未定義業務は抱え込むな

職場で一番危ない指示の一つが、「とりあえず進めて」である。

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判断者・担当者・説明範囲が決まっていない仕事の返し方

「とりあえず進めて」が危ない理由

職場で一番危ない指示の一つが、「とりあえず進めて」である。

一見すると、ただの作業依頼に見える。
でも、その裏に未定義事項が大量に隠れていることがある。

たとえば、ある人の契約や所属に関わる手続きを進めるとする。

以前、上司と役員の間では「7月から動く」と決まっていたらしい。
上司からも、数か月前に「7月から進める」と口頭で聞いていた。
社内の実務担当者にも連絡済みだと聞いていた。

ところが、実際に7月になって動こうとすると、情報が食い違っている。

実務担当者は詳細を聞いていない。
異動先の責任者は、役員から「今後2〜3年は動かない」と聞いていた。
本人にどこまで話しているか分からない。
現在の所属部署に何をどこまで伝えているかも分からない。

この状態で「進めて」と言われても、進められない。

なぜなら、これは単なる作業ではなく、判断と説明が必要な案件だからだ。

未定義業務の正体

未定義業務とは、作業そのものよりも前に決めるべきことが決まっていない仕事のことである。

今回のようなケースでは、少なくとも次のことが決まっていないと危ない。

  • 本当に予定通り進めるのか
  • いつから進めるのか
  • 本人にどこまで説明済みか
  • 現所属部署にどこまで説明済みか
  • 異動先責任者の認識と矛盾していないか
  • 実務担当者に何を依頼するのか
  • 誰が本人説明をするのか
  • 誰が部署間調整をするのか
  • 誰が最終判断者なのか
  • 手続きを進めた後にトラブルが起きた場合、誰が責任を持つのか

これらが未定義のまま実務者が動くと、後からこうなる。

「なんで勝手にやったの?」
「そんな話は聞いていない」
「本人にはまだ言っていない」
「その部署にはまだ共有していない」
「誰がそれを判断したの?」

逆に、未定義だから止まっていると、こう言われる。

「なんでやっていないの?」
「早く進めて」
「ボトルネックある?」
「考えすぎないで」

この構造はかなり危険だ。

やっても怒られる。
やらなくても怒られる。
それなら、実務者がやるべきことは一つである。

未定義事項を未定義事項として、判断者に返す。

「作業ボール」として受け取らない

未定義業務を受けたときに大事なのは、ボールの種類を間違えないことだ。

上司から「進めて」と言われると、つい作業ボールとして受け取ってしまう。

「自分が動かなきゃ」
「実務担当者に依頼しなきゃ」
「関係者に連絡しなきゃ」

でも、実際にはそれは作業ボールではない。
判断未了ボールである。

つまり、ボールにはこういうラベルを貼るべきだ。

  • 実施判断未了
  • 担当者未定
  • 本人説明未確認
  • 所属部署説明未確認
  • 異動先認識不一致
  • 実務依頼範囲未定
  • 最終判断者未定

こうしてラベルを貼ると、自分が抱えるべきボールではないことが分かる。

未定義の爆弾を抱え込むのではなく、付箋を貼って返す。
これが大事だ。

関係者を責めずに守る

今回、特に良かったのは、実務担当者に対して「あなたが悪い話ではない」と伝えたことだ。

実務担当者からすると、突然こういう話が来る。

「手続きをお願いします」
「でも詳細は聞いていない」
「本人に説明済みかも分からない」
「所属部署が知っているかも分からない」

この状態だと、防衛モードになる。

「聞いていないのに、私がやるの?」
「やらなかったら怒られるの?」
「やったらやったで、なんで勝手にやったと言われるの?」
「私が悪いことになるの?」

ここで、「なんで聞いていないんですか」「前に連絡したはずです」と責めると、関係者同士が敵になる。

でも、本来の問題はそこではない。
問題は、誰が何をどこまで決めたかが未定義であることだ。

だから、実務担当者にはこう伝えるのがよい。

「これはあなたが悪い話ではなく、誰が何をどこまで決めたかが未定義な話です」
「やらないと怒られる、やっても怒られる構造なので、メールで確認して守りましょう」
「現時点の情報とリスクを整理して、判断者に返しましょう」

こうすると、相手の防衛が下がる。
責任追及モードではなく、共同防衛モードになる。

これはかなり大事だ。

未定義業務は、関係者同士で責め合うとさらに悪化する。
そうではなく、関係者同士で柵を作る。
誰が悪いかではなく、何が未定義かを見る。

この切り替えができると、自分も削れにくいし、周囲も守れる。

情報が食い違ったら、上位者に返す

もう一つ大事なのは、情報が食い違ったときに、自分の中で無理に統合しないことだ。

たとえば、上司からは「7月から動く」と聞いている。
一方で、異動先責任者は役員から「2〜3年は動かない」と聞いている。

このとき、自分が勝手に「たぶん上司の方が最新だろう」と判断して進めるのは危ない。

なぜなら、その情報が本当に最新か分からないからだ。

役員の認識が変わったのか。
上司が古い情報のまま話しているのか。
部署間で別々の話が進んでいるのか。
そもそも別件と混ざっているのか。

判断できない。

だから、正しい対応はこうである。

「こちらでは7月から動くと聞いています。一方で、異動先責任者からは2〜3年動かない認識と聞いています。情報が食い違っているため、判断者に確認します」

これは非常に大事な一文だ。

情報矛盾を自分で処理しない。
矛盾したまま実行しない。
関係者を否定しない。
判断者に返す。

これでよい。

打ち合わせ日程調整にも未定義は潜む

未定義業務は、大きな契約変更や異動だけで起きるわけではない。
一見すると単純な「日程調整」にも潜む。

たとえば、上司から「今月中に打ち合わせできるよう設定しておいて」と言われたとする。

これだけなら、日程調整に見える。
しかし、その打ち合わせが引き継ぎに関わるものなら話は違う。

引き継ぎ先が決まっていない。
誰が参加するか分からない。
何を議題にするか分からない。
自分が参加すべきかも分からない。

この状態で、ただ日程だけを置くと、後から再調整になる可能性が高い。

だから、「引き継ぎ先が未定なので決めてほしい」と確認するのは合理的である。

それに対して「勝手に考えを増やすな。日程調整だけしろ」と言われることがある。

でも、これはレイヤーが違う。

上司が見ているのは単発作業レイヤーである。

「日程調整しろ」

一方で、実務者が見ているのは業務成立レイヤーである。

「この打ち合わせは何のためか」
「誰が参加するのか」
「何を決めるのか」
「引き継ぎ先は誰か」

本来、上司が業務成立レイヤーを決めてから、単発作業に落とすべきである。
それをやらずに「日程だけ取れ」と言われても、中身のない会議になる。

「暫定で進めます」とログを残す

もちろん、上司がどうしても「日程だけ調整しろ」と言うなら、実務者としては調整するしかないこともある。

その場合は、黙って背負うのではなく、ログを残す。

たとえば、こう書く。

「日程調整は本日中に進めます。なお、引き継ぎ先が未定のため、参加者・議題・引き継ぎ範囲は暫定として進めます。決まり次第、必要に応じて再調整します」

この書き方なら、指示には従っている。
しかし、前提未確定であることも残している。

これが大事だ。

未定義業務で大切なのは、反論で勝つことではない。
責任境界をログに残すことである。

「決めていないやつ」とタグ付けする

未定義業務に何度も巻き込まれると、最初は毎回削られる。

「なんで話が通っていないの?」
「なんで担当者が決まっていないの?」
「なんで本人に説明していないの?」
「なんで実務者に丸投げなの?」
「なんで後から怒るの?」

毎回、新しいトラブルとして受け取ると、HPが削れる。

でも、何度も起きるなら、それは個別の事件ではなくパターンである。

「ああ、いつもの決めていないやつね」

そうタグ付けできるようになると、削れ方が変わる。

感情で受けなくなる。
自責に吸われなくなる。
反射的に未定義事項を洗い出せるようになる。
関係者にも防衛の柵を渡せるようになる。

これは、実務上かなり強い。

未定義業務に対する防衛OSが習慣化している状態である。

まとめ

未定義業務は、抱え込んではいけない。

必要なのは、気合いで進めることではない。
判断者・担当者・説明範囲・実施条件を明確にすることだ。

やるべきことは次の通りである。

  • 作業ボールとして受け取らない
  • 判断未了ボールとしてラベルを貼る
  • 関係者を責めずに守る
  • 情報が食い違ったら上位者に返す
  • 暫定で進める場合は、前提未確定ログを残す
  • 「未定義業務」としてパターン認識する

未定義業務を自分の責任として抱えると削れる。
でも、未定義を未定義として返せるようになると、削れない。

むしろ、周囲まで守れるようになる。

仕事で大事なのは、全部を自分で背負うことではない。
誰が決めるべきことなのかを、正しい場所に戻すことだ。


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