0. 「脱げ」じゃない。「服着ろ」だ
成人向け作品で知られる人の動画を見て、ファンが口にする感想が「服着ろ」だったら、字面だけでバグが起きている。
今回の話題は、瀬戸環奈(セトカン)。本人の公式YouTubeチャンネルもあり、作品とは違う話し方や表情を見られる。[1] そこで気になるのが、完璧に仕上げた宣伝写真より、普通の服で笑っている場面の方がかわいく見えるという感覚だ。
職業柄、一般に求められそうな方向と真逆に褒められる。「もっと見せて」ではなく「そのパーカーのままでいて」。服を脱ぐより着る方にファンの心拍数が上がる。衣料品店、まさかのライバル。
1. ドキッとしたのは、グレーのゆるい服と無造作な髪
きっかけは、動画のほんの一瞬。少し前かがみになって、横を見ながらニコッと笑う。灰色のゆるい上着。髪はきっちり固めておらず、少しモサッとしている。
ここで大事なのは、顔が好みだということ。好みの理由を何でも「甘えたい心理」「母性を求めている」へ運ぶ必要はない。単にこの顔と表情が好き、という説明は十分に成り立つ。
そのうえで、同じ人でも髪型や撮られ方で好みへの刺さり具合は変わる。グラビアが負けたのではない。勝負している競技が違う。
2. 耳が隠れると、顔の見え方は変わるのか
細かく見ると、左右の耳が髪に隠れ、頬から顎への横の輪郭も一部が見えない。前髪もある。髪を上げて耳を出すと、同じ顔でも輪郭がはっきりし、大人っぽく整った印象になりやすい。逆に髪が顔を包むと、輪郭が柔らかく見えることがある。
大阪大学の2016年度の研究要旨では、顔の横に垂れる毛束の位置と長さを変える実験が紹介されている。毛束が輪郭の少し内側にあり、顔を適度に覆うと細く見えた。一方、内側に寄せすぎると逆に大きく見える場合もあった。[2]
つまり「耳を隠せば全員かわいくなる」という必勝法ではない。研究が測ったのは主に顔の幅の見え方で、恋愛的なかわいさそのものではない。それでも、顔周りの髪が顔の印象を動かすという観察は、ただの気のせいではなさそうだ。
3. 前髪と毛先が「かわいい」の印象に効く
ヘアメーカーのルベルは2025年、12種類の髪型を合成した顔画像について517人の女性に印象を評価してもらう研究を紹介した。「前髪あり」や「前髪を分ける」状態と、毛先が内向きの形の組み合わせでは、「かわいい」「親しみやすい」が高く評価される傾向があった。[3]
ここで効いているのは髪一本の魔法ではなく、顔の周りの形だ。額をどれだけ出すか。頬の横にどれだけ髪があるか。毛先が外へ広がるか、内へ収まるか。その組み合わせで印象が変わる。
美容院で探すなら「顔まわりカット」「サイドバング」「耳を隠すナチュラルなストレート」などが近い検索語になる。ただし、今回の好みが内巻き必須というわけではない。研究結果を個人の好みへそのまま押しつけない。
4. 笑顔は、顔の好みをさらに強くする
今回の場面には、もう一つ強い要素がある。作ったキメ顔ではなく、横を見てふっと笑う表情だ。
笑顔の強さを変えた顔写真を評価した研究では、笑顔が強いほど相手を信頼できそうだと評価する傾向が示された。[4] また別の研究では、笑顔が人の近づきやすさの評価に影響している。[5]
もちろん、写真で優しそうに見えることと、本当に優しい人であることは違う。表情は印象の手掛かりであって性格の証明書ではない。
でも、好みの顔がふいに笑ったらどうなるか。美容の話だったはずが、突然心臓の仕事量の話になる。
5. なぜ宣伝写真より、動画の何気ない場面が刺さる?
ここには「作り込まれていないように見える写真」の強みもありそうだ。2018年の研究では、決めたポーズの写真より、自然に撮られた写真の方が、見る側に「その人を知りたい」「親しくなりたい」と思わせやすかった。理由の一つは、自然で本物らしく感じられることだった。[6]
ただしYouTubeの一場面が本当に無意識の瞬間とは限らない。撮影も編集もあるし、照明や角度も違う。研究は「動画なら必ず勝つ」と言っていない。
それでも「宣材写真はきれい、でもこの一瞬はかわいい」という逆転に、筋の通る説明はある。完成された美しさを見せる写真と、親しみを感じる場面では、見る側が受け取るものが違うのだ。
6. 「安心して甘えられそう」は、理由か後づけか
柔らかい輪郭や笑顔を見ると「受け入れてくれそう」「近づきやすそう」と感じる人もいる。それは一つの可能性だ。でも、この感覚から本人の恋愛観を診断するのは飛躍になる。
順序を間違えたくない。まず顔そのものが好み。次に髪型と笑顔がさらに好みに合う。そこから親しみやすさの想像が生まれることもある。この順序でも十分説明できる。
「大人っぽく作り込んだ美人」と「丸みがあってニコニコしたかわいい人」は、優劣ではなく好みの方向が違うだけ。顔の好みを壮大な心理分析へ無理に輸送しなくていい。脳内の引っ越し業者、帰ってよし。
7. ときめいた直後に出演作品を見られるという奇妙な順番
さらに妙なのが、普通の動画で「かわいい」とときめいた直後に、その人の成人向け出演作品にもアクセスできること。日常では相手を知って距離が縮まるまで時間がかかるのに、公開映像の世界では見られる情報の順番が逆転する。
心理学では、性的な欲求と恋愛的な惹かれ方は、重なる部分がありつつも同じ経験ではないと論じられてきた。[7] だから性的な作品を知っていても、服を着て笑う一瞬で初めて「この顔、本当に好きだ」と感じることに矛盾はない。
ただし、出演作品を見られることは本人と親密になったことではない。「見られる範囲」と「実際の関係」はまったく別だ。ここを混ぜると、かわいさの話が突然ホラーになる。
8. 何が決め手か、確かめるなら
同じ人物の写真を比べるなら、顔の向き、笑顔、光、画角、メイク、服、髪型を一度に変えないこと。たとえば笑顔が同じで、耳を出す/隠す髪型だけが違う写真を見比べる。次に髪型をそろえて、キメ顔と自然な笑顔を比べる。
研究で分かるのは一般的な傾向まで。最終的に自分がときめく顔を決めるのは、研究室の平均点ではない。
結論。服を着た姿がかわいく見えるのは、恥ずかしがりでも矛盾でもない。顔の好み、髪が作る輪郭、笑顔、場面の自然さが、うまく重なった結果かもしれない。
そしてファンから飛び出す最大級の賛辞が、これである。
「服着ろ」。
出演者へのコメントなのに、アパレル店の販促コピーとしても成立してしまった。
参考資料(7件)
- Setokan Channel / Kanna Seto Official, official YouTube channel intro (2025) youtube.com
- Osaka University, 村尾崇実, 髪型による小顔錯視効果の検証, 2016 academic-year thesis abstract behavior.hus.osaka-u.ac.jp
- LebeL, 印象学研究vol.3 (2025) lebel.co.jp
- Smile intensity and perceived trustworthiness, PMID 22913033 (2012) pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Bylianto & Chan, Face masks inhibit facial cues for approachability and trustworthiness (2022/2023) link.springer.com
- Berger & Barasch, A Candid Advantage? The Social Benefits of Candid Photos (2018) doi.org
- Cacioppo et al., The Common Neural Bases Between Sexual Desire and Love (2012) pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

