この記事の結論
会社は、従業員に賢くなってほしい。
ただし、多くの場合、それは「会社にとって都合のいい方向に賢くなってほしい」という意味になりやすい。
会社が教えやすいのは、会社に貢献する賢さである。
- 時間を守る
- 報連相する
- 安全ルールを守る
- 品質を上げる
- ミスを減らす
- 改善提案する
- 周囲と協力する
- プロ意識を持つ
- 会社に貢献する
これは大事だ。
でも、それだけでは足りない。
働く人には、会社に貢献する力だけでなく、自分を守る力も必要である。
- 労働条件を見る
- 残業代を見る
- 有休を見る
- 夜勤や長時間労働のリスクを知る
- 市場価値を見る
- 転職先と比較する
- 相談先を知る
- 辞める、逃げる、変える選択肢を持つ
- 会社に尽くすことと人生を混同しない
問題は、この後者が学校や会社の教育で弱くなりやすいことだ。
会社に貢献する教育は、美しい
高校生向けの職場見学資料や、社会人準備のプリントには、よくこういう言葉が並ぶ。
- 会社に貢献しましょう
- 任された仕事に責任を持ちましょう
- プロ意識を持ちましょう
- 周りと協力しましょう
- 社会人としての自覚を持ちましょう
これは、かなり美しい。
働く以上、誠実さは必要だ。
給料をもらう以上、仕事として責任を持つことも必要だ。
遅刻しない、報告する、安全を守る、雑にやらない。
これは社会人として大事である。
だから、こういう教育自体が悪いわけではない。
でも「頑張る場所を選べ」が抜けやすい
問題は、そこにもう一つの教育が足りないことだ。
本来は、こう言うべきだと思う。
頑張ることは大事。
でも、頑張る場所を選べ。
会社に尽くすことだけが正義ではない。
自分の健康、時間、将来の選択肢も守る必要がある。
働く前に労働条件を見る。
残業代を見る。
夜勤や長時間労働の健康リスクを知る。
しんどい時の相談先を知る。
辞める、逃げる、変える選択肢を持つ。
これも、働く人に必要な教育である。
キャリア教育は、本来「会社に尽くす教育」ではない
文部科学省は、キャリア教育を「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」と説明している。
つまり、本来のキャリア教育は、会社に従順な人を作る教育ではない。
一人ひとりが社会的・職業的に自立するための教育である。
会社にどう貢献するかだけでなく、自分の職業生活をどう選ぶか、自分の人生をどう設計するかも含むはずだ。
会社が教えにくい知識がある
会社からすると、従業員に教えたい知識と、教えにくい知識がある。
会社にとってプラスの知識は教えやすい。
- ミスを減らす知識
- 安全に働く知識
- 生産性を上げる知識
- 品質を上げる知識
- チームで働く知識
- 会社に貢献する意識
これは、会社にとっても本人にとってもプラスになりやすい。
一方で、会社が積極的には教えにくい知識もある。
- 労働条件の見方
- 残業代の確認方法
- 有休の権利
- 労働相談先
- 転職市場での自分の価値
- 会社を比較する視点
- 辞める選択肢
- 会社への貢献と自分の人生を切り分ける考え方
これは、本人にとって重要だ。
でも会社から見ると、従業員が交渉力を持つ知識でもある。
だから会社内教育だけに任せると、どうしても偏りやすい。
先生も悪者ではない
では、学校の先生が教えればいいのか。
もちろん、学校で教えるべき部分は大きい。
でも、先生を単純に責めることもできない。
先生自身も、かなり厳しい労働環境に置かれている。
文部科学省の教員勤務実態調査をもとにしたJILPTの整理では、総在校等時間が週50時間を超える割合は、小学校で64.5%、中学校で77.1%にのぼる。また、週60時間以上となる割合も小学校で14.2%、中学校で36.6%とされている。
先生の中には、本当は子どもに教えたくて、子どもの成長に関わりたくて先生になった人もいるはずだ。
でも実際には、
- 授業
- 部活
- 保護者対応
- クレーム対応
- 事務
- 会議
- 校務
- 進路指導
- 地域対応
まで来る。
先生自身が「頑張る場所を選べ」と教える余裕も、制度的な立場も、持ちにくいことがある。
だから先生を責めるだけでは解決しない。
美しい労働観だけが渡される問題
学校の職場見学や企業向け資料では、どうしても美しい労働観が出やすい。
- 働くことは大切
- 社会に貢献する
- 会社で役に立つ
- 任された仕事を頑張る
- プロ意識を持つ
これは間違っていない。
でも、それだけが渡されると危ない。
若者には、次のような防衛力も必要である。
- 会社を選ぶ力
- 労働条件を見る力
- 相談先を知る力
- 健康を守る力
- 報われる苦労と壊れる苦労を分ける力
- 辞める、逃げる、変える選択肢を持つ力
これがないと、若者は「頑張ること」は知っていても、「どこで頑張るか」は分からないまま社会に出る。
本当に必要なのは、職業人教育と労働者防衛教育のセット
本当に必要なのは、2つの教育である。
1つ目は、職業人として働く教育。
- 時間を守る
- 報連相する
- 安全を守る
- 品質を守る
- 約束を守る
- 周囲と協力する
- お金をもらう以上、誠実に働く
これは必要だ。
2つ目は、労働者として自分を守る教育。
- 労働条件を見る
- 賃金と残業代を確認する
- 有休や休憩を知る
- 夜勤や長時間労働のリスクを知る
- 相談先を知る
- 市場価値を知る
- 職場を比較する
- 辞める選択肢を持つ
- 自分の健康と人生を守る
この2つが両方あって、初めてまともなキャリア教育になる。
まとめ
会社に貢献することは悪いことではない。
むしろ、働く以上は大事なことだ。
でも、それだけを教えるのは危ない。
会社に貢献する力と、自分を守る力。
この2つを分けて教える必要がある。
会社は「会社に都合のいい賢さ」は教えやすい。
でも、「会社を相対化できる賢さ」「辞める選択肢を持つ賢さ」「労働条件を見る賢さ」は教えにくい。
だからこそ、学校や公共教育や家庭や個人学習で、自分を守る知識を補う必要がある。
働くことは大事。
でも、会社が人生そのものではない。
会社に貢献する前に、自分の人生を壊さないこと。
これも、若者に教えるべき大事な知識だと思う。
