ホームズとの会話が「同じ言葉を使っているのに話がかみ合わない」状態だったため、その仕組みを昔の野球漫才で見せようとしたからだ。 ドキュメンタリー映画『You Can See Everything』で、コメディアンのネイサン・フィールダーは、血液検査装置の性能について説明を聞くうちに、アボット&コステロの名作「Who’s on First?」を思い出す。ホームズは映像を見て笑うものの、少なくとも最初は核心の言葉遊びを理解していないように描かれる。
そもそも「Who’s on First?」って何?
1940年代の米国で人気を博したコンビ、バド・アボットとルー・コステロの野球コントだ。野球の一塁を守る選手の名前が「Who(誰)」、二塁が「What(何)」、三塁が「I Don’t Know(知らない)」。質問者が「一塁は誰?」と聞くと、説明役は「Who」と正しい名前を答える。しかし質問者には「誰だって?」と質問を繰り返されたように聞こえる。
日本語なら「一塁は『誰』さんです」「だから誰なの?」「『誰』です」という無限ループ。両者は真剣に話しているのに、普通名詞と人名の境界がずれたまま会話だけが加速する。米国の野球殿堂博物館でも紹介される古典だ。
なぜ詐欺事件のドキュメンタリーに漫才が登場?
エリザベス・ホームズは血液検査企業Theranosの創業者で、投資家への詐欺で2022年に有罪評決を受けた。映画は2023年、彼女が収監される34日前から撮影を開始。フィールダーとランス・オッペンハイムが監督し、2026年10月16日に米国で劇場公開された。
作品でフィールダーが問いただすのは、同社の装置が「実際に多数の検査を行えた」のか、それとも「いつか実現できる可能性があった」という意味なのかという違い。ホームズ側の説明を聞くほど、質問の焦点がずれていく。その体験を、同じ単語が質問と名前に化ける漫才に重ねたのだ。ただしコントは意図的に作られた誤解であり、映画内の会話の真意まで証明する道具ではない。
場面の二重のオチ
フィールダーは実際に古いコントを再生する。ホームズは笑うが、「Who」が本当に一塁手の名前であるという仕掛けをすぐには説明できない。同行するビリー・エヴァンスは、それを彼女の考え方が独特だからだと受け取る。ここでおかしいのは、すれ違いを説明するために見せた漫才が、さらに新しいすれ違いを生んでしまうこと。笑いの解説を始めた本人が、今度は解説から抜け出せなくなる。
10月19日の実際の視聴者スレッドでも、この場面を面白かった箇所に挙げる投稿が見られる。10月21日のロイター記事も、装置の説明をめぐるフィールダーの追及を取り上げた。ただしこの場面だけが世界中で流行したという数字は示されていない。
結論
「Who’s on First?」を持ち出したのは、質問に答えているようで意味がすれ違う会話を、誰でも分かる笑いの形にするため。 ところが相手はその笑いの構造にもつまずく。野球の一塁手を聞いていたはずが、最後には「いま私たちは同じ質問をしているのか」という問題に戻ってしまう。
参考資料(6件)
- A24, film page and October 16 theatrical release
- National Baseball Hall of Fame, explanation of Who's on First?
- NPR/WLRN, October 16 review of the scene
- The Ringer, October 16, the comedy scene
- Reuters, October 21, Holmes and Fielder's dispute about the device
- Reddit, October 19, viewer discussion of funniest moments
映画本編を直接視聴した記述ではなく、公式作品情報と複数の批評・報道・実在する視聴者投稿を照合した説明。劇場作品であり、2026年10月23日時点の配信開始を意味しない。

