2026年9月21日。敬老の日。しかも翌22日は祝日法上の休日、23日は秋分の日で、月曜から水曜まで三連休になった。
午後2時ごろ、四日市の「まぐろレストラン」に来てみた。
列を見て最初に出た感想は、だいたいこれだった。
「いや、祝日14時でこれ? 40組くらい待ってない?」
外だけではない。店内に入ってもまだ並んでいる。
海沿いの日差しは暑い。日焼け止めを塗っていない日に限って、こういうところに来る。
完全に舐めていた。
しかし、スマホをポチポチしながらメニューを調べ始めると、意外と列は流れた。
そしてさらに問題が起きた。
待っている間に、なぜこの店がこんなに並ぶのかが全部わかってしまった。
1. まず結論:これは「安い店」ではなく、組み合わせると価格設定が壊れる店
まぐろレストランの公式メニューを見ると、単品の安さだけでも十分強い。
- まぐろ豪快丼:1,000円
- よくばり二色丼:1,000円
- ネギトロ丼:880円
- 漁師丼:980円
- 天丼:1,000円
- あなご天丼:1,000円
- うなぎ豪快丼:1,580円
しかも丼には味噌汁と小鉢が付く。
だが、本当に危険なのはここからだ。
200円おかずがある。
公式によると、食堂内のショーケースから選ぶ200円おかずは約30種類から日替わり。公式ページに掲載されている例だけでも、鮭塩焼、サバ塩焼、松前数の子、まぐろスコッチエッグ、まぐろ入りオムレツ、まぐろ山かけ、まぐろのマリネ、ツナサラダ、まぐろユッケ、さばみりん漬け、まぐろ団子甘酢あんかけなどがある。
つまり、この店は高い一品を一つ選ぶゲームだけではない。
1,000円前後の主食に、200円の魚介小鉢を好きなだけ刺していくゲームである。
2. 主役は「あなご天丼1,000円」。穴子2本の時点でちょっと待ってほしい
公式説明を読む。
あなご天丼、1,000円。
内容は、
- 丼からはみ出るほど大きい穴子が2本
- まぐろ
- 鮭
- イカ
- 野菜
である。
穴子が2本。
もう一度言う。
穴子が2本。
しかも「穴子2本だけ」ではない。その下にまぐろ、鮭、イカ、野菜がいる。
さらに丼なので味噌汁と小鉢付き。
比較用に、天丼てんやが2026年6月に販売した「穴子2種のご馳走天丼」は1,690円で、天然大海老、活〆一本煮穴子、穴子切身、きす半身、いんげんという構成だった。
もちろん穴子のサイズ、仕入れ、品質、衣、調理、店舗コストは同じではない。
それでも、
「大きい穴子2本+まぐろ+鮭+イカ+野菜+汁物+小鉢=1,000円」
という式は、世間相場を一度見た後だとかなり強い。
3. 200円おかずランキング――同じ200円なのに、バグの方向が違う
全品200円なので、順位は「通常ならいくら取りやすい料理か」「魚そのものの比率」「主菜になれるか」「この店で食べる意味」でつける。
なお、量は日によって変わり得るため、これは現物を見る前の暫定順位である。焼魚が大きければ、鮭やサバが一気に1位候補になる。
| 順位 | 200円おかず | バグの理由 |
|---|---|---|
| 1 | まぐろユッケ | 生魚系の一品料理が200円。外食では数百円が普通 |
| 2 | まぐろ山かけ | まぐろ+山芋という「素材そのもの」系 |
| 3 | 鮭塩焼 | 普通の切身サイズなら、ほぼ主菜が200円 |
| 4 | 松前数の子 | 数の子を含む酒肴系で200円 |
| 5 | サバ塩焼 | 焼魚単品としての満足度が高い |
| 6 | さばみりん漬け | 自社加工の味付き魚。白飯性能も高い |
| 7 | まぐろスコッチエッグ | 材料より、加工工程込み200円がおかしい |
| 8 | まぐろのマリネ | 魚介前菜カテゴリが200円 |
| 9 | まぐろ団子 甘酢あんかけ | 惣菜として完成していて200円 |
| 10 | まぐろ入りオムレツ | 卵で原価を抑えやすいが、完成品200円は安い |
| 11 | ツナサラダ | 上位が魚そのものすぎるだけで、これも十分安い |
世間との比較を一つ入れる。
大戸屋の一部店舗では「まぐろユッケ」が380円。 サガミの2026年春夏メニューでは、まぐろユッケ590円、まぐろ山かけ690円。 大戸屋の「さばの炭火焼き」はおかず単品940円だ。
当然、皿の大きさも量も違う。
だから「まぐろレストランは必ず70%引き」と言うのは雑すぎる。
でも、200円という価格帯にユッケ、山かけ、焼魚が同居していること自体がかなり変なのはわかる。
4. 最強の遊び方は「1,000円主食+200円ガチャ」かもしれない
ここまで見た結果、かなり魅力的なのがこれ。
あなご天丼1,000円+まぐろユッケ200円+まぐろ山かけ200円=1,400円。
これで、
- 大穴子2本
- まぐろ天
- 鮭天
- イカ天
- 野菜天
- 味噌汁
- 小鉢
- まぐろユッケ
- まぐろ山かけ
になる。
もはや「天丼を食べる」ではない。
1,400円で小さな魚介祭りを開催している。
さらにもう一皿いっても1,600円。
ただし、腹は有限である。
コスパを極めようとして胃袋を敗北させると、ただの過剰発注になる。
この店の面白さは、「最も高いものを一つ頼む」より「安い主役+200円小鉢を組み合わせる」と急にテーマパーク感が出るところにある。
5. うなぎ1尾1,580円も静かにおかしい
あなごだけではない。
うなぎ豪快丼は1,580円。
公式説明では、ご飯の間にも鰻を挟み、まるごと1尾を使用する。
低価格うなぎチェーンの宇奈ととの現行メニューでは、鰻をまるごと一匹使った「蒲焼 一匹」が2,400円。
これも同じ規格の鰻ではないので、直接比較はできない。
ただ、
低価格を売りにする専門チェーンの一尾蒲焼2,400円に対し、丼として一尾使用1,580円
という位置関係を見るだけでも、まぐろレストランの価格感がだいぶ見える。
6. なぜ安いのか――普通の飲食店ではなく、水産加工会社が食堂までやっている
安すぎると、「何か怪しいのでは」と考えたくなる。
しかし運営会社を見ると、構造がかなりわかりやすい。
運営するダイエンフーズは、水産物の加工・販売、営業倉庫、レストランを事業としている。前身は1951年創業の大遠冷蔵で、マグロやカツオを中心に扱ってきた。現在は自社の約マイナス55度の超低温冷凍庫と直結した加工工場を持つ。
さらに公式のSDGs説明では、製品規格外でも食堂のおかずにアレンジし、食品ロス削減に活用していると明記している。
つまり普通の飲食店が、
仕入れる → 店で調理する → 客に出す
だけなのに対し、ここは、
水産物を加工する会社 → 自社で商品化 → 自社食堂でも出す
という距離が短い。
だから200円おかずが単なる「客寄せ赤字メニュー」とは限らない。
加工会社だからこそ、魚の切落し、規格、加工工程、商品化の選択肢を広く持てる。
これはかなり強い。
7. 「40組待ち」が、スマホを触っていたら記事一本に変換された
最初は完全に、
「祝日14時を舐めていた」
だった。
外に列。
室内にも列。
海沿いの日差し。
そして40組近く待っているように見える。
普通なら待ち時間は損失である。
しかし、スマホでメニューを開いた。
「あなご天丼1,000円?」
「200円おかず?」
「ユッケも200円?」
「山かけも?」
「そりゃ並ぶわ」
と掘っているうちに、列が進んだ。
そして気づいた。
待ち時間が、そのまま取材時間になっている。
並ぶ → 暇 → 調べる → 面白い → 比較する → 理由を掘る → 記事になる。
まぐろレストランの列で、まぐろレストランの記事が完成していく。
効率が良いのか悪いのか、よくわからない。
ただ一つ言えるのは、
食べる前に記事がほぼ完成する飲食店はそんなにない。
8. 結論:そりゃ並ぶ。価格だけではなく「遊べる安さ」が強い
最初は、祝日午後の長い列を見て、
「なんでこんなにいるんだ」
と思った。
でもメニューを分解したら、むしろ逆だった。
- 穴子2本入りのあなご天丼が1,000円
- まぐろ豪快丼が1,000円
- 天然鮪100%のネギトロ丼が880円
- 鰻1尾使用のうなぎ豪快丼が1,580円
- 約30種類から日替わりの200円おかず
- まぐろユッケも山かけも焼魚も200円候補
- 運営は水産加工会社で、自社加工・低温冷凍・食品ロス活用までつながっている
そして何より、
「今日は何を200円で足す?」という遊びがある。
安いだけなら、一度食べて終わる。
安くて、量があって、組み合わせられて、毎回200円おかずが変わる。
そりゃリピートも起きる。
そりゃ家族も来る。
そりゃ祝日の午後に列もできる。
四日市のまぐろレストランは、寿司屋というより、
1,000円札を握って入る魚介テーマパークだった。
なお、200円おかずは毎日変わり、公式掲載品が必ずあるとは限らない。価格・メニューも変更される可能性がある。列の「40組」は現地での目視推定であり、公式待ち組数ではない。
この店では、ショーケースを見てからが本番である。
