マッチングアプリを使っていると、たまに妙なことが起きる。
文章ではそこまで無双していないのに、実際に話し始めると急に会話が回る。
相手の話を一つ拾う。少しだけ自分の話を返す。そこから「それってどういうこと?」ともう一段掘る。すると相手の発話量が増えて、最後には「今日、思ったよりめっちゃ喋った」と言われる。
そこで気づく。
自分の主戦場、メッセージ欄じゃなくて会話じゃないか。
マッチングアプリを文章力だけのゲームだと思っていたら、実は途中で競技が変わっていた。
1. with通話は「いきなり顔出し」ではない
まず機能面を整理する。
withの公式ヘルプでは、with通話はマッチした相手との1対1通話機能で、通話開始後に画面上のビデオボタンをONにすると映像付きでも話せる。つまり、音声だけで始める運用ができる。
現行案内では、通話開始にはメッセージ5往復以上が必要。1回の通話は30分、1日の上限は2時間。スマートフォンアプリで使う機能で、Web版には対応していない。
なので「通話しませんか」は、必ずしも「今から顔を見せ合いましょう」ではない。
メッセージと対面の間に、ちゃんと音声という中間レイヤーがある。
これが重要である。
2. “聞き上手”は黙っている人ではない
会話がうまく回る人の「聞く力」は、ただ相槌を打つことではない。
相手が置いた一言から、次の話題を発掘する力である。
たとえば、
「最近忙しくて」 →「仕事が忙しい感じ?」 →「いや、趣味の予定を詰めすぎて」 →「何をそんなに詰めてるの?」
という具合に、相手が出した情報をそのまま次の入口にする。
2017年の研究では、会話中に質問、特にフォローアップ質問を多くする人は、相手から好意的に評価されやすい傾向が示された。研究では、その理由の一つとして「ちゃんと聞いて理解しようとしている」と感じさせる応答性が挙げられている。
ただし、この研究のスピードデート部分には後の再分析から方法論的な異論も出ている。 また2025年には元論文の報告値の一部が訂正されたが、訂正文は主要な結論は維持されたとしている。
なので正確には、
「質問すれば必ずモテる」ではない。 「相手の話を受けたフォローアップは、会話の応答性を伝える有力な行動」くらいが妥当。
面接官のように質問数を稼げばいいわけではない。
3. 自己開示して、また相手へ返す。この往復が強い
会話が自然な人は、質問だけを連打しない。
相手が話す。 自分も少し話す。 その自己開示を足場に、また相手へ返す。
この往復がある。
親密さの研究では、自己開示だけでなく、相手が自分を理解し、受け止め、応答してくれていると感じることが親密さに関係する、と長く研究されてきた。
つまり、
質問だけ:取材 自分語りだけ:演説 自己開示→相手へ返す:会話
である。
リアルタイム会話で強い人は、この切り替えをテンポよくできる。
文章だと一往復に数十分かかることでも、音声なら30秒で三段掘れる。
4. 「会う?」は、意外と重いYes/No問題
ここでマッチングアプリ特有の問題が出る。
メッセージがある程度続いたあと、次の一手を
「会いませんか?」
だけにすると、相手は「会う」か「断る」かを選ぶことになる。
まだ少し警戒している。 予定を組むほどではない。 でも話してみるくらいなら興味がある。
こういう中間状態の人まで、「今は会わない」にまとめて落ちる可能性がある。
そこで、
「通話と、直接会うのだったら、どっちが気楽ですか?」
と入口を二つにする。
これは相手を二択に追い込むためではない。
むしろ「対面しか次のステップがない」という一本道をやめる発想である。
圧を減らすなら、
「まだメッセージの方が気楽なら、それでも大丈夫」
まで添えればいい。
選択肢を増やすのであって、逃げ道を消すのではない。
5. 通話は“本番”ではなく、相性確認の小さい実験
通話の良さは、対面より情報量が少ないことではなく、コストが小さいことである。
移動しない。 店を決めない。 服を整える負荷も比較的小さい。 合わなければ30分以内で終了できる。
しかも、声のテンポ、間、笑い、質問の返し方など、テキストでは見えにくい会話の相性がかなり出る。
2014年の初対面研究では、テキスト、音声、映像、対面を比較し、最初のやり取りではテキスト条件の対人評価が相対的に低く、音声と映像の間では好意に大きな上乗せが見られなかった。
別領域だが、2025年の社会的支援の実験でも、対面・映像・音声は主観的な支援感などで近く、テキストは一部指標で低かった。
だから「顔を出さないと関係は進まない」と決めつける必要はない。
声だけでも、会話能力が出る人には十分な情報量がある。
6. ただし「音声が最強」という話でもない
ここは大事。
オンラインデートを扱った2020年の研究では、初回をテキストでやり取りした組の方が、ビデオ通話組より社会的魅力を高く評価する結果も出ている。そしてその後に対面へ移ると、ロマンチックな魅力は下がった。
つまり媒体には、どれにも癖がある。
テキストは考えて返せる。 音声はテンポや温度が出る。 映像は表情まで増える。 対面は情報量が最大になる。
情報量が多ければ必ず有利、でもない。
大事なのは「一般に一番強い媒体」ではなく、「自分と相手の相性が一番自然に出る媒体」を早めに見つけること。
7. “通話なら持っていける”の正体
「通話ならいける」という感覚を、魔法の営業力みたいに考えると危ない。
正体はもっと地味である。
- 相手の言葉を拾う
- 具体化する質問を一つ足す
- 自分の経験も短く返す
- また相手へ戻す
- 話したそうなところは伸ばす
- 反応が薄いところは追わない
この微調整を、リアルタイムで何回も回せる。
つまり強みは「相手を攻略する力」ではなく、
相手が話しやすい状態を作りながら、こちらも自然に出られる力
に近い。
相性が悪ければ普通に終わる。 それでいい。
通話の目的は全員を次へ進めることではない。
合う人を早く見つけ、合わない人も早く分かること。
8. 運用するなら、一本道をやめる
この気づきを実際の運用に落とすと、かなり単純になる。
メッセージで最低限の安心感を作る。 その後、いきなり対面一本にせず、
「よかったら今度、通話か直接会うか、気楽な方どうですか?」
と出す。
通話になったら、質問リストを準備して尋問しない。
相手が出した話題を一段だけ掘る。 自分も一段だけ開示する。 また返す。
そして会話が自然に続くなら、その時点で次の対面を考えればいい。
マッチングアプリで「文章→対面」の二階建てしか見えていなかったところに、
文章→音声→対面
という中二階を作るだけである。
結論:自分の強みを、出会いの後半まで封印する必要はない
マッチングアプリでは、プロフィールと文章が入口になる。
でも、そこで自分の全能力が測られているわけではない。
文章より会話で強みが出る人なら、会うまでその能力を封印する必要はない。
通話という小さい段差を入れればいい。
「会う?」で消える相手の中には、 「会うのはまだ重い。でも話すならあり」 という人が混じっているかもしれない。
そして会話になった瞬間、自分も相手も急に自然になることがある。
攻略ではない。媒体選びである。
マッチングアプリは相手を動かすゲームではなく、二人が話しやすい通信方式を探すゲームでもある。
その人にとって、文章より音声の方が自分らしく話せるなら、次の一手はかなり分かりやすい。
「会う?」の前に、「話す?」を置けばいい。
参考資料
- with公式ヘルプ「with通話について教えて」 https://support.with.is/hc/ja/articles/4703896876185
- 2017年・質問と好意に関する研究 https://doi.org/10.1037/pspi0000097
- 2025年・上記研究の訂正 https://doi.org/10.1037/pspi0000491
- 2019年・質問行動研究の再分析 https://doi.org/10.1037/pspi0000156
- 1998年・自己開示、相手の応答性、親密さに関する研究 https://doi.org/10.1037/0022-3514.74.5.1238
- 2014年・テキスト/音声/映像/対面の初対面比較 https://doi.org/10.1016/j.chb.2013.10.029
- 2020年・オンラインデートのテキストとビデオ比較 https://doi.org/10.1080/15213269.2019.1648217
- 2025年・対面/映像/音声/テキストによる社会的支援の比較 https://doi.org/10.1177/00332941251409165
