退去費用90万円→70万円。いや、70万でも高え──賃貸の原状回復で「写真つええ」になる理由

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SNSで、賃貸を退去した家族が高額請求を受け、消費生活センター経由で弁護士の助言を得て管理会社と争ったところ、請求の一部が撤回され、最終的に支払額が半分ほどになった――という体験談が話題になった。

投稿者の説明では、相手は当初「裁判になってもこちらが勝てる」という趣旨の強い態度だったのに、指摘を受けた直後に一部請求を引っ込めたという。

ここで一瞬、

「半額になった。よかった」

となりそうになる。

しかし、公的な別事例を見ると、もっとすごい。

国民生活センターが2025年に公表した相談事例では、4年間住んだ家賃約7万円のアパートで、退去後に約90万円の原状回復費用を請求され、見直しを求めた結果、約70万円になったという相談が載っている。

20万円下がった。

すごい。

……いや待て。

70万でも高え。

ここが重要である。

退去費用は「いくら値引きされたか」を見るゲームではない。

最終的な請求に、そもそも根拠があるかを見るゲームである。

そして、そのゲームで妙に強い装備がある。

写真だ。

1. 退去費用は、普通に数万円から数十万円まで飛ぶ。90万円級の相談も実在する

公的な相談事例だけでも金額の振れ幅は大きい。

国民生活センターの2026年公表事例には、約6万円の退去費用の中にエアコンクリーニング代が含まれたケース、6年住んだマンションで壁紙と浴室ドアについて合計17万円を請求されたケース、約10年住んだ家賃4万円のアパートで敷金とは別にクロス全面張替え・畳表替えとして約20万円を請求されたケースがある。

東京都の2026年事例では、ペット可物件に5年間住み、小型犬による汚損・破損として24万円を請求された相談もある。

そして別の国民生活センター事例が、90万円→70万円である。

ただし、この数字だけを並べて「20万円以上は全部おかしい」と言うことはできない。

大きな破損、水漏れの放置、喫煙による広範囲な臭い・変色、ペットによる損傷、設備破損など、実際に借主負担が大きくなる事情はあり得る。

だから判断軸は金額そのものではない。

  • その傷は誰の責任か
  • 入居前からあったのか
  • 普通に暮らして生じた通常損耗か
  • 経年変化か
  • 契約の特約はどうなっているか
  • 補修範囲は必要最小限か
  • 経過年数が考慮されているか

である。

「90万円が70万円になりました」は、値下げ実績としては大きい。

でも70万円の根拠が弱ければ、まだ話は終わっていない。

退去精算は家電量販店の値引き交渉ではない。

2. 「原状回復」は、入居時の新品状態に戻すことではない

国土交通省のガイドラインは、原状回復を、借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超える使い方で生じた損耗・毀損を復旧すること、と整理している。

民法621条の考え方として、通常の使用で生じる損耗や経年変化は、原則として借主の原状回復義務から除かれる。

つまり、

「住んでいたら古くなった」 「家具を普通に置いていた」 「時間の経過で色が変わった」

と、

「ぶつけて壊した」 「手入れを怠って被害を拡大させた」 「通常使用を超える汚損を生じさせた」

は同じ箱ではない。

さらに、借主に責任がある損傷でも、何でも新品100%負担になるわけではない。

国交省資料では、経過年数を考慮して負担割合を減らす考え方や、補修工事が可能な最低限度の施工単位を基本とする考え方が示されている。

クロスに一部傷があるから、部屋も廊下も天井も全部新品にして全額あなた持ち。

そういう単純な話にはならない。

もちろん特約がある場合など個別事情はある。

だからこそ、「高い・安い」だけではなく、明細を一行ずつ見る必要がある。

3. 写真が強い理由は、「記憶」を「時系列の事実」に変えるから

原状回復トラブルで厄介なのは、退去時に突然、

「この傷、あなたが付けましたよね」

が始まることである。

数年住んでいたら、人間の記憶は普通に負ける。

「たしか最初からあった気がする」 「いや、なかったと思います」 「担当者に言ったはず」 「聞いていません」

地獄の記憶力対決である。

そこで写真が効く。

国土交通省は、入居前からあった傷などについて、客観的証拠として入居時に写真を撮影しておくことが重要と明記している。

国交省Q&Aも、入居時・退去時にチェックリストと写真で物件状況を確認しておくことは、損傷が入居中に発生したかどうかを明らかにし、トラブルを減らすうえで有効としている。

つまり、

「この傷は前からありました」

だけだと主張である。

入居直後の日付の写真に、その傷が写っている。

すると、

「この時点ですでに存在していた」

という資料になる。

写真は傷を治さない。

請求書も消さない。

しかし、争点を

「どっちの記憶が正しい?」

から、

「この写真が撮られた時点で何が写っている?」

へ移せる。

これが強い。

Evidence beats memory. 記憶より証拠。

4. 消費生活センターに相談するときも、写真があると話を組み立てやすい

国民生活センターは、納得できない請求やトラブルがあれば、消費生活センター等への相談を案内している。全国共通の消費者ホットラインは188である。

相談するときに重要なのは、「高すぎてムカつく」だけで終わらせないことだ。

持っていける材料を並べる。

  • 賃貸借契約書
  • 原状回復やクリーニングに関する特約
  • 入居時チェックリスト
  • 入居時の写真
  • 退去時の写真
  • 管理会社から来た請求書・精算書
  • 見積明細
  • 管理会社とのメールやメッセージ
  • 入居中に設備不良や漏水などを連絡した記録

こうすると、

「70万円は高いと思います」

ではなく、

「このクロス傷は入居初日にすでにあり、この写真があります。請求では全面張替えになっています。経過年数と施工範囲はどう評価されますか」

まで具体化できる。

相談員も超能力者ではない。

資料があれば、論点を切り分けやすい。

写真の価値は「見たら絶対勝てる」ではなく、相談を事実ベースにするところにある。

5. 最強は「傷のアップ」だけではない。場所・時期・全体像まで残す

写真を撮るなら、一枚の接写だけより、複数の情報を残した方が使いやすい。

たとえば、

  1. 部屋全体が分かる広角
  2. 壁や床のどの位置か分かる中距離
  3. 傷や汚れが分かるアップ

の3段階で撮る。

さらに、可能なら入居直後にまとめて撮る。

写真原本も残す。

管理会社に入居時の傷としてメールや専用フォームで送れるなら、その送信記録も残る。

ここまでやると、

「この謎の壁の傷写真は、どこの壁だ?」

問題まで減る。

撮影日時の情報も補助材料になる。

ただし、画像の日時情報だけを絶対的な真実として扱うのは危険である。データは編集・変換されることがあり、証拠価値は他の事情と合わせて評価される。

だから理想は、

写真+チェックリスト+送信記録+契約書

である。

証拠は一人で無双する勇者より、パーティを組ませた方が強い。

6. ただし「写真がある=何も払わなくていい」ではない

ここは重要である。

入居時の写真が強くても、自分で新しく付けた傷まで消えるわけではない。

退去時に新しい大きな穴が開いていて、入居時写真には存在しない。

水漏れを知りながら放置し、被害が拡大した。

喫煙やペットなどについて有効な特約があり、実際に対象となる損傷がある。

こうした場合には借主負担が生じ得る。

また、国交省ガイドラインは一般的な考え方を示すもので、あらゆる契約に機械的に同じ結論を出す法律判定装置ではない。

だから写真の正しい使い方は、

「これで全部タダだ!」

ではなく、

「誰の負担かを判定するための事実を固定する」

である。

写真は免罪符ではない。

タイムスタンプ付きの事実メモに近い。

7. 退去トラブルの本当の怖さは「高額請求」より「何年前の状態か分からない」ことかもしれない

国民生活センターの2026年度ページでは、賃貸住宅の原状回復に関する相談は、PIO-NETで2025年度14,711件とされている。

つまり、特殊なネット怪談だけではない。

そして原状回復の揉め事は、数年後に発火する。

入居初日の傷。

その時はどうでもいい。

壁紙の小さな汚れ。

どうでもいい。

床のへこみ。

写真撮るの面倒。

数年後。

「修繕費用です。合計○十万円です」

突然、全部が重要になる。

だから原状回復対策は、退去日に始めるものではない。

入居日に始まっている。

国交省自身が、退去時の問題を「入口」、つまり入居時から考える重要性を示している。

入居時写真は、未来の自分への保険である。

保険料は数分。

保存容量は数百MB。

数年後の「それ俺が付けた傷だっけ?」を消せる可能性がある。

コスパがおかしい。

結論:70万円が35万円になっても、「半額!」で喜ぶ前に根拠を見ろ。そして写真を撮れ

SNSの体験談では、指摘後に請求が大きく減ったという。

公的事例では、90万円が70万円になった相談もある。

ここで学ぶべきことは、

「とりあえずゴネれば値引きされる」

ではない。

逆だ。

請求の根拠を一つずつ確認する。

通常損耗か。

経年変化か。

借主の過失か。

特約は有効か。

施工範囲は必要最小限か。

経過年数は考慮されているか。

そして、その議論のスタート地点を強くするのが写真である。

「最初からありました」

より、

「入居初日の写真に写っています」

の方が強い。

退去時に未来の自分が消費生活センターへ相談することになったとしても、契約書と請求書と写真が残っていれば、話はずっと早い。

退去トラブルを、数年前の記憶力ゲームにしない。

写真つええ。

本当にこれである。

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