなく、
「肉もサイドもデザートもあって満足できる店」にする。
これにより、客の満足度を上げながら、平均原価率を管理する。
時間制限とラストオーダーの意味
食べ放題には、時間制限がある。
80分、90分、100分。
ラストオーダーは20分前など。
これも店側の設計である。
時間制限がないと、大食い客や長居客のリスクが上がる。
また、客席回転も悪くなる。
時間制限には、主に3つの意味がある。
- 食材原価の上限を作る
- 客席回転を確保する
- 店舗オペレーションを安定させる
客側からすると、時間制限は「急かされている」感じがある。
しかし店側からすると、時間制限がないと期待値計算が難しくなる。
食べ放題は、胃袋の限界だけでなく、時間の限界でも制御されている。
カービィを入れるとモデルが壊れる
ここで、仮にカービィを1人入れてみる。
カービィの食材原価を仮に50万円とする。
| 客層 | 人数 | 合計食材原価 |
|---|---|---|
| 小食客 | 20人 | 14000円 |
| 普通客 | 50人 | 60000円 |
| よく食べる客 | 25人 | 50000円 |
| 相撲級 | 4人 | 14000円 |
| カービィ | 1人 | 500000円 |
この場合、カービィ1人だけで他100人近い原価設計を破壊する。
カービィは外れ値ではない。
分布の外側にいる。
食べ放題は、人間の胃袋のばらつきを前提に成立している。
カービィのような異次元収納が来ると、前提が壊れる。
つまり、
食べ放題は、カービィやルフィが存在しないから成立している。
これはギャグだが、本質でもある。
まとめ
焼肉食べ放題の原価計算は、客1人ひとりを見ているのではない。
店側が見ているのは、客層全体の平均である。
- 小食客で勝つ
- 普通客で想定内
- 大食い客で負ける
- 全体平均で勝つ
これが食べ放題の仕組みである。
3500円前後という価格帯は、客にとって「高いけど行ける」ラインであり、店にとっては平均食材原価を1300〜1500円程度に収めやすいラインでもある。
食べ放題は、店が全員に勝つ商売ではない。
店が平均で勝つ商売である。
そして、人間はカービィではない。
だから成立する。
