結論:恋愛は人気投票ではなく、探索設計の問題でもある
マッチングアプリで疲れている人に必要なのは、「もっと頑張って1000人見ろ」でも「アプリは全部クソだから捨てろ」でもない。
答えはもっと地味で、もっと工場改善っぽい。
アプリは低頻度の検索機として残し、対面を本戦にする。しかも対面は高額ガチャではなく、無料〜低価格の公的・地域イベントを横断し、1人の有力候補に到達するまでのコストを下げる。
恋愛を人間の格付けゲームにするためではない。むしろ逆だ。写真カードを無限に検品する「人間ECサイトのQC係」から降りて、実際に会話したときにしか分からない相性をちゃんと観測するための設計である。
ここでは便宜上、広告の用語を借りて CPA(Cost Per Acquisition) と呼ぶ。ただし恋愛で「人を獲得する」という意味ではない。この記事でのCPAは、たとえば「相互にまた会いたいと思い、重要な価値観も合う相手との2回目デート1件までに使った総費用」のような、探索コストの比喩である。
1. なぜスワイプ工場は疲れるのか
プロフィールを見て、写真を見て、2枚目を見て、「うーん」、次、次、次。これを数十人、数百人と続けると、恋愛というより入荷検品になる。
この感覚には研究上の裏付けがある。PronkとDenissenの「rejection mind-set(拒否マインドセット)」研究では、3つの研究を通じてオンラインで候補を連続して判断するうち、最初の候補から最後の候補にかけて受容確率が平均27%低下した。重要なのは、「アプリを使うと恋愛成功率が27%下がる」という意味ではないことだ。候補を延々見続ける過程そのものが、より拒否的な判断へ寄せる可能性を示した研究である。
つまり「候補が多い=選択肢が豊か=幸福」という単純な式は成立しない。棚が無限にあると、だんだん全部の棚にケチをつけ始める。スワイプ工場、操業時間を延ばすほど品質判定が厳しくなる可能性がある。
2. 人気集中が起きると、会う前の能力ばかり値付けされる
2025年のオンラインデーティング研究では、445人による5,340件の選択判断を分析したところ、身体的魅力の影響が非常に大きかった。外見的魅力が1標準偏差高くなると選択成功が約20%上昇した一方、知性の同程度の上昇は約2%だった。
またBruchとNewmanは、米国4都市の大規模オンラインデーティング市場で、明瞭な「desirability hierarchy(望ましさの階層)」が形成されることを示している。
ここから言えるのは、「顔がすべて」ではない。会う前に観測しやすい変数が、会う前の市場では異常に強いということだ。
声、テンポ、質問のうまさ、冗談、安心感、相手の話を拾う力、空気を悪くしない力。こうした対面能力は、プロフィールの静止画では値札になりにくい。
したがって、「会えば評価が上がる人」が写真カード市場だけで戦い続けるのは、自分の強い科目を試験範囲から外して受験しているようなものだ。
なお、特定アプリで「上位何%が何%のいいねを独占している」といった正確な分布は、公開データがない限り断言すべきではない。体感をそのまま統計にしてはいけない。
3. 「マッチ数」はかなり虚無なKPIである
10人マッチしても、実際に話したいのが3人、会話が続くのが1人、その1人も重要条件で不一致なら、成果はゼロである。
だから見るべき数字は次だ。
| 段階 | 見る数字 |
|---|---|
| 露出 | 何人を見たか |
| 接触 | 実際に会話したユニーク人数 |
| 興味 | 自分がもう一度会いたい人数 |
| 相互性 | 相手ももう一度会いたい人数 |
| 適合 | 子ども観・結婚観・生活観など重要条件を通過した人数 |
| 行動 | 2回目デートに進んだ人数 |
| 成果 | 継続交際につながった人数 |
いいねは通貨ではない。マッチも売上ではない。
最終KPIに近いのは、「1万円あたり何件の2回目デートが生まれたか」「有力候補1人あたり何円かかったか」である。
4. 子ども観などのハード条件は、後工程に送らない
「子どもを持ちたい/持ちたくない」「結婚意思」「喫煙」「居住地」「家族との距離感」など、本人にとって絶対に譲れない条件があるなら、できるだけ前に出す。
理由は単純で、後で判明するほどサンクコストが大きいからだ。
100人を見る → 10人とマッチ → 3人と話す → 1人と会う → 3回デート → 最重要条件で不一致。
これは恋愛の悲劇というより、探索設計として後工程不良が重すぎる。
ただし、プロフィールだけから相手の精神状態や人格を診断してはいけない。「不安そう」「下っぽい」などのラベル付けは精度も倫理も悪い。見るのは、書かれている価値観・行動・会話で確認できる互換性で十分だ。
5. 会えば強い人は、対面を「本戦」にする
ここで重要な研究がある。Joel、Eastwick、Finkelは、スピードデート参加者から事前に100項目を超える特性・希望を集め、機械学習で「誰が誰を好きになるか」を予測しようとした。
人による「全体的に惹かれやすい/惹かれにくい」傾向や、「全体的に人気が出やすい人」はある程度予測できた。しかし、この二人だから特別に惹かれ合うという関係固有の部分は、事前情報から予測できなかった。 実際に4分間会わせて初めて出るものが残った。
だから対面には価値がある。プロフィールの精密化だけでは回収できない情報がある。
| チャネル | 事前フィルタ | 対面力を使える | 1回の費用 | 主な弱点 |
|---|---|---|---|---|
| マッチングアプリ | 強い | 弱〜中 | 月額型 | スワイプ疲れ・人気集中 |
| 高額街コン | 中 | 強い | 高い | 1回ガチャの損失が大きい |
| 公的・地域の低価格イベント | 中〜強 | 強い | 低いことがある | 抽選・開催頻度 |
| 友人紹介 | 強いことがある | 強い | 低い | 母数が少ない |
| 普通のバー・声かけ | 弱い | 強い | 変動 | 恋人有無・目的確認を全部自前で行う |
アプリを捨てる必要はない。アプリ=検索機、対面=本戦くらいでいい。
6. VIP課金より「実際に10人と話す」方が安いことがある
たとえばwithの男性VIPオプションは、2026年9月確認時点でクレジットカード決済2,900円/月、アプリ内課金3,500円/月。これは有料プランとは別料金である。
新しい登録者を探しやすくする機能などに価値があっても、「並び替えに3,000円前後払う」のと「低価格イベントで数人〜10人と直接話す」のは同じ財布から出る。
会えば強い人なら、追加課金の限界効用は一度疑った方がいい。
もちろんアプリ側にも利点はある。withは規約・ガイドライン上、パートナーがいる人や恋愛・結婚目的でない利用を禁止している。ただし利用規約は、全会員が独身であることを保証するものではないとも明記している。フィルタはあるが完全ではない。
7. 1万円は「高級ガチャ1回」ではなく、小さい試行に分ける
仮に追加予算が1万円あるとする。
悪い使い方は、9,000円のイベント1回に全部入れて、「今日いるかな……」と祈ることだ。
一例としては、
- 1,000円級の自治体イベント × 2回 = 2,000円
- 3,500円級の少人数1対1イベント × 2回 = 7,000円
- 予備費 = 1,000円
合計1万円。
もちろん毎月この価格帯が都合よく4本並ぶ保証はない。これは予算の考え方である。
イベント判定も簡単にしておく。
| 仮ランク | 目安 |
|---|---|
| SS | 無料〜1,500円、独身条件、複数人と実際に話せる |
| S | 〜3,500円、1対1、6人以上と話せる見込み |
| A | 〜4,500円、全員会話か強い趣味フィルタあり |
| 原則見送り | 6,000円超なのに人数・会話方式が不明 |
これは普遍的な正解ではない。交通費、年齢層、参加条件、食事の価値も含めて調整する。
なお高級フレンチは悪くない。相手が決まってから食え。 誰が来るか分からないガチャの参加費に高級フレンチ代を溶かす必要はない。
8. 自治体婚活は「税金を攻略」ではなく、設計通り使う
愛知県では2026年度、あいこんナビ掲載の対象婚活イベントを実施する登録団体に対し、1団体あたり上限20万円の補助制度を実施している。会場使用料、広告料、印刷費、一定の飲食費などが対象になり得る。
これが参加費の安さに直接どこまで反映されたかはイベントごとに違うので断定できない。しかし、公的支援によって参加障壁を下げる市場が存在すること自体は事実だ。
2026年の具体例を見ると強烈である。
- モリコロパークde大規模婚活2026:参加費無料、定員400人。応募2,640人で倍率6.6倍。
- 知多半島で縁むすび(2026年10月25日):25〜39歳の独身男女、男女各20人、参加費1,000円。
- 刈谷の20〜30代向け交流会:男女各10人、1対1対話型、男性3,500円級の掲載例あり。
- 三重県「みえむすび」:登録・システム利用は無料。真に結婚を希望する独身者を対象とし、必要書類を求める。希望して地域サポーターの顔合わせ同席を頼む場合は1回1,000円。
- 名古屋市:2026年11月〜2027年1月頃に婚活イベント計3回を予定していると発表済み。詳細は後日公表予定。
無料イベントは当然人気化する。モリコロの6.6倍は「無料なら無限に行ける」ではなく、「安い案件ほど抽選という別のコストが出る」ことも示している。
対象条件を満たす人が、公的に用意された制度を普通に使うのは何も後ろめたくない。むしろ参加障壁を下げるための制度なのだから、設計通りである。
9. ロングテール戦略は「同じ会場に毎週行く」ではない
低価格イベントを見つけたからといって、同じ主催・同じ地域・同じ年齢層へ毎週突撃すると、参加者が被る。
そこで回す。
県主催 → 市町村 → NPO → 商工会 → 民間補助枠 → 趣味型 → 少人数1対1 → 大規模型。
地域も回す。名古屋だけ、駅前だけ、同じ曜日だけに固定しない。
重要なのは「参加回数」ではなく、新しく実際に話せたユニーク人数である。
ロングテールとは、人気の一つの会場へ通い詰めることではない。小さくて安くて見落とされやすい入口を大量に拾い、母集団を横断することだ。
10. マクロでスワイプを自動化しても、苦痛が後工程へ移るだけかもしれない
面倒になると、いいね送信や閲覧を自動化したくなる。気持ちは分かる。人間ECサイトの検品を毎晩手作業でやりたい人は少ない。
しかし大量送信だけ自動化すると、
自動で接触 → マッチが増える → そこでプロフィールを再確認 → 話したい人だけ選ぶ → メッセージ処理が増える。
つまり、選別工程を後ろへ送っただけになり得る。
さらにサービス規約に反する自動操作はアカウント上のリスクになる。したがって、すすめるのは規約を回避する自動化ではなく、ネイティブの絞り込み、閲覧上限、短時間セッションなどで「そもそも見る母数を減らす」設計だ。
たとえば1回10〜15人見たら終了。同時進行が2人いるなら新規探索を止める。だめなら再開する。
操業停止ボタンは、工場改善の基本装備である。
11. 研究紹介者も市場の外にはいない
恋愛研究を紹介するインフルエンサーや専門家が、マッチングサービスの監修・広告・販売などに関係している場合、その人の説明を即「嘘」と決めつける必要はない。
しかし、どの研究を紹介するインセンティブがあるかは考えるべきだ。
withは過去にメンタリストDaiGo監修として広く宣伝されていた。ただし、そこから「DaiGoがサービスを所有していた」「自社に不利な拒否マインドセット研究を意図的に隠した」とまでは言えない。後者を示す証拠は確認できない。
大事なのは人物攻撃ではなく情報衛生だ。
- 紹介された論文を見る。
- 同テーマのレビューや反対方向の研究も探す。
- 商品との利害関係を確認する。
- 「言ったこと」だけでなく、「その結論の射程」を確認する。
「研究によると27%!」と早口で言われても、何が27%なのかを確認する。それだけでだいぶ事故が減る。
12. 実装するなら、このスコアカードだけでいい
イベントやアプリを使ったら、毎回これだけ記録する。
| 指標 | 記録 |
|---|---|
| 総費用 | 参加費+交通費など |
| ユニーク会話人数 | 実際に一定時間話した人数 |
| 再会希望 | 自分がもう一度会いたい人数 |
| 相互再会 | 相手側も再会希望だった人数 |
| ハード条件通過 | 重要価値観が合った人数 |
| 2回目デート | 実際に成立した人数 |
| CPA2 | 総費用 ÷ 2回目デート人数 |
2回目デートが0件ならCPA2は計算不能なので、「0件」と記録する。無理に数字を作らない。
3〜5回分たまれば、アプリ、自治体イベント、民間街コン、友人紹介のどれが自分に強いかが見えてくる。
一般論より自分の実測値の方が強い。
13. この戦略の限界と倫理
低CPAは「安い人を探す」という意味ではない。出会いの入口に払う無駄なコストを下げるだけだ。
また、恋愛相手は在庫ではない。相手にも選択権があり、こちらも評価されている。だから本当のKPIは「取れた人数」ではなく、相互に気持ちよく次へ進めた人数である。
安いイベントだからといって興味のない相手へ雑に接するのも違う。試行回数を増やすほど、一回一回の礼儀はむしろ重要になる。
そして公営イベントは、年齢・住所・在勤・独身・結婚意思など参加条件がある。必ず条件を確認する。
14. まとめ:スワイプ工場を止め、実際に人と話そう
アプリの問題は、アプリそのものが悪だからではない。
大量候補を高速で査定するゲームと、実際に会ったときの恋愛は、別の能力を測っている。
だから、アプリで強くない人が即「恋愛市場で弱い」と考える必要はない。逆に、アプリで大量マッチしても、その後の互換性がなければ目的は達成しない。
やることはシンプルだ。
- アプリはハード条件で絞る低頻度検索機にする。
- いいね数ではなく2回目デートまでのファネルを見る。
- 会えば強いなら対面を本戦にする。
- 無料〜低価格の自治体・公的・地域イベントを探す。
- 同じ市場を連打せず、地域・主催・形式を回す。
- 1万円を一発ガチャではなく複数試行へ分ける。
- 研究は一次資料まで戻る。
いいねは通貨ではない。高級フレンチは相手が決まってから食え。スワイプ工場は、必要なら止めていい。
参考文献・公式情報
- Pronk, T. M., & Denissen, J. J. A. (2020). A Rejection Mind-Set: Choice Overload in Online Dating. Social Psychological and Personality Science, 11(3), 388–396. https://doi.org/10.1177/1948550619866189
- Witmer, J., Rosenbusch, H., & Meral, E. O. (2025). The relative importance of looks, height, job, bio, intelligence, and homophily in online dating: A conjoint analysis. Computers in Human Behavior Reports, 17, 100579. https://doi.org/10.1016/j.chbr.2024.100579
- Bruch, E. E., & Newman, M. E. J. (2018). Aspirational pursuit of mates in online dating markets. Science Advances, 4(8), eaap9815. https://doi.org/10.1126/sciadv.aap9815
- Joel, S., Eastwick, P. W., & Finkel, E. J. (2017). Is Romantic Desire Predictable? Machine Learning Applied to Initial Romantic Attraction. Psychological Science, 28(10), 1478–1489. https://doi.org/10.1177/0956797617714580
- 愛知県「令和8年度愛知県民間婚活イベント事業費補助金」 https://www.pref.aichi.jp/soshiki/kosodate/konkatuhojyo.html
- 愛知県「モリコロパークde大規模婚活2026」開催結果 https://www.pref.aichi.jp/soshiki/kosodate/konkatsu2026.html
- あいこんナビ「知多半島で縁むすび」 https://aiconnavi.jp/event/detail/12761
- あいこんナビ「愛知県の真ん中で婚活交流会」 https://aiconnavi.jp/event/detail/12667
- 三重県・みえ出逢いサポートセンター「AIマッチングシステムみえむすび」 https://deai-mie.jp/aimatching-miemusubi/
- 名古屋市「令和八年 結婚おうえんキャンペーン NAGOYA八結び」 https://www.city.nagoya.jp/houdou/3003942/3003946/3005098.html
- with「VIPオプションの料金について」 https://support.with.is/hc/ja/articles/5384014443289
- with「コミュニティガイドライン/利用規約」 https://with.is/safety_center/community_guidelines / https://with.is/terms_of_use
