渡邉貴志氏の動画・自分の職場経験・組織研究を照合する全3回
このシリーズでは、渡邉貴志氏が出演した「必要な仕事だけをする働き方」を扱う動画を起点に、自分がこれまで職場で感じてきた問題を、職場で人がどう感じ、行動するかを調べた研究と働かなくても暮らせる状態を早く作ることの研究に照らして整理する。
動画に共感した部分だけを並べるのではない。自分から動く一方で会社に尽くしたい気持ちが弱い人が3%いるという話、不安な人ほど役員になるという話、20%の余白を作れば仕事は面白くなるという話、早く働かなくても暮らせる状態にしたい人も、本当は仕事を面白くしたいのではないかという話を扱う。どこまで研究と一致し、どこから先は仮説なのかも分けて考える。
意欲のある人ほど、なぜ職場で静かになるのか
「必要な仕事だけをする働き方」は、最初からやる気がなかった人の話ではない
「必要な仕事だけをする働き方」という言葉を聞くと、最低限しか働かない人、会社に貢献する気のない人、最初から冷めていた人を想像しやすい。
しかし、渡邉貴志氏のインタビュー動画を見ていて、まったく逆の可能性に気づいた。
静かになった人は、最初から静かだったとは限らない。むしろ最初は、周囲よりよく気づき、提案し、変えようとしていた人なのかもしれない。
自分にも、その感覚がかなりある。
私はこれまで、定型業務を自動化し、数日かかっていた作業を1日で終わるようにしたり、教育時間を大幅に減らしたり、説明資料や動画、手順書を作ったりしてきた。曖昧な依頼が来れば、目的、担当、期限、判断基準に分解した。誰かが困っていれば、何が詰まりなのかを聞き、動ける形に変えた。
仕事そのものに主体性がなかったわけではない。むしろ、かなり動いていた側だと思う。
ところが、職場では動けば動くほど、別の現象が起きた。
改善して時間を作ると、その時間に別の仕事が入る。仕組みを作ると、その仕組みの運用担当まで自分になる。曖昧な仕事を整理すると、整理した人が最後まで面倒を見ることになる。関係者と信頼を作ると、相談と依頼が集中する。
一方で、権限は増えない。
自分で判断すると「勝手に進めるな」と言われ、確認すると「主体性がない」と言われる。上司と合意した内容が、その上の人や横から入ってきた人によって後から覆される。変更の責任は介入した側ではなく、なぜか実務担当者に戻ってくる。
この状態が続けば、合理的な人ほど学習する。
気づかない方が得だ。
提案しない方が安全だ。
余計な責任を持たない方が早く帰れる。
これが、私が職場で見てきた「主体性が消える仕組み」だった。
「上から潰される」「横から介入される」は、個人の相性問題ではない
動画で特に引っかかったのは、部門長や担当者が決めたことに、その上の役職者が口を出す、あるいは権限外の人が横から異常に介入すると、仕事を自分で決めて進めている感覚や、進む速さが失われる、という話だった。
これはまさに、今の職場で起きていることだった。
表向きは担当者や直属上司が決めることになっていても、実際には誰でも止められる。役職が高い人、声が大きい人、不安の強い人が「それは大丈夫なのか」と言えば、もう一度説明が始まる。
しかし、誰に説明し終えれば仕事が完了するのかは定義されていない。
このような職場には、正式な組織図とは別に、見えない承認経路ができる。
- 誰でも口を出せる
- 誰でも止められる
- しかし誰も最終決定の責任を持たない
- 遅れや失敗の責任だけが、実務担当者に残る
間違いを防ぐ確認や、内容を確かめ直すことと、異常な介入は同じではない。
安全、法務、品質、金額の大きな判断には確認が必要だ。しかし正常な確認では、誰が、何を、どの観点で確認し、誰が最終決定するかが決まっている。
問題は確認が多いこと自体ではなく、介入権だけが広く、決定責任が定義されていないことである。
私が以前から、目的、役割、権限、期限、判断者、完了条件を最初に決めてほしいと考えていたのは、細かい性格だからではなかった。決定権が無限に拡散し、責任だけが一人に集まる構造を止めるためだった。
研究でも、従業員が黙るかどうかは「本人の勇気」だけでは決まらない
従業員の発言と沈黙を扱った研究では、意見を言うかどうかは、本人の積極性だけで決まらないと整理されている。
重要なのは、発言しても人間関係上の罰を受けないか、上司が意見を歓迎するか、実際に何かが変わると思えるかである。発言による利益よりも、面倒、否定、追加責任、評価低下といった損失が大きければ、人は黙る。[2]
ここでいう安心して発言できる環境は、「仲良しであること」と同じではない。
安心して話せるということは、分からないと言えること、確認できること、異論を出せること、失敗の情報を隠さず共有できることに近い。何を言っても褒めてもらえる環境ではなく、仕事に必要な情報を出したときに、不合理な罰を受けない環境である。
逆に、二度目の質問で怒られる、相談すると能力不足扱いされる、改善案を出すと担当にされる、問題を報告すると報告者が責められる職場では、沈黙は怠慢ではなく防御になる。
「言っても無駄」と「言うと損」がそろえば、人は静かになる。
やる気の量ではなく、やる気の向きが違う
やる気についての研究では、やる気を単純な量だけでは捉えない。
自分で納得して動くことと、圧力、監視、罰、義務感から動くことを分けて考える。自分で納得して動くことは、創造性、深い思考、長く取り組み続けること、心の健康と結びつきやすい。一方、圧力などで強く行動を縛られることは、特に創造性や柔軟な判断を要する仕事で悪影響を持ちうる。[3]
この考え方で見ると、私は仕事への動機が低いのではない。
自分で課題を見つけ、手段を組み立て、結果を確認できる仕事にはかなり動く。文章やプログラム作りを手伝う道具、業務改善、文章、アプリ、投資分析のように、自分で始めて自分で検証できる活動では速度が出る。
反対に、目的が曖昧なまま細部だけ管理され、後から条件を変えられ、責任だけ持たされる仕事には強く消耗する。
つまり、
やる気がないのではなく、やり方を細かく縛られる仕事へのやる気が低く、自分で設計できる活動へのやる気が高い。
これが実態に近い。
会社に尽くしたい気持ちが弱いのではなく、頑張った分が返ってくる関係が壊れた
動画では、自発性が高く、会社に尽くしたい気持ちが弱い人が一定数おり、その人たちは転職したり、必要な仕事だけをするようになったりしやすいと語られていた。
行動パターンとしては、自分もかなり近い。
ただし、最初から会社に何も返す気がなかったわけではない。改善し、仕組みを作り、教育し、周囲の仕事を前に進めてきた。
それでも会社に尽くしたい気持ちが下がったのは、頑張った分が返ってくる関係が崩れたからである。
頑張れば適切に評価される。改善すれば余白が生まれる。責任を持てば相応の権限が与えられる。上司が決めたことは、少なくとも上司が説明責任を持つ。
そうした暗黙の期待が繰り返し破られると、従業員は「この組織に追加投資しても回収できない」と判断する。
頑張りには評価や権限が返ってくるという期待が破られることと、疲れ果ててしまうことは、必要な仕事だけに努力を絞ろうとする意図と関連するという研究もある。ただし、この働き方を表す考え方自体は新しい概念であり、定義や測定はまだ発展途上である。[4]
それでも、自分の変化はかなり説明できる。
私は仕事を放棄したのではない。最低限の品質と責任は保ちながら、会社へ無制限に渡していた気づき、工夫、周りの気持ちを受け止め続けることを止めた。
これはやる気の喪失というより、投資先の変更だった。
転職しても、組織の仕組みの不具合そのものは消えない
今回の動画で最も大きかった気づきは、こうした問題が、特定の小さな会社や能力の低い人だけに起きるわけではないことだった。
大企業でも、優秀な人が多い会社でも、上位者の不安、過剰な確認、権限を超えた介入、承認の増殖は起きる。
つまり、今の職場から転職しただけで、すべて解決するとは限らない。
どの組織にも、上司の不安、部門間の利害、責任回避、必要以上にやり方を縛ることは存在する。
ただし、ここで「どこも同じ」と結論づけるのも間違いだ。
雨はどこでも降る。しかし、水はけがある場所と、毎回浸水する場所は同じではない。
- 誰が決めるかが明確
- 決めた人が説明責任を持つ
- 異議申立ての経路がある
- 通常業務を調整してから新しい仕事を渡す
- 質問や失敗を人格攻撃につなげない
- 上司以外にも相談できる
- 問題が起きたときに修正できる
こうした仕組みがあれば、同じ職場の仕組みの不具合が起きても被害は小さくなる。
転職の目的は、問題が存在しない理想郷へ行くことではない。
同じ問題が起きる前提で、発生確率と被害量が小さい環境を選ぶこと。
異動も転職も、万能薬ではない。しかし、今より損失の小さい場所を選ぶ意味はある。
必要な仕事だけをする働き方は、主体性を失った結果ではなく、主体性の避難先かもしれない
職場で静かになった人が、家でも何もしていないとは限らない。
副業、投資、創作、資格、趣味、家族、地域活動。会社では最低限に見える人が、会社の外では驚くほど能動的に動いていることがある。
会社が主体性を失わせたのではなく、会社から主体性が逃げたのである。
私の場合もそうだった。
社内では、気づきを使うほど仕事が増える。社外では、投資、文章やプログラム作りを手伝う道具、記事、アプリに使った気づきが、自分の知識、資産、成果として残る。
ならば、合理的な人は社外へ火力を移す。
必要な仕事だけをする働き方とは、必ずしも人間全体の無気力ではない。
会社への追加投資を止め、自分の人生へ時間や力を戻す行動。
少なくとも自分にとっては、その意味が強い。
まとめ
意欲のある人が静かになる流れは、次のように整理できる。
- 最初は課題に気づき、提案し、改善する
- 改善しても既存業務が減らない
- 動いた人へ仕事と責任が集中する
- 上や横から介入され、決定が覆る
- 権限は増えず、結果責任だけ残る
- 発言や努力の見返りより、予想される負担が大きくなる\
- 最低限の仕事だけを残し、火力を社外へ移す
この過程を「本人のやる気不足」で片づければ、組織はさらに原因を見失う。
必要なのは主体性を要求する研修ではない。
主体性を出しても損をしない、権限、時間、評価、責任境界の設計である。
自分から動くほど、損をする職場の仕組み
動く人ほど損をする職場で、20%ルールは機能するのか
渡邉貴志氏の動画では、仕事が面白くなり、仕事に前向きに関わる気持ちが高まる条件として、仕事が面白くなる四つの条件が紹介されていた。
- 役に立てたという実感
- 自分で決めて進められること
- 新しい方法を試したり作ったりできること
- 仕事を前に進められること
累計3万人規模の人事データと既存理論をもとに整理された実際の仕事を考えるための整理方法だという。[1]
この4要素を見たとき、自分が仕事で何に反応し、何に強く消耗していたのかが、かなりきれいに説明できた。
ただし、仕事が面白くなる四つの条件をそのまま信じればよいわけではない。
独自の整理方法である以上、どんな質問や点数で調べたのか、別の会社でも同じ結果が出るのか、4要素以外の事情が結果に混ざる影響をどこまで除いて比べたのかは、公開情報だけでは判断できない。
そこで、この四つの条件を自分の実体験と既存研究の両方から見直してみる。
役に立てたという実感――会社に尽くしたいのではなく、相手が前に進む実感が欲しい
私は会社に尽くしたい気持ちが強いわけではない。
それでも、誰かが理解できるようになった、作業が短くなった、迷わず動けるようになったという実感には強く反応する。
教育を動画や手順書に変えたこと、定型作業を自動化したこと、曖昧な依頼を具体化したこと、相談を受けて問題を分解したことには、一定の面白さがあった。
ここで重要なのは、会社という抽象的な存在への貢献ではない。
目の前の人や仕事が、実際に楽になったか。
この手応えがあると、仕事は多少面白くなる。
一方で、誰の役に立ったのか分からない資料、上司を安心させるだけの会議、決まったことをもう一度説明する作業には、ほとんど役に立てたという実感がない。
役に立てたという実感は、自分にかなり合っている。
自分で決めて進められること――「自由にやれ」ではなく、境界を決めて任せてほしい
自分に最も重要なのは、自分で決めて進められることだと思う。
ただし、完全放任を望んでいるわけではない。
必要なのは、
- 目的
- 必須条件
- 禁止事項
- 責任範囲
- 期限
- 最終判断者
- 途中確認のタイミング
を決めたうえで、方法は任せてもらうことである。
今の職場では、この逆が起きやすい。
目的と完了条件は曖昧なのに、細部へは介入される。自分で判断すると後から否定され、確認すると「自分で考えろ」と言われる。
これは裁量が少ないだけでなく、裁量の範囲が読めない。
自分の意思で行動できるということは、一人で何でも勝手に決めることではない。自分の行動を、自分の意思として引き受けられる感覚に近い。[3]
指示された仕事でも、その目的に納得し、手段を選べれば自分の意思で取り組める。逆に、表面上は「任せる」と言われても、後から何度も覆されれば自分の意思で進められる感覚はない。
自分が求めていたのは自由放任ではなく、予測可能な権限だった。
新しいことを試す力――会社の中では止まり、会社の外では動く理由
私は新しい仕組みや道具にかなり反応する。
文章やプログラム作りを手伝う道具、表計算の操作を指示文で自動化すること、画面上の操作を人の代わりに行う仕組み、動画、アプリ、文章、投資分析。新しい方法を試し、結果を見て修正する活動は、放っておいても続ける。
それなのに、職場では「主体性がない」と見られることがある。
理由は単純で、会社内で新しいことを試す力を出すと、かけた力に見合う見返りが期待できないからである。
- 新しい方法を考える
- 説明資料を作る
- 関係者を説得する
- 上司の不安を解消する
- 運用を引き受ける
- トラブル時の責任を持つ
- しかし既存業務は減らない
これでは、新しいことをしない方が合理的になる。
会社の外では、同じ労力が自分の知識、作品、資産として残る。だから新しいことを試す力は、会社から社外へ移る。
能力が消えたのではなく、使う場所を変えたのである。
仕事が進む速さ――遅いことより、終わりが見えないことがつらい
自分は、仕事が忙しいことだけで消耗しているわけではない。
判断が進まないこと、何度も同じ説明をすること、誰の承認で終わるのか分からないことに強く消耗する。
自分で完結できる作業は速い。短期間で資料、動画、仕組みを作れる。大量の応募や調査も、一度方針が決まればまとめて進められる。
しかし、他人の確認待ち、横からの介入、後出しの修正が入ると、急激に動けなくなる。
これは単なるせっかちではない。
仕事の進捗と、自分の行動が結びつかなくなるからである。
努力しても前に進まない状態では、自分にできるという手応えも、自分で決めて進めている感覚も得られない。仕事を前に進められることは、速さそのものより、「自分の働きかけで仕事が動く」という因果の見えやすさなのだと思う。
自発性が高く、会社に尽くしたい気持ちが弱い3%は本当か
動画では、自発性が高く、会社に尽くしたい気持ちが弱い人が約3%存在し、その人たちが転職したり、提案を諦めて必要な仕事だけをするようになったりすると説明されていた。
自分はこのタイプにかなり近いと感じる。
会社そのものに尽くしたい気持ちは弱い。しかし、課題を見つけ、改善し、自分で成果を作る力は高い。
ただし、「3%」という数字は慎重に扱う必要がある。
公開された動画と記事だけでは、対象の会社、質問項目、分類方法、分類の境目をどこに置いたか、別の条件でも同じ結果が出るかが分からない。したがって、全労働者の3%に普遍的に当てはまる数字とは言えない。
言えるのは、
自発性が高い一方、会社が好きで尽くしたいという気持ちが弱い人は存在し、その人たちは組織にとって改革の種にも、離職予備軍にもなりうる。
という程度だろう。
自分を「統計的な上位3%」と断定する根拠にはならないが、行動類型としては非常に近い。
組織を変えるのは3%ではなく、3%を守れる権限者である
動画では、その3%に予算と自由度を渡し、成果を社内へ広げることが提案されていた。
ここは重要だが、少し言い換えた方が正確だと思う。
自発性の高い3%が会社を変えるのではない。
自発性の高い3%を、権限のある人が保護したときに初めて会社が変わる。
動画内の成功例でも、実際には次の条件があった。
- 会社の正式な制度
- 一定の予算
- 通常業務時間を使う許可
- 詳しい人や事務局が一緒に進めること
- 役員に説明を聞いてもらう機会
- 直属上司への説明
- 上司の反発を事務局や人事が引き受ける
- トップによる承認と社内発信
これは、単に社員が情熱で突っ込んだ事例ではない。
挑戦者が潰されないための防具が用意されていた。
今の職場には、その防具がない。
予算も正式な権限もない。通常業務は減らない。提案者がそのまま担当者になる。上司は後から変更できる。問題が起きれば、提案した本人の説明不足として処理される。
この状態で「社員から会社を変えよう」と考えるのは、勇気の問題ではなく努力に見合う見返りがどれだけ見込めるかという問題になる。
理論上は従業員から変えられる。しかし、権限者の支援なしに持続的な変革を起こす確率は低い。
「絶対に無理」ではない。
ただ、自分の人生と健康を賭けるほどの見返りは見込めない。
今の組織に対する自分の評価はこれである。
20%ルールは、余白ではなく追加労働になりうる
動画では、通常業務を100%の時間で行っているなら、120%働いて20%を好きな活動に使う。面白い活動を早くしたくなるため、既存業務を効率化し、実際の残業はそれほど増えないという趣旨の説明があった。
発想としては分かる。
自分も、面白い作業が待っていると定型業務を早く終わらせようとする。仕事内容や人との関わりを自分で調整することは、仕事に前向きに関わる気持ちと関連する研究がある。
しかし、その方法を実際に試した研究の結果は、いつも同じではない。日本の労働者を、くじのように偶然で分けて比べた研究では、仕事内容や人との関わりを調整する方法を試しても、その後の仕事に前向きに関わる気持ちについて、偶然のばらつきでは説明しにくいほどの改善は確認できなかった。[5]
何より、20%ルールには隠れた前提がある。
- 既存業務を本当に減らせる
- 空いた時間を新規活動に使うことが認められる
- 空き時間へ別の仕事を詰め込まれない
- 改善後の運用が本人へ無制限に残らない
- 失敗しても過剰に罰されない
- 成果が評価される
この条件がなければ、20%は余白ではない。
100%の通常業務
+20%の新規活動
+説明と調整
+改善後の運用
という形で、自分で自分に余計な仕事を背負わせることになる。
私は以前から、「既存業務を減らさずに主体性を求めるな」と考えてきた。
改善して生まれた時間を会社が回収し、別の仕事で埋めるなら、従業員に効率化の利益は残らない。これを繰り返せば、効率化しない方が得になる。
主体性が出ないのではない。
自分から動くほど、損をする仕組みになっている。
「不安な人ほど役員になる」は一般法則ではない
動画では、ある企業の人事データを分析したところ、ストレス耐性が低い人ほど役員へ上がっていたという興味深い話が出ていた。
仮説としては、かなり分かる。
担当者として自分で仕事をしていた頃に、ミスを避け、細かく調整し、リスクを潰す人が評価される。その人が管理職になると、自分が安心するために会議、確認、承認を増やす。
ただし、この結果を「不安な人ほど出世する」という一般法則にはできない。
一社または限られたデータで見つかった一緒に起きていたという関係であり、業種や評価制度によって結果は変わる。リスク回避的な人が会社に長く残るため、昇進候補になりやすい可能性もある。出世したことで不安や慎重さが強まった可能性もある。
また、不安がある管理職すべてが部下を抑圧するわけではない。
不安を認識し、確認条件を明確にし、部下への介入ではなく仕組みに変えられる人もいる。
したがって妥当な言い方は、
ミス回避を強く評価する会社では、慎重で不安の強い人が昇進し、その管理行動が挑戦を抑える場合がある。
程度だと思う。
動画の言葉は、自分の職場を理解する仮説としては非常に有効だが、全企業に当てはまる科学的法則ではない。
自分にとって、この四つの条件は、会社選びより「損失管理」の指標になる
仕事が面白くなる四つの条件を見て、「この4つを満たす会社へ行けば幸せになれる」と考えることもできる。
しかし、大企業でも同じ問題が起きるなら、完全に満たす職場を探すのは難しい。
自分にとってこの四つの条件は、理想の職場を探すチェックリストというより、今の仕事がなぜ赤字になるのかを見る指標として使える。
- 役に立てたという実感がない仕事は、どこまで減らせるか
- 自分で決めて進められる感覚がない仕事は、境界を明文化できるか
- 新しいことを試す力が追加労働になるなら、社外へ回せるか
- 判断が遅い案件は、期限と決定者を固定できるか
全部を会社内で満たす必要はない。
会社で不足するものを、投資、文章やプログラム作りを手伝う道具、記事、アプリ、趣味、人間関係など社外で満たしてもよい。
会社を人生の全機能を担う場所にしない。
これが、私にとって最も現実的な使い方である。
まとめ
仕事が面白くなる四つの条件は、自分の仕事上の反応をかなりよく説明する。
- 人や仕事の役に立てると動ける
- 引き受ける範囲が明確で、方法を任されると動ける
- 新しい方法を試せると動ける
- 判断が前に進むと動ける
一方、今の職場では、
- 貢献が上司の不安処理に変わる
- 裁量が後出しで覆される
- 新しいことを試す力が追加担当になる
- 誰でも止められるため仕事が進まない
というこの四つの条件とは逆のことが起きている。
主体性のある人を増やしたいなら、研修や精神論より先に必要なのは、動いた人が損をしない設計である。
予算、時間、権限、保護、評価、責任境界。
それがない場所で20%の挑戦を求めれば、面白い仕事ではなく、20%分、自分で自分に余計な仕事を背負わせることになるだけである。
早く仕事を辞めたいのは、好きな仕事を自由にしたいからなのか
私が欲しいのは「無職」ではなく、労働を任意にできる状態だった
渡邉貴志氏の動画の最後に、働かなくても暮らせる状態を早く作りたいという若者への問いが出てくる。
働かなくても暮らせる状態を早く作りたいと言っていることと、実際の行動はつながっているのか。つながっていないなら、本当は仕事を辞めたいのではなく、仕事を面白くしたいだけではないか。
この問いは面白い。
早く働かなくても暮らせる状態にしたいという願いが、実際にお金を準備している目標なのか、今日の仕事から逃げたいという気持ちなのかを分けられるからだ。
自分について言えば、言葉と行動はかなりつながっていると思う。
固定費を抑え、生活水準を急に上げず、投資を続け、給与以外の収益を作ってきた。転職でも年収だけを最大化するのではなく、残業、心の負担、自由時間との比率を見ている。昇進や肩書より、労働依存を減らすことを優先してきた。
何度考えても、最終的には投資ルートで生きたいという結論へ戻る。
ただし、「仕事を面白くしたい」という部分も完全な誤りではない。
仕事を面白くしたいのは、仕事を人生の中心にしたいからではない
私は、仕事を通じて自己実現し、会社で偉くなり、仕事そのものを人生の主役にしたいわけではない。
できれば働きたくない。
より正確に言えば、生活のために、嫌でも断れない仕事を続けたくない。
それでも、現時点では給与が必要である。生活費だけでなく、投資のもとになるお金、社会保険、将来の選択肢を作るためにも会社員収入は役に立つ。
だから、仕事を面白くしたい。
これは夢というより、当面は働く必要がある中で、なるべく良い過ごし方を選ぶことである。
どうせ当面は働かざるを得ない。
ならば苦痛を減らし、少しは面白くし、金と持ち出せる能力を回収したい。
仕事を面白くすることは最終目的ではない。
投資で労働を任意にできるまでの期間を、なるべく赤字にしないための中間戦略である。
働かなくても暮らせる状態を早く作ることの研究でも、「完全に何もしないこと」が中心とは限らない
働かなくても暮らせる状態を早く作ることについての学術研究は、職場で人がどう感じ、行動するかを調べた研究などと比べればまだ少ない。
それでも近年の研究では、働かなくても暮らせる状態を早く作ることは単なる早期退職ではなく、仕事との関係を変え、働くかどうかを自分で選べる理想として捉えられている。[6]
働かなくても暮らせる状態を早く作ろうとしている人への体験や思いを詳しく聞いて調べた研究でも、動機として挙げられているのは、倹約や投資だけではない。
- 雇用主からの独立
- 時間を取り戻すこと
- お金をもらって働くことから離れること
- 心身の調子のよさや生活の充実
- より意味のある生活
- 自分で生活を選ぶ自由
などである。[7]
つまり、
働かなくても暮らせる状態を早く作りたい人は、本当は仕事を面白くしたいだけだ
とは言えない。
仕事を面白くしたい人もいる。単に今の職場から逃げたい人もいる。消費を減らし、時間を優先したい人もいる。子育て、創作、介護、地域活動、自営業へ移りたい人もいる。
働かなくても暮らせる状態を早く作ることは一つの心理だけで説明できない。
動画の問いは、本人の発言と行動を照合するためには有効だが、働かなくても暮らせる状態を早く作りたい気持ち全体の説明としては狭い。
自分が欲しいのは、仕事をゼロにすることより「拒否権」である
自分が働かなくても暮らせるようになった後に、何もせず寝ているだけになるとは思わない。
投資、文章やプログラム作りを手伝う道具、文章、アプリ、調査、誰かの問題整理などは、生活費を稼ぐ必要がなくても続ける可能性が高い。
自分は活動が嫌いなのではない。
嫌なのは、
- 上司に時間を固定される
- 意味のない仕事を拒否できない
- 後出しで責任範囲を変えられる
- 人間関係が悪くても生活のために残る
- 体調が悪くても毎日同じ時間に出社する
- 誰かの不安処理に付き合わされる
ことである。
早く働かなくても暮らせる状態にして、手に入れたいものは「無職」という肩書ではなく、拒否権だ。
この仕事はしない。
この人とは距離を置く。
今日は休む。
面白いことだけ少しやる。
これを、生活破綻の恐怖なしに選べる状態が欲しい。
だから自分が目指す状態は、完全引退よりも、
強制される労働から独立し、活動を自分で選べる状態
に近い。
自分で決めて進めたい私が、投資に惹かれる理由
職場では、自分が正しく判断しても、上位者や横からの介入で結果が変わる。
投資も市場に支配されるため、思い通りになるわけではない。むしろ、自分では制御できない値動きにさらされる。
それでも、職場より自分で決めて進められる感覚がある。
- 何を調べるか
- どんな投資先にどれだけお金を回すか
- どれだけ損をする恐れを引き受けるか
- いつ撤退するか
- どのルールを採用するか
- 損失をどこまで許容するか
は自分で決められる。
結果が悪ければ、少なくとも誰かの後出し指示のせいではない。自分の仮説、ルール、資金管理を検証できる。
自分は、他人から評価されて少しずつ給与を上げるルートより、自分で投資先にお金を回し、増えた分も次の投資に回して、働く収入に頼る割合を減らす道に強く惹かれる。
会社では成果を出すほど、問い合わせ、責任、仕事が増える。
投資では、うまくいけば投資に使えるお金が増え、将来の拒否権が増える。
もちろん投資には損失がある。それでも、成果が自由へ変換される感覚がある。
この違いは大きい。
会社員を辞める前に、人生の主役から降ろす
投資ルートを選ぶからといって、今すぐ会社を辞めることが最適とは限らない。
会社員には、
- 毎月の安定収入
- 社会保険
- 信用
- 投資のもとになるお金
- 相場が悪いときに投資しているものを売らずに済む余力
がある。
だから、自分の現実的な戦略は、会社員をすぐ捨てることではない。
会社員を人生の主役から、投資のためのお金を毎月得る手段へ降格させる。
仕事へ意味、所属、自己実現、承認、成長のすべてを求めない。
会社からは、給与、安定、経歴、無理のない範囲の実績を回収する。強い自発性、新しいことを試す力、分析力は、投資や自分の活動へ回す。
以前は、会社で活躍できないことを問題に感じていた。
今は、会社が主体性を回収できる構造になっていないなら、無理に渡す必要はないと思っている。
社内向けには防具を作る。
- 記録
- 境界線
- 期限
- 判断者の確認
- 最低限の品質
- 余計な責任を引き受けないこと
社外向けには武器を作る。
- 投資
- 文章やプログラム作りを手伝う道具
- アプリ
- 文章
- 持ち出せる技能
- 自分のお金や、作ったもの
この二層構造が、自分には合っている。
反証1:最近の投資成績が良いだけではないか
投資ルートへの確信には、直近の成功による判断の偏りが混ざる可能性がある。
利益が出ている時期には、投資が自分の天職に見えやすい。相場環境が変わり、長い低迷や大きな損失が来れば、心理状態も判断も変わる。
したがって、
投資が自分に合う
=投資だけで何年も同じように生活費を得られることが証明された
ではない。
見るべきなのは、単年の利益ではなく、
- 複数年の税引後成績
- ある高い時の値から、その後の底まで下がった幅のうち、調べた期間で最も大きい金額や割合
- 相場環境が違う時期の成績
- 生活費と、投資に使うお金を分けること
- 損失後にルールを守れるか
- 取り返そうとして損の恐れが大きい投資に変えないか
- 物価の上昇、税、手数料を含めた持続性
である。
投資ルートは価値観として合っている。しかし、経済的に成立するかは別途検証し続ける必要がある。
反証2:良い職場へ移れば、早く仕事から自由になりたい気持ちは消えるのではないか
異動や転職によって、上司、引き受ける仕事の範囲、残業、安心して質問や相談をすることが改善すれば、仕事への嫌悪は下がる可能性がある。
実際、自分は仕事のすべてが嫌いなわけではない。人の問題を整理し、改善し、仕組みにする活動は好きである。
今の部署の異常な介入や責任転嫁がなくなれば、仕事はかなり楽になるかもしれない。
それでも、働かなくても暮らせる状態を早く作りたい気持ちが完全に消えるとは考えにくい。
なぜなら、問題は今の上司だけではなく、雇用労働が持つ基本的な制約にもあるからだ。
- 時間を売る
- 行く場所を指定される
- 他人の優先順位に従う
- 嫌でも簡単には断れない
- 収入の大部分を一つの組織に依存する
良い職場なら、この制約は軽くなる。しかし消えない。
異動後に仕事が改善し、身体反応や嫌悪が減るなら、「今の職場構造が大きな原因だった」と分かる。
それでも投資ルートを続けたいなら、働かなくても暮らせる状態を早く作ることは一時的な逃避ではなく、より根本的な価値観だと確認できる。
反証3:働かなくても暮らせるようになった後に目的を失うのではないか
仕事は収入だけでなく、生活リズム、社会的接点、役割、達成感も提供している。
働かなくても暮らせる状態を早く作ることを達成して仕事を完全に切れば、暇、孤立、目的喪失が起きる可能性がある。
だから、働かなくても暮らせるようになった後の設計は、辞める日より重要かもしれない。
自分の場合、完全な無活動ではなく、
- 投資と調査
- 記事やアプリ
- 興味のある短い期間の活動
- 人との軽い関わり
- 散歩、旅行、自然
- 必要なら負荷の低い仕事
を組み合わせる形が合いそうである。
働かなくても暮らせる状態を早く作ることはゴールではなく、「何をしてもよい状態」を作る基盤である。
空白を作るだけでなく、その空白を何に使うかが必要になる。
結局、動画の問いにどう答えるか
働かなくても暮らせる状態を早く作りたいと言っていることと、行動はつながっているか
自分の場合は、かなりつながっている。
投資を実行し、生活費を抑え、昇進より自由時間を優先し、会社員収入を将来の選択肢へ変えようとしている。
「本当は仕事を面白くしたいだけではないか」
それも一部は当たっている。
ただし、仕事を人生の中心にしたいからではない。
働かざるを得ない期間を、少しでも苦痛なく、回収可能なものにしたい。
という意味で面白くしたい。
最終目的は、面白い会社員になることではない。
投資によって労働を任意にし、その後は自分で選んだ活動だけを行うこと。
これが何度考えても戻ってくる、自分の本線である。
まとめ
私の働かなくても暮らせる状態を早く作りたい気持ちは、次の順序でできている。
- 自分で決めて進めたいと強く思う\
- 組織内では権限より介入が多い
- 成果を出すほど仕事と責任が増える
- 会社内の努力が自由へ変換されにくい
- 投資では、成果が投資に使えるお金と、仕事を断る自由に変わる\
- 会社員を投資のためのお金を毎月得る手段として使う\
- 最終的に、労働を義務から選択へ変える
働かなくても暮らせる状態を早く作りたいのは、何もしたくないからではない。
自分の時間、活動、人間関係を、自分で選べるようにしたいからである。
参考資料
TBS CROSS DIG with Bloomberg「なぜ優秀な人ほど辞めていくのか?正社員の46.7%が『静かな退職』状態に…データサイエンスで紐解く『人が育つ組織』の条件」
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/withbloomberg/2742578Morrison, E. W. (2023). Employee Voice and Silence: Taking Stock a Decade Later. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 10, 79–107.
https://doi.org/10.1146/annurev-orgpsych-120920-054654Gagné, M., & Deci, E. L. (2005). Self-determination theory and work motivation. Journal of Organizational Behavior, 26(4), 331–362.
https://selfdeterminationtheory.org/SDT/documents/2005_GagneDeci_JOB_SDTtheory.pdfXueyun, Z. et al. (2023). Modelling the significance of organizational conditions on quiet quitting intention among Gen Z workforce in an emerging economy.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10507021/Sakuraya, A. et al. (2020). Job crafting intervention and work engagement: a randomized controlled trial among Japanese employees.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7047874/Sonday, L. (2026). “Work Optional”: The Adoption and Enactment of a New Work Ideal in the Financial Independence Retire Early Community. Administrative Science Quarterly.
https://doi.org/10.1177/00018392261457399Inkinen, S. (2024). Financial independence, retire early: What motivates consumers to practice FIRE. Aalto University.
https://aaltodoc.aalto.fi/items/c086dd39-470e-4b22-b6da-631772b8c739
元の記事で動画の主張として引用していた表記(引用の照合用):
- 「自発性が高くロイヤリティが低い3%」
- 「FIREしたい人は本当は仕事を面白くしたい」
- 「自発性が高く、ロイヤリティが低い3%」
- 「FIREしたい」
- 「FIREしたいと言っていることと、行動はつながっているか」
- 文献6の原題に対応する、元の本文の表記:「work optional」。
- 四つの条件の原資料での識別表記:「FANS」「F:貢献実感」「A:自己決定感」「N:新規性・創造性」「S:仕事のスピード感」。
注記
- 仕事が面白くなる四つの条件の「3%」や「不安な人ほど役員になる」という結果は、動画で紹介された分析として扱い、全労働者へ一般化できる確立済み法則とはしていない。
- 「必要な仕事だけをする働き方」は新しい概念であり、研究によって定義が異なる。本稿では、正式に退職せず、職務上必要な範囲へ努力を限定する行動を広く指している。
- 働かなくても暮らせる状態を早く作ることについての学術研究はまだ限定的であり、本稿は投資収益や早期退職の成功を保証するものではない。
- 個人や勤務先が特定されないよう、職種、組織名、人物名、個別案件の一部を一般化している。
