デートの予定だった。
たこ焼きもあった。夜ご飯もあった。片付けもしなくてよかった。
なのに帰るころには、こちらの脳内ホワイトボードに「成功条件」「失敗条件」「職務分解」「求人検索軸」が並んでいた。
何しに行ったんだ俺は。
デートの仕様書が途中からキャリア面談へ差し替わっている。
ただ、話としてはかなり面白かった。相手が「今の仕事はもう向いていない気がする」「次をどう考えればいいか分からない」と悩んでいたので、職業名ではなく過去の経験を分解していったら、かなり一貫したパターンが見えてきたからだ。
1. 「この仕事が無理」を「自分は働けない」まで拡張しない
仕事で崩れると、思考は簡単に大きくなる。
「今の職場がつらい」 ↓ 「この職種が向いていない」 ↓ 「自分は仕事そのものに向いていない」
でも、この3つは別の話だ。
JEEDの発達障害者雇用の資料でも、本人の得意不得意に応じて職務を選んだり、指示方法や配置を調整したりする事例が紹介されている。
重要なのは診断名や肩書きから結論を出すことではなく、どんな仕事の構造なら機能し、どんな構造で崩れるのかを見ることだ。
2. 成功体験が3回そろうと「偶然」から「仮説」に変わる
掘っていくと、別々の経験で似た成功条件が出てきた。
- 1対1で相手と話す
- 扱う内容や商品がある程度決まっている
- 事前に勉強して知識を入れられる
- 相手の反応を見ながら説明を調整できる
- 目的やゴールが分かりやすい
- その場で手応えが返ってくる
個別に教える仕事でも、商品説明でも、対面販売でも、この型ではうまくいった。
1回なら偶然かもしれない。
2回なら気になる。
3回以上、違う環境で同じ構造が再現するなら、もう「私はコミュ力あります」みたいな自己紹介より強い。
実績付きの適性仮説である。
3. 「営業向き」「教師向き」では粗すぎる
職種名は雑である。
営業といっても、
「一人のお客さんに商品を説明して、その場で一区切り」
と、
「数十社を並行担当し、見積、納期、社内調整、クレーム、CRM、数字会議を全部回す」
では、ほぼ別競技だ。
教育も同じ。
1対1で決まった内容を説明するのと、多人数を見ながら授業、採点、保護者対応、会議、行事、突発対応を並行するのでは必要な能力が違う。
だから適職探しで見るべきなのは、
職業名ではなく、その仕事の一日が何でできているか。
4. 強みは「名詞」ではなく「条件付きの動詞」で書く
「コミュニケーションが得意」
これだけだと弱い。
むしろ、
既に理解した内容を、1対1で、相手の反応を見ながら、その人向けに言い換えて説明するのが得意
と書く。
かなり長い。
でも長いから使える。
逆に弱みも、
「人間関係が苦手」
ではなく、
圧の強い相手との対立、多人数の同時対応、未完了案件を大量に抱える状況では負荷が上がる
と条件付きで書く。
こうすると求人票と照合できる。
性格診断ではなく、職務設計図になる。
5. 自己申告だけで完成させない
面白かったのは、本人が「相手から話を引き出すのが得意」と言う一方、普段の会話では「そんなに質問してこない人だな」と感じる場面もあったことだ。
これは矛盾ではない。
仕事では役割と目的があるから質問できるが、目的のない雑談では話題を作らない、という可能性もある。
だから適性は、
- 本人の自己評価
- 実際に成果が出た経験
- 周囲から見た行動
- 失敗した状況
- まだ試していない条件
を分けて持った方がいい。
キャリアのナラティブを使う考え方は、過去の経験から「なぜ・どう選んできたか」を整理するのに役立つ一方、質的キャリア評価にはエビデンス上の限界も指摘されている。
要するに、物語は便利だが運命認定装置ではない。
6. 「人を支える仕事」はキラキラだけではできていない
次の候補として福祉系のケースワークが出た。
1対1で話を聞く。困っている人を支える。
表面だけ見ると、かなり強みと重なる。
でも厚生労働省のケースワーカー向け研修教材を見ると、仕事は面接相談だけではない。訪問調査、アセスメント、援助方針の策定、制度実務、さらにリスクマネジメントまで含まれる。
つまり、
「人の話を聞くのが好き」だけで突っ込むと、裏側の並列処理と行政実務に殴られる可能性がある。
これは福祉職が悪いという話ではない。
「人を支える」という看板の裏に、記録、制度、調整、安全配慮、継続ケース管理があるというだけだ。
職業選びでは、この「見えない仕事」を先に見る方がいい。
7. AIにやらせるなら三工程でいい
この手の自己分析はAIと相性がいい。
ただし「私に向いてる仕事を教えて」で一発回答させると、だいたい雑になる。
おすすめは三工程。
第1工程:エピソード収集
成功、失敗、楽だった、異常に疲れた、褒められた、なぜか成績が良かった、全部集める。
第2工程:仮説化
各特徴を、
- 強い可能性
- 弱い可能性
- 条件次第
- 証拠不足
- 反証あり
に分ける。
第3工程:求人照合
求人ごとに、
- 合う条件
- 危ない条件
- 求人票では不明な条件
- 面接で確認する質問
- 入社後に詰まりそうな場所
を出す。
これならAIは占い師ではなく、自分専用のキャリア仮説データベースになる。
8. 給与・勤務地・家族事情は「適性」と別の軸
どれだけ合う仕事でも、給与が足りない、通えない、生活上の制約と両立しないなら選べない。
これは「適職を諦めた」ではない。
制約条件を入れて最適化しているだけだ。
給与も職種名だけでは決まらない。
同じ説明力でも、扱う商材、顧客が個人か法人か、企業規模、専門性、責任範囲によって値段が変わる。
だから、
自分に合う仕事の型 × 現実の条件
で探す。
「理想の仕事を一発で当てるゲーム」ではない。
9. そして気づけば、デートはキャリアデバッグになっていた
最終的に残ったもの。
たこ焼き。
夜ご飯。
片付け不要。
長距離移動。
そして大量の職務分析。
こちらは途中から完全に、
「その仕事、何が嫌だった?」 「逆にうまくいった時は?」 「その時、一対一?」 「ゴール明確だった?」 「その仕事の一日を分解すると?」
になっていた。
もうデートなのか面談なのか分からない。
でも、人の人生を聞いて「この条件では崩れた。でも別の場面では同じ能力がちゃんと働いている」とつなげていくのは、普通に面白い。
結論:適職は職業名ではなく「再現条件」で探す
「教師がダメだったから教育は全部ダメ」 「営業がしんどそうだから営業は全部ダメ」 「人を支えたいから福祉なら全部合う」
こういう大分類は粗い。
見るべきなのは、
何を、誰に、何人に、どれくらい並行して、どんな裁量で、どんなゴールに向けてやるのか。
過去の成功体験から再現条件を抜く。
失敗体験から崩れる条件を抜く。
現実の求人を一日の業務へ分解する。
その3つを重ねると、「向いてる職業を当てる」よりずっと具体的になる。
そして私は、たこ焼きを食べに行ったはずなのに、そこまで考えて帰ってきた。
本当に何しに行ったんだ。
