確かな事実から考え直す方法とは、慣習を法則扱いしないこと
確かな事実から考え直す方法とは、物事をいちばん基本的な事実や制約まで分解し、そこから考え直す方法である。
イーロン・マスク氏の考え方としても知られている。過去の似たやり方を当てはめるだけでなく、基本的な事実まで分けて考え直す、という趣旨で紹介されている。
これを仕事の言葉に直すなら、こうなる。
「前からこうしている」は、理由ではない。 「みんなそうしている」は、正しさの証明ではない。 「上がそう言っている」は、何をどこまでやるか決めることではない。
「社会人なら普通」は、判断基準ではない。
確かな事実から考え直す方法は、慣習を法則扱いしない。
「それ、本当に必要なの?」 「それ、目的に対して最短なの?」 「それ、誰の何を解決しているの?」 「それ、ただ過去のやり方を続けているだけでは?」
こうやって、いったん土台まで戻す。
似た経験を当てはめて考える方法は悪ではない。ただし、古い環境では腐る
似た経験を当てはめて考える方法そのものが悪いわけではない。
過去にうまくいった方法を参考にするのは普通だし、毎回ゼロから考えていたら疲れる。
問題は、環境が変わったのに、昔の似た経験の当てはめをそのまま使い続けることである。
たとえば、昔は電話で面接調整するのが自然だったかもしれない。
でも今は、候補者も企業も忙しい。 メール、カレンダー連携、自動日程調整、チャット、応募管理システムがある。
この状態で、まだ「電話に出ない人は不採用」と言うなら、それは採用成功のための合理ではなく、古い慣習の延命である。
土台となる事実で考えるなら、問いはこうなる。
面接調整の目的は何か?
答えは、候補者が迷わず、負担少なく、確実に面接日程を決められることだ。
そう考えると、電話である必要はない。
むしろ電話は、候補者の都合を奪い、記録が残りにくく、取りこぼしを増やす場合がある。
このように、確かな事実から考え直す方法は「電話が悪い」と決めつけるものではない。
目的から見て、電話が最適かを問い直すものだ。
昔ながらの職場の考え方は、慣習を法則に見せる
職場によく残っている昔ながらの考え方は、だいたい慣習を法則のように扱う。
- 朝早く来る人は偉い
- 電話にすぐ出る人はやる気がある
- 残業している人は頑張っている
- 何でも引き受ける人は評価される
- 上の意図を察するのが社会人
- Excelで人力管理するのが当たり前
- 会議で顔を合わせることに意味がある
- 現場が忙しいのは仕方ない
しかし、土台となる事実で見ると、かなり怪しい。
朝早く来ることの目的は何か。 電話に出ることは成果にどうつながるのか。 残業で役立つ成果を増やしているのか、仕事の組み方の間違いを埋め合わせているだけなのか。 何でも引き受けることで、本当に重要な仕事は進んでいるのか。 上の意図を察する前に、上の人は、何をどこまでやるか言葉で伝えたのか。
こう考えると、昔ながらの職場の考え方の多くは「法則」ではなく「問い直されなかった慣習」だと分かる。
確かな事実から考え直す方法の実務分解
仕事で確かな事実から考え直す方法を使うときは、いきなり哲学っぽく考える必要はない。
次の順番で分解すればいい。
1. 目的
この仕事は、何を達成するためのものか。
例:
- 採用数を増やす
- 応募した人が、迷わず気持ちよく手続きを進められるようにする
- 誰が教えても、必要なことが同じように伝わるようにする
- ミスを減らす
- 判断に必要な情報を集める
- 上司が必要な判断をできる状態にする
ここが曖昧なまま作業に入ると、後から条件を増やされて揉める。
2. 仕事を終える条件
最終的に何があれば終わりなのか。
- Excel一覧
- 報告文
- 判断材料
- 手順書
- 動画
- チェックリスト
- 申請書
- 対応完了状態
「いい感じにまとめる」だけでは、何を作れば終わりなのか分からない。
何を作れば終わりなのか分からない仕事は、いつまで続けるかも決まらない。
3. 判断者
誰がOKを出すのか。 誰が最終判断するのか。 誰に向けて作るのか。
これが曖昧だと、Aさん向けに作ったものをBさんが否定する。
4. 制約
何を守る必要があるのか。
- 期限
- 予算
- 人員
- ルール
- 個人情報
- 法令
- 今使っている道具や仕組み
- 現場の負担
- 上位者の判断
守る条件が分からないと、その中で一番よい方法を選べない。
5. 責任範囲
自分が決めていいことはどこまでか。 自分は作業者なのか、提案者なのか、判断者なのか。
ここが曖昧な仕事は危ない。
決まった仕事を実際に進める側にいる人が、仕事を頼んだり方針を決めたりする側の説明責任まで背負わされるからだ。
6. 最小手数
目的を達成するために、最小の手数は何か。
- 電話ではなく自動日程調整でよいのではないか
- 長い資料ではなく1枚でよいのではないか
- 毎回説明するより手順書化した方がよいのではないか
- 全件対応ではなく例外対応だけでよいのではないか
- 人が頑張るより仕組みにした方がよいのではないか
ここで初めて改善が出る。
確かな事実から考え直す方法を使わない方がいい場面
確かな事実から考え直す方法は強いが、万能ではない。
全部に使うと疲れる。 周囲からも「いちいち面倒な人」に見える。
使わなくていい場面もある。
- お金や時間、体力をあまり使わずに終わる作業
- 失敗しても痛くない仕事
- 単なる儀式としてやればよいもの
- 人間関係上、軽く合わせた方が、得られるものが負担を上回る場面
- いま問い直すと余計に揉める仕事
全部を分解する必要はない。
負担を増やしすぎず使うには、次の場面だけ土台となる事実に戻せばいい。
- お金や時間、体力を多く使う
- 長期化しそう
- 後出しされそう
- 責任範囲が曖昧
- 判断者が複数いる
- 自分の体力や感情が削られる
- 慣習のままだと成果が出ない
確かな事実から考え直す方法は、常時発動する必殺技ではなく、揉めそうな仕事で使う防衛魔法である。
目次に戻る
