『進撃の巨人』エレンは父の過去を見たのに、なぜ父は未来のエレンを見た?記憶の因果ループ

作品:『進撃の巨人』

進撃の巨人の未来視と、エレン&ジークのグリシャ記憶ツアーは矛盾する?第90・120〜121・139話を手掛かりに、過去の記憶、未来の記憶、始祖の力、父子の因果ループを整理する。最終話までネタバレあり。

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「進撃の巨人は未来を見られる」。なるほど、主人公専用の中二病性能だ。では、なぜ未来を見るはずのエレンが、ジークと一緒に父グリシャの過去を見ていたのか? ここで一瞬、設定が自分の尻尾を食い始める。

答えは、過去の継承者の記憶を見る仕組みと、進撃の巨人に固有の「未来の継承者の記憶を見る」特性が両立しているから。さらに第120〜121話の記憶巡りには、始祖の力と「道」が関係する。問題は能力の矛盾というより、親子の記憶が時系列を無視して接続されたことだ。

過去の記憶を見るのは進撃だけの裏技ではない

九つの巨人の継承者は、以前の継承者の記憶に触れることがある。一方、グリシャが明かす進撃の巨人の特性は、後の継承者の記憶まで見られること。つまり「過去を見るエレン」と「未来を見るグリシャ」は同時に成立する。ここでの未来視は、カレンダーを好きな日付に進めて全イベントを確認できる万能機能ではない。見えるのは記憶の断片で、何をどこまで知るかには偏りがある。

ジークの「父親の記憶ツアー」が予想外の親子面談に

第120〜121話でジークは、エレンが父に洗脳されたと証明したくて、グリシャの過去を巡る。しかし礼拝堂でフリーダ・レイスから始祖の巨人を奪う場面では、ためらうグリシャを未来のエレンが後押しする。

重要なのは、エレンとジークが過去へ肉体ごと旅行したと説明する必要がないこと。二人は「道」で父の記憶を見ている。そしてグリシャは、未来のエレンが見ている光景を記憶として受け取ることで、そばにいるジークを認識できた、と解釈できる。タイムマシンではなく、未来の息子の視点を父がのぞく恐怖の家族共有アルバムである。どの記憶がどう届いたかの細部には考察の余地がある。

ヒストリアの手にキスした瞬間、未来が逆輸入された

第90話の勲章授与式では、エレンがヒストリアに触れたことでグリシャの記憶が開く。厄介なのはその中身。父が見ていたのは、後の継承者である未来のエレンの記憶でもあった。

記憶の流れを一行にすると、未来のエレンの記憶 → 過去のグリシャが見る → 若いエレンが父の記憶を通じて見る。自分の未来を直接ライブ配信しているのではなく、いったん父の脳内を経由して受信する。未来予知というより、差出人も受取人も自分の家族という、とんでもない転送メールだ。

最大のツッコミ:父を動かさないと、自分がその力を継承できないのでは?

その通り。グリシャがレイス家から始祖を奪い、後にエレンへ巨人の力を託したから、エレンは未来の記憶巡りに到達できる。ところが、グリシャが始祖を奪う決断には未来のエレンが関わっていた。

これは「最初の一周があって、二周目で歴史を書き換えた」と考えると苦しくなる。最初から未来のエレンの働きかけを含んだ一つの歴史だったと読むほうが、描写に合う。原因が結果を生み、その結果が過去の原因を支える「因果ループ」である。「では第一周のエレンはどうやって生まれた?」と聞きたくなるが、この読み方にはそもそも第一周が存在しない。疑問の答えが「ループに入口がない」なの、設定の中二病を突き抜けて哲学である。

最終話のダイナまで進むと、怖さのジャンルが変わる

第139話では、始祖の力が過去と未来を同時に扱うような時間感覚とともに、エレンがダイナ巨人をベルトルトから遠ざけたことが語られる。その結果、母カルラが食べられた出来事にエレン自身の関与が生じる。これは「進撃の巨人だけで自由に過去を編集できる」という話ではなく、始祖の力をめぐる、さらに別の時間干渉として分けて考えたい。

自由を求める少年が、未来を知り、過去の父を動かし、ついには自分の出発点にまで関わっていた。ジークは「父の洗脳を暴くぞ」と家族の記憶を見せたつもりが、弟の歴史成立に協力してしまった。親子カウンセリングを開いたら、宇宙の因果関係が参加してきたのである。

参照した描写・資料

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