モーニングはなぜ安いのに現場はつらい?――朝外食・固定時給・社員バッファで生まれる「フレネミー集団」

平日の朝、ファミレスや喫茶店に入る。

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平日の朝、ファミレスや喫茶店に入る。

広い店内に、客がぽつぽつ。

そこで安いモーニングを見ると、かなり納得する。

「そりゃ朝は値段を下げてでも席を埋めたいよな」

ところが、飲食店で働いた経験がある人の記憶を掘ると、別の映像が出てくる。

「モーニング、混みすぎ。頼むから来るな。」

一見すると矛盾している。

朝は客が少ないのか、多いのか。

店は繁盛してほしいのか、してほしくないのか。

答えは、立場によって目的が違うでほぼ終わる。

店は空席を売上に変えたい。客は安くて空いている店がいい。固定時給のスタッフは、給料が同じなら仕事量が増えない方がうれしい。社員や店長は、客数・人件費・欠員・クレーム・発注・教育まで全部成立させなければならない。

全員、同じ店にいる。

でも目的関数が違う。

こうして飲食店は、ときどき巨大なフレネミー集団になる。

1. 先に結論――「店は繁盛してほしい。ただし俺のシフトだけ暇であれ」

この話を一文にすると、こうなる。

会社の売上と、固定時給スタッフ個人の短期的な得は、自動では一致しない。

客が増えれば、店の売上機会は増える。

しかし時給制のアルバイトは、客が10人増えたからといって、その1時間の給料が10人分増えるわけではない。

増えるのは、注文、配膳、調理、補充、皿下げ、会計、清掃、質問、呼び出し、そして運が悪い日のクレームである。

だから現場の脳内KPIは、会社の売上表とズレる。

経営側:「客数アップ!」

現場:「仕事量アップ!」

客:「安い!早い!空いててほしい!」

店長:「その三つを少人数で同時に成立させろ、と?」

ここから全部が始まる。

2. なぜモーニングは安い?――空席は翌日に持ち越せない

朝の飲食店が安いセットを作る理由は、かなり単純だ。

空いている席は、その時間が終わったら売れない。

スーパーなら、在庫を翌日に回せる商品もある。

しかし「火曜日の午前8時のテーブル席」は、水曜日に在庫として持ち越せない。

家賃、設備、空調、照明、最低限の人員など、客が少なくても発生する費用はある。ならば需要が弱い時間帯に、価格やセット内容を変えて来店理由を作るのは自然だ。

レストランの収益管理を扱う研究でも、限られた座席をどう使うか、食事時間をどう扱うか、価格をどう設定するかが主要な手段として整理されている。閑散時間へ客を動かすための割引や特典も、この発想の延長にある。

日本の調査でも、「同じメニューがランチやモーニングでは割安」という時間帯別価格は、飲食店の価格変動策の中でも広く認知されている。

つまりモーニングの安さは、慈善事業というより、

「この時間の席、腐る前に誰か使ってくれ」

というサービス業版の在庫管理に近い。

テーブルは腐らない。

時間が腐る。

3. 朝外食の最大の敵は、隣の店ではなく「家で卵とソーセージ」

朝の外食は、昼や夜以上に強烈な競合がいる。

それが自宅だ。

卵を焼く。ソーセージを焼く。パンを出す。コーヒーを入れる。

終了。

豪華さを求めなければ、朝食は家でかなり簡単に成立する。

しかも移動ゼロ、着替え不要、好きな量、待ち時間なし。

だから飲食店は「料理だけ」で家に勝つ必要はない。

実際に売っているのは、

  • 調理しなくていい
  • 洗い物をしなくていい
  • 座っていれば出てくる
  • コーヒーを飲みながらゆっくりできる
  • 外へ出るきっかけになる
  • 一日のスイッチを入れられる

という朝の外部化パッケージでもある。

2024年の調査では、平日に週1回以上「朝外食」をする人は全体の15.0%だった。平日の魅力では「モーニングセットなど他の時間帯よりお得」が24.2%で上位に入り、予算は500円以上800円未満が中心だった。

つまり朝市場は、そもそも大きくないうえに、

「家でよくね?」という最終ボスが初期装備で立っている。

そりゃ店もセット価格で殴りにいく。

4. 「朝外食する人は少ない」と「モーニング激混み」は両立する

ここが面白いところだ。

朝外食の母数が小さくても、特定の店は普通に混む。

矛盾ではない。

理由は、需要が圧縮されるからだ。

  • 朝食を食べる時間帯は狭い
  • 朝から営業している店は昼より限られる
  • 駅前、幹線道路沿い、住宅地など便利な店へ集中する
  • 安いセットが有名なら、固定客が集まる
  • 通勤・通学前なので来店時刻が似る

たとえば地域全体で朝外食する人が少なくても、その人たちが同じ1時間、同じ数店舗へ集まれば、店内だけは戦場になる。

だから、ある平日朝はガラガラでも、別の店舗・曜日・立地ではモーニングが地獄になる。

市場は小さい。ピークはでかい。

これは普通に両立する。

5. バイトからすると「繁盛=うれしい」とは限らない

客から見ると、繁盛店はいい店に見える。

会社から見ても、売上が伸びるのは基本的に歓迎だ。

しかし固定時給のスタッフは違う。

時給が同じなら、忙しさが2倍になっても給料は自動で2倍にならない。

すると短期的には、

暇な1時間:給料X円

満席の1時間:給料X円+仕事大量

となる。

もちろん、店がずっと暇で閉店したら雇用そのものがなくなる。だから「客は永遠にゼロが最適」ではない。

現場にとっての妙に合理的な願いは、もっと絶妙だ。

「店は潰れない程度に繁盛してくれ。そして、できれば俺のシフト中だけ空いてくれ。」

強い。

これが固定時給型フレネミー思想の完成形である。

経済学の言葉を使うなら、組織と個人の利害が完全にはそろっていないインセンティブの不一致に近い。

難しく言う必要はない。

売上が増える人と、仕事が増える人が、同じ人ではない。

それだけである。

6. 深夜シフトが妙に魅力的になる理由――客が少ないのに給料は高い

ここで深夜勤務が登場すると、バイト目線のゲームバランスがさらに壊れる。

日本では、午後10時から午前5時までの深夜労働には、原則として25%以上の割増賃金が必要で、アルバイトにも適用される。

つまり店舗や曜日によっては、

朝:客が多い、細かい注文が多い、時給は通常

深夜:客が少ないことがある、時給は深夜割増

ということが起こり得る。

もちろん深夜には、酔客対応、清掃、締め作業、防犯、生活リズムへの負担など別の大変さがある。店によっては普通に忙しい。

それでも、昔のバイトが

「朝より深夜の方がええやん」

と思う理由は非常に分かりやすい。

客単価が高いかどうかより重要なのは、その売上が自分の時給へ連動するかである。

高単価の客が来ても、自分の給料が同じなら「高単価ありがとう!」とは必ずしもならない。

会社の客単価と、労働者の時間単価は別物だ。

7. そして社員が全部吸う――人間バッファという最終工程

では、店とバイトの利害がズレたとき、誰が店を成立させるのか。

多くの現場では、社員や店長が最後の調整役になる。

  • 朝のピークで人が足りない → 入る
  • 欠勤が出る → 穴を埋める
  • 新人が詰まる → 教える
  • クレームが来る → 引き取る
  • 発注がズレる → 直す
  • 人件費が高い → シフトを削る
  • でも売上は落とすな → オペレーションを回す

要求だけ並べると、急に無理ゲー感が出る。

さらに、早朝・昼・夜のピークをまたぐような分断勤務では、途中に自由時間があっても、一日のかなりの範囲が仕事中心になりやすい。

ずっと働き続けているわけではなくても、

「朝の店」「昼の店」「夜の店」に人生を三分割される

みたいな日ができる。

品質管理っぽく言えば、これは

「工程能力の不足と需要変動を、社員という人間バッファで吸収しています」

状態である。

機械なら警報が出る。

人間だと「店長が頑張ってくれました」で処理されがちなのが怖い。

接客業の研究では、客からの無礼な対応が従業員の燃え尽きや離職意向と関連し、組織や上司からの支援がその負担を和らげる可能性も報告されている。

要するに、最後に人へ寄せれば回る。でも人は無限バッファではない。

8. 全員の希望を書き出すと「フレネミー集団」が完成する

同じ店にいる人たちの希望を並べると、構造が見える。

立場 だいたい欲しいもの
経営側 客数、売上、利益、座席稼働率を上げたい
店長・社員 売上を作りつつ、欠員なく、事故なく、人件費内で回したい
固定時給バイト 店は存続してほしい。でも同じ時給なら過度に忙しくない方がいい
深夜バイト 深夜割増はほしい。できれば平和であってほしい
客 安い、早い、おいしい、空いている、店員はすぐ来てほしい

誰も完全にはおかしくない。

むしろ全員かなり合理的だ。

問題は、合理性の向いている方向が違うことである。

経営側が「モーニング客数120%!」と喜んだ瞬間、厨房では注文票が120%になり、ホールでは皿が120%になり、レジ前では人が120%になる。

売上グラフでは一本の上向き矢印でも、現場では矢印が全部こちらへ飛んでくる。

だから同じ店の仲間なのに、心の声はこうなる。

経営側:「もっと来て!」

客:「安くして!」

バイト:「来るな!」

社員:「来るなら人も連れてきて!」

これがフレネミー集団である。

敵ではない。

味方でもある。

ただし混雑時だけ思想が分裂する。

9. どうすればフレネミー度を下げられる?――繁盛の利益と負荷を近づける

「もっと責任感を持とう」で解決すると、社員バッファがさらに厚くなるだけである。

構造を直すなら、繁盛で増える利益と、繁盛で増える負荷を少しでも近づけた方がいい。

たとえば、

  • 来客予測に合わせてピークの人数を増やす
  • ピーク時間だけ手当を付ける
  • 習熟や担当範囲に応じた手当を付ける
  • 店舗業績の一部を現場へ還元する
  • モーニングのメニュー数や調理工程を絞る
  • セルフサービスやモバイル注文で往復作業を減らす
  • 欠勤時に社員一人へ全部載せない応援体制を作る
  • クレーム時に現場スタッフを守る上司・組織支援を用意する

といった方法が考えられる。

重要なのは、「客が増えた」という成功が、現場にとってただの罰ゲームにならないことだ。

価格施策も同じである。

閑散時間に安くして客を動かすのは合理的でも、その結果ピークが発生するなら、人員・メニュー・厨房能力までセットで設計しないと、座席稼働率だけ成功してオペレーションが死ぬ。

空席問題を解いたら、人間問題が出てきました。

経営シミュレーションゲームなら、次のチュートリアルである。

10. まとめ――飲食店は「全員が合理的だから揉める」ことがある

モーニングが安いのは、朝の弱い需要を取り込み、時間とともに消える座席価値を売上へ変えたいから説明できる。

一方、固定時給の現場では、客数増加がそのまま給料増加にはならない。

だから、

店「客よ来い」

客「安くしろ、でも空いてろ」

バイト「店は潰れるな、でも俺の時間は暇であれ」

社員「その矛盾、全部こっちに投げるな」

という構図が生まれる。

朝外食の市場が小さいことと、モーニングの現場が激混みになることも両立する。需要が短時間・少数店舗へ集中すればいいからだ。

深夜は法定の割増賃金があるため、店舗によっては「朝より客が少ないのに時給は高い」という逆転まで起きる。

結局、飲食店の不思議な空気は、誰か一人が性格悪いから生まれるとは限らない。

全員が自分の立場では割と合理的に動いた結果、組織全体ではフレネミーになる。

そして固定時給バイトの名言は、たぶんこれに尽きる。

「店は黒字であれ。俺のシフトだけ暇であれ。」

出典

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めんどいちゃん

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仕事や日常の「めんどい」を構造化して、次に動きやすくする記事を書いています。

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