再雇用制度はなぜ「賃金リセット装置」になりやすいのか

再雇用制度には、かなり大きな違和感がある。

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再雇用制度の違和感

再雇用制度には、かなり大きな違和感がある。

建前としては、少子高齢化で労働力が足りない。
年金だけでは生活が不安定になる人もいる。
だから、定年後も働けるようにしましょう、という制度に見える。

ここまでは分かる。

しかし実態としては、こうなりやすい。

  • いったん定年退職扱いにする
  • 役職を外す
  • 雇用契約を結び直す
  • 給料を大きく下げる
  • 嘱託、契約社員、パートに近い形にする
  • しかし経験や知識はそのまま使う

つまり、表向きは「雇用確保」だが、運用としては「経験だけ吸って賃金はリセット」に近くなる。

これが再雇用制度の気持ち悪さである。


法律が求めているのは「同じ待遇」ではなく「働ける場所」

日本では、高年齢者雇用安定法により、65歳までの雇用確保措置が企業に求められている。
ただし、その方法は一つではない。

企業は、主に以下のいずれかを選ぶ。

  • 定年の引き上げ
  • 定年制の廃止
  • 継続雇用制度の導入

ここで重要なのは、法律が求めているのは「60歳前と同じ待遇で雇い続けること」ではない、という点である。

求められているのは、あくまで「65歳まで働けるルートを用意すること」に近い。

さらに70歳までについても、定年引き上げだけでなく、継続雇用、業務委託、社会貢献事業への従事など、複数の選択肢を制度化する努力義務という位置づけになっている。

つまり制度としては、労働者の生活を守る顔をしつつ、企業側にかなり広い運用余地を残している。


なぜ企業は再雇用で給料を下げるのか

企業側の論理は、ある程度分かる。

60歳直前の賃金には、純粋な職務価値だけでなく、以下のようなものが混ざっている。

  • 年功賃金
  • 勤続年数による昇給
  • 役職手当
  • 家族手当
  • 過去の貢献への後払い
  • 社内序列
  • 長期雇用を前提にした給与設計

そのため、企業からすると、60歳以降も同じ給与を維持することは重い。

特に、役職を外す、責任範囲を狭める、勤務時間を短くする、残業を減らす、といった変更があるなら、賃金を下げる理屈自体は成立する。

問題は、ここからである。

仕事内容や責任がそこまで軽くなっていないのに、給料だけ大きく下がるケースがある。

これが不自然なのだ。


ポストを空けたい企業側の事情

再雇用制度には、ポストの問題も絡む。

60歳以降も同じ人が管理職ポストに残り続けると、若手や中堅が上がれない。
組織の新陳代謝が止まる。
次の世代に役職を渡せない。

そのため、企業が60歳で役職定年や定年退職を区切りにする理由は分かる。

しかし問題は、役職だけ外して、実質的な責任や暗黙知の処理だけ残す場合である。

たとえば、再雇用後も以下のような仕事をしているならどうか。

  • 若手への教育
  • 過去経緯の説明
  • 現場トラブルの相談役
  • 顧客や取引先との調整
  • 技術・業務ノウハウの継承
  • 管理職の補佐
  • 現場の穴埋め

この場合、単純な補助業務ではない。

にもかかわらず、待遇だけ新人やパート級に戻るなら、それは「ポストを外した」ではなく、「役職剥奪・責任残留」である。


国は働いてほしい。企業は安く雇いたい。

この制度を理解するには、国と企業の目的を分ける必要がある。

国としては、高齢者に働いてほしい。

理由は明確である。

  • 労働力不足を補える
  • 所得税・住民税が入る
  • 社会保険料が入る
  • 年金財政への負担を抑えやすい
  • 高齢者の社会参加を促せる
  • 年金だけに依存しない生活を作れる

一方、企業としては、高い年功賃金のまま抱え続けるのは避けたい。

企業側の目的はこうなる。

  • 人手は欲しい
  • 経験者の知識も使いたい
  • でも60歳時点の高い給与は重い
  • 管理職ポストは空けたい
  • 若手の昇格枠も残したい
  • だから再雇用で賃金と役割を再設定したい

つまり、国は「働いてほしい」と言う。
企業は「安くなら雇い続ける」と言う。
労働者は「生活があるし、他に行き場も限られるから受ける」となる。

この三者の妥協点として、再雇用制度は成立している。


再雇用制度の本質は「雇用は確保、待遇はリセット」

再雇用制度の本質は、次の一文に集約できる。

雇用は確保する。
しかし待遇は守らない。

これが制度の違和感である。

もちろん、勤務時間も責任も大きく減るなら、賃金が下がること自体は不合理とは言い切れない。

しかし、実際には経験・判断・教育・暗黙知・現場の穴埋めを期待されることがある。

その場合、企業はベテランの価値を使っている。
にもかかわらず、賃金だけは「再雇用だから」で下げる。

これは「定年後ディスカウント」であり、「経験だけ吸って賃金リセット」である。


本来必要なのは、シニア人材の職務設計

本来必要なのは、単純に定年前の給与を維持することでも、全員をパート級に落とすことでもない。

必要なのは、シニア人材の職務をきちんと設計することだ。

たとえば、以下のような役割が考えられる。

  • 若手教育担当
  • 技術継承担当
  • 現場アドバイザー
  • トラブル予防担当
  • 業務標準化担当
  • 短時間専門職
  • 地域限定シニア職
  • 管理職補佐

こうした役割に対して、職務・責任・時間・賃金を明確にする。

定年前と同じである必要はない。
しかし、経験や責任を使うなら、それに対応した値付けが必要である。


まとめ:再雇用制度は「賃金リセット装置」になりやすい

再雇用制度そのものが悪いわけではない。
定年後も働ける場があることは、労働者にとっても社会にとっても意味がある。

しかし、運用次第では、かなり企業都合の制度になる。

特に問題なのは、以下のようなケースである。

  • 仕事はほぼ同じ
  • 責任も大きく変わらない
  • 若手教育や暗黙知の継承も求められる
  • しかし待遇だけ大幅に下がる

この場合、再雇用制度は「雇用確保」ではなく、「経験だけ吸って賃金リセット」になる。

国は高齢者に働いてほしい。
企業は高い年功賃金を払い続けたくない。
労働者は生活のために働かざるを得ない。

その接点で、再雇用制度は成立している。

だからこそ、単に「働ける場所があるからいい」ではなく、
「何を任せ、どの責任を負わせ、いくら払うのか」を見なければならない。

再雇用制度の問題は、高齢者を働かせることではない。
経験を使いながら、値段だけリセットすることにある。


FAQ

再雇用制度は違法なのか?

再雇用制度自体が違法というわけではない。
高年齢者雇用安定法上も、継続雇用制度は65歳までの雇用確保措置の一つである。
ただし、仕事内容や責任に対して不合理な待遇差がある場合は、個別に問題となる可能性がある。

定年後に給料が下がるのは仕方ないのか?

勤務時間、責任、役職、職務内容が大きく変わるなら、賃金が下がること自体は説明できる。
しかし、仕事や責任がほぼ同じなのに大幅に下がる場合は、納得しにくい。

本来どうするべきか?

シニア人材を「安い補助労働」として扱うのではなく、教育、技術継承、業務標準化、現場支援などの職務として設計し、その役割に応じて賃金を設定するべきである。

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