※ここからはディーナ周辺の大きなネタバレを含む。
最初は単純だった。
ディーナ、可愛い。
表情が分かりやすい。反応がいい。エンディングではかなりヒロインっぽい。原作の登場人物紹介でも、ディーナは冗談めかしつつ「メインヒロイン」枠として置かれている。
だから最初は、明るくて有能な参謀ヒロインとして見ていた。
ところが数話進むと、急に空気が変わる。
この子、何か知りすぎてない?
そして正体が揺らぐきっかけが、必殺技でも変身でもない。
「写真」という単語を普通に理解していたこと。
そこなのがめちゃくちゃ面白い。
1. 世界に存在しない「写真」を知っていた――語彙一個で身元照会が始まる
原作第38話で、ルファスがリーブラに「写真」の話をする。
ところがリーブラは、そもそも写真というものを知らない。
アリエスも知らない。
そこでルファスは、この世界には写真そのものが存在しないと気づく。
そして初日に自分が「写真もないこの世界で」と口にしたとき、ディーナが何の違和感もなく会話を続けていたことを思い出す。
ルファスの中で突然、点と点がつながる。
写真を知らないはずの世界。
写真を知っているディーナ。
つまり、こいつはこの世界の常識だけで生きてきた存在ではない。
ルファスの判定はほぼ即決である。
「こいつは黒だ」状態。
すごいのは、証拠が戦闘能力ではないことだ。
魔力を隠していた。
転移を使えた。
妙に有能だった。
そういう怪しさは以前からある。
でも決定打は、日常語の理解だった。
秘密工作をしている人間が、パスワードではなく「写真」という名詞で身元を割られる。
情報漏えいが地味すぎる。
そして、その地味さが強い。
2. バレかけたら焦るのかと思ったら、むしろニチャる――急に夜神月が出てくる
普通ならここで、
「まずい、バレた」
という顔をする。
実際、最初に失言へ気づいた瞬間のディーナは驚く。
しかし、問い詰められていくと雰囲気が変わる。
記憶操作や自分の立場について話したあと、ディーナは原作で**「悪辣な笑み」**を浮かべ、それまでの上品な笑い方とは違う、本人に妙に似合う顔を見せる。
これがいい。
かわいい参謀が追い詰められて怯えるのではない。
「へえ、そこまで来たんですね」
みたいな顔をし始める。
急にゲームを楽しんでいる側になる。
エンディングではヒロイン。
本編では正体バレしかけてニチャ。
ヒロインの顔で夜神月をやるな。
でもこの性格の悪そうな楽しみ方が、むしろキャラを強くする。
表情が分かりやすい子だからこそ、「今ちょっと楽しくなってるだろ」が伝わる。
感情が漏れる可愛さが、そのまま策士の愉悦にも使われる。
3. 記憶操作が強すぎる――戦う前に「誰が味方か」という前提を書き換えられる
ディーナは、アリエスやアイゴケロスに偽の記憶を植え付けていたことを認める。
これ、冷静に考えるとかなり凶悪である。
普通の強キャラは、戦えば強い。
ディーナはその前段階で、
- 誰を知っていると思うか
- 誰を昔からの仲間だと思うか
- 何が過去に起きたと思うか
を変えられる。
戦闘力ではなく、戦闘が始まる前の前提条件へ触ってくる。
しかも格上にもある程度通じる。
一方で、ゴーレムには効かない。
理由も面白い。
生物の「記憶」は操作できても、ゴーレムが持つのは「記録」だから通じない。
人間の脳は改ざんできる。
ログは改ざんできない。
急に監査ログの重要性を教えてくるファンタジー。
リーブラ、お前は監査証跡だったのか。
4. 普通にペラペラ喋る――ただし「全部喋っている」と思わせるのが罠
正体を疑われたディーナは、意外なほどよく喋る。
200年前から参謀だったという話は嘘。
塔の参謀という設定を利用しただけ。
記憶操作もした。
そして「プレイヤーなのか」と問われると、さらに訂正する。
正確にはテストプレイヤー。
ここで一度、「あ、もう全部白状するターンなんだ」と思う。
しかし実際には違う。
ディーナの情報開示は、
「嘘をやめて真実を全部話す」
ではなく、
「バレた偽装レイヤーを捨てて、その下の説明へ切り替える」
に近い。
参謀という身分が破れた。
ではテストプレイヤーという説明を出す。
さらに魔神族七曜ウェヌスとしての顔も出す。
でも、それで最終回答ではない。
原作の登場人物紹介自体が、テストプレイヤーとウェヌスだけでは説明できない部分が残ると明記している。
さらに公式7巻紹介では、ディーナに女神アロヴィナスのアバター疑惑がある状態で物語が進む。
つまり、ペラペラ話しているように見えるのに、
本当の機密区分は一段下へ移動している。
口が軽いのではなく、開示レベルの管理がうまい。
5. Lv300も嘘でした――実はLv1000、ルファスと同じ最大レベル
そして、さらに笑うところ。
ルファスが「レベル300のお前にできるのか」と煽る。
ディーナ、大笑い。
レベル300という表示も、ステータス隠蔽で見せていた偽物だった。
本当はレベル1000。
ルファスと同じ最大レベルである。
この世界の元になったゲームでは、レベルは1000でカンストする。
原作第4話では、ボスキャラであっても原則そのレベル上限自体は超えないルールとして説明されている。
だからディーナは、女神側との深い関係を匂わせる存在なのに、
「私は特別なので9999です」
とはしない。
ちゃんと1000。
妙に公平。
運営関係者みたいな存在が参加しているのに、レベル表示だけはサーバー上限に合わせてくる。
GMが対戦に来たけど、レベルキャップだけは守っている。
そこだけ律儀。
6. でも同じLv1000だから互角ではない――レベルの数字より「育て方」が強さを分ける
ここも作品の戦闘設定として面白い。
ディーナがLv1000なら、ルファスと完全互角なのか。
そうではない。
原作第39話では、ルファスはドーピングでステータスを伸ばしており、ディーナは同じレベル1000でも対前衛の実戦セオリーや育成が不足していると分析される。
つまり、
レベル1000 =同じ数字 ≠同じ強さ。
最大レベルは入場券でしかない。
そこから先はステータス強化、装備、ビルド、実戦知識、相性で差がつく。
ディーナは運営・テスト側の知識と特殊能力が強い。
ルファスはプレイヤーとしてゲームをやり込んだ怪物。
同じカンストでも方向が違う。
だから「女神関係者だから9999で上から殴る」より、ずっと戦いとして面白い。
ルールの外から来たような存在なのに、盤面へ降りたら盤面の数字で戦う。
そのうえで記憶操作や転移みたいな、数字に出にくい能力が凶悪。
かなり性格の悪いビルドである。
7. 性格悪そうでも、都合がいいから味方ポジでいい――ルファス側も意外とそこを飲み込む
正体がバレる。
記憶を操作していた。
ずっと騙していた。
普通なら、ここで完全な敵対関係になりそうである。
しかしルファスは、騙された事実と、これまでディーナに助けられた事実を分けて考える。
原作第39話では、欺かれていたことに強い怒りを向けず、ディーナが今まで役に立っていたことも含めて評価する。
これが妙に合理的で好きだ。
善人か。
性格がいいか。
全部正直か。
そこだけで味方判定しない。
「こいつ性格悪そうだな」
「でも今のところ利益一致してるな」
「有能だな」
じゃあ味方ポジでよくない?
となる。
もちろん、記憶操作持ちが敵へ回ったときの面倒くささは最悪である。
だからこそ、こっち側にいる間は非常に便利。
信頼と利害を別勘定にできる関係は、単純な仲良しパーティーよりちょっと面白い。
8. 「最強主人公が殴る話」だと思ったら、情報戦が始まるから普通に面白い
『野生のラスボスが現れた!』は、最初の見た目だけならかなり分かりやすい。
圧倒的に強い主人公。
昔の仲間を集める。
強敵を倒す。
俺TUEEE系の気持ちよさがある。
でもディーナ周辺から別のゲームが始まる。
誰が何を知っているのか。
誰の記憶が本物なのか。
今話している正体は、本当に最終回答なのか。
同じLv1000でも、なぜ強さが違うのか。
女神はどこまで盤面へ介入しているのか。
急に「殴れば解決」ではない問題が増える。
しかも、その入口が「写真って何ですか?」である。
壮大な世界の秘密を開ける鍵が、ただの単語。
このスケール差がいい。
9. 結論:可愛いヒロインだと思っていたら、笑顔のまま情報戦のラスボス候補になった
最初の感想は、
「ディーナ可愛いな」
だった。
表情が分かりやすい。
ヒロインっぽい。
有能な参謀。
そこから、
「この子が実は黒幕だったら好き」
と思う。
そして本当に怪しくなる。
でも正体バレのきっかけは、禍々しいオーラではない。
写真を知っていた。
そこから記憶操作が出る。
悪辣な笑みが出る。
テストプレイヤーが出る。
Lv300が嘘だと分かる。
Lv1000が出る。
ウェヌスが出る。
それでもまだ全部ではない。
秘密を一枚剥がすたびに、その下から次の役職名が出てくる。
名刺が多すぎる。
しかも本人は楽しそう。
かわいい参謀ヒロインの皮を被った多層認証システムである。
それでいて数字の上ではLv1000という世界の上限に乗る。
9999で全部を踏み潰さない。
「ルールは守る。記憶は弄る。」
公平なのか卑怯なのか分からない。
でも、そこが面白い。
『野生のラスボスが現れた!』は、最強キャラを見るだけの作品だと思っていたところへ、こういう知識・嘘・記憶・正体のレイヤーを急に入れてくる。
だから普通に続きが見たくなる。
