「ウンコを探す人」が「本日の犯人」になりかけるまで
ネットには、ときどき説明不要なくらい完成された投稿が流れてくる。
今回の投稿も、その一つだった。
投稿者は、ヨドバシ池袋店をうろついたものの、話題になっていた「ウンコ」を見つけられなかったという。
そこで同行者から、
夜の方が目撃例が多いから、夜また行こう
と言われる。
それに対して、
カブトムシ探してんじゃねえぞ
となった。
ここまででも十分に面白い。
本来なら絶対に探しに行かないものを、時間帯まで変えて再調査しようとしている。
完全に昆虫採集や野生動物観察のノリである。
しかし、投稿はそこで終わらない。
その後、投稿者本人が普通に便意を催し、ヨドバシのトイレに並ぶことになる。
そして、
“本日の”になりたくなくて、汗ダラダラ
という展開になる。
探していた側が、犯人候補になる。
まさに、
ミイラ取りがミイラになる
である。
最初は「観察者」だった
この投稿の面白さは、立場がきれいに反転するところにある。
最初の投稿者は、完全に観察者だ。
- 噂を聞く
- 現地へ行く
- 痕跡を探す
- 目撃時間帯を検討する
- 再調査を提案される
やっていることは、ほとんどフィールドワークである。
対象がウンコであることを除けば、かなり真面目な調査だ。
特に、
夜の方が目撃例が多い
という情報が入った瞬間、対象物に生態が生まれる。
昼間は姿を見せず、夜になると現れる。
これはもう、カブトムシか野生動物である。
だから、
カブトムシ探してんじゃねえぞ
というツッコミが完璧に刺さる。
対象の扱いだけが、異常に学術的なのである。
観察対象の側へ移る
ところが、その後で投稿者本人に便意が来る。
ここで構造が反転する。
最初は、
誰がこんなことをしたのか
現場には何があるのか
どの時間帯に出現するのか
と、外側から見ていた。
しかし、突然、
自分が間に合わなかったらどうしよう
という当事者になる。
犯人を探していた人間が、犯人候補になる。
「本日の犯人ではありません」という追記まで含めて、物語として完成度が高い。
本人は無事だった。
しかし、一歩間違えば、
昨日の事件を見に来た人が、今日の事件を起こす
という最悪に美しい循環が完成していた。
「本日の」という言葉が世界観を作る
投稿の中で特に強いのが、
“本日の”になりたくない
という表現である。
普通なら、
- 漏らしたくない
- 間に合いたい
- 犯人になりたくない
で終わる。
しかし、「本日の」と言うことで、事件が一回限りではなくなる。
まるで、
- 昨日の犯人
- 本日の犯人
- 明日の犯人
と、日替わりで担当者がいるように見える。
毎日、誰かが役割を引き継いでいる。
この一言で、単発の事故が連続怪異になる。
リプ欄が都市伝説化を加速させる
さらに面白いのは、リプ欄で世界観が勝手に膨らんでいくことだ。
ある人は、
もしかして、そういう人が複数いて、順番に本日の犯人になっているだけなの?
と考える。
これにより、犯人は一人ではなくなる。
ヨドバシ池袋に、特殊な性質を持つ複数人が引き寄せられ、
順番に「本日の犯人」へ就任していることになる。
別の人は、
自ら犯行現場に舞い戻る。呼び寄せられたんだよ、適性を持った者たちが
と語る。
ここまで来ると、事件ではない。
呪いである。
現場には何らかの力があり、適性を持つ者を呼び寄せる。
呼ばれた者は、最初は調査目的で現場へ向かう。
しかし、やがて自分も同じ運命をたどる。
完全にホラー作品の導入である。
「場所が便意を誘発する」という第二の怪異
さらに、実際に現地へ行った別の人が、
なぜか急に便意を催した
あの場所には便意を誘発する何かがあるのではないか
と語り始める。
理由として、
- 中途半端な空調
- 天井の低さ
- 横幅に対して奥行きが広い設計
- コンパクトな空間構成
などが挙げられる。
これも面白い。
通常なら、急な便意は個人の体調で終わる。
しかし、複数人が同じ場所で便意を訴え始めると、
ヨドバシ池袋には、人間の腸へ作用する何かがある
という説が生まれる。
建築、空調、心理、動線。
どの要素が原因かは分からない。
分からないからこそ、怪異になる。
スケールが膨らむほど面白くなる
元の出来事は小さい。
「店内で便意を催した」
それだけである。
しかし、ネットでは周囲が勝手に意味を足していく。
- カブトムシ探索
- 夜行性の存在
- 日替わり犯人
- 適性を持つ者
- 現場へ呼び戻される呪い
- 建物が便意を誘発する説
- 複数犯による継承制
こうして、単なるトイレの話が都市伝説になる。
ネットの面白さは、事実そのものより、
みんなが同じ嘘の世界観に乗る
ところにある。
誰も本気で信じてはいない。
しかし、全員が同じ設定を共有し、
その設定に沿って少しずつ話を膨らませる。
その共同作業で、元投稿以上に世界が大きくなる。
面白さの核は「立場の反転」
この投稿の中心にあるのは、立場の反転である。
最初
- 投稿者:調査者
- ウンコ:観察対象
- 犯人:どこかにいる他人
途中
- 投稿者:再調査を検討する探索者
- ウンコ:夜に出現しやすい野生生物
- 店舗:生息地
最後
- 投稿者:便意に追われる当事者
- ウンコ:自分が生み出すかもしれないもの
- 犯人:自分かもしれない
この反転が一瞬で起きる。
人は、外から見ているときには冷静でいられる。
しかし、自分が同じ状況に入った瞬間、話は変わる。
観察していた者が、観察される側へ行く。
この構造は昔から強い。
- 怪物を追う者が怪物になる
- 犯人を探す者が犯人になる
- 呪いを調べる者が呪われる
- ミイラ取りがミイラになる
今回はそれが、ウンコで起きている。
題材があまりに低俗なのに、物語構造だけは異様に美しい。
その落差がさらに面白さを強くしている。
「本人は犯人ではない」という追記も強い
投稿者は後から、
ちなみに本日の犯人ではありません
と追記する。
これは安心情報のはずだ。
しかし、「本日の犯人」という言葉を正式採用したことで、逆に世界観が固定される。
犯人ではなかった。
ただし、
本日の犯人という役職自体は存在する
かのように見える。
否定したことで、設定が強化されている。
「私は選ばれなかった」と報告しているようにも見える。
ネット投稿が面白くなる条件
この投稿から、ネットで話が広がる条件がよく分かる。
1. 元の状況が一文で理解できる
- ウンコを探しに行った
- 見つからなかった
- 夜に再訪しようと言われた
- 自分が漏らしそうになった
説明が短く、状況がすぐ入る。
2. 強い比喩がある
カブトムシ探してんじゃねえぞ
この一言で、探索の異常さが可視化される。
3. 立場が反転する
探していた側が、犯人になりかける。
4. 世界観を拡張できる余白がある
- 夜に出る
- 複数犯
- 日替わり
- 適性
- 呼び寄せられる
- 場所が便意を誘発する
周囲が乗りやすい。
5. 本人の追記がオチを補強する
本日の犯人ではありません
これで物語が締まる。
ミイラ取りがミイラになる美しさ
この話の面白さを一言で言えば、
ウンコを見に行った人が、ウンコを生み出す側になりかけた
ということである。
かなり下品なのに、構造は古典的だ。
調査者が対象へ近づきすぎて、自分もその一部になる。
未知を追った者が、未知に飲み込まれる。
呪いを見に行った者が、次の犠牲者になる。
しかも今回は、その壮大な構造がヨドバシのトイレ待ちで起きる。
だから面白い。
まとめ
この投稿は、単なる排泄ネタではない。
面白さの核は、
- 調査対象をカブトムシのように扱う異常さ
- 観察者から当事者へ変わる立場の反転
- 「本日の犯人」という日替わり制のような表現
- リプ欄による都市伝説化
- 場所そのものが便意を誘発するという怪異化
- 本人が無事だったという追記による締め
にある。
最初は他人の事件を見に行っただけだった。
しかし最後には、
自分が次の事件にならないよう、汗だくでトイレに並ぶ
ことになる。
ミイラ取りがミイラになる。
犯人探しが、犯人候補になる。
カブトムシ探しが、便意との戦いになる。
ネットでしか生まれない、非常に完成度の高い流れである。
