1. ポテトを揚げていたはずなのに、決算書を開いたら家賃が出てきた
マクドナルドを「ハンバーガーを作って売る会社」とだけ見ると、かなり重要な部分を見落とす。米マクドナルドの通常型フランチャイズでは、本部が店舗の土地・建物を所有するか長期で確保し、フランチャイズ事業者に店舗を使わせる。そして本部は、初期費用だけでなく、継続的な賃料とロイヤルティを受け取る。[1][2]
2025年の米マクドナルドでは、フランチャイズ店舗からの収入165.48億ドルのうち、賃料が104.42億ドル、ロイヤルティが60.18億ドル、初期費用が0.88億ドルだった。[2] ポテトを揚げていたと思ったら、決算書から「家賃」が飛び出してくる。どういうハンバーガーだ。
しかも通常型契約の賃料は、売上に対する一定割合を基本としつつ最低賃料も設定される。店舗が繁盛すれば本部の取り分も増え、最低ラインもある。これは単なる「不動産を持って値上がりを待つ」モデルとはかなり違う。
2. キャピタルゲインではなく「長く支配して、長く取る」
このモデルの中心は、土地を安く買って高く売るキャピタルゲインではない。むしろ店舗立地を長期間コントロールし、その場所で商売する事業者から継続収入を得ることにある。
米マクドナルドの通常型フランチャイズ契約は一般に約20年で、契約終了時も本部が土地・建物のコントロールを維持する。既存事業者と再契約することも、別のフランチャイズ事業者に替えることも、閉店することもできる。[2]
良い立地を押さえる
↓
店舗とブランドと運営方式をセットにする
↓
事業者がそこで商売する
↓
売上が発生するたび賃料・ロイヤルティが落ちる
売って終わりではない。流れそのものを握って、流れるたびに取る。
3. フランチャイズオーナーは「普通の店長」ではない
ここは混同しやすい。フランチャイズオーナーは、基本的にはその店舗・複数店舗を経営する独立した事業者側であって、単なる雇われ店長ではない。
日本マクドナルドでも、国内店舗の約7割がフランチャイズ店舗で、フランチャイジーは200社以上とされている。[3] 一方、オーナー候補者には店舗研修があり、製造・販売だけでなく、売上・利益管理、採用教育、労務、発注在庫、店舗マーケティングまで学ぶ。[4] 問い合わせページでは、20年契約であることや、本人が店長資格を取得してオペレーターとして働く必要があることも示されている。[5]
つまり「店長っぽい仕事も理解する経営者」であって、「店長そのもの」とは違う。
さらに日本の公式FAQでは、オーナーが取得する店舗資産に不動産は含まれず、主としてグリルやフライヤーなどの固定資産を取得すると説明されている。[6] 土地を自分で持っているから、そこに勝手にマックを建ててFCを始めます、も原則できない。店舗開発とFCオーナー選定は別プロセスである。[6]
4. 日本の「不動産賃貸収入」は読み方に注意
日本マクドナルドホールディングスの2025年12月期の単体損益計算書には、不動産賃貸収入643.88億円が出てくる。[7] ここだけ見ると「FCオーナーから643億円も家賃を取っているのか」と思いやすい。
しかし、その読み方は雑すぎる。
同年度の関係会社との不動産賃貸収入は641.12億円であり、その大半は100%子会社の日本マクドナルド株式会社への店舗資産等の賃貸に由来する。[7] つまり、米国本社の「FCから賃料を取る構造」と、日本の上場持株会社単体に表示される「不動産賃貸収入」は、同じ箱に入れてはいけない。
日本でもFCという仕組みは大きいが、決算書を見るときは連結・単体・親子会社間取引を分ける。ここを混ぜると、ハンバーガーより先に会計がぐちゃぐちゃになる。
5. 本当に強いのは「上流」ではなく「料金所」
ここから話を一般化する。
「ビジネスは上流にいた者勝ち」と言いたくなるが、正確には、上流そのものよりも価値の流れの中で、みんなが通る地点を握った者が強い。
原材料メーカーが必ず完成品メーカーより儲かるわけではない。逆に下流企業でも、顧客接点や決済、流通、規格、ブランドなどを握れば強い。
重要なのは、
- 誰のお金が流れているか
- そのお金はどこを必ず通るか
- 自分を迂回するのは簡単か
- 取引量が増えたとき自分の収入も増えるか
- 現場の変動費や人的負荷まで自分が全部抱えるのか
という問いである。
マクドナルドはブランド、立地、店舗運営システム、調達、広告、教育などをまとめて提供する。その結果、FC側から見ても「自力で無名のハンバーガー店をゼロから立ち上げる」より、その仕組みに乗る合理性が生まれる。
料金所は、通る価値があるから料金所になれる。
6. ただ上に座って金を取ればいいわけではない
ここが一番大事である。
ブランドもない。客も来ない。業務改善もしない。でも「上流なので5%ください」。それは料金所ではない。道に置かれた謎の机である。みんな横を通る。
強いトンネルには、少なくとも次の四つが必要になる。
- 入口を持つ — 顧客、案件、需要、データなどが集まる。
- 通る価値を作る — 安い、速い、安心、便利、売れる、ミスが減る。
- 代替しにくくする — データ蓄積、ネットワーク、運用定着、ブランド、規模など。
- 通行者にも利益を残す — 取りすぎれば迂回路を掘られる。
マクドナルド自身も、フランチャイジー、サプライヤー、本部を「3本脚」と表現し、三者の強さを前提にしている。[8]
上流化とは「下から吸う技術」ではない。下流が強くなるほど自分も強くなる位置を設計することである。
7. 個人レベルなら「夢を追う人が通る場所」を取る
この考え方を個人事業まで落とすと、いわゆる「つるはし型」「夢ビジネス」が見えてくる。
金を掘りに行く100人のうち、誰が大当たりするかは分からない。しかし100人全員が道具を必要とするなら、道具側は「誰が勝つか」を当てなくても市場を取れる。
たとえば、
- 動画で成功したい人 → 編集、分析、投稿管理
- ネット販売を始めたい人 → 決済、在庫、受注、発送支援
- 小規模事業を始めたい人 → 会計、請求、予約、顧客管理
- 製造を外注したい会社 → 見積回収、発注、進捗、図面管理
などである。
ただし「夢そのものを高額で売る」のと、「夢を実行するために必要なインフラを売る」のは別物だ。
前者は「成功できます」という期待自体が商品化しやすい。後者は、顧客が実際に仕事を続ける限り、面倒な実務を減らし続ける。
個人で長く狙うなら、夢を売るより、夢を追う人が毎月踏む地味な床を作る方が強い。
8. 個人事業でもトンネルは掘れる
大企業のような巨大な独占トンネルは無理でも、狭い業界の小さなトンネルなら作れる。
客
↓
自分の仕組み
├─ 集客
├─ 予約
├─ 見積
├─ データ
├─ 決済
└─ 継続管理
↓
事業者
単に「客を一度紹介する」だけでは弱い。紹介後に客と事業者が直接取引すれば、自分は消える。
しかし、予約履歴、請求、顧客情報、在庫、案件進捗などが自分の仕組みに載れば、次回も使う理由が生まれる。
個人が狙いやすいのは、「毎月必ず発生する」「面倒」「間違えやすい」「でも無くせない」仕事である。見積、発注、請求、予約、在庫確認、定型連絡、帳票生成、データ転記などはその候補になる。
なお、人材紹介や旅行手配など、仲介行為そのものに許可・登録が必要な分野もある。日本では有料職業紹介は許可制で、旅行業等にも登録制度がある。[9][10] 「間に入って手数料を取れば何でもよし」ではない。
9. 「サブスクね」で終わらせると半分だけ正解
ここまで聞くと、「はいはい、結局サブスクね」となる。
半分は正しい。
継続課金はトンネルを収益化する代表的な方法である。しかし、サブスクにしただけでトンネルになるわけではない。
月980円の読み物もサブスクである。だが解約した翌日に会社の業務が止まるわけではない。
一方、
- 予約が全部そこに入っている
- 顧客履歴がそこにある
- 請求がそこから出る
- 取引先も同じ仕組みを使う
- データが長年蓄積される
となれば、単なる購読ではなく業務の配管になる。
料金体系も月額だけとは限らない。
固定月額
+
利用量に応じた従量課金
+
取引額に応じた手数料
こうすると、顧客の事業が伸びるほど自分の収入も伸びる。マクドナルドの売上連動型の賃料・ロイヤルティと、思想としては似ている。
10. トンネルが難しいから、トンネルになる
そして最後に元も子もない話をする。
それを作るのが難しいからトンネルになる。
「毎月課金します」と料金表に書くのは簡単だ。しかし、顧客を集め、本当に使えるものを作り、顧客の業務に定着させ、乗り換えるより使い続ける方が得な状態を作り、他社や取引先まで巻き込み、それでも嫌われない価格にする。ここまでが難しい。
誰でも一晩で作れるなら、そこは料金所ではない。横に同じ道が100本できる。
だから事業を見るときは「何を売っている会社か」だけでなく、
誰の活動が増えると、この会社には自動的にお金が落ちるのか。
その流れは、なぜこの会社を通り続けるのか。
を見ると面白い。
マクドナルドから個人事業まで、構造は意外と同じである。
商品を一回売る。ではなく、価値が流れる道を作る。
そしてその道が便利すぎて、みんなが自分から通るようになったら――トンネル完成。通行料をいただきます。
