人は追い込まれると、選択肢が消える。
正確には、選択肢そのものが消えるのではない。
見えなくなる。
外から見れば、休職もある。
有給もある。
退職もある。
労働相談もある。
生活保護もある。
転職もある。
一時避難もある。
でも本人の中では、こうなる。
いや、行くしかない。
辞められない。
休めない。
相談しても無駄。
もう何もできない。
これは本人が弱いからではない。
逃げ道を探す力が落ちている状態だ。
自分では変えられない嫌な出来事が長く続いた後、逃げられるようになっても動こうとしなくなる、という現象が研究されている。
ただし、近年、これまでの研究を振り返った論文では、「何をしても変わらないと学んだから動けない」だけでは説明していない。嫌な刺激が長く続くと、受け身になり、不安が強くなる反応そのものが起きることと、自分の行動で変えられると学ぶことが、その反応を抑える働きを持つことを区別している。動物を調べた仕組みを、そのまま一人ひとりの職場や学校での気持ちの診断にしてはいけない。
これを現代の職場や学校に置き換えると、かなり分かりやすい。
何を言っても変わらない。
相談しても流される。
怒られる。
否定される。
逃げようとしても止められる。
「みんなそうだよ」と言われる。
「昔はもっと大変だった」と言われる。
すると脳は学習する。
どうせ何をしても変わらない。
この状態になると、本人は「選択肢がない」と感じる。
でも、外から見ると選択肢はある。
ここにズレがある。
だから、支援で必要なのは、「頑張って考えて」と言うことではない。
考える気力が残っていないから、詰まっているのだ。
必要なのは、本人だけに考えさせず、周りの人や相談先が一緒に逃げ道を探すことだ。
たとえばこう聞く。
- 今日、行かずに休むための、一番手間や気力の少ない方法は何か
- 会社に送る文面は何か
- 退職するなら誰に何を言えばいいか
- 直接言えないなら代行や相談窓口は使えるか
- お金が不安なら生活保護や傷病手当などの選択肢はあるか
- 今すぐ危ないなら、誰につなぐか
ここで大事なのは、選択肢を大量に出しすぎないことだ。
しんどい人に20個の選択肢を出すと、それだけで疲れる。
最初は3つでいい。
- 今日は休む
- 相談窓口に投げる
- 退職・休職の手順を紙にする
これくらいでいい。
逃げ道を探す力は、いきなり何でも考えられる状態へ戻さなくていい。
まずは、何がつらいか、一文字だけでもメモに書けるところからでいい。
「死にたい」という気持ちを否定せず、その中に、たとえば、
「職場を終わらせたい」
「学校を止めたい」
「この人間関係から離れたい」
「今日だけ行きたくない」
という願いもあるか、一緒に分けて考えられたら、それも一歩である。自分を傷つける危険がある時は、この整理だけで済ませず、人へ助けを求める。
人生終了ボタンではなく、環境終了ボタンを探す。
これが、かなり大事だと思う。
