今日、大須で古着屋をいろいろ見て回った。
古着屋自体を見るのは面白い。店ごとに照明も違えば、服の並べ方も違う。ジャケットを暗い木の棚に詰め込んでいる店もあれば、Tシャツを一枚ずつ作品のように見せている店もある。
ただ、何軒か見ているうちに、服そのものには少し違和感が出てきた。
古着というより、単にちょっと古いんだよな。
昔の服だから古いのは当然である。けれど、自分が古着に期待していた「古さ」と、実際に店頭で見た「古さ」は少し違った。
俺が期待していたのは、今の量販店では見かけない生地、妙な切り替え、特徴のある襟、変な金具、意図的に崩した服の形みたいなものだった。
ところが、実際には「少し前に普通に売っていそうな服」もかなり多い。
古着らしい味というより、デザインや服の形の更新が数年前で止まっている感じがする。しかも、プリントTシャツを見ると4,000円台、ものによってはそれ以上する。
ここで、服を見る目が「買う人」から「作る人」に切り替わった。
古着の偶然性に、あまり金を払いたくない
古着の魅力としてよく言われるのが、「一点物との偶然の出会い」だ。
同じ商品がもう一度入るとは限らない。自分のサイズで、好みの色で、状態のいいものに出会えるかも分からない。だから、見つけた瞬間に買う。
このゲーム性が好きな人には、古着屋はかなり楽しいと思う。
ただ、俺はそこにあまり価値を感じていなかった。
偶然見つけたかどうかより、
最終的に、自分が欲しい見た目になっているか。
の方が重要だった。
一点物でも、デザインが少し古く見えて、サイズも完全には合わず、値段が4,500円なら手が止まる。
逆に、量産品でも、自分の欲しい形とデザインになっていて、値段が安いならそちらでいい。
「誰かが選んだ一点物」より、「自分が指定した一着」の方が、俺には価値があるらしい。
自分の絵柄を印刷した新品の方が安いこともある
古着屋のTシャツを見ながら、ふと思った。
ユニクロみたいな無地Tシャツに、自分で作った画像を印刷すればいいのでは。
調べると、オリジナルTシャツは思っていたより安かった。
ユニクロのTシャツ作成サービス「UTme!」では、ベーシックTシャツが白1,990円、黒2,990円で、画像を送って1枚から作れる。Tシャツ印刷サービスのUP-Tも1枚から注文でき、公式サイトでは対象商品の送料0円を案内している。^furugi-1
商品価格は確認した時点のものだ。印刷位置、印刷面積、両面印刷、印刷するTシャツによって価格は変わり、送料などで支払いの合計も変わる。
それでも、古着屋で少し古く見える中古Tシャツが4,500円前後なのに対して、
- 新品
- サイズを選べる
- デザインを自分で決められる
- 1枚だけ作れる
- 2,000〜3,000円台から試せる
という選択肢がある。
古着の年代、ブランド、希少性に価値を感じるなら、古着の価格にも意味がある。
しかし、単純に「格好いいプリントTシャツが欲しい」だけなら、自分でデザインして外注した方が安いことすらある。
中古より、完全指定の新品の方が安い。
価格構造どうなってんねん、とは思う。
自作といっても、服を一から縫う必要はない
最初に「自作」と考えると、布を買い、型紙を作り、裁断して、ミシンで縫う姿が浮かぶ。
そこまでやると、もう服作りである。
今回、自分がやりたくなったのは服の構造ではなく、表に印刷する絵柄だった。
だから工程はもっと単純でいい。
- 黒い無地Tシャツを選ぶ
- 印刷したい画像を作る
- 印刷だけ業者へ出す
- 必要なら、あとからワッペンや金具を足す
これなら、自分が担当するのはデザインと作り方を決めることである。
家庭用のアイロンプリントもできるが、1枚だけなら、転写紙、インク、無地Tシャツ、失敗リスクまで含めて考えると、外注の方が楽で安定しやすい。
俺は裁縫をしたいわけではない。
欲しいものを分解して、「自分が決める部分」と「外に投げる部分」を切り分けたいだけだった。
古着屋の写真に、人型が隠れるTシャツ
店を見ながら、印刷したいデザインも浮かんだ。
暗い古着屋の店内。
奥まで服がぎっしり掛かっている。棚には靴や帽子が並び、黄色い照明が当たっている。
その背景の中に、非常口のマークのような単純な人型がいる。
丸い頭。単純化された胴体。棒状の手足。顔も髪も服もない。
ただし、人型を白や黒で塗るのではない。
古着屋の背景を、そのまま人型の中にも入れる。
服の色、棚の木目、照明の光が人型の内側と外側で連続する。人型は背景と同じ模様で塗られ、ほとんど見えない。
一見すると古着屋の写真。
少し見ていると、「あ、人がいる」と気づく。
テレビ番組の「めっちゃカメレオン」のように、人の体を背景と同じ模様に塗り、姿を隠す発想を、写真と簡単な人型の記号でやりたかった。
面白いのは「人」ではなく、見つける瞬間
このデザインの核は、人型そのものではない。
見る側が、人型を発見する瞬間にある。
見えているものの中から、どれが一つの形で、どこからが背景なのかを捉える仕組みが研究されている。境目の線がくっきりして、周りと色が違えば、人型を背景から見つけやすくなる。逆に、色や質感が背景と似ていれば、背景から形を見つけにくくなる。[^furugi-3][^furugi-4]
だから、人型を太い線で囲ったら駄目だった。
影を付けても駄目。赤丸で強調するのはもっと駄目。
それでは「ここに人がいます」と最初から答えを見せてしまう。
必要なのは、
背景写真として成立している。
でも、少し遅れて人型が見える。
という中間である。
完全に隠れれば、ただの古着屋の写真になる。
はっきり見えれば、背景と同じ模様の人型の記号になる。
見つけるまでの一瞬を作るために、人型の隠れ具合を調整する必要がある。
AIは、こちらが止めないと全部説明し始める
画像生成で何度も試したが、最初はかなり違うものが出た。
カメレオンのように、背景へ紛れる人を頼むと、リアルな人間が迷彩服を着た。
「人型」と言うと、ファッションモデルのような人が出た。
「非常口みたいな単純な人形」と説明して、ようやく簡単な人型の記号に近づいた。
そこからも、
- 人型を赤丸で囲む
- 人型に服を着せる
- 男女2体を並べてトイレ表示にする
- 額縁を豪華にする
- 英語のロゴを足す
- 写真をポスター風にする
- 人型へ影を付けて立体化する
と、余計な説明をどんどん足してきた。
AIは、意味が分かりやすい方向へ寄せようとする。
しかし、今回欲しいのは「分かりやすい人型」ではない。分かりにくさ自体がデザインである。
最終的に必要だった指定は、かなり削ぎ落とされた。
- 人型は1体だけ
- 顔、髪、服、性別表現なし
- 人型の外周線なし
- 影なし
- 赤丸なし
- 文字なし
- 人型の中と外で背景の座標を連続させる
- 黒い余白を残す
- 人型がすぐには見つからない程度に、背景と同じ模様にする
何を足すかより、何をさせないかの方が重要だった。
服を買わず、作りたい形を持ち帰った
結局、古着屋をいろいろ見たが、服は買わなかった。
古着の偶然性に価値を感じない。少し古いデザインの中古Tシャツに4,500円を払うなら、自分で画像を作って新品へ印刷した方がいい。
ただ、古着屋を見た時間が無駄だったわけではない。
店を回ったことで、
- 何を「古いだけ」と感じるのか
- どんな色や照明なら格好よく見えるのか
- 黒地をどのくらい残したいのか
- 写真をどの形で切り抜きたいのか
- 人型をどこまで背景へ溶かしたいのか
- どこから先を外注すればいいのか
が見えた。
俺は古着を買いに行ったのに、完成品ではなく部品と構造を見始めた。
そして、店を出る頃には、服ではなく自分用Tシャツの作りたい形のメモができていた。
こういうところはいつも同じである。
消費だけで終わると、金を出しにくい。
しかし、見たものを分解し、自分で作り直せると分かった瞬間、急に面白くなる。
古着屋で4,500円のTシャツは買わなかった。
代わりに、2,000〜3,000円台で自分の欲しい一着を作るルートを持ち帰った。
俺にとっては、こちらの方が圧倒的に黒字だった。
参考資料(3件)
[^furugi-1]: UNIQLO「UTme! 商品価格」
https://utme.uniqlo.com/
https://up-t.jp/
[^furugi-3]: Wagemans, J. et al. (2012), A Century of Gestalt Psychology in Visual Perception I: Perceptual Grouping and Figure-Ground Organization.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3482144/
[^furugi-4]: Troscianko, T. et al. (2009), Camouflage and visual perception.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2674079/
