導入
蚊に刺されたあと、こう思うことがある。
え、1匹しか見てないのに、なんでこんなに刺されてるの?
腕、足首、ふくらはぎ、指、首。気づいたら何ヶ所も膨らんでいる。
複数匹いたのか。それとも1匹が何回も刺したのか。
結論から言うと、1匹の蚊でも複数ヶ所を刺すことはある。
ただし、蚊の目的は「嫌がらせで何ヶ所も刺すこと」ではない。蚊は満腹になるまで血を吸いたい。うまく吸えなかったり、途中で邪魔されたり、血管にうまく当たらなかったりすると、別の場所を刺し直す。
つまり、蚊は単独犯でも手数が多い。
血を吸うのは主にメスの蚊
まず前提として、蚊が血を吸うのは主に産卵のためである。
蚊は普段、花の蜜などを栄養源にする。血を吸うのは、卵を作るためにタンパク質などが必要になるメスの蚊だ。
そして蚊が血を吸うとき、ただ針を刺してストローのように吸っているだけではない。皮膚に口器を差し込み、血管を探り、血が固まりにくくなるように唾液を入れながら吸血する。
CDCも、蚊は吸血中に唾液を皮膚へ注入し、その唾液に体が反応して腫れやかゆみが出ると説明している。[^cdc-bites]
つまり、蚊刺されは単なる「穴」ではない。
蚊の唾液が入る。
体が反応する。
赤くなる。
腫れる。
かゆくなる。
このセットで起きる。
満腹まで吸えたら、基本はそこで終わりたい
蚊にとって理想の流れは、たぶんこうだ。
- 人間を見つける
- 皮膚に着地する
- うまく血管を見つける
- 邪魔されず満腹まで吸う
- 重くなってどこかに去る
この場合、1ヶ所で十分に吸えれば、それ以上刺す必要は小さい。
蚊は「たくさんの場所を刺したい」のではなく、「必要な血を確保したい」だけである。
しかし現実はそううまくいかない。
人間は動く。
叩こうとする。
かゆくて払う。
服の繊維が邪魔する。
血管にうまく当たらない。
吸い始めたところで中断される。
そうなると、蚊は別の場所でやり直す。
蚊は血管を探している時点で唾液を入れる
重要なのは、蚊が「血を吸い切ったかどうか」より前に、すでに皮膚へ唾液を入れていることだ。
研究では、蚊は血管を探す probing、つまり皮膚内を探っている段階で唾液を注入すると説明されている。[^probing]
つまり、刺したけど血をあまり吸えなかった場所でも、かゆみの原因になる唾液だけは残っている可能性がある。
これが最悪である。
蚊からすると、
ここはうまく吸えないな。別の場所に行こう。
かもしれない。
しかし人間側からすると、
血は吸わせてないのに、かゆみだけ置いていかれた。
になる。
1匹で何ヶ所くらいありえるのか
厳密に「1匹が何ヶ所まで刺すか」は、蚊の種類、状況、人間の動き、吸血の成功率で変わる。
ただ、体感の整理としてはこう考えると分かりやすい。
- 1ヶ所:うまく吸えた可能性が高い
- 2〜5ヶ所:1匹でも普通にありえる
- 5〜8ヶ所:途中で何度も中断された、または蚊が複数いた可能性
- 10ヶ所以上:複数匹、蚊以外の虫、時間差で出てきた反応も疑う
もちろん、これは医学的な判定ではなく生活上の目安である。
大事なのは、「1匹しか見えていないから1ヶ所しか刺されない」とは限らないことだ。
蚊は単独でも刺し直す。
刺された跡は時間差で出ることもある
もうひとつややこしいのが、刺された跡が全部同時に出るとは限らないことだ。
蚊刺されの反応には、すぐ赤く腫れてかゆくなる反応もあれば、少し遅れて膨らんでくる反応もある。蚊刺されのレビューでも、蚊の唾液成分に対する即時型・遅延型の過敏反応が整理されている。[^mosquito-review]
そのため、寝ている間に刺されたあと、起きてから時間差で「あれ、また増えた?」となることがある。
この場合、今この瞬間に蚊が追加で刺しているとは限らない。
ただし、部屋にまだ蚊がいる可能性も普通にある。
蚊は姿を見せない。
音だけする。
消えたと思ったら耳元に来る。
寝た瞬間に仕事を始める。
本当に厄介である。
服の隙間や足首がやられやすい
蚊は露出している皮膚や、服の隙間から刺しやすい場所を狙いやすい。
足首、ふくらはぎ、手の甲、腕、首まわりなどは被害が出やすい。
特に寝ている時は、布団から出ている場所、服がめくれている場所、汗や体温の手がかりがある場所が狙われる。
刺された跡が同じエリアに集中しているなら、1匹がその周辺で複数回トライした可能性もある。
対策は「刺されてから」より「部屋から排除」
蚊は刺し始めた時点で唾液を入れる。
だから、刺されたあとにできることはあくまで被害軽減である。
根本対策は、部屋から蚊を出す・入れない・倒すことになる。
- 網戸の隙間を減らす
- 窓やドアの開閉時間を短くする
- 寝る前に部屋を確認する
- 蚊取り用品を使う
- 水がたまる場所を減らす
- 刺されたら洗う、冷やす、かゆみ止めを使う
CDCは蚊に刺された場合の対処として、石けんと水で洗う、氷で冷やす、市販のかゆみ止めや抗ヒスタミンクリームを使うといった方法を案内している。[^cdc-bites]
まとめ
蚊は1匹でも複数ヶ所を刺すことがある。
理由はシンプルだ。
満腹まで吸えなかった。
途中で邪魔された。
血管をうまく探せなかった。
別の場所でやり直した。
そのたびに唾液を入れた。
その結果、人間側には複数のかゆみが残る。
蚊は血を少ししか吸っていなくても、かゆみの種だけ置いていくことがある。
単独犯でも手数が多い。
そして、かゆみだけ残して帰る。
普通に害悪である。
参考資料(1件)
[^cdc-bites]: CDC “About Mosquito Bites” [^probing]: Martin-Martin et al. “Determination of Mosquito Probing and Feeding Time to Investigate the Effect of Host Blood on Aedes aegypti” [^mosquito-review]: Vander Does et al. “Update on mosquito bite reaction: Itch and hypersensitivity, pathophysiology, prevention, and treatment”
