要約:『Shadowverse: Worlds Beyond』のリュミオールを見て「誰がこのデザイン考えたんだ」「会議で何を話したらこうなるんだ」と追い始めたら、絵師一人の暴走ではなく、プランナー、シナリオ、アートディレクター、イラストレーターらが分業して「一目で刺さるキャラ」を作る構造が見えてきた。さらに『ブルーアーカイブ』側は、スタッフの「好き」を掛け合わせて作ると統括PDがかなり堂々と説明していた。結論:性癖は個人技ではなく、品質管理工程に乗ることがある。
0. 発端――「リュミオール、サキュバス系すぎない?」
話はシャドバWBの人気キャラを眺めていただけだった。
そこへリュミオールが出てきた。金色、角や翼を連想させるシルエット、自信満々のお姉様キャラ、身体のラインを強く読ませる衣装。第一印象だけなら「サキュバス系のデザイン文法」を感じても不思議ではない。
ところが公式設定を確認すると、WBの《金銀絢爛・リュミオール&アルジャンテ》はドラゴンクラス。フレーバーテキストでも「竜人の国」「四枚羽から生まれた片翼の家族」と説明される。つまり設定上はサキュバスではない。ドラゴンのお姉様が、サキュバス系の視覚記号まで拾っているように見えるのだ。
しかも公式カードページにはイラストレーターとしてこーやふの名前が明記されている。ここで「犯人は絵師か?」と思いたくなるが、制作工程を調べると話はそんなに単純ではなかった。
1. 「描いた人」と「考えた人」は同じとは限らない
ゲームのキャラクター制作では、少なくとも次の仕事を分けて考えたほうがいい。
- キャラが必要だと決める人
- 性格・役割・年齢・性別・世界観上の立場を決める人
- 見た目の方向性やモチーフを決める人
- ラフや一枚絵として具体化するイラストレーター
- 作品全体の統一感を監修するアートディレクター/イラストディレクター
- 実装時の演出やアニメーションを作る人
Cygamesの公開インタビューで『Shadowverse』のリーダースキン制作フローを見ると、キックオフにはプランナー、シナリオプランナー、制作管理、アートディレクター、アニメーションデザイナーが参加する。さらに、プランナーの発注書にはキャラクターの性格、雰囲気、年齢、性別、イラストのコンセプト、ポーズ参考、リファレンスまで入ると説明されている。
つまり「イラストレーターに好きに描かせたら、なぜかこうなりました」ではない。少なくとも完成品は、企画→発注→作画→監修→承認という複数人の工程を通る。
リュミオールについて公開情報から確実に言えるのは「カードイラスト担当がこーやふ」というところまで。最初のキャラクターデザイン原案を誰が書いたか、どこまでCygames側の発注で、どこからが絵師の造形提案なのかは公開されていない。 ここは「こーやふが全部考えた」と断定しないほうが正確だ。
2. では「女の子にしよう」は会議で決めるのか
制作フローを見る限り、性別を含むキャラクター条件が会議・発注の対象になること自体は確実だ。発注書に性別が含まれる以上、「今回は女性にする」「この役割にはこういう年齢感」「この雰囲気で」という判断は上流工程に存在する。
ただし、われわれが本当に読みたい議事録――
- 「太ももを強くしましょう」
- 「いや、今回はお姉様です」
- 「片翼ドラゴンにこのシルエットを足したら刺さります」
- 「採用」
――みたいな性癖開示大会の生々しい会話は公開されていない。
それでも重要なのは、あの完成品が一人の秘密の落書きではなく、複数の職種のレビューを通って商用コンテンツとして出荷されていることだ。ネタっぽく言えば、性癖が品質管理工程に乗っている。
3. シャドバは「誰向けのキャラか」が3秒で分かる
WB公式キャラクターページの主要8枠は、ラヴサイン、マリア=マリス、歪原火織、伽藍、ディアロジアーレ、エスペランサ、ドライツェーン、エース。説明上、女性/少女として明示される枠が5、男性が2、怪物が1という構成になっている。
そして、見た瞬間に属性が読める。
- マリア=マリス:花、貴族、剣、処刑人。上品なのに危険
- 歪原火織:近未来都市、強大な炎、強者感
- エスペランサ:神秘的なお姉さん
- ドライツェーン:機械兵装、二挺拳銃、人造少女
- エース:不思議な先輩/案内役
- ラヴサイン:放蕩王子
- 伽藍:渋い老人の漢方薬屋
- ディアロジアーレ:霧の街の怪物
これは「単純」というより、情報圧縮がうまい。スマホ画面で数秒しか見ないカードやガチャ演出では、長い設定資料を読む前に「自分はこの属性が好き」が発生しないといけない。髪、色、服、武器、表情、姿勢、モチーフが全部UIになる。
Cygames側のアートディレクション紹介でも、『Shadowverse』の重くダークなファンタジー世界に対して、キャラクターにはコミカルさやかわいさを強め、そのギャップを個性にしているという説明がある。世界は重い。キャラは一瞬で読める。その落差が商品として強い。
4. ブルアカを見たら「性癖の民主主義」を公式がかなり自白していた
ここで比較対象として『ブルーアーカイブ』の開発インタビューを読むと、急に解像度が上がる。
キム・ヨンハ統括PDは、キャラクターの誕生には大きく二つのルートがあると説明している。
- デザイナーから「こういうビジュアル/コンセプトはどうか」と提案する
- シナリオ側から「この役割/性格のキャラが必要」と発注する
そして、開発思想についてさらに踏み込んでいる。プロジェクト初期、学園ものなら制服をたくさん出せるという話になり、シナリオライターからヨンハ氏の制服好きまで話題にされた。結果としてヨンハ氏自身を含むスタッフ全員の「好き」を掛け合わせたのが今のブルアカだと説明している。
さらにキャラ造形の話で出た有名な表現が、「露出には限界があってもフェチは無限大」。
これは「とにかく露出を増やせ」という意味ではない。むしろ逆で、衣装、眼鏡、制服、髪型、仕草、関係性、声、性格など、魅力を作る軸は肌の面積以外にいくらでもあるという話として読むのが正しい。
ブルアカについては、開発者側が「作り手自身が好きと言えるものを、同じ感性の仲間と作る」とかなり明確に語っている。こっちはもう、われわれが勝手に「性癖の民主主義」と名付けても、だいたい方向は合っている。
なお、ここで扱っているのは制作思想・キャラクター設計の話であり、作中の生徒キャラクターを性的に評価する話ではない。
5. 一人の「変態」より、複数のオタクを混ぜたほうが強い
一人の好みだけで作ると、当然偏る。実際、キム・ヨンハ氏は過去作で自分の好みを反映しすぎ、主要5キャラ中4人が眼鏡になった経験を語っている。それを踏まえ、個人の好みと製品デザインには線を引く意識を持つようになったという。
この話は商品設計としてかなり重要だ。
一人の「好き」だけなら、一属性に寄りすぎる。
複数人の「好き」を持ち寄ると、
クール、ゴス、眼鏡、制服、メカ、獣耳、お姉さん、王子、人外、老人、怪物……
とポートフォリオが広がる。
つまり「性癖の民主主義」は単なるネタではない。市場をセグメントするキャラクターポートフォリオ戦略にもなる。全員に同じ一人を好きになってもらう必要はない。「自分の一人」を誰かしら見つけられる作品のほうが強い。
6. 「女の子ばっか」に見えるのも、ビジネス設計として説明できる
ここで「アジア人、変態では?」まで飛ぶと、さすがに主語がでかすぎる。
人種や民族の性質として説明する必要はない。より筋のいい説明は、日本・韓国・中国など東アジアのゲーム/アニメ産業が、キャラクターへの愛着を課金・グッズ・二次創作・長期継続へ変換する商売を長く磨いてきたということだ。
美少女、イケメン、メカ、人外、ケモ、老人――何を出すにしても、「一目で属性を伝え、推しを作り、世界観へ滞在してもらう」技術が重要になる。
だから笑うべき対象は民族ではなく、『好き』を要件定義してA/Bテストできそうなレベルまで商品設計に落とし込む業界の執念である。
7. そもそも「変態」という単語は日本発なのか
「変態」という漢語そのものは日本発ではない。古くは姿・状態が変わることを意味し、日本語でも900年ごろの『菅家文草』に用例があり、辞書は中国古典の司馬相如『子虚賦』も文献例として挙げている。昆虫の変態、植物の変態、物質の相変態などの「変わる」の系統が本家だ。
そこから近代日本で「普通とは異なる状態」という意味が広がり、性科学の文脈で「変態性欲」という語が定着していく。クラフト=エビングの Psychopathia Sexualis は1913年、日本で『變態性慾心理』として刊行されたことがCiNiiで確認できる。
辞書上、「変態」単独で性的な意味を持つ早い実例としては、1931年の横光利一『時間』が挙げられている。
つまり、古代の変態=形が変わる、から近代日本で変態性欲→変態(人)という俗用が強くなった。現代の「変態w」はさらに軽い冗談として使われることも多い。一方、歴史上の性科学用語には現在では不適切・病理化的な分類も含まれるため、現代人の性的指向や属性を昔の医学用語で一括して「異常」と扱うのは別問題である。
8. 人気ランキングを調べたら、AIが一番怖かった
この話の途中でAIにランキング画像を作らせたところ、ドライツェーン1位、歪原火織2位、エース3位という、めちゃくちゃ公式っぽいポスターが生成された。しかし、その順位に根拠はなかった。見た目が完成しているほど「データも完成している」と錯覚する、生成AIの典型的な事故なので撤回する。
現時点で公式のユーザー投票として「キャラ人気」に比較的近いのは、2026年の「シャドバ大賞2026」内の『一番好きなリーダースキン部門』。2026年6月1日~7日に投票され、結果画像では、
- オーキス
- 徒姫
- フィルレイン
となっている。ただし、これは全キャラクター総合人気ランキングではない。さらにリュミオールのエクスチェンジチケットは6月29日追加で、投票締切より後だ。したがって「リュミオールはこの人気投票で負けた」とも言えない。
9. リュミオールは「絵師一人の暴走」では説明できない
公開情報だけで確認できるのは、WBカードのイラストレーターがこーやふ、ドラゴンクラスで竜人の家族という設定、6月29日にリュミオールがエクスチェンジチケット化されリーダースキン等の商品ラインに乗ったこと、そしてShadowverseの制作に複数職種の分業・監修工程があること。
一方、「リュミオールの初期キャラクターデザイン原案者は誰か」「具体的な衣装やシルエットを最初に提案したのは誰か」までは公開資料では特定できない。
よって、最も正確なネタ表現はこうなる。
絵師一人の犯行とは断定できない。組織審査を通過した。
10. 結論――「性癖の民主主義」はキャラ商売の合理性だった
キャラクターゲームで強いのは、単にかわいい絵ではない。見た瞬間に属性が分かる。設定が第一印象を補強する。別のスタッフの好みを混ぜても世界観から外れない。カード、スキン、背景、グッズ、物語へ展開できる。
シャドバは制作分業の中でそれをやっている。ブルアカはさらに「スタッフの好き」を掛け合わせる思想までかなり公開している。
だから「会議で性癖開示大会やってるの?」への回答は、議事録はない。だが『好き』を持ち寄って商用キャラにする工程は、少なくとも一部タイトルでは公式に語られている。
そしてリュミオールを見るたび、最終承認者の顔を知らないまま思う。
「これ、複数人が見てOK出したんだよな……?」
FAQ
Q1. リュミオールはサキュバス?
いいえ。公式WBカードではドラゴンクラスで竜人設定。サキュバスっぽいというのはデザイン記号への感想。
Q2. リュミオールの絵師は誰?
WBの《金銀絢爛・リュミオール&アルジャンテ》は公式カードページで「こーやふ」とクレジットされている。
Q3. キャラクターデザイン原案もこーやふ?
公開情報だけでは断定できない。カードイラスト、初期企画、発注、設定、アートディレクションは別工程になりうる。
Q4. シャドバのキャラを一人が全部考えている?
公開制作フローでは複数職種が関与し、発注・監修・実制作を分担する。
Q5. ブルアカは本当にスタッフの「好き」で作っている?
統括PD自身がスタッフ全員の「好き」を掛け合わせたという趣旨を説明している。一方で、一人の好みを製品全体に通しすぎない線引きも語っている。
Q6. シャドバWBの公式人気キャラ1位はオーキス?
全キャラ総合ではない。2026年「一番好きなリーダースキン部門」で1位オーキス、2位徒姫、3位フィルレインだった。
Q7. 最初に出たAIランキングは?
根拠のない生成物だったため撤回・訂正した。
参考資料(12件)
- https://shadowverse-wb.com/ja/deck/cardslist/card/?card_id=10844120
- https://shadowverse-wb.com/ja/news/detail/?id=01KVFAGHSRGF2XWHVGMVG174JN
- https://shadowverse-wb.com/ja/news/detail/?id=01KVCDEM37YGTQ70Z1C6N68Q09
- https://shadowverse-wb.com/ja/character/
- https://gamemakers.jp/article/2024_02_15_57227/
- https://recruit.cygames.co.jp/seminar/2758/
- https://news.denfaminicogamer.jp/interview/250428b
- https://news.denfaminicogamer.jp/interview/250428b/3
- https://kotobank.jp/word/%E5%A4%89%E6%85%8B-131270
- https://ci.nii.ac.jp/ncid/BN02900766
- https://shadowverse-wb.com/ja/news/detail/?id=01KSRY5ZVY5XV8N4JG2XC4E1FC
- https://anniv.shadowverse-wb.com/ja/survey-results/
