かわいい顔をした外来害獣の侵入ルート
カラスがすごい騒いでいる。
時々、激しく鳴く。
何かと思ったら、裏にアライグマがいる。
しかも、木の上に登っている。
この状況は、かなり自然に説明できる。
結論から言うと、住宅街のアライグマは、山から突然ワープしてきたというより、
川・用水路・側溝・草むら・畑・空き家・屋根裏・果樹・生ごみをつなぎながら、普段は見えない時間帯に巡回している個体が、たまたま人間の目に見える場所に出てきた
と考えた方が近い。
そしてカラスが騒いでいたなら、それはほぼ、
「不審者発見。巣・卵・ヒナ・縄張りが危ない」
という警報である。
アライグマは、普段そこにいるのか?
一回見ただけなら、家の裏に定住しているとは限らない。
アライグマは夜行性で、昼間は暗い場所に隠れていることが多い。ただし昼間でも動くことはある。福岡市は、アライグマの行動範囲を40〜100ヘクタール程度と説明している。
つまり、住宅街で見かけたアライグマは、
- その家に住みついている個体
- 近所の空き家や屋根裏をねぐらにしている個体
- 川・用水路・畑・草むらを通って巡回中の個体
- 餌場を探して一時的に来た個体
のどれでもありえる。
だから「普段おらんやつが突然湧いた」というより、
普段は見えないルートを通っているやつが、今日はカラスに発見された
と見るのが自然である。
住宅街のアライグマはどこから来るのか?
主なルートはこのあたりである。
1. 川・用水路・側溝
アライグマは水辺を好む。国立環境研究所の侵入生物データベースでも、アライグマは都市部から森林・湿地帯までの水辺に生息し、巣として木のうろ・岩穴・人家・畜舎を使うと整理されている。
住宅街に川、用水路、田んぼ、側溝、草むらがあると、そこが移動ルートになる。
人間から見ると「普通の裏道」でも、アライグマから見ると、
隠れながら歩けて、水も餌もあり、住宅街までつながる獣道
になる。
2. 畑・果樹・家庭菜園
アライグマは雑食性で、果物・野菜・魚・両生類・鳥類・昆虫・残飯など、かなり幅広く食べる。
住宅街でも、
- 柿
- ビワ
- ブドウ
- ミカン
- スイカ
- トウモロコシ
- 家庭菜園
- 落ちた果実
- 生ごみ
- ペットフード
- 金魚・メダカのいる池
は普通に誘因になる。
八王子市も、庭の金魚や果樹、ペットの餌、生ごみ、繁茂した庭木・草などが動物を引き寄せる要因になるとして、屋外に餌を残さないことや庭木の手入れを案内している。
3. 空き家・屋根裏・物置・床下
アライグマは、家屋や神社仏閣の屋根裏も利用する。
福岡市は、アライグマが樹洞などをねぐらや巣に使うほか、家屋や神社仏閣の屋根裏もよく利用すると説明している。福岡県も、市街地に進出してゴミ捨て場を荒らしたり、家屋の天井裏にすみついたりする生活環境被害を挙げている。
つまり、住宅街にアライグマが出るときは、近くに山がなくても、
空き家・物置・床下・屋根裏・神社・古い木造建築
が「隠れ家」になっている可能性がある。
4. 木・雨どい・塀・フェンス
木の上にいたなら、かなりアライグマらしい。
国立環境研究所は、アライグマを「木登り・泳ぎも得意」と整理している。木は逃げ場でもあり、鳥の巣・卵・ヒナへのアクセスルートでもあり、屋根や物置へ移動する足場にもなる。
人間から見ると「木に登っててかわいい」でも、カラスから見ると、
巣の近くに登れる外敵が来た
である。
なぜカラスがすごく鳴くのか?
カラスが激しく鳴く理由は、かなり分かりやすい。
カラスは賢くて警戒心が強く、繁殖期には巣やヒナを守るため、近づく人やペットを威嚇することがある。大阪市も、3月下旬から7月上旬にかけて大きな木に巣を作り、ヒナを守るために威嚇する場合があると説明している。
そこにアライグマが木に登っていたら、カラス視点では完全に危険である。
福岡県は、アライグマによる生態系被害として、樹上の鳥の巣を襲うことや、樹洞に侵入してフクロウ・ムササビ・コウモリなどを追い払うこと、水辺でサンショウウオやカエル類を捕食することを挙げている。
つまり今回の構図はこうである。
住宅街の裏にアライグマが来る
↓
木に登る
↓
カラスが発見する
↓
巣・卵・ヒナ・縄張りが危ない
↓
警戒鳴き・威嚇・仲間への通知
カラスが「すごい騒いでた」のは、ただうるさかったのではなく、
町内警備システムが外来害獣を検知した
くらいの話である。
かわいいけど、触ってはいけない理由
アライグマは見た目がかわいい。
顔はもふもふで、尻尾はしましま。
木の上にいたら、ちょっと写真を撮りたくなる。
でも、生態としては普通に害獣である。
リスクは主に4つある。
1. 噛む・引っかく
北九州市は、アライグマについて「可愛い見た目に反して凶暴」と説明し、近づくと噛みついたり引っかいたりするおそれ、感染症の危険性があるとして、絶対に近づかないよう案内している。
野生動物は、追い詰められたり、逃げ場を失ったり、子どもが近くにいたりすると危険である。
2. マダニ・ノミ
アライグマそのものを見ただけで病気になるわけではない。
ただし、野生動物や草むらにはマダニ・ノミのリスクがある。厚生労働省のSFTS Q&Aでは、SFTSはマダニがヒトへの感染に関わる感染症で、日本のSFTS患者の致命率は27%と説明されている。
怖がりすぎる必要はないが、草むらに入った後や動物が通った場所を片づけた後は、服・足首・膝裏・脇・首まわりを確認した方がよい。
3. アライグマ回虫
アライグマ回虫は、アライグマの糞で汚染された土・樹皮・木材チップなどを口から取り込むことで感染しうる寄生虫である。
国立健康危機管理研究機構の感染症情報では、ヒトがアライグマ回虫の虫卵を経口摂取すると幼虫移行症を引き起こし、致死的な中枢神経障害の原因となる可能性があると説明されている。米国では重症例や死亡例が報告されている。一方、日本では人への感染事例は現在まで報告されていないとも整理されている。
つまり、アライグマを見ただけで危険というより、
糞・土・汚れた場所を素手で触る、子どもが口に入れる、掃除で粉じんを吸う
といった行動が危ない。
4. 糞尿・屋根裏被害
アライグマが屋根裏や物置に入ると、糞尿の悪臭、天井板の破損、建物の汚損が起きる。
見かけただけなら通過かもしれないが、
- 夜に天井裏で足音がする
- 同じ場所で何度も見る
- 糞がある
- 爪痕がある
- 生ごみや果物が荒らされる
- ペットの餌が減る
なら、近くに居着いている可能性が上がる。
まず何をすればいいか?
やることは、倒しに行くことではない。
人間側の対応は、まずこれで十分である。
1. 近づかない
かわいくても、触らない。
餌をやらない。
追い払おうとして近づかない。
犬や猫を近づけない。
2. 餌になるものを消す
住宅街でアライグマを寄せるのは、意外と身近なものが多い。
- 外の生ごみ
- ペットフード
- 落ちた果実
- 収穫しない果樹
- 家庭菜園
- 金魚・メダカの池
- 畜産飼料
- 廃棄作物
これらを放置すると、アライグマに「ここは餌場」と学習される。
3. 侵入口を確認する
家のまわりで見るべき場所は、
- 屋根裏
- 軒下
- 床下
- 換気口
- 壁の隙間
- 物置
- 空き家
- 屋根に届きそうな枝
- 雨どい
である。
ただし、屋根裏にいるかもしれない状態で、いきなり侵入口を塞ぐのは危ない。中に閉じ込める可能性がある。被害が続くなら、自治体や専門業者に相談した方がよい。
4. 記録する
繰り返し出る場合は、
- 見た日時
- 場所
- 何匹いたか
- 木の上、屋根、庭、物置などの位置
- カラスの騒ぎ方
- 糞・爪痕・被害の有無
をメモしておくと、自治体に相談しやすい。
一回だけなら「通過」、続くなら「定着疑い」
一回だけ見たなら、通過個体の可能性がある。
でも、次のようなことが続くなら、少し警戒した方がいい。
- 同じ時間帯に何度も見る
- 夜に屋根裏や物置で音がする
- 果物や生ごみが荒らされる
- カラスが同じ場所で何日も騒ぐ
- 糞や足跡がある
- 子ども連れっぽい個体を見る
特に、幼獣やメスの成獣が確認される場所は、地域に定着・繁殖している可能性が上がる。
まとめ:住宅街のアライグマは「迷子」ではなく「巡回者」
住宅街のアライグマは、単に山から迷い込んだかわいい動物ではない。
水辺を通り、草むらに隠れ、果物や生ごみを食べ、屋根裏や空き家を使い、木に登って鳥の巣まで狙える、生活力の高い外来害獣
である。
だから、今回の状況を一言でいうなら、こうなる。
カラスが騒いだのは、正しい。
木の上にいたアライグマは、かわいい顔をした野良ボス。
クマじゃなくてよかったけど、近接戦をする相手ではない。
