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導入:エアロバイクって、何で重くなるの?
ジムでエアロバイクに乗ると、負荷レベルを上げた瞬間にペダルが重くなる。
筋トレマシンならわかりやすい。
重りを増やす。ワイヤーで引く。だから重い。
でもエアロバイクは、見た目には重りが増えていない。
ただペダルをこいでいるだけなのに、レベルを上げると急に重くなる。
さらに、Precor(プリコー)のようなジム用バイクだと、コンセントにつながっていないように見える機種でも画面がつくことがある。
ここで疑問が出る。
エアロバイクは、漕いで発電しているのか? 負荷は電気で作っているのか? それとも、内部で何かがブレーキをかけているのか?
結論から言うと、エアロバイクは「重りを増やす機械」ではなく、回転にブレーキをかける機械である。
結論:エアロバイクの負荷は「ブレーキの強さ」
エアロバイクの内部では、基本的に次のようなことが起きている。
ペダルをこぐ
↓
ベルトやチェーンで回転が伝わる
↓
フライホイールが回る
↓
そのフライホイールにブレーキをかける
↓
ペダルが重くなる
筋トレマシンは「重りを持ち上げる」機械。
エアロバイクは「回っているものを止めようとする力に逆らう」機械。
つまり、こういう違いがある。
| 種類 | 重さの正体 |
|---|---|
| 筋トレマシン | 重り・重力 |
| エアロバイク | 回転へのブレーキ |
| トレッドミル | モーターで動くベルトに乗る |
| エアバイク | ファンが空気をかき混ぜる抵抗 |
エアロバイクの本質は、人間の脚力を安全に消費するブレーキ装置である。
エアロバイクの負荷方式は大きく4種類ある
1. 摩擦ブレーキ式
一番わかりやすいのが摩擦式。
ブレーキパッドを円盤に押し付ける
↓
摩擦が増える
↓
ペダルが重くなる
自転車のブレーキを軽く握りながら走っているようなもの。
この方式は直感的にわかりやすいが、パッドが摩耗する。
音や熱も出やすい。
2. 永久磁石式
家庭用やジム用でよくあるのが磁気抵抗式。
金属のフライホイールが回る
↓
近くに磁石がある
↓
金属内に渦電流が発生する
↓
回転を邪魔する力が生まれる
↓
ペダルが重くなる
ここで大事なのは、磁石がフライホイールに触れていないこと。
ブレーキパッドのように「ギュッ」と押さえているのではなく、磁場によって回転を邪魔している。
永久磁石は、基本的にスイッチのように磁力をON/OFFしない。
そのため、負荷調整では主に磁石を近づけたり離したりする。
磁石が遠い → 軽い
磁石が近い → 重い
3. 電磁式・電子制御式
高級機やスマートバイクでは、電磁石や電子制御によって負荷を変える。
電流を増やす
↓
磁場が強くなる
↓
ブレーキ力が強くなる
↓
ペダルが重くなる
アプリ連動、ワット指定、坂道再現などができるタイプはこの方向に近い。
ここでは、物理的に磁石を動かすだけでなく、電流や発電機側の負荷を制御している。
4. 空気抵抗式
ファンがついたエアバイクやBikeErg系は、空気抵抗を使う。
ペダルでファンを回す
↓
空気をかき混ぜる
↓
速く回すほど抵抗が増える
↓
ペダルが重くなる
このタイプは、速くこぐほど自然に重くなる。
ダンパーがある機種では、空気の入り方を変えて負荷感を調整する。
Precorのバイクは何をしているのか?
ジムでよく見るPrecorのアップライトバイクには、自家動力式の機種がある。
Precor公式のUBK 835製品ページでは、電源要件が Self-Powered とされ、負荷レベルは25段階、最小18W、最大750Wと記載されている。[^precor-ubk835]
また、日本語版のPrecor UBK 800シリーズ資料でも、UBK 835は「電源:自家動力式」、負荷レベル25、最低ワット18、最大ワット750とされている。[^precor-jp-brochure]
つまり、少なくともUBK 835系は、かなりはっきり「漕ぐことで電力を生む」タイプの業務用バイクである。
内部イメージはこう。
人間がペダルをこぐ
↓
内部の回転体が回る
↓
発電する
↓
その電力でコンソールや制御系を動かす
↓
同時に、発電機・電磁ブレーキ側に負荷をかける
↓
ペダルが重くなる
ただし、Precorでも機種によって違う。
画面が大きいモデルやネットワーク機能が強いモデルは、外部電源が必要な場合がある。
同じPrecorでも、全部が完全に同じ仕組みではない。
見るべきポイントは、型番とコンソールである。
自家動力式は、なぜ最初に漕がないと画面がつかないのか?
Precorのマニュアルでは、自家動力式の機器はユーザーが運動を始めるとコンソールが初期化され、一定以上の動きを維持する必要があると説明されている。バイクでは最低20RPMが目安として示されている。[^precor-manual]
つまり、Precorの自家動力式はこういう挙動になる。
止まっている
↓
発電していない
↓
画面や制御に十分な電力がない
↓
漕ぎ始める
↓
発電する
↓
画面がつく
だから、ジムでバイクに乗って最初に数回ペダルを回すと画面が起動することがある。
これは、内部に小さい発電機があり、脚力で電力を作っているからだと考えるとわかりやすい。
じゃあエアロバイクは発電機として使えるのか?
理屈では使える。
実際、自家動力式のバイクは、表示や制御に必要な電気を人間の運動から得ている。
ただし、家の電気代を大きく下げるほどではない。
たとえば、かなり頑張って100Wで30分こいだとする。
100W × 0.5時間 = 50Wh = 0.05kWh
東京電力エナジーパートナーの従量電灯Bでは、電力量料金は1kWhあたり29.80円、36.40円、40.49円の段階制である。[^tepco]
これで計算すると、0.05kWhはおおよそ1.5〜2円程度。
200Wで30分こいでも0.1kWhなので、おおよそ3〜4円程度である。
もちろん、実際には発電・変換・充電でロスが出る。
つまり、エアロバイクで発電はできるが、節約装置として見ると弱い。
ジム機器としては、発電そのものよりも、安定した負荷・耐久性・電源工事不要・コンソール起動の方が価値になる。
「でも、漕がなくても負荷設定すれば最初から重い」問題
ここが一番おもしろい。
「渦電流ブレーキは、動いて初めて発生する」と聞くと、こう思う。
じゃあ、止まっているときは重くないはずでは?
これはかなり良い違和感である。
まず、摩擦式なら単純。
パッドが円盤に当たっているので、停止状態でも初動から重い。
パッドが当たっている
↓
静止摩擦がある
↓
踏み出しから重い
一方、純粋な磁気式・渦電流ブレーキでは、完全停止中に強い渦電流ブレーキが出続けるわけではない。
渦電流は、導体と磁場の相対運動によって生まれる。動きがあるから抵抗が出る。[^eddy-current]
では、なぜ最初から重く感じるのか。
理由はこれ。
負荷レベルを上げている
↓
磁石や電子ブレーキの準備はすでに強くなっている
↓
ペダルを少し踏む
↓
フライホイールが動く
↓
その瞬間に抵抗が立ち上がる
↓
人間の感覚では「最初から重い」
つまり、物理的には「動き始めた瞬間に抵抗が出る」。
体感としては「最初から重い」。
さらに、漕ぎ出しには次の要素も乗る。
- フライホイールを加速する慣性
- ベルトや軸の摩擦
- 高負荷設定による電子ブレーキの立ち上がり
- ワット固定モードで低回転時に重くする制御
- 摩擦式の場合は静止摩擦
だから、「止まっているのに重い」は矛盾ではない。
正確には、負荷の準備は完了していて、踏み始めた瞬間にブレーキが発生するということ。
電気代は高いのか?
家庭用の手動ダイヤル式や永久磁石式なら、そもそも負荷を作るための電気はほぼ不要である。
電池を使うとしても、表示メーター用の小さな電力で済む。
一方、画面付き・スマートバイク・電磁制御式ではコンセントを使うことがある。
ただし、電気代は基本的に大きくない。
仮に本体が50W使うとする。
50W × 1時間 = 0.05kWh
1kWhあたり30〜40円程度で計算すると、1時間あたり約1.5〜2円。
100Wでも、
100W × 1時間 = 0.1kWh
1時間あたり約3〜4円。
トレッドミルのようにベルトをモーターで動かす機械に比べると、エアロバイクの電気代はかなり小さい。
エアロバイクでしんどいのは、電気代ではなく自分の脚である。
つまりこういうこと
エアロバイクは、電気をたくさん使って重くしているというより、人間が出した力をブレーキで消費する機械である。
Precorの自家動力式なら、脚力の一部でコンソールや制御系を動かす。
でも、主役は発電ではない。
主役はブレーキである。
一言で言えば、こう。
エアロバイクは、人間の脚力を電気代に変える機械ではなく、人間の脚力を安全に捨てる高級ブレーキ装置である。
重りマシンではない。
発電所でもない。
脚力を熱・磁気抵抗・空気抵抗・電子負荷に変換して、ひたすら消費する装置。
だから、負荷レベルを上げると重くなる。
だから、Precorのような自家動力式は漕ぐと画面がつく。
だから、漕ぎ出しから重く感じる。
ジムの隅にあるあのバイク、地味に物理ギミックの塊である。
ジムで見分けるポイント
次にジムでエアロバイクを見るときは、ここを見るとおもしろい。
1. コンセントがあるか
コンセントが見えない、漕ぐと画面がつくなら、自家動力式の可能性がある。
2. 画面が大きいか
大型タッチスクリーン、テレビ、ネットワーク機能付きなら、外部電源式の可能性が高い。
3. 「PEDAL FASTER」と出るか
ペダル回転が足りないと警告が出る機種は、発電・自家動力と関係している可能性がある。
4. 負荷を上げたときの重くなり方
- じわっと滑らかに重い → 磁気式・電磁式っぽい
- 擦れる感じがある → 摩擦式っぽい
- 速くこぐほど急に重い → 空気抵抗式っぽい
5. ファン音がするか
ファン音が強いなら、空気抵抗式の可能性がある。
FAQ
Q. エアロバイクは発電しているの?
機種による。Precor UBK 835のように自家動力式と明記されている機種は、漕ぐことでコンソールや制御に必要な電力を得ている。ただし、家庭の電気代を大きく節約する発電機というより、ジム機器を動かすための電力である。
Q. 磁石式は、磁力をON/OFFしているの?
永久磁石式なら、基本は磁力ON/OFFではなく、磁石を近づけたり離したりして負荷を変える。電磁石式なら、電流を変えることで磁力を調整できる。
Q. なぜ漕ぎ出しから重いの?
負荷設定によって、ブレーキが強くかかる準備はすでにできているため。完全停止中に渦電流ブレーキが最大で出ているというより、ペダルを踏んでフライホイールが動いた瞬間に抵抗が立ち上がる。摩擦式なら、停止状態でもパッドの摩擦がある。
Q. 電気代は高い?
基本的には高くない。50Wで1時間使っても0.05kWhなので、1時間あたり数円程度の計算になる。大型画面付きでも、トレッドミルほど電気を使うとは考えにくい。
Q. Precorは全部自家動力式?
全部ではない。UBK 835は自家動力式とされているが、画面が大きい上位モデルなどは外部電源を使う場合がある。型番とコンソールを見る必要がある。
まとめ
エアロバイクの負荷は、重りではなくブレーキで作られている。
- 摩擦式は、パッドを押し付ける
- 永久磁石式は、磁石を近づけて渦電流ブレーキを強める
- 電磁式は、電流や電子制御で抵抗を変える
- 空気抵抗式は、ファンで空気をかき混ぜる
- Precorの自家動力式は、漕ぐ力でコンソールや制御に必要な電力を作る
- ただし、発電よりも「人間の力を安全に消費する」ことが主目的
結論はシンプル。
エアロバイクは、脚力を電気代に変える装置ではなく、脚力をブレーキで消費する装置である。
身近な機械なのに、内部では発電・磁気・摩擦・空気抵抗が混ざっている。
これは普通におもしろい物理である。
参考資料(1件)
[^precor-ubk835]: Precor, “UBK835 - Bikes | Products.” https://www.precor.com/en-US/products/UBK835
[^precor-jp-brochure]: Precor, “Upright Bike アップライトバイク UBK 800 Product Brochures JPN.” https://static.precor.com/sell-sheet/cardio/UBK800-Product-Brochures-JPN.pdf
[^precor-manual]: Precor manual mirror, “Assembling and Maintaining Upright Exercise Bikes UBK 885 835 825.” https://manuals.plus/m/919dca1e8fdeaf7c7416c9119a6ee4b262ded6bb577fd46652114fe182a07139
[^tepco]: 東京電力エナジーパートナー「料金単価表‐電灯」 https://www.tepco.co.jp/ep/private/plan/chargelist01.html
[^eddy-current]: “Eddy current,” Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Eddy_current
