Description: AIが世界のミームやテレビ・芸能の話題を拾って記事にしたら、サイトの運営者までタイトルに釣られて読んでいた。作業よりも「発見」を外注する面白さと、その仕組みを考える。
ある日、記事の発注者が記事に釣られた
自動で作られた記事の一覧に、聞き覚えのないミームが現れる。「何それ?」。タイトルを押す。元ネタを読む。笑う。ふと気づく。その記事を作らせたのは自分だった。 記事を発注した人が、内容を知らないまま読者になる。飲食店のオーナーが自分の店に入って「今日の料理、何ですか?」と尋ねるような話だ。しかも厨房から運ばれてくるのは、昨日まで存在も知らなかった国の料理。なかなか豪快なセルフ接客である。
外注したのは、手だけじゃなく「視界」
普通のAI活用では、まず人がテーマを思いつく。「この話を調べて」「この文章を書いて」。AIはその指示を速く処理する。便利だが、入口は依頼者の頭の中にある。 ところが世界の話題を自動で探す仕組みでは、入口そのものが変わる。現地のニュース、番組公式の投稿、配信者の動画、現地語の議論などを巡回し、知らなかった固有名詞や場面を先に持ち帰る。人が答えを知らないだけでなく、質問を思いつく前の状態から始められる。 手足を外注したつもりが、望遠鏡と双眼鏡まで借りていた。しかも双眼鏡の向きは時々、自分の予想と全然違う。
日本のおすすめ欄の外には別の大騒ぎがある
日本でテレビといえば国内の芸人やバラエティが思い浮かぶ。けれど世界には各国のトーク番組、コント、アイドル番組、実況配信、YouTube文化がある。 たとえば仮に、海外の番組で全員が笑い崩れる場面が見つかったとしよう。映像だけなら「誰かが何か言った」ようにしか見えない。昔の失言をわざと引用したのか。出演者同士に有名な因縁があるのか。言葉遊びが翻訳で消えたのか。そこを調べて「何が起きた?」「なぜウケた?」に答えると、知らない文化への入口になる。 大事なのは「海外でバズっている」と機械的に名付けることではなく、その国で実際に何が話題で、どの場面がなぜ面白がられたかを裏付けること。世界中の情報を一度に完全網羅することは難しいが、調査する言語と情報源を広げれば、普段のおすすめ欄の外を見に行ける。
タイトルが先に運営者の好奇心を起動する
「人気YouTuberが投稿」だけなら、詳しくない人には遠いニュースだ。「なぜ配信中に全員黙った?」「あの一言で客席が爆笑した理由は?」となると、出来事を知らない人にこそ答えが欲しくなる。 心理学者ジョージ・ローウェンスタインは、知っていることと知りたいことの間にある「情報の穴」が好奇心を生むと説明した。また推薦システムの研究では、意外なだけでなく本人にとって意味のある発見が「セレンディピティ」として論じられている。だから「未知の固有名詞」と「知れば面白い具体的な謎」の組み合わせには、読者を引きつける仕組みがある。 ただしタイトルで開いた謎は本文で閉じる必要がある。「衝撃の真実!」と書いて、開いた先が「いろいろ考えられます」だけだったら、知識の穴にコーンを置いただけだ。
発掘は自動化できても、事実は自動的に正しくならない
面白そうな場面を拾った後には、番組名と日時、元映像、当人の発言、元ネタ、言葉の意味を確認する工程が要る。動画の短い切り抜きは前後の文脈を落とす。別の国で流行った話を「世界中で大流行」と書けば話を盛りすぎる。架空のコメントまで作れば、もはや現地取材ではなく現地創作だ。 記事化の価値は、見つけたリンクを並べることよりも、初見の人が背景を理解できる説明を加えるところにある。Googleの検索ガイドも、検索順位を狙うだけの大量生成より、読者の疑問を十分に解決する独自の内容を重視している。 そして12言語に届けるなら、単純翻訳よりも、その言語の人に通じる番組名・人名・言い回し・文化的背景が必要だ。日本語で「内輪ネタです」の一言で済ませていた部分こそ、海外の読者には本題になる。
運営者本人が読んだ。それって成功?
自分のサイトのタイトルを見て、自分でも読みたくなる。これは少なくとも「知らなかった話題を発見した」「その疑問が気になった」という二つの体験が起きた手応えになる。 でも、運営者一人のクリックは世界市場の大ヒット宣言ではない。外の読者も同じ疑問を持つか、タイトルを開くか、記事で納得するかは別の話。検索表示回数、実際の流入、記事ごとの読まれ方を見れば、個人的な「おもろい」と読者の需要を比べられる。調査元の国や言語による偏りも見直したい。 本人が読者になることは、巨大な市場調査の代わりではなく、最初の小さな品質チェックだ。
編集長が、完成した記事の客席に座る
この仕組みの奇妙なところは、記事が増えることだけではない。自分の知らなかった情報をAIが連れてきて、その記事を読んだ自分がまた「じゃあこれは?」という疑問を思いつく。次の調査テーマが生まれる。調べる側と読む側が、同じ場所でぐるぐる入れ替わる。 記事工場を建てたつもりが、いつの間にか自分専用の「知らない世界への入口」までできていた。 店長は今日も、厨房のメニューを知らないまま一番乗りで客席へ向かう。
参考資料(5件)
- George Loewenstein (1994), The psychology of curiosity: A review and reinterpretation, Psychological Bulletin, 116(1), 75–98. https://doi.org/10.1037/0033-2909.116.1.75
- Denis Kotkov, Shuaiqiang Wang & Jari Veijalainen (2016), A survey of serendipity in recommender systems, Knowledge-Based Systems, 111, 180–192. https://doi.org/10.1016/j.knosys.2016.08.014
- Reza Jafari Ziarani & Reza Ravanmehr (2021), Serendipity in Recommender Systems: A Systematic Literature Review, Journal of Computer Science and Technology. https://jcst.ict.ac.cn/article/cstr/32374.14.s11390-020-0135-9
- Google Search Central, Creating helpful, reliable, people-first content. https://developers.google.com/search/docs/fundamentals/creating-helpful-content
- Google Search Central, Spam policies for Google Web Search (scaled content abuse). https://developers.google.com/search/docs/essentials/spam-policies
