想定slug: can-pets-learn-cute-as-their-name
毎日、犬や猫へ何十回も「かわいい」と言っていると、その動物は「自分の名前はかわいいだ」と思うのだろうか。
結論から言えば、
「かわいい」という音が自分へ注意を向ける呼びかけだと学ぶことは十分あり得る。
一方で、
「自分は美的にかわいい存在である」と、人間の形容詞概念や自己評価まで理解している証拠はない。
ここでは「名前」を二つに分ける必要がある。
- 人間社会で登録・命名された正式名
- 動物にとって「自分へ向けられた合図」として機能する音
犬猫が学ぶのは、まず2の機能である。
名前は音だけでなく、注目・視線・接触・報酬の束として学ばれる
飼い主が、
ポチ
と言うときに何も起こらず、
かわいい〜
と言うたびに、
- 犬を見る
- 笑顔になる
- 高い声を出す
- 撫でる
- 抱く
- おやつを与える
- 遊ぶ
という出来事が続くなら、「かわいい」は強い予告信号になる。
動物側から見ると、
この音の後、自分へ人間の注意が向く
という規則性がある。
正式な戸籍や固有名詞という制度を理解しなくても、呼びかけとして学習できる。
したがって、
ポチ:ときどき聞く
かわいい:一日に何十回も聞き、毎回自分へ視線と接触が来る
なら、行動上は「かわいい」の方が実質的な呼び名になり得る。
猫は自分の名前と他の単語を音として区別できる
2019年の研究では、家庭猫は、同じ長さ・アクセントの一般名詞や同居猫の名前を繰り返し聞いて反応が弱くなった後、自分の名前を聞くと反応が戻る傾向を示した。
家庭猫は、飼い主だけでなく見知らぬ人が発音した場合でも、自分の名前と一般名詞を区別した。[6]
ただし、この研究が示したのは、
- 自分の名前の音声パターンを区別できる
- 日常の結果と関連づけている可能性がある
ということである。
「これは私という自己を指す固有名詞である」と、人間と同じ概念で理解していることまでは証明していない。
論文自体も、名前が食事、遊び、撫でること、入浴、通院など、良い出来事と嫌な出来事の両方に関連づけられている可能性を挙げている。
興味深いことに、猫カフェの猫は一般名詞と自分の名前は区別したが、同居する他の猫の名前と自分の名前を明確に区別しなかった。
多数の猫の名前が呼ばれ、別の猫が近づいても撫でられる環境では、各名称と一個体の対応が家庭より曖昧になる可能性がある。
猫は「誰が話しているか」と「自分向けの話し方」も区別する
猫は名前だけでなく、飼い主の声も区別できる。
2013年の研究では、猫は見知らぬ複数人の声へ慣れた後、飼い主の声で反応が戻った。主な反応は鳴いて返事をすることより、耳や頭を動かす定位反応だった。[7]
2023年の研究では、室内飼育猫16頭が、飼い主による猫向け発話と成人向け発話を区別した。一方、見知らぬ人の声では同様の区別が明確に出なかった。[8]
つまり猫は、単語の辞書的意味だけでなく、
- 誰の声か
- 自分へ向けた声か
- どんな話し方か
- その後、何が起きるか
の組み合わせを学んでいる。
犬は単語とイントネーションを別々に処理する
2016年の犬のfMRI研究では、犬の脳は、意味のある語とイントネーションの情報を別々に処理し、褒め言葉と褒める調子が一致したときに報酬関連領域の活動が強くなった。[9]
この結果は、「犬が人間の言語を人間と同じように理解する」という意味ではない。
しかし、
- 何を言ったか
- どういう調子で言ったか
が、完全に一つの音の塊として処理されているわけではないことを示す。
「かわいい」を毎回高く明るい声で言えば、犬は語の音と褒める調子の両方から、その場面を予測できる。
一部の犬は物の名前を多数覚えるが、すべての犬に同じ能力があるわけではない
有名なボーダーコリーのRicoは、200以上の物体名を区別し、新しい単語を除外法で推測した。[10]
その後の研究でも、ごく一部の「Gifted Word Learner」と呼ばれる犬は、遊びの中で新しい玩具名を短期間に学び、数か月から数年保持することが示されている。[11][12]
しかし、これは一般的な犬すべての能力ではない。
2021年の研究では、少数の特別な犬は新しい物体名を学べたが、一般的な家庭犬20頭では同じ証拠が得られなかった。[13]
多くの犬が「散歩」「ごはん」「おやつ」「待て」へ反応することと、何百もの物体ラベルを人間の単語のように扱うことは同じではない。
日常語への反応には、単語そのものだけでなく、
- 時刻
- 飼い主の立ち上がり
- リードの音
- 視線
- 手の動き
- 玄関へ向かう方向
- 文全体の抑揚
が含まれる。
「かわいい」が名前になるには何が必要か
「かわいい」が実質的な呼称として学ばれやすい条件は、次のとおりである。
個体へ一貫して向けられる
家の犬だけを見て「かわいい」と言う。
家族全員やテレビの動物へ同じように言うと、特定個体との結びつきは弱くなる。
高頻度で使われる
正式名より頻繁に聞く。
言った直後に注意が向く
視線、接近、撫でる、遊ぶなどが続く。
音の形が比較的一貫している
毎回、似た声の輪郭で使われる。
他の語と区別できる
雑談の中で「かわいい」を大量に使うだけでなく、直接呼びかける場面がある。
この条件がそろえば、動物は、
「かわいい」という音=自分へ働きかけが来る
と学びやすい。
人間語で「自分の名前はかわいい」と訳しても、内的概念は分からない
犬が「かわいい」で振り向き、近づき、尻尾を振るとする。
その行動から言えるのは、
- 音を識別している
- 自分に関係する結果を予測している
- 注目や報酬を期待している
程度である。
次は分からない。
- 「かわいい」が形容詞だと知っている
- 美しさの社会的基準を理解している
- 自分の容姿を評価している
- 自尊心が高い
- 鏡像と自己を対応させている
人間語に雑に訳せば、
「かわいいって聞こえた。今、自分に話してる」
に近い。
「私の正式名称は“かわいい”であり、私は美的価値が高い」
とまでは言えない。
本名と愛称は動物にとって競合するとは限らない
人間でも、
- 苗字
- 下の名前
- あだ名
- 家族内の呼称
- 役職
- ハンドルネーム
へ反応できる。
犬猫も、複数の音と場面を学習できる。
ポチ
ポッちゃん
かわいい
ちび
おいで
が、それぞれ少し違う状況を予告している可能性がある。
このため、「かわいい」を覚えたら本名を忘れる」と単純には言えない。
ただし、確実に反応してほしい指示や緊急時の呼び戻しでは、短く明瞭で、一貫した語を使い、さまざまな場所で練習する方がよい。
名前への反応は愛情の証明でも服従の証明でもない
呼んでも来ない猫が、名前を理解していないとは限らない。
2019年の名前識別研究でも、猫の反応は主に耳や頭の動きだった。[6]
認識と実行は別である。
- 聞こえた
- 自分に関係すると分かった
- しかし近づく利益がない
- 眠い
- 警戒している
- 別の刺激へ集中している
ことがある。
犬も、言葉を聞き分けても、その場の動機、興奮、恐怖、環境刺激によって行動しないことがある。
「分かっている」と「従う」は別の能力である。
かわいいと呼ばれ続けた動物は、人類全員が名前を知っているように見える
来客が犬を見て「かわいい」と言い、犬が即座に振り向いて近づけば、
知らない人まで自分の名前を知っている
ように見える。
実際には、日常的に強化された音が、偶然、来客もよく使う一般語だったという構造である。
この現象が面白いのは、「正式名」と「機能する名前」が一致しないことを示すからである。
動物にとって名前は、役所の記録より、自分へ何が起きるかを予告する音である。
FAQ
犬が「かわいい」で振り向けば、自分の名前だと思っていますか
呼びかけ信号として学んでいる可能性はある。ただし、固有名詞という人間の概念を理解しているかは分からない。
猫は本名よりあだ名を覚えますか
頻度、声、結果との関連が強い音を覚える可能性がある。猫の名前識別研究では、普段あだ名で呼ばれている場合、そのあだ名を刺激として使った例もある。[6]
たくさんのあだ名を使うと呼び戻しが弱くなりますか
日常の愛称と、訓練上の呼び戻し合図を分ければよい。安全に関わる合図は、一貫した一語をさまざまな環境で強化する。
