ペアローンで6,000万円。
今の住宅価格を見ると、もう珍しい話ではなくなってきました。
首都圏の新築マンション価格は上がり続け、リクルートの「首都圏新築マンション契約者動向調査(2025年)」では、平均購入価格は7,324万円、ローン借入総額の平均は5,956万円とされています。住宅ローン契約形態では、世帯主と配偶者のペアローンが全体で36.4%、既婚・共働き・世帯年収1,000万円以上では73.7%まで上がっています。
つまり、ペアローンはもはや特殊な選択肢ではありません。
物件価格が高くなりすぎて、1人の収入だけでは届きにくい。だから2人で借りる。ここまでは自然です。
ただ、問題はそこではありません。
問題は、ペアローンそのものではなく、2人の収入を最大値で見て、逃げ道のない額まで借りてしまうことです。
ペアローンは悪ではない
まず、ペアローン自体を悪者にする必要はありません。
ペアローンは、夫婦それぞれが住宅ローンを契約する形です。金融機関の説明でも、ペアローンはローン契約が2本になり、2人とも住宅ローン控除を受けられ、2人とも団体信用生命保険の対象になります。ただし、団信の保険金額はそれぞれの借入金額に対応する形です。
つまり、道具としては合理的です。
共働きで、収入が安定していて、物件価値も落ちにくく、夫婦でリスクを理解しているなら、ペアローンは選択肢になります。
ただし、道具は使い方を間違えると危ない。
ペアローンの怖さは、「借りられる額」が大きくなることです。
銀行や不動産会社から見ると、2人の収入を合算できるため、より高い物件を検討できます。買う側から見ても、単独では届かなかった物件に手が届くように見えます。
でも、ここで注意したいのは、銀行が見ているのは基本的に「貸せるか」であって、「その家計が今後も自由に生きられるか」ではないということです。
6,000万円ローンの毎月返済イメージ
6,000万円を35年・元利均等で借りた場合、概算の毎月返済額は次のようになります。
| 金利 | 毎月返済額の概算 |
|---|---|
| 年0.5% | 約15.6万円 |
| 年1.0% | 約16.9万円 |
| 年1.5% | 約18.4万円 |
| 年2.0% | 約19.9万円 |
| 年2.5% | 約21.4万円 |
ここに、管理費、修繕積立金、固定資産税、火災保険、家具家電、修繕、子育て費用、車、親族対応、転職リスクなどが乗ります。
数字だけを見ると、共働きなら払えそうに見えるかもしれません。
でも、住宅ローンの本当の怖さは、毎月返済額だけではありません。
逃げられなくなることです。
逃げられなくなる固定費は、人生の拘束具になる
住宅ローンは、ただの支出ではありません。
高額で、長期で、生活拠点に紐づき、夫婦関係にも結びつく固定費です。
だから、借入額が大きくなるほど、人生の選択肢が減ります。
仕事が合わない。
でもローンがあるから辞めづらい。
転職したい。
でも年収が下がると返済が不安だから動きづらい。
片方が疲れ切っている。
でも世帯収入が前提だから休みづらい。
夫婦関係が悪くなる。
でも家とローンが絡むから簡単に離れられない。
親族が口を出してくる。
でも家を買った後だと撤退コストが高い。
この状態になると、家は資産というより、拘束具に近づきます。
もちろん、持ち家そのものが悪いわけではありません。自分に合った価格で、売却可能性もあり、生活の自由度を保てるなら、持ち家は安心にもなります。
でも、6,000万円級のペアローンを「2人ともずっと健康で、ずっとフルタイムで、ずっと仲良く、ずっと同じ場所に住み、ずっと同じ価値観でいる」前提で組むのは、かなり変数が多いです。
人間はそこまで固定されていません。
ペアローンは夫婦関係の撤退コストを上げる
ペアローンで特に重いのは、夫婦関係とローンが結びつくことです。
夫婦仲が良い間は問題になりません。むしろ、2人で家を持つ一体感があります。
でも、関係が悪くなった時に、ペアローンは急に重くなります。
離婚して片方が家を出ても、ローンが自然に消えるわけではありません。住宅ローンの名義変更は基本的に簡単ではなく、ペアローンの場合も、片方が住み続けるからといって、家を出る人の残債をそのまま住み続ける人に移せるとは限りません。
売れば終わり、と思うかもしれません。
しかし、売却価格よりローン残債が大きいオーバーローンだと、売っても借金が残ります。抵当権を外すには金融機関との調整や自己資金が必要になります。
つまり、ペアローンは住宅購入時には「2人で買える力」を増やしますが、関係が崩れた時には「2人を家とローンに縛る力」にもなります。
団信は万能ではない
ペアローンでは、夫婦それぞれが団体信用生命保険の対象になるのが一般的です。
ただし、通常はそれぞれの借入分に対応します。
たとえば夫が3,000万円、妻が3,000万円を借りていた場合、夫に万一のことがあれば夫の3,000万円分は保険で返済されますが、妻の3,000万円分は残る、という考え方です。
最近は、どちらかに万一のことがあった場合に2人分のローンを保障する「ペアローン連生団信」のような商品も出てきています。
これは死亡・高度障害リスクへの備えとしては意味があります。
ただし、団信で消せるのは基本的に死亡や高度障害などのリスクです。
次のようなリスクまでは消してくれません。
- 離婚する
- 片方がメンタル不調で働けなくなる
- 時短勤務で収入が落ちる
- 転職で年収が下がる
- 親族介入で夫婦関係が悪化する
- 子どもが生まれて支出が増える
- 家を売りたい時に売却価格が残債を下回る
住宅ローンを考える時は、「死んだらどうなるか」だけでなく、「生きたまま働き方や関係性が変わったらどうなるか」まで見た方がいいです。
「相手の収入を半分で見る」はかなり良い目安
ペアローンを考える時に、「相手の収入を半分で見る」という考え方はかなり現実的です。
たとえば、夫500万円、妻300万円の世帯年収800万円なら、妻の収入を300万円ではなく150万円として見る。
つまり、世帯年収800万円ではなく650万円で返済可能かを見る。
この考え方は、妊娠・出産・育休・時短・転職・体調不良などを考えると合理的です。
共働きの収入は、意外と揺れます。
2人ともフルタイムで働ける時期だけを基準にすると、家計は強く見えます。でも、人生はずっとフルパワーではありません。
だから、ペアローンを組むなら、最低でも「片方の収入を半分で見ても回るか」は見た方がいいです。
ただし、自由度を重視する人なら、さらに厳しめに見た方がいいです。
たとえば、次のような人です。
- 転職の自由を残したい
- FIREや早期リタイアを目指したい
- 投資余力を残したい
- 子どもなし、または子ども慎重派
- 固定費を膨らませたくない
- 仕事で削られた時に逃げ道を持ちたい
- 一人時間や趣味を大事にしたい
- 親族や世間の「普通」に生活を縛られたくない
このタイプの人にとって、6,000万円ペアローンはかなり重いです。
住宅そのものより、自由度の喪失が大きいからです。
家を買うなら「返せるか」ではなく「逃げられるか」で見る
住宅購入でよくある判断基準は、「返済比率」や「借入可能額」です。
もちろん大事です。
でも、それだけでは足りません。
本当に見るべきなのは、次のような撤退可能性です。
1. 片方の収入が下がっても生活できるか
育休、時短、転職、病気、メンタル不調。
どれかが起きても、家計が即アウトにならないか。
2. 片方が一時的に働けなくなっても耐えられるか
半年から1年、収入が落ちても耐えられる生活防衛資金があるか。
3. 売りたい時に売れる物件か
駅距離、築年数、管理状態、エリア需要。
「家が好き」だけでなく、「出口があるか」を見る。
4. オーバーローンで詰まないか
売却価格がローン残債を下回ると、売りたくても売りにくくなります。
5. 夫婦で「もしも」を話せるか
離婚、死亡、失業、親の介入、子ども、転職。
縁起でもない話を避けずに話せる関係か。
6. 親族が口を出してきた時に、夫婦で境界線を引けるか
家は夫婦の生活拠点です。
親の「普通」や外部評価が夫婦の意思決定より上に来るなら、住宅ローンはかなり危険です。
7. その家を買っても、転職や休職の自由が残るか
合わない職場から逃げられない家計は危険です。
家のために仕事を続けるのか。
自分たちの生活のために家を持つのか。
ここは逆転させない方がいいです。
ペアローンを組む前のチェックリスト
ペアローンを否定する必要はありません。
ただし、組む前に次のチェックはした方がいいです。
- 借入可能額ではなく、生活防衛額から予算を決めているか
- 相手の収入を半分にしても返済できるか
- 片方が半年休んでも家計が持つか
- 管理費、修繕積立金、固定資産税まで入れているか
- 教育費や車など、将来支出を入れているか
- 売却しやすい物件か
- オーバーローン時の対応を考えているか
- 団信の保障範囲を理解しているか
- 離婚時にローンがどうなるか話したか
- 親族介入があった時、夫婦で境界線を引けるか
- 転職、休職、独立、時短の自由が残るか
- 投資余力や現金余力が残るか
このチェックに多く引っかかるなら、ペアローンそのものより、借入額を下げた方がいいです。
まとめ:家は安心のために買うもので、逃げ道を消すために買うものではない
ペアローンは悪ではありません。
共働き時代の住宅購入では、現実的な選択肢です。
ただし、ペアローンは借入可能額を大きくします。
借入可能額が大きくなると、より高い物件に届きます。
より高い物件に届くと、生活の選択肢が減ります。
ここを見落とすと、家は安心ではなく拘束具になります。
6,000万円のペアローンで本当に見るべきなのは、「今、返せるか」だけではありません。
仕事を辞めたくなった時に逃げられるか。 片方が疲れた時に休めるか。 夫婦関係が変わった時に詰まないか。 親族や世間の普通に生活を乗っ取られないか。 家を持っても、人生の可動域が残るか。
ここです。
家は、自分たちが安心して暮らすための道具です。
家のために、働き方・夫婦関係・自由・投資余力・逃げ道を全部差し出すなら、それはかなり危ない。
ペアローンを組むなら、最大値ではなく、撤退可能性で考える。
返せる家ではなく、逃げ道を残せる家を選ぶ。
これが、これからの住宅ローンで一番大事な守り方だと思います。
参考・出典
- リクルート / SUUMOリサーチセンター「首都圏新築マンション契約者動向調査(2025年)」
https://suumo-research.com/wp-content/uploads/2026/03/d333f594937a1930364f6dd65e196148.pdf - 池田泉州銀行「連帯債務・ペアローン・連帯保証(所得合算)の違いについて」
https://www.sihd-bk.jp/personal/loan/housing/knowledge/pairloan/ - SBI新生銀行「住宅ローンの名義変更は基本的に不可!では離婚した場合はどうする?」
https://www.sbishinseibank.co.jp/retail/housing/column/vol55.html - カーディフ生命「ペアローンで配偶者死亡時も夫婦分100%保障『ペアローン連生団信』がPayPay銀行で提供開始」
https://danshin-smile.cardif.co.jp/joint-mortgage-cpi/
内部リンク候補・関連記事
- 固定費を膨らませると人生の逃げ道が消える話
- 家を買う前に「資産」ではなく「拘束具」にならないかを見る
- 結婚後に親族介入が生活へ派生するパターン
- FIREを目指すなら住宅ローンより撤退可能性を重視したい
- 共働き前提の家計は、片方が止まった時に本性が出る
