台風とコロナは「出社信仰」のストレステストである
台風の日。
大雨の日。
感染症が流行している日。
電車がガラガラ。
みんな在宅。
それでも一部の会社は通常出社。
こういう日になると、SNSではよくこういう言葉が出ます。
出勤しているのはアホの会社だけ。
この表現は、かなり刺さります。
ただし、ここは分けた方がいいです。
出社している人がアホなのではありません。
本当に出社が必要な仕事もあります。
問題は、在宅で済む仕事まで、根性・空気・管理不能で出社させる会社です。
台風やコロナは、人間の根性を試すイベントではありません。
会社の出社判断、BCP、テレワーク設計、安全配慮、業務定義の弱さをあぶり出すストレステストです。
出社している人を笑うのは違う
まず、出社している人を雑に笑うのは違います。
社会には、災害時や感染症流行時でも、現場対応が必要な仕事があります。
- 電車・バス・鉄道などの交通
- 医療
- 介護
- 警察
- 消防
- 自衛隊
- 物流
- 宅配
- 小売・生活必需品の供給
- 電気・ガス・水道・通信
- 製造現場の保守
- 市役所・自治体の災害対応
こういう仕事は、社会インフラです。
むしろ、こういう人たちが出てくれるから、社会が止まりません。
台風の時に、市役所や自治体の職員が避難所対応、住民案内、災害対策本部、情報発信、被害確認などに動くことがあります。
政府広報オンラインでも、警戒レベルは市町村が発令する避難情報等に付される数字であり、警戒レベル3で高齢者等は危険な場所から避難、警戒レベル4で対象地域の住民は危険な場所から全員避難と説明されています。
つまり、自治体側には、住民に避難情報を伝えたり、避難行動を支えたりする重要な役割があります。
こういう出社・現場対応は、アホではありません。
ありがたい出社です。
問題はここではありません。
問題は、現場に出る必要がない仕事まで、なぜか災害時にも出社させる会社です。
アホなのは「出社している人」ではなく「出社判断を定義していない会社」
台風の日に出社している人がいる。
それだけで、その人や会社を全部アホ扱いするのは粗いです。
見るべきは、次の問いです。
その仕事は本当に現場にいないとできないのか。
たとえば、現場設備を止められない。
利用者対応が必要。
避難所を開ける必要がある。
患者や入居者がいる。
荷物を運ぶ必要がある。
交通やインフラを動かす必要がある。
こういう仕事は、出社や現場対応が必要です。
一方で、
- PCでできる
- チャットで済む
- 電話で済む
- クラウドで資料を見られる
- 会議はオンラインでよい
- その日に必ず現物確認する必要がない
- 顧客対応も在宅でできる
- 印鑑・紙・固定席に依存しているだけ
このような仕事まで、台風や感染症流行時に通常出社させるなら、それはかなり怪しいです。
出社が必要なのではなく、会社が業務を分解できていないだけかもしれません。
「在宅不可!挑戦!」は、出社信仰である
災害時や感染症流行時に、在宅で済む仕事まで出社させる会社には、よくある空気があります。
- 出社こそ誠意
- 家で仕事なんてできない
- 顔を合わせないと仕事にならない
- みんな出ているから出る
- 台風でも出てくる人が偉い
- 困難な時こそ挑戦
- 在宅は甘え
- セキュリティ的に無理
- 管理できないから無理
- 前例がないから無理
これが、出社信仰です。
出社信仰の問題は、出社そのものを重視しすぎて、仕事の目的を見失うことです。
本来見るべきなのは、
- その日に必要な業務は何か
- どこまで在宅でできるか
- 誰が現場に必要か
- 誰は在宅にできるか
- 通勤リスクはどれくらいか
- 顧客や住民への影響は何か
- 会社としてどの状態なら出社停止にするか
- 緊急対応は誰が持つか
です。
しかし出社信仰の会社は、ここを飛ばしてこうなります。
とにかく出社。
これは、管理ではなく儀式です。
厚労省もテレワークはBCPに有効としている
テレワークは、単なる福利厚生ではありません。
厚生労働省のテレワーク総合ポータルサイトでは、テレワークは事業継続性の確保、つまりBCPにも有効だと説明されています。
自然災害やパンデミック発生時でも、普段から在宅勤務をしていれば事業継続が可能になり、大雪や台風などの発生時には在宅勤務に切り替えることで、不確実な長時間通勤を避けることも可能だとされています。
つまり、台風の日に在宅にすることは、甘えではありません。
むしろ、きちんと設計された事業継続の一部です。
普段から在宅勤務の仕組みを整えておけば、災害時にも業務を続けやすい。
逆に、普段から全部出社・紙・固定席・口頭・ローカル保存で回している会社は、災害時に詰まりやすいです。
台風の日に突然在宅にできないのは、当日の根性の問題ではありません。
平時の設計不足です。
セキュリティを理由に在宅もフリーアドレスも無理、は弱いことがある
「セキュリティ上、在宅は無理です」
この言い分には、本当に必要な場合もあります。
個人情報を大量に扱う。
専用端末が必要。
紙原本が必要。
物理的な管理区域でしか扱えない。
特殊設備が必要。
法令や契約上の制約がある。
このような場合は、出社や専用区画が必要なこともあります。
ただし、すべてを「セキュリティ」で止めるのは別です。
特に、次のような状態は弱いです。
- 出社は必要
- でもフリーアドレスはセキュリティ上無理
- 在宅もセキュリティ上無理
- 固定席で紙を置く
- 机の引き出しに資料が溜まる
- 権限管理より席管理
- ログ管理より人の目
- クラウド化せずローカル運用
- クリーンデスクも曖昧
- 印刷・保存・廃棄ルールも曖昧
これは、セキュリティが強いというより、情報管理を設計できていない可能性があります。
本来セキュリティで見るべきなのは、席ではありません。
- 何が機密か
- 誰がアクセスできるか
- どの端末からアクセスできるか
- どの情報を印刷してよいか
- 紙をどう保管・廃棄するか
- ログをどう残すか
- 退席時の画面ロック
- 権限付与と削除
- 持ち出しルール
- 社外からの接続方式
- 端末紛失時の対応
- クリーンデスク
- 監査
ここが定義されていないと、会社は雑に「出社」「固定席」「在宅不可」で縛ります。
しかし、それはセキュリティではなく、場所で管理しているだけかもしれません。
ラベルを付けるなら、固定席セキュリティ信仰です。
災害時の出社判断で見るべきこと
台風や大雨の日に、会社が見るべきなのは精神論ではありません。
見るべきは、出社判断の基準です。
1. 出社必須業務か
その業務は、現場にいないとできないのか。
設備、利用者、患者、住民、物流、交通、店舗、現物、紙原本、緊急対応など、現場性があるかを確認します。
2. 在宅可能業務か
PC・電話・チャット・クラウド・オンライン会議で対応できるか。
在宅に切り替えても、当日の業務継続に大きな支障がないかを確認します。
3. 安全リスクはどれくらいか
通勤経路の浸水、暴風、運休、道路状況、帰宅困難リスクを見る。
会社に来られるかだけでなく、帰れるかも見る必要があります。
4. 判断者は誰か
誰が「在宅切替」「出社停止」「時差出勤」「早退」「待機」を決めるのか。
ここが決まっていないと、現場が空気で動きます。
5. いつ判断するか
当日朝なのか。
前日夕方なのか。
警報が出た時点なのか。
交通機関の計画運休が出た時点なのか。
自治体の避難情報が出た時点なのか。
判断の節目を決める必要があります。
6. 出社必須者への配慮はあるか
どうしても出社が必要な人には、配慮が必要です。
- 早めの帰宅
- 宿泊場所
- 交通手段
- 安全装備
- 交代要員
- 手当
- 食事
- 休憩
- 家族事情への配慮
必須出社の人を、根性で消耗させてはいけません。
7. 在宅者への運用はあるか
在宅にした人にも、運用が必要です。
- 連絡手段
- 勤怠の扱い
- 作業範囲
- 会議の有無
- 緊急連絡先
- セキュリティルール
- その日の成果物
- 終了報告
在宅にするなら、在宅のルールを定義する必要があります。
労働者の安全配慮も忘れてはいけない
企業には、労働者の安全への配慮も求められます。
労働契約法第5条では、使用者は労働契約に伴い、労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をするものとされています。
台風や大雨の中での出社判断も、この観点を無視できません。
もちろん、災害時でもどうしても現場対応が必要な仕事はあります。
しかし、その場合でも「必要だから来い」で終わりではなく、どう安全を確保するかを考える必要があります。
不要な出社を減らす。
在宅可能な人は在宅にする。
出社必須者には安全策を用意する。
通勤・帰宅リスクを見て判断する。
これが会社の仕事です。
「みんな来ているから来い」は、管理ではありません。
出社必須の人には敬意が必要
ここはかなり大事です。
台風の日に出ている人を、全員まとめて「アホ」と言うのは違います。
むしろ、出社必須の人には敬意が必要です。
市役所や自治体の人が、避難所対応や住民案内をする。
交通機関の人が、運行判断や安全確認をする。
医療・介護の人が、患者や利用者を見る。
物流の人が、在宅率が高い日に荷物を届ける。
電気・水道・通信の人が、インフラを守る。
これはありがたい出社です。
社会を支える出社です。
問題は、そういう必須出社と、ただの出社信仰を同じにすることです。
出社必須の人に敬意を払うためにも、在宅で済む人は在宅にした方がいい。
不要な通勤者を減らせば、交通も混雑しにくい。
災害時の移動リスクも下がる。
本当に必要な人の移動がしやすくなる。
つまり、在宅可能者を在宅にすることは、必須出社者への支援でもあります。
コロナと台風はアホ検出装置なのか?
かなり乱暴に言えば、コロナと台風は「アホ検出装置」になります。
ただし、検出する対象は、出社している労働者ではありません。
検出されるのは、会社の設計力です。
- 業務を出社必須と在宅可能に分けているか
- テレワーク環境があるか
- セキュリティを場所ではなく権限とルールで管理しているか
- 災害時の判断者がいるか
- 出社停止や時差出勤の基準があるか
- 必須出社者への安全配慮があるか
- 事業継続計画があるか
- 在席ではなく成果で管理できるか
- 管理職が物理的に見ないと管理できない状態になっていないか
ここが出ます。
平時は、出社信仰でもごまかせます。
みんな来ている。
席にいる。
会議している。
紙が回っている。
電話が鳴っている。
なんとなく仕事している。
でも、台風や感染症流行のように出社そのものがリスクになった瞬間、会社の設計力が露出します。
在宅で回せる会社は回す。
必須出社だけ絞れる会社は絞る。
何も決めていない会社は、とりあえず出社になる。
この差が見えます。
出社信仰は、また未定義の責任転嫁である
ここでも、いつもの問題が出ます。
出社信仰の会社は、たいてい次のことが未定義です。
- どの業務が出社必須か
- どの業務が在宅可能か
- いつ在宅に切り替えるか
- 誰が判断するか
- 出社必須者への安全配慮は何か
- セキュリティ上の本当のリスクは何か
- 在宅時の成果物は何か
- 緊急対応は誰が持つか
- 連絡手段は何か
- 通勤が危険な場合どうするか
これを決めていない。
なのに、事故が起きるとこうなります。
- なんで来られないのか
- 社会人なら来るべき
- 主体性がない
- 在宅だとサボる
- セキュリティ上無理
- うちはそういう業務じゃない
- 前例がない
- みんな頑張っている
これは、未定義の責任転嫁です。
業務を分解していない。
判断基準を決めていない。
安全基準を決めていない。
でも、来ない人・在宅したい人・不安を言う人の問題にする。
これが出社信仰の正体です。
本当にやるべきこと
台風・大雨・感染症流行時に、会社が本当にやるべきことは、出社根性論ではありません。
1. 業務を分類する
- 出社必須
- 在宅可能
- 延期可能
- 停止可能
- 緊急対応
- 交代制が必要
まずこれを分ける。
2. 判断基準を決める
- 警報
- 交通機関の計画運休
- 避難情報
- 学校休校
- 感染状況
- 社内感染者
- 顧客対応状況
- 通勤安全
どの条件で在宅・時差・早退・出社停止にするか決める。
3. 判断者を決める
誰が判断するかを決める。
現場任せにしない。
空気で決めない。
朝になってから各自の根性にしない。
4. テレワーク環境を整える
- 端末
- VPN
- クラウド
- チャット
- オンライン会議
- 勤怠
- セキュリティ
- データアクセス
- 紙資料の削減
普段から整える。
5. 必須出社者への配慮を決める
必要な人にだけ負担を寄せない。
- 手当
- 交代制
- 早退
- 宿泊
- 食事
- 家族事情
- 移動安全
- 休息
必須出社の人ほど大事にする。
6. 不要な会議・紙・印鑑を減らす
災害時に在宅できない原因の多くは、平時の非効率です。
紙が必要。
印鑑が必要。
固定席が必要。
口頭確認が必要。
会議室が必要。
ローカルファイルが必要。
これを放置していると、災害時に詰みます。
まとめ:必須出社には敬意を。不要出社には設計を。
台風やコロナは、出社している人を笑うためのイベントではありません。
出社が必要な人はいます。
市役所、医療、介護、交通、物流、警察、消防、インフラ、現場保守。
こういう人たちは、社会を支えています。
ありがたい出社です。
一方で、在宅で済む仕事まで出社させる会社は、かなり問題があります。
それは根性ではなく、設計不足です。
出社必須業務と在宅可能業務を分けていない。
災害時の判断基準を決めていない。
セキュリティを場所でしか守れない。
成果ではなく在席で管理している。
BCPとしてテレワークを整えていない。
これが、台風やコロナで見えてしまう。
だから、台風とコロナは「アホ検出装置」かもしれません。
ただし、検出されるべきは労働者ではありません。
検出されるのは、会社の出社信仰と未定義です。
必須出社には敬意を。
不要出社には設計を。
これが、本当に見るべき線引きです。
