健康診断前夜、サラダバーの原価を計算して自滅した話――絶食・ブロンコビリー・食べ放題の経済学
1. 風呂から出たら「最後の晩餐」が閉店していた
健康診断の前夜。翌朝の検査から逆算すると、食事を終える期限は23時45分だった。
ところが、その時間に風呂に入っていた。
出てきた時点で最後の晩餐タイムは終了。冷蔵庫はそこにある。食べ物もある。食べようと思えば食べられる。しかし、翌日の空腹時血糖や中性脂肪などを考えると食べない方がいい。
そこで脳が始めたのが、まさかの「健診が終わったら何を食べるか」の研究だった。
絶食中に飯を調べる。メニューを見る。値段を比べる。サラダバーを思い出す。パインを思い出す。コーヒーゼリーを思い出す。
自分で自分に飯テロを仕掛けている。
厚生労働省の特定健康診査に関する通知では、午前中に健診を行う場合、空腹時血糖や中性脂肪等への影響を避けるため、健診前10時間以上は水以外の飲食物を取らないよう示されている。実際の健診機関から個別の指示がある場合は、その案内が最優先になる。
だから「無糖の麦茶くらいよくない?」も、安全側に寄せるなら水が一番簡単である。
アーニャ、水属性になります。
2. 健診後の飯を予約するのが怖い問題
絶食後だから終わった瞬間に食べたい。しかし健康診断は終了時間が読みづらい。受付、採血、心電図、胸部X線、診察、待ち時間がそれぞれ動くため、きっちり時刻指定の予約を入れると、今度は空腹のまま時計を気にすることになる。
そこで候補に上がったのがブロンコビリーだった。
2026年9月1日時点の公式メニューでは、ランチは16時まで。ビリーハンバーグランチは税込1,133円で、ランチブロンコビュッフェを付けると税込638円追加。合計1,771円になる。ランチブロンコビュッフェ単品は税込1,188円。
ところが目的は肉ではなかった。
主な標的はサラダ、パイン、コーヒーゼリー。特にコーヒーゼリーは3杯くらい食べる。
しかし単品ビュッフェ1,188円と、ビリーハンバーグ+ビュッフェ1,771円の差は583円。
「500円台で肉なら肉よ」
肉が突然、採用された。
3. スーパー1,500円対ブロンコ1,771円
スーパーでいつもの量を買う想定はこうだった。
- カットパイン:450円
- コーヒーゼリー:100円 × 3個=300円
- サラダ:250円 × 3個=750円
- 合計:1,500円
対して、ビリーハンバーグランチ+ランチブロンコビュッフェは1,771円。差額は271円。
この比較では、271円追加するとメインが付き、ビュッフェは好きな分だけ追加でき、公式ランチページではごはんとスープのおかわりも案内されている。
すると、この271円は単なる食材差額ではなくなる。
スーパーは「欲しい物を必要量だけ持ち帰れる」のが強い。ビュッフェは「少量多品種を食べ、気に入った物だけ追加し、調理も片付けもしなくていい」のが強い。
つまり、271円で買っているのは、選択肢、調理、サービス、片付け、追加可能性まで含めた仕組みである。
4. サラダバーで「原価回収」しやすい物は何か
ここから会話がおかしくなる。
「どうせ食べ放題なら、店側の原価が高い物を食べた方が回収できるのでは?」
まず重要なのは、ブロンコビリーは各食材の実際の仕入れ単価を公開していないという点だ。パイン、粉チーズ、コーヒーゼリー、野菜が店舗に何円で入っているかは外部から断定できない。
会社全体の売上原価率も、一人の客が一食で食べる食材原価とは別物である。2025年12月期のブロンコビリーの連結売上高は302億19百万円で、公開財務データから見た売上原価率は約32.8%だった。ただし、これは会社全体の数字であって「1,771円の客が580円分食べる」という意味ではない。
原価回収ゲームをやるなら、100グラム当たりの単価だけでは足りない。
回収力 = 食材単価 × 無理なく食べられる量
粉チーズは単価が高くても100グラム食べるのは重い。パインはチーズほど高単価でなくても、果物としてそこそこ値段があり、量を食べやすい。コーヒーゼリーはスーパーでは1個100円でも、店側から見ると水分の多いデザートであり、高級食材とは限らない。
小売価格と飲食店の原材料費は同じではない。
5. 粉チーズ、パイン、ゼリー、ティラミス、クルトン、えびせん
粉チーズ
強い候補。チーズは乳原料を使う加工食品で、葉物やデンプン系食品より単価が上がりやすい。QBBの業務用商品には20キログラム規格のチーズパウダーまである。
ブロンコビリー公式も、グリーンサラダにシーザードレッシング、クルトン、チーズをかける食べ方を案内している。
「サラダに粉チーズ大量にかけるます」
原価ゲームとしては方向性が合っている。ただし塩分や脂質まで大量回収する必要はない。
パイン
実戦性能が高い。果物は葉物より小売価格が上がりやすく、パインは甘くて水分が多いので量も食べやすい。スーパーでカットパイン450円を何度も買う人にとっては、食べ放題の消費者価値が大きい。
コーヒーゼリー
愛は強い。原価攻撃力はおそらく弱い。ゼリーは水分が多いため、原材料費だけを狙うゲームでは上位になりにくい。
しかし3杯食べて幸せなら、その時点で客側の勝ちである。
ティラミス
ブロンコビュッフェは時間帯や季節で提供内容が変わる。乳製品やクリームを使うティラミス系デザートは、単純なゼリーより材料単価が上がりやすいが、実際の提供状況やレシピはその時点の店舗・公式案内を確認する必要がある。
クルトン
見た目より微妙。加工品としての単価は意外に高い場合があるが、一個一個が軽い。しかも腹にはたまりやすい。胃の容量という希少資源を乾いたパンに使うので、原価ゲームとしては効率が良いとは限らない。
えびせん
罠。
丸松物産の業務用えびせんの一例では、227グラム入りに約120枚、ケースは30袋。主原料はキャッサバでん粉と小麦でん粉である。
揚げると大きく膨らむため、皿いっぱいに取ると大量に食べている感じが出る。
「えびせん山盛り!店を破壊します!」
店「体積を食べています」
「エビせんやす!」
今回の調査で最も美しいオチだった。
6. 2026年の「ブロンコビュッフェ」は昔のサラダバーより広い
2026年4月1日、ブロンコビリーは約40年続いたサラダバーを「ブロンコビュッフェ」に刷新した。公式説明では4カテゴリ、20種類以上で、時間帯によって内容が変わる。ランチではグルメサラダと店内仕込みデザートが中心になる。
2026年9月1日時点では夏のブロンコビュッフェ期間中で、公式には豚肉を使ったテクスメクス風サラダパスタ、沖縄県産もずくを使った中華春雨、シーザードレッシングを使ったレタスの白和え、グァバとパッションフルーツのトロピカルゼリーなどが案内されている。9月4日からは秋のブロンコビュッフェへ切り替わる予定である。
肉や小海老が入った季節サラダは葉物だけより食材構成が重い可能性がある。一方でパスタや春雨は安価な炭水化物でもあるので、「肉が入っている=必ず高原価」とは言えない。
結局、最強の攻略法は好きな物を少しずつ食べ、欲しければ追加することになる。
7. メーカー直販を探したら、ブロンコビリー自身がかなりメーカーだった
次に出た発想は「サラダバーの物をメーカー直販で買えないの?」だった。
業務スーパーで似た物を買うのは簡単だが、それでは面白くない。欲しいのは店の裏側の仕入れルートに入る感じである。
調べると、ブロンコビリーはかなり垂直統合されていた。公式によれば、自社工場でステーキ、ハンバーグ、ケーキ、ジェラートなどを製造・加工して店舗へ送っている。ソースやドレッシングは、2022年に子会社化した松屋栄食品本舗がグループ内で製造している。
松屋栄食品本舗の公式通販では「ブロンコの生だれ」と「和風ドレッシング」が各税込350円、12本入りが税込4,000円で売られている。
「ブロンコに納品しているメーカーを探して安く買おう」
と思ったら、
製造元もブロンコ一味だった。
業務用えびせんやチーズパウダーは大容量で買えるが、それがブロンコビリーの実際の仕入れ先だと確認できるわけではない。「同種の業務用市場を見る」と「特定チェーンの仕入れ先を特定する」は別の話である。
8. 箱買いすると原価は下がる。だが、満足度も下がることがある
粉チーズ20キログラム。えびせん30袋。ドレッシング12本。
業務用規格は確かに単価を下げる。
しかし、ここで一言。
「飽きるて」
これですべてが終わる。
ビュッフェの価値は、単に1グラム当たりが安いことではない。
サラダを少し。パインを少し。コーヒーゼリーを3杯。気が向けばクルトン。別の時間帯なら別のデザート。もういらなければそこで終わり。
この選択権を買っている。
家庭で同じ多様性を再現すると、半端な食材が冷蔵庫に増え、同じ物を何日も食べ、洗い物が出て、食品ロスの可能性も上がる。
業務用仕入れは単価最適化に強い。ビュッフェは満足度最適化に強い。目的関数が違う。
9. 結論――本当の「回収」は店の原価ではなく満足度
健康診断前に食べられなくなる。腹が減る。飯を調べる。ブロンコビリーを見つける。スーパーなら約1,500円、店なら1,771円。「271円差なら行くわ」となる。
そこからなぜか原価を調べる。粉チーズが強そう。パインも強そう。コーヒーゼリー3杯は愛。えびせんは空気をまとったでん粉。メーカー直販を探す。ブロンコ自身がメーカー寄りだった。業務用を箱で買えると知る。
「飽きるて」
完。
食べ放題で本当に得をする方法は、最も高そうな食材を限界まで詰め込むことではない。
スーパーで少量ずつ揃えると高くつく物を、好きな量だけ、好きな組み合わせで食べること。
そして食べ残さないこと。
原価回収ゲームは楽しい。でも最終的に一番高いのは、たぶん「飽きずに選べる権利」だった。
