オンライン転出届、30回NFCして結局役所へ――提出直前で死ぬマイナポータルと「健康診断前に血圧だけ上げる」UX

Androidでマイナポータルの転出届を進め、最初のカード読取は通るのに全入力後の最後の電子署名だけ即エラー。約30回試して結局役所へ行くことになった体験を、2026年8月末の公式障害情報とフォーム設計の原則から検証する12言語記事。

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前提:特定の自治体や個人を攻撃する記事ではない。2026年9月1日にAndroid端末からオンライン転出届を試した匿名の体験を、デジタル庁などの公式資料と照合して「なぜこういう壊れ方があり得るのか」「フォームとして何が最悪だったのか」を整理する。自治体名、住所、転居先、端末型番など個人特定につながる情報は除いている。

1. 全部入力させたあと、提出直前の一発で死ぬ

オンラインで転出届を出そうとした。最初のマイナンバーカード読取は通った。次の読取も通った。氏名や住所、引越しに必要な情報も入力できた。ここまでは「お、役所に行かなくて済む。文明だ」となる。

そして提出直前。最後の本人確認で、もう一度カードをスマホにかざす。

ここだけ通らない。

表示は「読み取りに時間がかかりました。再開してください」という趣旨なのに、体感では1秒にも満たない速度でエラーになる。読み取りに時間がかかったというより、時間概念だけ亜光速である。

しかも一番腹が立つのは順番だ。最初に落ちるならまだいい。全部入力させて、「あとは提出だけです」の地点で落とす。ゲームで言えばラスボスではなく、エンディングを見る直前にセーブデータを疑ってくるタイプである。

2. 置き方を5か所変え、約15回。全体もやり直して、だいたい30回

まず自分を疑った。「カードの位置か?」。スマホ背面の上、中央、少し下、左右。だいたい5か所くらい試した。

それでもダメ。最後の読取だけを約15回。さらに手続き全体を最初からやり直し、もう一周。同じように失敗したので、合計では約30回、スマホにカードをかざす人になった。

ここまでやれば「もう少し位置を変えてみてください」で解決する検証量は超えている。しかも病院など別のカード読取では普段問題がなく、今回の同じ手続きでも前半2回は読めている。

「NFCの置き方が絶対に原因ではない」とまでは言えないが、少なくとも置き方だけを延々疑わせる説明では足りない。

3. なぜ1回目・2回目は通るのに、3回目だけ死に得るのか

見た目は全部「カードをかざす」なので同じ作業に見える。しかしマイナポータルの公式FAQでは、引越しワンストップサービスの中で、ログイン、氏名・住所などの読取、最後の署名付与は別の処理として説明されている。

つまり利用者の指は同じ動きをしていても、裏側では同じ仕事ではない。

  1. ログインのためにカードを読む。
  2. カード内の基本情報を読む。
  3. 申請内容に電子的な署名を付ける。

デジタル庁も新しいマイナアプリの機能を、ログイン認証、基本情報の読出し、電子署名の付与などに分けている。

だから「1回目が読めたのだから3回目も必ず同じように成功する」は成り立たない。逆に言えば、1・2回目が成功して3回目だけ落ちるなら、カードそのものの故障以外の経路も普通に疑うべきということになる。

4. しかも2026年8月末は、事故るには出来すぎた時期だった

今回がさらに面白くないのはタイミングである。

  • 8月25日:従来のマイナポータルアプリなどを統合した新しい「マイナアプリ」が公開された。
  • 8月26日:マイナポータルで、申請最後の署名時にエラーが発生して申請できない障害が16時ごろから21時30分ごろまで発生したと公式に掲載された。
  • 8月27日:Android版アプリの更新で、一部端末の強制終了や、端末認証が繰り返され先に進めない不具合の修正が案内された。
  • 8月28日更新:日本年金機構が、一部Android端末でマイナアプリへ遷移してマイナンバーカードを読む際にエラーになる事象を告知した。
  • 9月1日:今回、Androidで転出届の最後の読取だけ即死。

もちろん、日本年金機構が告知したAndroidの不具合と今回の転出届が同じ原因だったとは断定できない。サービスも処理も完全に同一ではない。ただし、「新アプリ移行直後」「Android」「アプリへ遷移してカード読取」「最終署名」という近い経路で公式の不具合や障害が複数出ていたことは、単なる妄想ではなく確認できる事実である。

要するに事故カレンダーが綺麗すぎる。

5. 「5秒以上かかることがあります」なのに1秒未満で時間切れ判定

行政側の別のオンライン申請案内では、スマホでマイナンバーカードを読むのに5秒以上かかる場合があるので、読取完了まで接触させたままにするよう案内されている。

マイナポータル側のAndroid向け案内も、端末の読取位置へカードを当てて、動かさず待つことを求めている。

だったら利用者は待つ。5秒でも10秒でも待つ。

ところが今回の体感は、待つ以前にエラーが飛んでくる。「読み取りに時間がかかりました」と言われても、こちらとしてはまだ時間をかける権利すら与えられていない。

この挙動なら、実際にはNFCの物理読取が5秒待って失敗したのではなく、アプリ間の受け渡し、署名処理の開始、状態管理など前段階で失敗し、その失敗を雑に「読み取りに時間がかかった」と表示していた可能性も考えられる。外から原因は確定できないが、少なくともエラーメッセージは利用者が取るべき行動を教えていない。

早押しクイズの不正解判定だけ先に飛んでくる。

6. みんなはできてるの?――全面停止ではない。でも事故報告は実在した

マイナポータル全体が止まっていて誰も転出届を出せなかった、という証拠はない。正常に完了した利用者も当然いる。

一方で、公開直後の新アプリについてAndroid固有のカード読取エラーや強制終了などが公式に告知され、マイナポータル本体でも「申請最後の署名」で障害が起きた記録がある。

したがって今回を「お前のカードの置き方が下手なだけ」で処理するのも雑すぎる。

現実に近い言い方は、全面障害ではないが、端末・アプリ・処理経路によって失敗し得る時期に当たった可能性がある、である。

利用者からすれば、そこまで原因切り分けをする義務はない。「役所へ行かなくていいサービス」を使って、30回カードをかざし、最終的に役所へ行く。結果だけ見れば、デジタル化が役所への遠回りルートを自動生成した。

7. 本当に悪いUXは「エラーが出たこと」ではなく「最後に出したこと」

障害ゼロのシステムは作れない。NFCも端末差もある。署名処理も複雑だ。だから「一度エラーが出た」という一点だけなら、まだ事故として理解できる。

問題は、失敗コストを最大化する設計になっていることだ。

長いフォームでは、途中保存や再開、入力値の保持、重要な外部機能の早期チェックが効く。米国政府のデザインシステムは複雑なフォームで保存・再開を検討するよう勧め、英国政府のデザインシステムはエラー表示時にも入力値を保持し、サービス側の問題なら利用者の入力ミスのように扱わないことを重視している。

一般的な使いやすさの原則でも、エラーを可能な限り予防し、起きた場合は何が起きたか、どう回復すればいいかを示すことが基本になる。

今回の体験は逆だった。

全部入力 → 最終認証 → 即死 → 「再開してください」 → 何を直せばいいか不明。

これは単なるカード読取エラーではなく、失敗したときの設計が弱い。

8. 最低限こうしてほしい――「もう十分です」ボタンをくれ

この種のフォームで欲しい改善は派手なAIではない。かなり地味でいい。

  1. 最初に最終署名まで動くか事前チェックする。 長文入力前に「この端末で署名処理まで行けそうか」を確認できれば損失が小さい。
  2. 入力内容を自動保存する。 最終認証で落ちても、そこから再開できるようにする。
  3. エラーを段階別にする。 NFCを検出できないのか、カード認証に失敗したのか、アプリ連携なのか、署名処理なのかを可能な範囲で分ける。
  4. 即時エラーなら「置き方」の説明だけを出さない。 0.x秒で死んだのに「5秒動かさず待ってください」だけでは話が噛み合わない。
  5. 一定回数失敗したら別ルートを示す。 「再起動」「アプリ更新確認」「別端末」「窓口手続き」など、次の行動を一画面にまとめる。
  6. 障害情報と手続き画面をつなぐ。 既知のAndroid障害があるなら、利用者がFAQ発掘ゲームをしなくてもその場で分かるようにする。

そして個人的には、15回くらい失敗した時点で画面から

「もう十分試しました。あなたの置き方だけを責める段階ではありません」

と出してほしい。行政サービスに褒められたいわけではない。ただ、30回目まで同じ説明を投げてくるよりははるかに賢い。

9. そして直後は健康診断――血圧を測る前に行政ストレステストを開催するな

この日の最悪の追加条件は、直後に健康診断があったことだった。

日本高血圧学会の資料では、診察室で血圧を測る前に静かに座って休み、測定中に話さないなど、測定条件を整えることが勧められている。

怒りや緊張で一時的に血圧が変動すること自体は珍しくない。だから「マイナポータルが高血圧を作る」という話ではない。そうではなく、血圧測定直前に30回のNFC再試行イベントを入れるスケジュールが最悪なのだ。

オンライン化の目的:役所へ行く時間を減らす。

実際の成果:

  • オンラインで入力する。
  • NFCを約30回試す。
  • イライラする。
  • 結局役所へ行く。
  • その前に健康診断で血圧を測る。

最後に生成されたデジタル成果物が一時的な血圧上振れだったら悲しすぎる。

10. 結論――デジタル・トランスフォーメーションではなく、デジタル・遠回り

今回の一番おもしろくて、一番ダメな点は「マイナンバーカードが読めなかった」ではない。

読めた。2回も読めた。全部入力もできた。それなのに最後だけ死んだ。

だから利用者は自分の置き方を疑い、端末を疑い、再起動を考え、何度もカードをかざす。そして「オンラインなら役所へ行かなくていい」というサービスの最後で、役所行きを決断する。

2026年8月末には、新マイナアプリ移行直後のAndroid不具合や、マイナポータルの最終署名障害が実際に公式告知されていた。 今回の個別原因までは断定できないが、利用者が「俺だけか?」と自責する必要もない。

行政手続きのオンライン化は、成功率だけでなく、失敗したときに時間を返せる設計まで含めて完成する。

「役所へ行かなくて済む」を売るなら、少なくとも

全部入力 → 最後で死亡 → 30回NFC → 結局役所

という隠しルートだけは削除してほしい。

それはデジタル・トランスフォーメーションではない。

デジタル・遠回りである。

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