Yogiboは売れてる? 店が空いて見える理由と「長持ちする商品」の成長の罠

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AIを8本並列で働かせる。返答待ちの数十秒で別の仕事を投げる。その待ち時間でさらに別件を考える。そして処理が走っている間にショッピングモールへ行く。

ここまで来ると、人間はもう作業者ではない。AI工場のジョブスケジューラである。本人は売り場を歩いているのに、裏では8本の仕事が同時に焼けている。CPUの使用率がおかしいのはパソコンではなく人間側の発想だ。

そんな「待ち時間を絶対に死なせない」モードでモールを歩いていると、逆に気になる店がある。モール全体は土日で大混雑なのに、店内は妙に静か。たとえばYogiboだ。

「前ほど新しい商業施設に必ず入っている感じがしない」「通路は混んでいるのに店内は空いて見える」「結局、今も売れているのか?」。公開情報を確認すると、答えは単純な「売れている/売れていない」の二択ではない。

AIを8並列にすると、人間の仕事は「実行」から「投入」に変わる

従来の仕事は、自分が1個ずつ処理する直列型だった。AIを複数並列で使えると、ボトルネックが変わる。

  1. AI Aに調査を投げる。
  2. AI Bに文章の修正を投げる。
  3. AI C〜Hにも別件を投げる。
  4. 返答待ちに追加タスクを思いつく。
  5. 終わった枠へ即座に次の仕事を入れる。
  6. その間、人間は買い物をする。

つまり「自分が何時間作業したか」より、いくつの仕事を止めずに流し続けられたかが重要になる。人間がワーカーからディスパッチャーへ職種変更している。

しかも皮肉なのは、この話の直後に出てくるYogiboが、まったく逆方向の「待ち時間問題」を抱え得ることだ。人間側は待ち時間を消したい。小売店側は客を待っている。その店員の待機リソースが100%こちらに向くと、客は入りづらくなる。

Yogiboの売上は、少なくとも2020〜2022年には爆発的に伸びた

株式会社Yogiboが採用媒体で公開していた業績では、次の推移が確認できる。

決算期 売上高 経常利益
2020年7月期 95.0億円 13.5億円
2021年7月期 168.0億円 46.9億円
2022年7月期 212.6億円 35.6億円

2020年から2022年までに売上高は約2.24倍になった。一方、2022年は売上が伸びたのに経常利益は前年の46.9億円から35.6億円へ約24%減っている。

ここから言えるのは、「2020〜22年のYogiboは明確な成長局面だった」ことと、「売上成長と利益成長がずっと同じ方向ではなかった」ことまでだ。

逆に、2023〜2026年の現在売上が落ちている、と公開データだけで断定することはできない。Yogiboは非上場企業で、本稿で確認できた公開資料では2020〜22年と同じ粒度で連続比較できる直近の売上・利益系列を確認できなかった。モールで店が空いて見えたからといって、そこから会社全体の売上減少へワープするのは分析ではなくテレポーテーションである。

店舗網は「消滅」ではなく、急拡大後の組み替えに見える

Yogibo公式情報では、2024年2月時点で全国104店、同年7月には106店とされていた。また、日本上陸10周年時点でYogibo Maxだけでも約100万個が購入されたとしている。

一方、2025〜2026年の公式告知を見ると、イオンモール伊丹、常滑、四條畷、春日部、浜松志都呂、天童などを含む退店が確認できる。ここだけ切り取れば「やっぱり縮小してるじゃん」と言いたくなる。

しかし同時に新規出店も続いている。2026年6月にはイオンモール堺北花田、そして2026年9月11日にはイーアス沖縄豊崎が新規オープンしている。9月18日にはひたちなかファッションクルーズの新店予定も公式に案内されている。

したがって、公開情報から最も無理なく言えるのは、全国へひたすら店を足すフェーズから、閉店・移転・新規出店を混ぜながら配置を最適化するフェーズへ移ったように見える、ということだ。

「最近、新しいモールならどこにでもYogiboがある感じではない」という体感とは整合する。ただし、それを全国的な撤退と呼ぶのは強すぎる。

「一回買ったらもういい」が強すぎる――耐久財の成功者の罠

Yogiboの面白いところは、商品が良くて長く使えるほど、本体の次回購入が遠ざかり得ることだ。

毎週買う食品なら、満足した客は翌週また来る。ところが大型ソファは違う。気に入って1個買った瞬間、顧客のステータスが「欲しい人」から「もう持ってる人」に変わる。しかも場所を取るため、2個目、3個目を無限に積むわけにもいかない。リビングをYogibo倉庫にするゲームではない。

日本上陸10年でMaxだけでも約100万個という実績はブランドの大成功だが、同時に巨大な既存保有者層を作ったことも意味する。これはYogibo固有の失敗ではなく、家具、家電、自動車など耐久消費財全般にある構造だ。

ここは仮説として分ける必要がある。公開資料からYogibo本体の平均買い替え年数は確認できないため、「長持ちするせいで現在の売上が落ちた」と因果を断定はできない。ただ、普及が進むほど新規顧客だけに依存した成長が難しくなる、という耐久財の経済構造は確かにある。

そのため企業側には、本体のおかわり以外の理由を作る必要が出る。カバー、補充、リペア、サイズ変更、別用途、別部屋、法人利用などだ。実際、Yogiboはリペアやリサイズを公式に展開し、2026年9月には「より長く愛用」するためのリサイズキャンペーンも行っている。これは「壊れたら全部買い直してね」ではなく、既存ユーザーとの関係を伸ばす方向の施策だ。

店が空いているほど入りづらい「ショールーム逆説」

そして体感として強烈なのがこれだ。

モールの通路は人だらけ。でも、ある店だけ客がゼロ。中には店員が2人。そこで入店するとどうなるか。

店員リソース100%が自分にアサインされた気がする。

「ちょっと見るだけ」が、突然「個別商談」に進化する。ソファに座った瞬間、試座ではなく採用面接の着席みたいな気分になる。「買わないけど触ってみたい」という最も軽い来店目的と、濃密な接客の予感がぶつかる。

これは完全な妄想でもない。小売研究では、販売員が近くに立つことで心理的不快感が増し、条件によって購買意向や実際の支出が下がる結果が報告されている。また、店舗入口付近で販売員が待ち構える状況についても、高圧的な接客を予想して不快に感じる消費者がいるという実験研究がある。さらに別の研究では、買う準備ができていない客への販売圧力を消費者が嫌うことが整理されている。

もちろん、これらはYogibo店舗を直接調査した研究ではない。だから「Yogiboが空いている原因は店員」とは言えない。ただ、客が少ない→店員の存在感が相対的に上がる→自由に試したい客が入りづらい→さらに店が空いて見えるというループは、十分あり得る仮説だ。

Yogiboは特に「実際に座って体験する」価値が高い。公式ストア検索ページも、店頭で直接体験することを強く訴求している。だからショールームが空いているほどショールームとして心理的に使いづらくなるなら、かなり皮肉である。

ただし「店内人数=売上」ではない

ここは重要な反証だ。

Yogiboは公式オンラインストアだけでなく複数のECチャネルを持つ。過去の会社採用資料でもECの重要性を強調してきた。したがって、店で座る、色を見る、サイズ感を確認する、帰宅してからオンラインで買う、という行動は普通にあり得る。

つまり、土曜日の午後に店内3人だったという観察から、「このブランドの売上は終わった」と結論することはできない。店舗は販売場所であると同時に、巨大なビーズソファをネット画像だけでは判断できない人のための体験装置でもある。

見るべきなのは、店舗ごとの来店者数だけではない。全社売上、粗利・利益、EC比率、既存店売上、出退店、リペア利用、リピート率、新規顧客比率などだ。残念ながら非上場企業では、その全部が毎年公開されるわけではない。

AI8並列とYogibo、実は「待機時間」の話だった

最初のAIの話へ戻る。

AIを8並列で回す人は、待ち時間を見つけると別の仕事を詰める。30秒空けば追加ジョブ、5分空けば買い物。待機時間を資源として回収する人間である。

一方、空いている店舗では店員の待機時間が目に見える。そしてその「こちらをいつでも接客できます」という100%空き容量が、場合によっては客に圧として伝わる。

片方はアイドル時間を食い尽くすことで効率化する。

もう片方はアイドル時間が見えすぎると入りづらくなる。

同じ「暇」が、AI運用ではご褒美、小売では圧力になる。ショッピングモールを歩いていたはずなのに、気づけば待ち行列理論と耐久財マーケティングの話になっている。休日の過ごし方としてCPU使用率が高すぎる。

結論:Yogiboは「死んだ」ではなく、「大ヒット後の難しい第2章」に見える

公開情報から整理すると、結論はこうなる。

  • 2020〜22年の売上は大きく伸び、2022年には212.6億円だった。
  • ただし2022年の経常利益は前年から減少した。
  • 2024年には全国106店まで到達し、Maxは日本上陸10年で約100万個に達した。
  • 2025〜26年は複数の退店がある一方、新店・移転・リニューアルも続いている。
  • したがって「全国大量出店の成長期から、店舗網を組み替える成熟局面へ」という解釈はかなり自然。
  • 「一度買えば当分足りる」という耐久財特性は成長の構造的課題になり得るが、それだけで現在の業績悪化を断定はできない。
  • 空いた店舗で接客圧を感じる現象には小売心理学上の根拠があるが、Yogibo固有の原因として実証されたわけではない。

要するに、Yogiboは「誰も買わなくなった謎の店」というより、あまりに認知を取って、あまりに多く売り、しかも商品が何度も買う種類ではないため、その次の成長エンジンが難しくなるブランドとして見ると面白い。

そして客側からすると、空いているYogiboに必要なのは勇気ではない。

「ちょっと座るだけです」という、店員GPUへの負荷制限宣言かもしれない。

出典


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