「CodexのルールをMarkdownに書いた。これで同じOpenAIアカウントなら、別のPCでも勝手に効くのか?」
結論から言うと、ChatGPTとローカルCodexでは、ルールの置き場所が違う。
ChatGPTのカスタム指示やメモリは、アカウント側のパーソナライズとして使われる。一方、Codexの$CODEX_HOME/AGENTS.mdや~/.codex/config.tomlは、そのPCや実行環境に存在するファイルとして読み込まれる。
同じOpenAI製でも、ルールの住民票が違う。
AGENTS.mdにWi-Fiは生えていない。ログインしただけで隣のPCへ瞬間移動はしない。
1. 同じアカウントでも、同じローカル設定になるとは限らない
まず分けるとこうなる。
| もの | 主な置き場所・扱われ方 | 別PCへ自動で同じ内容になるか |
|---|---|---|
| ChatGPTのカスタム指示 | ChatGPTアカウント側 | アカウント側で利用される |
| ChatGPTのメモリ | ChatGPTのパーソナライズ | 同じアカウントの文脈として利用される |
$CODEX_HOME/AGENTS.md |
Codex実行環境のファイル | 自動コピーを前提にしない |
$CODEX_HOME/AGENTS.override.md |
Codex実行環境のファイル | 自動コピーを前提にしない |
~/.codex/config.toml |
Codexのローカル設定 | 自動コピーを前提にしない |
リポジトリ内のAGENTS.md |
プロジェクトのファイル | Gitで取得すれば共有できる |
OpenAIはCodex CLIを、利用者のマシン上で動くローカルのソフトウェアエージェントとして説明している。さらに、Codexが~/.codex/config.toml、$CODEX_HOME内のAGENTS系ファイル、Gitまたはプロジェクトのルートから現在の作業ディレクトリまでにある指示ファイルを読むことも公開している。[1]
つまりCodex側は、かなり素直に**「そこにあるファイルを読む」仕組み**である。
2. ChatGPTは「アカウントに覚えさせる」でかなり合っている
OpenAI公式ヘルプでは、ChatGPTのカスタム指示はすべてのチャットへすぐ適用され、Web、デスクトップ、iOS、Androidで利用できると説明されている。[2]
メモリはChatGPTのパーソナライズ設定で管理され、チャット、ファイル、接続済みアプリなどから有用な文脈を使い、同じ説明を何度も繰り返さなくて済むようにする仕組みだ。[3]
また、複数のChatGPTアカウントを切り替える公式説明では、チャット、メモリ、履歴、請求、ワークスペース、設定はアカウントごとに分かれる。[4]
そのため、ChatGPTについては、「同じアカウントなら、カスタム指示やメモリというアカウント側の文脈を別端末でも使う」という理解でよい。
ただし、画面の外観、通知、OSの権限など、端末やアプリに依存する設定まで全部同じになるわけではない。
「アカウント中心」は正しい。
「宇宙の全設定が同期」は言いすぎである。
3. CodexのAGENTS.mdは、プロフィールではなく現場の作業標準書
AGENTS.mdは、感覚としてはプロフィール欄より工場の壁に貼った作業標準書に近い。
PC Aに次のファイルがあるとする。
~/.codex/AGENTS.md
- 完了前にテストする
- 関係ない既存変更を消さない
- force pushしない
この文字列は、別の仕組みで同期しない限りPC Aのファイルシステムにいる。
同じOpenAIアカウントでPC Bへログインしても、PC Aの~/.codexが勝手に生えてくる前提にはできない。
アカウントは「誰が使うか」をつなぐ。
ローカルファイルは「この環境でどう働くか」を決める。
似ているようで担当部署が違う。
4. プロジェクトのAGENTS.mdは、Gitに載せれば別PCへ運べる
プロジェクト内のAGENTS.mdをGitの管理対象にしておけば、別PCで同じプロジェクトをcloneまたはpullしたとき、そのファイルも一緒に取得できる。
Git上のプロジェクト
└── project/
├── AGENTS.md
├── src/
└── docs/
↓ clone / pull
PC A PC B
└── project/ └── project/
└── AGENTS.md └── AGENTS.md
これはOpenAIアカウントが同期したわけではない。
Gitが普通にファイルを運んだだけである。
しかし実用上は非常に強い。
ビルド方法、テスト方法、コーディング規約、禁止操作、レビュー条件などをコードと一緒に運べる。
コードだけ転勤して、就業規則が旧営業所に置き去りになる事故を防げる。
5. Codexは「共通規則+案件規則+さらに具体的な規則」を積み上げる
OpenAIの技術解説では、Codexのユーザー指示は複数の場所から集約される。[1]
大まかには、
$CODEX_HOMEのAGENTS.override.mdやAGENTS.md- Gitまたはプロジェクトのルート
- そこから現在の作業ディレクトリまでの各フォルダ
という順に、より具体的な場所の指示が加わる。プロジェクト文書の読み込みには既定で32 KiBの上限もある。[1]
そのため、次のような分け方が自然だ。
~/.codex/AGENTS.md
どの案件でも守る共通規則
project/AGENTS.md
この案件だけの規則
project/server/AGENTS.md
この領域だけの追加規則
全部を1枚の巨大Markdownに詰めるより、「全体」「案件」「現場」で分けた方が、人間にもCodexにも追いやすい。
6. 複数PCなら各PCに置くのは合理的。ただし正本は1つ
PCを複数使うなら、各PCにCodexの共通設定を置き、各PCのプロジェクトにもリポジトリ由来のAGENTS.mdがある状態は合理的だ。
Git: codex-config/global-AGENTS.md ← 共通規則の正本
│
┌─────┴─────┐
↓ ↓
PC A ~/.codex/AGENTS.md PC B ~/.codex/AGENTS.md
Git: project/AGENTS.md ← 案件規則の正本
↓ clone/pull ↓ clone/pull
PC A project/AGENTS.md PC B project/AGENTS.md
PC Aが壊れてもPC Bが残る。
新しいPCを買ってもGitから戻せる。
Git側に一時的な障害があっても、ローカルコピーが残っていれば作業を続けやすい。
ただし、PC A、PC B、PC Cを全部「正本」にしてはいけない。
数週間後にこうなる。
PC A = v18
PC B = v16 + 謎の追記
PC C = v11「たぶんこれが最新」
冗長化は強い。
正本の乱立は考古学である。
7. 同期とバックアップは同じではない
同じファイルが3台にあるだけでは、完全なバックアップとは言えない。
誤削除を同期ソフトが全PCへ即座に広げたら、削除まで高可用性になる。
欲しかったのはそれではない。
強い構成には少なくとも3つが必要だ。
- 正本:どれが最新版か一意に分かる
- 複製:別PCにも使えるコピーがある
- 履歴:誤変更の前へ戻せる
Gitはテキスト設定の版管理と相性がよい。
ただし、APIトークン、秘密鍵、Cookie、パスワード、個人情報をAGENTS.mdや設定用リポジトリへ入れてはいけない。
「ルールをバックアップしたら秘密まで世界旅行」は一番笑えない。
8. 何をどこに置くか
| 内容 | 推奨場所 | 理由 |
|---|---|---|
| ChatGPTの恒常的な応答の好み | カスタム指示 | アカウント側のパーソナライズ向け |
| 会話から継続してほしい文脈 | メモリ | ChatGPTの継続文脈向け |
| どのCodex案件でも守る作業原則 | $CODEX_HOME/AGENTS.md |
Codexの広いローカル範囲で使える |
| Codexのローカル動作設定 | ~/.codex/config.toml |
Codexが設定源として読む |
| 特定案件のビルド・テスト・禁止事項 | repo/AGENTS.md |
コードと一緒にGitで管理できる |
| 特定ディレクトリだけの追加規則 | repo/subdir/AGENTS.md |
より具体的な現場規則にできる |
| 共通Codex規則の復旧用正本 | 秘密情報を除いたGit管理領域 | 複数PCで版管理しやすい |
ChatGPTのルールをCodexへ全部コピーする必要も、Codexの作業手順をChatGPTのメモリへ全部押し込む必要もない。
役割が違うからだ。
9. よくある事故は「同じアカウントだから大丈夫」
新PCでCodexが急に違う動きをする
古いPCの~/.codex/AGENTS.mdやconfig.tomlを新PCへ持ってきたか確認する。
モデルが人格崩壊したのではなく、作業標準書を引っ越しトラックへ積み忘れただけかもしれない。
PCごとに同じプロジェクトの挙動が違う
プロジェクト規則を各PCで手修正していれば、内容はずれていく。
プロジェクト固有の規則は、できるだけGitへ寄せる。
共通AGENTS.mdを3台で個別編集する
全員が最新版を名乗り始める。
人間が3人いるのではない。Markdownが3派閥に分裂しただけである。
トークンも一緒にGitへ入れる
便利ではない。
それは設定管理ではなく事故報告書の下書きである。
10. 完成形は「アカウント・PC・Git」の三層
【ChatGPTのアカウント層】
カスタム指示 / メモリ
↓
Web / デスクトップ / モバイル
【CodexのPC層】
PC A ~/.codex/AGENTS.md + config.toml
PC B ~/.codex/AGENTS.md + config.toml
↑
必要なら安全な正本から同期
【プロジェクトのGit層】
project/AGENTS.md
↓ clone / pull
PC A / PC B / 対応する実行環境
最初の疑問への答えはこうなる。
ChatGPTは「アカウントに覚えさせる」でかなり合っている。ローカルCodexのMarkdownは「そのPCにファイルを置く」が基本。プロジェクトのAGENTS.mdはGitへ入れればコードと一緒に別PCへ運べる。
複数PCへ必要なローカル設定を置くのは障害対策として強い。
ただしコピーを増やすだけで終わらせず、正本を1つにして版管理する。
AGENTS.mdに瞬間移動能力はない。
だからGitに電車を用意してやればいい。
公式資料
参考資料(4件)
- OpenAI, “Unrolling the Codex agent loop openai.com
- OpenAI Help Center, “ChatGPT Custom Instructions help.openai.com
- OpenAI Help Center, “Memory FAQ help.openai.com
- OpenAI Help Center, “Use multiple accounts with account switching help.openai.com
