サモエドカフェ、マクドナルドかよ。と思ったら美容院まで始まりそうだった

東京で見た。名古屋にもいる。地方へ行っても、カフェや店先で巨大な白い犬がぬるっと視界に入ってくる。

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1. サモエド、最近どこにでもいない?

東京で見た。名古屋にもいる。地方へ行っても、カフェや店先で巨大な白い犬がぬるっと視界に入ってくる。

「サモエドってそんなに街にいる犬だったっけ?」

数年前まで、サモエドは「ネットで見る白い巨大モフモフ」という印象が強かった。それが今は、サモエド専門カフェという業態までできて、しかも複数ブランドが増えている。

もはや珍獣との遭遇ではない。出店の仕方だけ見れば「次の交差点にもサモエドあるんじゃないか」という勢いである。

ただし、全国共通の一社フランチャイズが日本を白い毛で埋め尽くしているわけではない。複数企業がそれぞれサモエド専門店を展開している。つまり「サモエドカフェ」というカテゴリ自体ができた、と考えた方が近い。

2. 「急に増えた気がする」は、かなり正しい

最大手の一つである Samoyed cafe AL は、2023年9月に東京・駒沢で1号店を開いた。2026年9月29日時点の公式店舗一覧には、札幌、仙台、川越、駒沢公園、上板橋、浅草、芝浦、町田、立川、横浜中華街、鎌倉、名古屋栄、京都河原町、奈良、大阪北堀江、神戸の16店舗が並ぶ。

3年で1店から16店。

そりゃ「最近やたら見るな」という感覚になる。

運営会社は2024年の発表で、当時の全国11店舗が「ほぼ満席」と説明している。これは運営会社自身の発表なので第三者統計ではないが、その後も店舗数が増えている事実と合わせると、少なくとも事業として拡大できる程度の需要が存在したことは分かる。

また、SHIBUYA109 lab. の2024年トレンド予測でもサモエドカフェが取り上げられ、韓国での流行から日本へ入ってきた新しい体験型業態として紹介されていた。

要するに、昔から全国にあったものを急に認識したわけではない。本当にここ数年で増えた。

3. 客が買っているのはコーヒーではなく「大型犬を50分だけ飼う権利」

料金を見ると、一瞬ひるむ。

AL札幌店では50分が事前予約で平日2,500円、土日祝2,900円。店舗によっては散歩などの追加メニューもある。

普通のカフェとして考えれば高い。

でも、そもそもコーヒー屋ではない。

客が買っているのは、巨大な犬に触る、囲まれる、写真を撮る、遊ぶ、場合によっては散歩する、という「大型犬との短時間生活」である。

大型犬を自宅で飼うには、住居の広さ、ペット可物件、毎日の散歩、医療費、食費、毛、旅行時の預け先など、かなり大きな固定費が発生する。

その全部はいらない。

でも、でかいモフモフには埋まりたい。

この需要に対して「50分だけどうぞ」と切り出したのがサモエドカフェだと考えると、2,500円前後という価格の見え方はかなり変わる。

所有ではなく体験を売っているのである。

4. なぜ大型犬の中でもサモエドなのか

サモエドは、店頭商品のように言うのは犬に失礼だが、体験型店舗との相性が異様にいい。

まず、白い。

そして、でかい。

さらに、毛量がすごい。

黒い目と鼻が白い顔の中ではっきり見え、口角が上がって見える「サモエド・スマイル」まである。ジャパンケネルクラブも、友好的で開放的、活き活きとしており、たいへん社交的な犬種と説明している。

写真を一枚撮るだけで「白い巨大毛玉に囲まれている人」という絵が成立する。

SNS時代には強すぎる。

猫カフェなら「猫がいる」。

普通の犬カフェなら「犬がいる」。

サモエドカフェは「白い雲が十匹くらいこっちを見ている」。

説明不要である。

ただし、「賢くて人懐っこいから管理も楽」というわけではない。サモエドは厚いダブルコートで抜け毛が多く、AKCは日常的なブラッシングを推奨している。運動と人との交流も必要で、長時間放っておいて成立する犬ではない。

接客との相性は良い。

維持管理は全然軽くない。

5. 高い。でも「無料サモエド」がたまに強すぎる

ここで一つ問題がある。

店の外で、スタッフやブリーダーらしき人がサモエドを何匹も連れて散歩している瞬間に遭遇すると、かなり満足してしまう。

白い巨大毛玉が五匹、ぞろぞろ歩いている。

料金、0円。

入店時間、0分。

予約、不要。

大型犬は「触る」だけでなく「歩いているところを見る」時点ですでにイベント性が高いので、店外遭遇だけで満足する層も普通にいるはずだ。

それでも有料カフェが成立するのは、偶然の遭遇では得られない「確実に会える」「近距離で触れ合える」「写真が撮れる」「複数頭に囲まれる」という体験を予約可能にしているからだろう。

無料の散歩見学は強い。

しかし供給が不安定すぎる。

6. 心配なのは「急拡大チェーンあるある」を犬でやること

飲食店なら、急拡大して店舗数が多すぎたと分かれば、閉店して設備を売り、物件を返すことができる。

しかしサモエドカフェには、閉店後もご飯を食べ、散歩し、病院へ行き、十年以上生きる犬がいる。

だから「売れたから一気に店舗を増やす」という普通のチェーン戦略を、そのまま動物ビジネスへ持ち込むのは危ない。

いわゆる「急拡大して、あとで一気に縮小」のパターンになったとき、店舗は閉められても犬は閉められない。

重要なのは、出店数そのものより、

  • 客から離れて休める場所があるか
  • 犬が触られ続けない仕組みになっているか
  • 十分な散歩、運動、睡眠を確保できるか
  • 被毛、皮膚、爪、耳、歯などの日常管理が回っているか
  • 病気や高齢化で接客できなくなった犬をどうするか
  • 閉店時の犬の生活まで計画されているか

である。

「いきなりステーキ化」は店なら笑い話になることがあるが、犬でやると笑えない。

7. 犬には人権も労働法もない。だから人間側が優しくするしかない

犬は「今日は接客しません」と労働契約を解除できない。

有給休暇も申請できない。

労働基準監督署にも行けない。

客が多すぎても、犬自身がシフト表に「×」を入れることはできない。

だから、店側が先回りして休ませるしかない。

ここで少し変な法律の話になる。

日本の民法85条は「物」を有体物と定義し、86条は不動産以外の物を動産としている。法体系上、動物は権利主体ではなく、民法上は動産として扱われる。

つまり雑に言えば「法律上は物」。

しかし、そこで話は終わらない。

動物愛護管理法は、動物を「命あるもの」と認識し、習性を理解して適正に取り扱うことを基本原則としている。展示動物の基準でも、必要な運動、休息、睡眠を確保し、本来の習性が発現できるようにすることを求める。犬や猫を長時間展示する場合は、自分で休息設備へ移動できる状態を確保し、それが難しければ6時間を超えるごとに展示しない時間を設けるという具体的な基準もある。

だから、

「法律上は物だから物みたいに扱っていい」

ではない。

むしろ、

「本人が権利を主張できない生き物だから、人間側に管理責任がある」

という方向で考えた方が実態に近い。

サモエドに人権はない。

だからこそ、人間が勝手にホワイト企業にしてあげてほしい。

犬だけに。

8. そして気づく。「これ、美容院もできるのでは?」

サモエドカフェを何店舗も運営するなら、毎日とんでもない量のブラッシングが発生する。

シャンプーする。

乾かす。

抜け毛を取る。

毛玉を見る。

爪を切る。

耳を見る。

足回りを整える。

お尻も整える。

これを毎日やっていたら、会社の中に「サモエドを仕上げる技術」がたまっていく。

実際、サモエドカフェ moffu は2026年の求人でトリマーを募集し、シャンプー、ブロー、部分カット、桃尻カット、日々のブラッシング、毛玉・抜け毛管理、爪切り、耳掃除、肉球ケア、皮膚・被毛チェック、他店舗への技術指導などを業務として挙げている。

もうほぼ答えが出ている。

カフェが自社犬のために持っていたコストが、専門技術になっている。

ならば将来的に、

サモエドカフェ → サモエド専門グルーミング → 大型犬向けホテル → ケア用品 → 飼育相談

という垂直統合はかなり自然である。

「サモエド専門美容院」である。

美容院かよ。

9. 外部犬向けサービスは、むしろ健全な拡張になり得る

これは店舗を増やす方向とは少し違う。

カフェの売上を増やすために犬をさらに増やすのではなく、すでに社内にある専門技能を外部の飼い主へ売る。

その方が、犬の頭数を際限なく増やす必要がない。

しかも一般のトリミング店で「大型犬も対応できます」と言われるより、「毎日サモエドを何頭も手入れしている人が担当します」の方が、サモエドの飼い主には分かりやすい専門性になる。

もちろん、外部の犬を預かってトリミングを行うなら、日本では第一種動物取扱業の「保管」に当たるため、必要な登録や設備、人員を整える必要がある。

でも方向性としては合理的だ。

犬を追加して売上を増やすのではなく、犬を大切にするために蓄積した技術を売上に変える。

こっちの方がきれいである。

10. サモエドカフェが本当に定着するかは「犬が嫌にならない店」を作れるかで決まる

サモエドカフェが伸びた理由は分かりやすい。

大型犬を飼えない人は多い。

でも大型犬には触りたい。

サモエドは白く、巨大で、社交的で、写真でも動画でも一発で価値が伝わる。

韓国で成立した体験型業態が日本に入ってきて、SNSと相性よく拡大した。

ここまでは、かなり合理的である。

問題は、その成功を見て店舗と犬をどこまで増やすかだ。

サモエドカフェが長く続くなら、理想は「犬が働かされる店」ではなく、「犬が普通に暮らしていて、その生活に人間がお邪魔する店」に近づくことだと思う。

犬にシフト希望は聞けない。

だから、休みたい犬が勝手に奥へ行ける店にする。

犬に退職届は書けない。

だから、高齢になった後の生活まで人間が先に決める。

犬に労働法はない。

だから、人間が勝手に労働環境を良くする。

そして毎日のブラッシングで異常に技術が上がったら、そのまま美容院もやる。

最終的に、

「サモエドカフェ、全国にありすぎ。マクドナルドかよ」

から始まった話が、

「犬の福利厚生を最優先にしたサモエド総合サービス会社」

に着地する。

何の会社なんだ。

でも、犬が幸せならそれでいい。

出典

  1. Samoyed cafe AL 公式店舗一覧: https://samoyed.jp/member.html
  2. 株式会社クラウドエヌ、2023年9月の1号店開業発表: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000023.000039422.html
  3. 株式会社クラウドエヌ、2024年時点の全国11店舗・需要に関する発表: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000038.000039422.html
  4. Samoyed cafe AL 札幌店料金: https://samoyed.jp/sapporo
  5. SHIBUYA109 lab. トレンド予測2024: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000269.000033586.html
  6. ジャパンケネルクラブ「サモエド」: https://www.jkc.or.jp/breeds/samoyed/
  7. American Kennel Club「Samoyed Dog Breed Information」: https://www.akc.org/dog-breeds/Samoyed/
  8. e-Gov 法令検索「民法」第85条・第86条: https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  9. 環境省「動物愛護管理法の概要」: https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/1_law/outline.html
  10. 環境省「展示動物の飼養及び保管に関する基準」: https://www.env.go.jp/hourei/18/000273.html
  11. 環境省「動物の展示又は輸送の方法に関する事項」: https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/r0305a/03_5.pdf
  12. サモエドカフェ moffu トリマー求人: https://en-gage.net/user/search/desc/16707679/

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