UNOの名前の由来は宇野さん?――「UNO!」と叫ぶルールまで調べたら、ゲーム中に商品名を連呼させる設計だった
「UNO」という文字を見ているうちに、急に日本人の名字の宇野しか出てこなくなることがある。
すると疑問も自然に壊れていく。
「UNOって、もしかして宇野さんが作ったの?」
違う。
UNOを考案したのは、1971年のアメリカ・オハイオ州Readingで理髪師をしていたMerle Robbinsである。
しかも名前の由来は人名ではない。
The Strong National Museum of Playによると、手札が残り1枚になったことを宣言するルールにちなみ、ゲームを「Uno」と名付けた。さらに、Bingoのようにプレイ中にゲーム名を何度も口にさせることで、名前を覚えてもらう狙いもあったという。
つまりUNOは、終盤になるとプレイヤー自身が勝手に商品名を叫んでくれるゲームである。
広告枠がゲーム内蔵。しかも広告主はプレイヤー。
1. UNOを作ったのは宇野さんではなく、理髪師のMerle Robbins
UNOの出発点は、いきなり巨大玩具メーカーの会議室ではない。
Robbins一家はカードゲーム、とくにCrazy Eightsをよく遊んでいた。
ところがこのゲームは、家ごと・遊ぶ人ごとに特殊ルールが変わりやすい。
「そのカードは2枚引きだろ」
「いや今日は逆回りだろ」
みたいな、カードゲームあるあるのルール確認会議が発生した。
そこでMerle Robbinsは、カードに「このカードを出したら何が起きるか」を直接書き込むようにした。
これが発展して、家族は新しい専用デッキを作ることになる。
The Strongによれば、Robbins夫妻は家まで売って資金を作り、息子Rayの資金も合わせて最初の5,000セットを製造した。Merleは自分の理髪店でも売り、家族で車とキャンピングトレーラーを使って各地を回って販売した。
発明者の経歴だけ見ると、
理髪師 → 家族でカードゲーム → ルール揉める → カードに説明を書く → 家を売って5,000個作る → 世界的カードゲームになる
である。
起業ストーリーの加速が速い。
少なくとも、ここに「日本の宇野さんが登場する章」はない。
2. では、なぜ名前が「UNO」なのか
The Strongの説明はかなり直接的だ。
「手札が1枚だけになったときに知らせる」というルールから、Unoと名付けた。
Mattelの公式ルールでも、手札が1枚になったときに**「UNO」(meaning “one”)**と叫ぶよう説明されている。
要するに、ゲーム内の意味は非常に単純だ。
UNO = 1枚。
日本語話者には「宇野」という名字と音がほぼ同じなので、脳内では別の辞書が勝手に開く。
でもカードゲーム側で開くべきページは、
「残り1枚です」
の方である。
なお、uno はスペイン語やイタリア語などで「1」を表す語だが、今回確認したThe Strongの歴史資料は「どの言語から取ったか」より、残り1枚を告げるルールにちなんで命名したことを明示している。
だから「スペイン語説かイタリア語説か」を必要以上に断定するより、
人名ではなく『1枚』のルール由来
と押さえるのが一番強い。
3. 「残り1枚でUNOと言え」は、どこから来たのか
ここがさらに面白い。
「ゲーム名がUNOだから、あとからUNOと言わせるルールを作った」のか。
それとも「1枚になったら宣言するルールが先にあって、そのルールからUNOと名付けた」のか。
The Strongの記述は後者を支持する。
ゲームは、残り1枚を知らせるルールにちなんでUnoと名付けられた。
つまり少なくとも史料上は、
1枚になる → 宣言するルールがある → そのルールが名前になる
という関係で説明されている。
ただし、1971年の家庭内で「何月何日の何時に最初にこの単語を思いついた」というところまで残っているわけではない。
なので、正確に言えるのは命名の根拠が1枚宣言ルールだったところまで。
ここから先を発明者の脳内実況として作る必要はない。
4. しかも「UNO!」は、ルールであり広告でもあった
普通の商品は、買ってもらった後に客が商品名を叫び続けたりしない。
UNOは違う。
勝負が盛り上がる終盤、残り1枚になったプレイヤーは自分から、
「UNO!」
と商品名を発声する。
The Strongは、この仕組みについて、Bingoのようにゲーム中に名前を繰り返し口にさせることで、ゲーム名をさりげなく売り込む狙いもあったと説明している。
これはかなり強い。
テレビCMを見なくても、店の看板を見なくても、ゲームを遊ぶだけでブランド名が音声再生される。
しかも最も緊張する瞬間に再生される。
「あと1枚!」という感情と「UNO」という名前がセットで記憶に入る。
名前をルールへ埋め込んだ結果、ルール説明そのものがブランド訓練になる。
冷静に見ると、カードゲームの皮をかぶった発声型マーケティング装置である。
もちろん遊んでいる側はそんなことを考えず、
「言い忘れろ……言い忘れろ……!」
と相手を監視している。
マーケティング担当だけでなく、対戦相手まで発声監査員になる。
5. 現在の公式ルールでも、言い忘れると2枚引く
「UNOって言う」は雰囲気ではなく、ちゃんとルールになっている。
Mattelの公式ルールの一例では、手札が1枚になったら「UNO」と叫ぶ。言い忘れ、次のプレイヤーがプレイまたはカードを引く前に他の人から指摘されると、2枚引く。
つまりこのゲーム、
自社ブランド名を言わなかったプレイヤーにカード2枚の行政処分を出してくる。
もちろん行政ではない。
でも構造だけ見ると、
「ブランド名の発声義務違反です。2枚追加してください」
である。
しかも誰にも気づかれず次の人の番まで進めば、ルール上その罰を免れる版もある。
なのでUNO終盤では、カードの色や数字だけではなく、
相手がちゃんと『UNO』と言ったか
まで監視対象になる。
ゲーム盤がないのに監査業務だけ発生する。
6. 日本語では「UNO」と「宇野」が衝突する
ここから日本語だけの追加バグが発生する。
カードゲーム名の「UNO」と、日本の名字「宇野」は、音だけ聞けばほぼ同じだ。
一度「UNO=宇野」の回路ができると、カードゲームを見ても名字が先に出てくる。
逆に「宇野」という文字を見てもカードゲームが割り込んでくる。
そして最終的に、
「宇野さんとUNOをやりたい」
という、ルール上は何もおかしくないのに日本語だけ妙に壊れた企画が誕生する。
宇野さんが残り1枚になった場合を考える。
宇野さん「UNO!」
周囲「知ってる」
本人はルールを守っただけなのに、自己紹介にしか聞こえない。
さらに言い忘れた場合、
「宇野さん、UNO言ってないですよ」
という文が成立する。
日本語としては、
「宇野さん、宇野って言ってないですよ」
に聞こえる。
名前を名乗る義務が発生したようにしか見えない。
7. もし宇野さんが自分の名字として「宇野!」と言ったらセーフなのか
ここは公式資料から離れた純粋な言葉遊びになる。
Mattelのルールが求めているのは、残り1枚になったときに「UNO」と宣言することだ。
日本語で宇野さんが同じ音を発した場合、周囲の耳にはほぼ同じ「うの」が届く。
では、本人が心の中で「私は宇野です」という意味で言っていても成立するのか。
これはもう、カードゲームというより発話行為の哲学である。
音が同じならいいのか。
意図までUNOである必要があるのか。
審判は心を読めるのか。
公式ルールに「日本人の姓が宇野だった場合の意味論」までは書かれていないので、そこは遊ぶメンバーで揉めればよい。
そして皮肉なことに、UNO自体がもともとカードゲームのルールで家族が揉めたことから生まれた。
宇野さん判定で再びルール論争を始めると、かなり原点回帰である。
8. 結論――UNOは宇野さんではなく「1枚」。でも宇野さんと遊ぶと完成する
整理するとこうなる。
- UNOを作ったのは宇野さんではない。 1971年、米オハイオ州Readingの理髪師Merle Robbinsが考案した。
- きっかけはCrazy Eightsのルール揉め。 特殊ルールをカードへ直接書く発想から専用ゲームへ発展した。
- ゲーム名は残り1枚の宣言ルールに由来する。 The Strongはそのルールにちなんで「Uno」と名付けたと説明している。
- 「UNO!」と叫ばせること自体がマーケティングにもなった。 Bingoのようにプレイ中に名前を繰り返させる狙いがあった。
- 現在のMattel系公式ルールでも、残り1枚でUNOを宣言する。 言い忘れを条件内で指摘されると2枚引く。
- 日本語ではUNOと宇野が衝突する。 これはカードゲームの由来ではなく、日本語話者だけが追加で踏める言葉遊びである。
最短で言うなら、
UNOの「うの」は宇野さんの「うの」ではない。
でも、宇野さんとUNOをやれば、
宇野「UNO!」
というゲーム史上かなり完成度の高い自己紹介が発生する。
ゲームの由来を調べたはずなのに、最終的に一番やりたくなるのが宇野さんとのUNOなの、バグの直し方としては完全に逆方向である。
