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※この記事は2026年10月4日時点の公開情報と、実際に複数AIを使った運用上の体感を分けて書いている。Astra、Codex、Claude Opus 5.5の公開仕様は公式情報で確認した。一方、「Astraは探索が広がりやすい」「Dotは監督役として扱いやすい」などの評価は、特定の使い方での体感であり、万能なベンチマークではない。ここでいう「Dot」は監督役として使っているAIを指す呼び名である。
1. 結論:AIも「全員エース」より役職を分けたほうが回る
強いAIを見つけると、つい全部やらせたくなる。
調査して。 設計して。 コードを書いて。 テストして。 失敗したら直して。 進捗も管理して。 最後に説明して。
人間なら「いや部署分けろ」と言う量である。
AIでも同じで、探索、判断、実行、監督を一つの会話に詰め込むほど、途中で目的が増えやすい。特に探索能力が高いモデルは、「これも見たほうがいい」「前提から確認しよう」「別案もある」と仕事を増やす方向へ強い。
そこで実運用では、次の3役に分けると分かりやすい。
- 探索役:Astra — 未知の原因、別案、抜け、設計の弱点を広く探す
- 監督役:Dot — 今やる仕事を絞り、詰まりを見つけ、次の一手を決める
- 実行役:Codex — コード修正、調査、テスト、ファイル更新など具体作業を進める
そして、全部を一体化して長距離を走れるモデルがあるなら、そちらを主役にしてもいい。Claude Opus 5.5はAnthropicがエージェント、長時間のコーディング、複数ツールの仕事を主要用途として案内している。[5]
つまり答えは「マルチエージェント最高!」ではない。
仕事が一体で終わるなら1体で終わらせる。散らかるなら役割を分ける。
これが一番ラクだ。
2. Astraは「賢いのに仕事が終わらない」状態になりやすいことがある
探索型の強いAIは、難しい問題では頼もしい。
ログを見て原因候補を増やす。 設計の穴を探す。 「本当にそこが原因か?」と前提を疑う。 別の実装方針を持ってくる。
これは詰まったときには強烈に効く。
ただし、普通の作業まで探索モードで走らせると、問題がある。
「ボタン1個直して」が、 「まず設計思想を確認しよう」 「関連コンポーネントも見よう」 「将来の拡張性も考えよう」 「ついでに古い依存も消そう」 まで膨らむ。
気づくと、ボタンはまだ直っていない。
これはモデルが悪いというより、探索と完遂を同じ役にした設計の問題である。
OpenAIのAgents SDKでも、複数エージェントの流れを「オーケストレーション」として扱い、LLMに流れを判断させる方法と、コードで流れを決める方法を分けて説明している。[1]
探索能力は強い。 でも毎回、冒険の地図を描き直す必要はない。
3. Dotを「現場監督」にすると、探索を仕事へ戻せる
ここで監督役が効く。
監督役の仕事は、最も賢い答えを出すことではない。
- 今どのタスクをやっているか
- 何が終わったか
- 何が失敗したか
- 次に誰へ渡すか
- 何回失敗したら上位モデルへ上げるか
を握ることである。
要するに、Dotには天才研究者をやらせない。
「それ面白いけど、今はこのチケット終わらせような」係にする。
これだけで、AIチームに突然かなり人間味が出る。
Astraが「根本から再設計する案があります」と言い始めたら、Dotが「今は障害復旧。再設計案は別タスク」と切る。
Codexがテストで落ちたら、Dotがログを読ませて再実行させる。
3回やって同じところで詰まったら、Astraへ戻す。
監督役は華やかではない。 でも工場では、華やかな人より「止まったラインに気づく人」が強い。
4. Codexは「考える王様」より、境界のある実行役に置く
Codexはコードベースを読み、変更し、テストし、調査する実行役として使いやすい。
大事なのは、「全部考えて」ではなく、仕事の入口と出口を決めて渡すこと。
たとえば、
- 対象リポジトリ
- 対象ファイル
- 直したい症状
- 触ってよい範囲
- 成功条件
- 実行するテスト
- 返すべき結果
を渡す。
するとCodexは「会社の未来」を考えずに、「このPRを通す」に集中できる。
OpenAIは2026年にCodex向けのオーケストレーション仕様Symphonyを公開し、セッションそのものではなく、issueやタスクを大きな仕事単位として扱う設計を紹介している。[2]
ここが重要である。
AIの会話を仕事の本体にしない。タスクを仕事の本体にする。
会話は切れてもいい。 モデルは変わってもいい。 仕事の状態だけ残ればいい。
5. thread_idだけでは足りない。task_idと状態を持たせる
「質問を拾って、別AIに考えさせて、元のスレッドへ返す」なら、thread_idはかなり便利である。
ただしthread_idだけだと、同じスレッドで質問が2個、3個と増えたときに困る。
最低限、次のように分けたい。
{
"task_id": "T-1842",
"source_thread_id": "<source-thread-id>",
"source_message_id": "<source-message-id>",
"manager": "dot",
"executor": "codex",
"advisor": "astra",
"status": "working",
"attempt": 2,
"next_action": "run tests"
}
ここで主役はtask_idである。
thread_idは「どこへ返すか」。 message_idは「何に返すか」。 task_idは「何の仕事か」。
この3つを分ける。
状態も、最低でも次くらいは欲しい。
- pending
- working
- blocked
- review
- done
- delivered
- failed
これがないと、AIが仕事を忘れたのか、作業中なのか、送信だけ失敗したのか分からない。
「たぶんやったと思います」は工場ではステータスではない。
6. 普段はDot↔Codex、難所だけAstraへ上げる
一番軽いループはこれである。
通常 Dot → Codex → Dot → Codex
難航 Dot → Astra → Dot → Codex
Astraを常時ループに入れない。
理由は単純で、探索能力が強いほど枝が増えるから。
たとえばエスカレーション条件を、
- 同じ失敗が3回
- 原因候補が2つ以上で決め手がない
- 設計変更が必要
- 複数リポジトリにまたがる
- 既存仕様と要求が衝突
などに固定する。
すると、Astraは「何でも相談される先輩」ではなく、本当に詰まった案件だけ呼ばれる専門医になる。
強いモデルを節約するというより、強いモデルの探索力を、本当に必要な場所へ集中させる設計である。
7. 期間限定の上位プランを恒久インフラにしない
ここはかなり重要。
上位プランが今使えるからといって、その機能を前提に工場の心臓を作ると、プランを変えた瞬間に工場まで止まる。
だから期間限定で使うAIは、本体ではなくブースターにしたほうがいい。
残すべきなのは、
- task_id
- 状態遷移
- 成功条件
- プロンプト
- テスト方法
- 失敗ログ
- エスカレーション条件
である。
消えて困るのはモデルではなく、「そのモデルしか知らない運用ルール」。
上位モデルの利用期間中に、暗黙知を全部外へ出す。
AIを解約したら会社の業務フローまで記憶喪失になりました、では笑えない。
8. Opus 5.5が0→10まで自走するなら、無理にAIチームを増やさなくていい
マルチエージェントは楽しい。
組織図が作れる。 役職も作れる。 監督も作れる。 ログも増える。
そして最後に、人間がそのAI組織の総務部になる。
これは本末転倒である。
AnthropicはClaude Opus 5.5について、長時間の大規模コード作業、複数ツールを使うエージェント、複雑な仕事を少ない監督で進める用途を前面に出している。[5]
実際の自分の仕事で、Opus 5.5が、
「目的を渡す」 →「調査する」 →「実装する」 →「テストする」 →「直す」 →「完了報告する」
まで安定して走れるなら、そこへ寄せるほうが単純である。
1体で終わる仕事を、わざわざAI株式会社にしない。
複数モデル構成は、単一モデルでは散らかるところ、価格差が大きいところ、独立レビューが欲しいところだけでいい。
9. 最小構成は「共有キュー+監督+実行+非常口」
最終的に、かなり小さくできる。
- 外部の質問や障害をtask_id付きでキューへ入れる
- Dotが優先順位と次の一手を決める
- Codexが具体作業をする
- Dotが結果を確認する
- 難航時だけAstraへ上げる
- 回答はsource_thread_idへ戻す
- deliveredまで確認して閉じる
- 1体で完遂できる仕事はOpus 5.5へ直接渡す
この構成なら、将来モデルを変えても、
manager executor advisor
の割り当てを変えるだけで済む。
モデル名をインフラにしない。 役割をインフラにする。
これが一番移行しやすい。
10. まとめ:強いAIを探すより、「どこで考えるのをやめるか」を決める
AI運用で意外と難しいのは、考えることではない。
考えるのを終えて、実行へ移すことである。
探索型AIは、世界を広げる。 監督型AIは、仕事を閉じる。 実行型AIは、手を動かす。
この3つを混ぜると、「すごいことは言っているのに終わらない」が起きる。
分けると、
Astra「別案が7つあります」 Dot「2番だけ検証」 Codex「直しました。テスト通過」 Dot「終了」
になる。
急に会社になった。
でも、人間が毎回部長をやらなくていいなら、その会社はかなり使える。
普段のループは小さく保つ。
強いモデルは常駐させるのではなく、詰まったときに呼ぶ。 そして一体で最後まで走れるモデルがあるなら、素直に一体で走らせる。
AIの数を増やすことが自動化ではない。
人間が途中で拾わなくても、仕事が閉じることが自動化である。

