要約・結論
非正規雇用の賃金が低ければ、直接労務費は下がる。しかし、総コストには採用、入替え、教育、指示、進捗確認、欠勤対応、品質不良、手直し、知識喪失、正社員による責任回収が含まれる。これらを数えなければ、安いのは帳簿上だけになる。
比率だけでは判断できない
非正規が多いこと自体が直ちに悪いわけではない。繁閑差が大きい、定型工程を明確に切り出している、教育が標準化されている、契約範囲が明確である場合は合理性がある。一方、危険なのは次の組み合わせである。
- 入れ替わりが激しい部署がある。
- 基幹業務まで短期人材へ依存する。
- 教育が口頭・属人的である。
- 正社員が毎回、教育と例外処理を回収する。
- 非正規の退職後、知識が残らない。
- 正社員も疲弊し、休職・離職する。
普遍的な「危険比率」は存在しない。見るべきなのは、部署別・雇用区分別の離職率、独力化までの期間、教育工数、品質損失、責任集中である。
教育格差が隠れコストを増やす
厚生労働省の令和6年度能力開発基本調査では、計画的OJTを正社員へ実施した事業所の割合が、正社員以外への実施より高い。[R9] 同省の職業能力開発基本計画も、非正規労働者の能力開発機会が正規労働者より少ないことを課題としている。[R9b]
低賃金の人へ十分な教育をせず、成果だけを求めれば、ミスと確認依存が増える。その回収時間は、正社員の給与へ埋もれて見えなくなる。
総コストで見る式
総人件費 = 直接賃金
+ 採用・入替え
+ 教育・監督
+ ミス・手直し
+ 欠勤・退職の穴埋め
+ 知識喪失
+ 正社員の機会損失
結論
低い時給と、低い運用コストは同じではない。 非正規を使うなら、仕事の切り出し、教育、標準化、責任境界、知識保持まで設計しなければならない。そうでなければ、節約した賃金を、見えない調整費として払い直すことになる。
