title: "リーダー研修の直後に「やっても価値ない」と言う上司は、何を壊しているのか" description: "リーダー研修で信頼や自主性を語った直後に、部下の行動を『価値ない』『けちょんけちょんにする』と否定する。その発言が何を壊すのかを整理する。" category: "management" tags: ["リーダー論", "マネジメント", "心理的安全性", "職場", "部下育成"] published: false status: "public_ready_draft"
リーダー研修の直後に、リーダー論が壊れる瞬間
リーダー研修で「受け手の気持ちになって話す」「圧をかけない」「信頼関係を作る」「主体性を引き出す」といった話を聞いた。
内容だけ見れば、別におかしなことは言っていない。
むしろ、リーダー論としてはかなり当たり前の話だと思う。
問題は、その研修が終わった直後だった。
講師側の立場にいる人が、研修で使うシートについて、こんな趣旨のことを言った。
今の段階で書いても価値がない。
リーダー論が分からないまま書いても意味がない。
ちゃぶ台返しする。
けちょんけちょんにする。
この瞬間、さっきまでのリーダー研修は何だったのか、と思った。
リーダー論を教える座学の直後に、部下が自分で考えて書こうとする行動を止める。
しかも、その止め方が「まだ早いから一緒に整理しよう」ではなく、「価値がない」「けちょんけちょんにする」という言葉になる。
これは単なる言い方の問題ではない。
リーダー研修の中身そのものと、発言の実装が矛盾している。
「やっても価値ない」は、相手の行動価値を消す言葉である
「今の段階ではまだ前提が揃っていないので、いったん講義を整理してから書いてください」なら分かる。
「まずは仮で書いて、あとで一緒に直しましょう」でも分かる。
しかし、「やっても価値ない」は違う。
この言葉を受け手側から見ると、こう聞こえる。
あなたが今考えたことには価値がない。
あなたが先に動いたことは評価しない。
あなたの理解はまだ信用しない。
私の許可が出るまで止まれ。
これは自主性を育てる言葉ではない。
自主性を止める言葉である。
部下に「主体的に考えろ」と言うなら、まず部下が自分で考えたものを仮置きとして受け取る必要がある。
最初から完成していなくてもいい。
むしろ、未完成の段階で出してもらい、ズレを早めに直すことが育成だと思う。
それなのに、早く動いたことに対して「価値ない」と返すと、部下は何を学ぶか。
「早く動いても損だ」と学ぶ。
「けちょんけちょんにする」は、フィードバックではなく威圧予告である
フィードバックと威圧は違う。
フィードバックは、成果物を良くするために行うものだ。
威圧は、相手を萎縮させるために働く。
「けちょんけちょんにする」という言葉は、少なくとも受け手側にはフィードバック予告としては届きにくい。
むしろ、こう届く。
未完成のものを出したら攻撃される。
早めに相談すると潰される。
自分の考えを出すのは危険だ。
黙って指示を待った方が安全だ。
リーダー研修で「圧をかけない」と言った直後に、提出前から圧をかけている。
リーダー研修で「受け手の気持ちになって話す」と言った直後に、受け手がどう感じるかを想像できていない。
リーダー研修で「信頼が大事」と言った直後に、信頼を壊す発言をしている。
この矛盾がきつい。
講義で理解したことより、講師の行動の方が強い教材になる
研修では正しいことを言える。
リーダー論を説明することもできる。
しかし、部下が実際に学習するのは、講義資料の言葉だけではない。
むしろ、講師や上司がその言葉を現場でどう使うかを見る。
研修では「信頼」と言っている。
でも実際には、未完成の思考を出そうとすると「価値ない」「けちょんけちょんにする」と言われる。
この場合、部下は研修資料よりも現場の反応を信じる。
つまり、部下が学ぶのはこうだ。
この職場では、先に考えると危ない。
この上司には、未完成を見せない方がいい。
この上司の正解が開示されるまで待った方がいい。
主体性より、指示遵守ログを残す方が安全だ。
これで「部下に主体性がない」と言われても、部下側からすると困る。
主体性を出すと損する環境に適応しているだけだからだ。
本当に言うべきだった言葉
同じ状況でも、言い方はいくらでも変えられる。
例えば、こう言えばよかった。
今日の段階ではまだ仮で大丈夫です。まず自分の言葉で書いてみてください。ズレていたら後で一緒に直しましょう。
または、こうでもいい。
いきなり完成版を書くのは難しいと思うので、まずは講義内容を整理してから、次回のタイミングで記入しましょう。
これなら、部下の行動を潰していない。
早く動くことも否定していない。
未完成を出すことも罰していない。
しかし「価値ない」「けちょんけちょんにする」は、行動そのものを止める。
この差は大きい。
リーダー論は、語れるかではなく自分に適用できるか
リーダー論を語れる人は多い。
信頼が大事だと説明できる人も多い。
主体性が大事だと話せる人も多い。
しかし、本当に重要なのは、その概念を自分の言動に適用できるかである。
「信頼がないと情報が上がってこない」と講義で説明する。
その直後に、情報や未完成の思考が上がってこなくなるような言葉を使う。
この時点で、講義内容は現場に落ちていない。
リーダー論は、知識として知っているだけでは足りない。
相手がどう受け取るか。
相手の次の行動がどう変わるか。
自分の言葉が安全性を作るのか、壊すのか。
そこまで見ないと、リーダー論はただの座学で終わる。
